それは夏の終わりのことだった。
カイと 全く連絡がつかない。
今日はここに来て、〈ジャパン ホラー アワード〉の打ち合わせ のはずなのに、夕方になっても連絡の一つもなかった。
今までこんなことは一度もなかった。
電話はすぐに折り返され、メール なんかもすぐに返事が来た。
最近はホラーアワードの作品のことについて、史上初の大揉めをしていたが、ゆうべ はフクちゃんの店のカウンター席で2人で飲んだ。
気分転換のつもりで、いつものようにたわいもない話をしていたのだが…
途中で急に、気分が悪くなった、と急いで店を出て行ったのが、カイを見た最後だった。
もしかして 部屋の中で1人 倒れているのか?
ようやくそう考えついた俺は、血の気の引く思いだった。
入社半年の、たった一人の社員のダイキが運転してくれて、そう遠くはないカイの部屋に向かった。
アパートのいつもの一室、インターホンを鳴らしても出ない。
「ごめんください…株式会社レイレイズです…」
ダイキに言わせた。俺だと居留守を使われそうだと思ったからだ。
返事がないので、仕方なく合鍵で部屋に入ると誰もいなかった 。
カイらしく、いつも通りの片付いた部屋だった。
しかし 念のため 呼びかけはした 。
奥の作業部屋にもいない 。
「カイ、いるの? 」
いつもの心霊検証の時のように… 恐る恐るバスルーム も見たしトイレも見た。カイが倒れていなくてほっとした。
でも、カイはいない。
「あっ…」
その時、リビングにいたダイキが声を上げた。
「オミさん、これ…」
慌ててそばにいくと、白いテーブルの上に、
〈みんなありがとう。さようなら。カイより〉
と書かれた紙があり、横には会社兼俺の部屋の合鍵が置かれていた。
「なんだよこれ…」
怒りで目の前がクラッとした。
そんなことをしているとインターホンが鳴った。
フクちゃんだった。
「ああ、どうも。あれ、カイ君は? 」
「いないんだ 。こんな紙 一枚残して」
それを見てフクちゃんも驚いていた。
「打ち合わせにも来なかったし、 連絡もなくて」
「俺の方も、いつも元気なカイ君が気分が悪いなんて珍しいから心配で。メッセージも電話もだめだったから、様子見にきたんだ。部屋まで入れてよかったよ」
「俺もカイがここにいなかったら、フクちゃんに電話しようと思ってたんだ」