キャラバン サライ

夢は大空へ、努力は足元で、世界に目を向けながら足元から子供たちを見直していきたいと思っています。

大英帝国衰亡史

2011年04月23日 | Weblog
「これからの日本人は、『坂の上の雲』のような、国というものがようやく成立し、さあこれから欧米に必死で追いついて行こうという昂揚感を表した本よりも、国や経済が成熟きって、人口もこれから減りつつあるなかでは、いわゆる国の衰亡史を読むべきだ」とアドバイスを受けた。

なるほど、それもそうだ。

大国の衰亡史と言えば真っ先に思い浮かぶのがローマ帝国。
それ以外にも、イタリアのフィレンツェやヴェネツィア、スペイン、イスラム帝国、モンゴル帝国、中国の王朝たち、果てはマヤ、アステカ、インカ帝国など、世界史は興隆と衰亡の歴史だ。
強大な力を持った都市や国、帝国は必ず衰亡する。
ならば、それら無数の衰亡史から何か学び取ることができて、それを正に今、衰亡の入口に立っている日本で活かすことはできないか。

考えてみれば当然今の日本にあってしかるべき発想だと思う。
NHKで何年もかけて『坂の上の雲』をドラマ化している時ではないのかも。

本当はローマ帝国の衰亡史を読みたかったが、塩野七生の『ローマ人の物語』はかなり気合がいるし、それ以外の有名な衰亡史もけっこう歯ごたえがあるものばかりらしい。
そこで、まずはとっかかりとして勧められたのが『大英帝国衰亡史』(中西輝政著)だった。

この本の特徴は、単に大英帝国の衰亡の歴史を追うことにとどまらず、大英帝国がどのようにしてあれだけの一大帝国となったのかという、世界大国としての本質を考え、そしてその衰亡の原因を探求しようとしていることにある。
そして、その衰亡の原因を産業や財政、社会制度、政治構造などの個々の要素にだけ求めるのではなく、それらを踏まえたうえでもっと大局的に、英国民の精神的な面や、文明的な観点から考察している点である。
また、日本人が著していることで、現代の日本の置かれている状況についても、大英帝国の衰亡と重ねるようにして、直接的でないにしても考察が入っている点が興味深い。

以下では、そのイギリスの衰亡の原因の主なところを自分なりにまとめてみる。
あくまで、個人的メモ。長いので、読む必要はありません。



エリザベス女王がスペインの無敵艦隊を破った16世紀から、イギリスの大国化が始まる。
そして、18世紀から19世紀のナポレオン戦争での勝利によってそれは絶頂に至ったかと思われる。
しかし、その直前のアメリカ独立戦争での敗北が、大英帝国の衰亡の兆としなる。

<自由貿易>
19世紀になると、これまでイギリスが積極的に進めていた自由貿易が重くのしかかってくる。
工業力が他の追随を許さないとき、自由貿易という制度はその国の経済の発展をさらに後押ししてくれる。
しかし、その工業力が他の国に追いつかれてきたとき、これまで自由貿易を世界で旗を振って推進し、自由貿易こそ経済の真理と信じていたイギリスとしては、もはや保護貿易に戻ることは精神的な面からも許されなかった。


<反帝国主義>
そして、さらにイギリスに追い打ちをかけるのが世界的な反帝国主義の流れ。
これまで、植民地を広げ、そこに自国の製品を売りつけることで経済を発展させてきたイギリスにとって、この反帝国主義、植民地独立という世界的な流れには機敏に対応することができず、保守的な政策をとったために、ボーア戦争という屈辱やアラビアのロレンスという英雄を生み、そしてインドやパレスチナからの撤退へとつながる。


<アメリカ>
最後に、大英帝国の衰亡の大きな原因となったものの一つがアメリカの台頭だ。
イギリス人と同じアングロサクソン系の多いアメリカは、イギリスにとっては独立戦争で戦いはしたが、その後はよき理解者であるはずだった。
そのよき理解者アメリカは、第二次世界大戦中に巨額の軍事支出を重ねて今にも破綻してしまいそうだったイギリスに巨額の経済支援をしていた。
しかし、大戦が終わるやそのアメリカからの支援は突然打ち切られ、これによってイギリスの経済はむしろ大戦中よりも悪化することになる。
このためイギリスはアメリカに対して何度も支援を要請するが、これに対するアメリカの態度は冷ややかで、次々とイギリスに対して困難な条件での支援を表明、その結果戦後のイギリスを骨抜きにしていった。


上記の「自由貿易」、「反帝国主義」そして「アメリカ」という3つのキーワードの重なりからイギリスは経済が悪化し、次々と植民地を手放すこととなり、そしてダメ押しとしてのスエズ運河からの撤兵をもって、この本では大英帝国の終わりの終わりとしている。


今の日本を、大英帝国の衰亡史と重ね合わせるとどうか。
一つは、後戻りできない「自由貿易」の中でもがいている姿が似ているように思う。
そして、韓国、中国など十数年前にはまだリードを保っていた国に対して最近では負けを重ねている。

本書は衰亡史であるからして、どうすれば衰亡を防げるのかという直接の言及はない。
ただし、確かに今の日本が衰亡のプロセスに入ろうとしていて、本書の言葉を借りれば「終わりの始まり」に立っているんだという認識はある。
さて、これから…


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