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芥川賞2作と「虚航船団」

2012-02-17 21:29:16 | インポート

 芥川賞の「道化師の蝶」(円城塔)と「共喰い」(田中慎弥)を、単行本を購入して読んでみた。「文藝春秋」を買えばどちらも読めるのだが、どうも小説を雑誌で読むのは苦手なのだ。

 いつもなら直木賞をまず読むのだが、今回は芥川賞に興味があった。ひとつは、円城塔が、ぼくの好きなジャンルであるSFですでに活躍していた作家だったこと。年間日本SF傑作選などで何作か読んだことがあって、格別のファンというのではないが、SF作家が芥川賞をとったという感慨はあった。しかも、同時受賞の田中慎弥が、審査員への挑発的発言で俄然注目され、円城塔が話題的にかすんでしまったので、田中作品はどんな内容なのか興味が湧いた、ということもあった。

 まず田中慎弥「共喰い」。これぞ日本の小説という王道。個人的には露悪的な受賞作品より、単行本に併載されていた「第三紀層の魚」という短編の方が好きだ。でも、新しさは感じなかった。

 一方の円城塔「道化師の蝶」は、不思議なトリップ感があり、人には薦められないが個人的には面白い、という立ち位置の作品だ。ついでにハヤカワ文庫「Boys Surface」も読んでみたが、やはり言葉の成り立ちを意識的に、独特のロジックで表現していて、内容は理解不能、けど読めてしまった、という感じだった。

 ここからは個人的な話になるが、円城作品を読んでいて、急に筒井康隆の「虚航船団」を読み返してみたくなった。筒井作品の中でも「虚航船団」は発表当初から賛否両論あり、「わけがわからん」と拒否反応を示す読者もいたのだ。それまでの毒の効いたストーリーSFから、なにやら実験小説的な、改行なしの長編はたしかに読み易いとはいえず、ぼくも途中で挫折していた。

 でも、円城作品に比べたら……自分の読書体質が、年を重ねることによって変化しているのを、最近感じていた。難解ともいえる円城作品を読めたということは、ストーリー重視ではない読書も楽しめるようになったということか。ならば「虚航船団」に再チャレンジ、ということで、文庫本をとりよせて半分ほど読み進んだところだ。今はあらためて筒井康隆の先進性を心地よく感じながら、夜の読書タイムを過ごしている。

 田中作品がニュートン力学なら、円城作品は量子力学。そして「虚航船団」は特殊相対性理論(ヘンな喩えだな)。だから先端の小説を書こうとすれば、それは全てSFとなる、と言ったら身びいきに過ぎるだろうか。でも、宇宙の根本原理究明がコペルニクス的に進んでいるのに、文学の世界はそれとは無縁、というの、世間が狭いような気がするのだ。 

 自分のスケールからはずれているけど、おもしろい。それもまた読書の楽しみのひとつだ。