小説「離しません!」&スピンオフ「オミとカイ-少女の霊と俺達と-」

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 小説「オミとカイ」8.無言のままカイを。

2024-07-10 22:05:00 | 小説
 …片側が崖のようになっている道で、確かに危険だった。

 そして…俺達のライトの中に浮かび上がった神社は、本当にこぢんまりとしていた。
 カイに逃げられないようにと、音をたてないように歩くが砂利がうるさい。
 まあ、ライトがついているのだから、誰かがやってきたということはもちろんバレているだろう。

「カイさんいますか? ダイキです…」

 俺は呼びかけなかった。カイが俺に我慢できなくなったから、こんな事態になっているのだろうから。

 とはいうものの、カイの方が声も出せない状態だと大変なので、ライトを当てて、境内をくまなく探した。
 しかし、気配もない。

 お社はカイが横になれるほどの広さもないし、裏は崖ということもあって、こんな所で寝起きをする訳もないが…

 でも、どうせなら、ここですぐに見つかってほしかった。

 諦められない俺はダイキと、いつも動画の撮影でやるように15分ほどライトを消して、無言のままカイの気配がするのを待った…
 
 …夏の終わり、虫の音が聞こえるばかりだった。


 家に帰ると、もう、何もする気にもなれなかった。

 ダイキにシャワーをすすめ、でも俺は、落ち着かなくて応接室のソファに転がっていた。

 すでにこの家から彼氏の部屋に引っ越して、幸せな生活を送っていたダイキが泊まり込んでくれるのは、申し訳なかったが本当にありがたかった。

 ダイキの彼氏は、ミュージシャンの華島詮(はなしま・あきら)。今は再デビューの準備をしているロックボーカリストだ。

 俺もプロのミュージシャンを目指していたときにお世話になった。

 俺と同じ年なので、ダイキとはひと回りも違うが、付き合い始めのせいもあってか2人はアツアツだ。
 お互い忙しいので、連絡はマメにしているという。


 その夜は全く眠れなかった。

 カイの捜索のためにも少しは寝ておかなければ、とベッドの上で横にはなっていたものの…気がつけばもう朝だった。