本と映画とわたしと

感想です。

映画『許されざる者(1992年)』/スカッとしないしぶい西部劇。

2019-05-20 | 映画

クリント・イーストウッド主演監督の西部劇である。

列車強盗や殺人で悪名を轟かせていたガンマンのウィリアム・マニー(クリント・イーストウッド)は11年前妻と出会ってから改心し農民になっていた。妻は3年前に他界し、今は子供二人と貧しい生活している。そこへ若者が賞金首を一緒に撃ちに行こうと誘ってくる。

(以下ネタバレあり)

賞金稼ぎがバンバン銃を撃ちあう世界は恐ろしい。

日本でも日本刀を持った侍が問答無用と切りつける時代があった。現代に生きていてよかったと思う。暴力がはびこる世界では、従わす者従わされる者がいる。娼婦たちは従わされ、ひどい扱いを受けている。狙う賞金首は娼婦に烙印を押そうとし深い傷を負わせた牧童たちだ。とんでもない輩なのに社会は懲らしめようとしない。それにひどく怒った娼婦たちが賞金稼ぎを雇う。やられたらやり返さなければなめられる自分たちを虐げる社会への抵抗のためだ。法を守らせる保安官は社会そのものであるが、いきすぎた正義を振りかざす「許されざる者」だった。マニーも今は改心しているが、酒浸りの残忍な札付きの悪党で「許されざる者」だ。

「許されざる者」とそうでないものの違いはなんだろう。

五人殺したことがあると大口を叩いていた若者が賞金首の一人を銃で撃ち殺す。本当ははじめて人を殺したと告白し、自分は人を殺せない人間だと悟る。賞金はいらないとまでいう。いうとやるのでは全く違う。「許されざる者」とは「人を殺せる人間」でその反対は「人を殺せない人間」だろうか。足を洗った老ガンマン・マニーはまったく殺し屋の雰囲気がないが、女子供も容赦なく撃ち殺す残虐なならずもの伝説がある。ガンマンの伝記を執筆している文筆家の本は出鱈目で嘘が多く、物語や噂はどこまで本当かわからないものである。

マニーがどんな人物なのかがこの映画の見所になっている。

私はマニーは冷静な男なんだと思った。撃ち殺せるか撃ち殺されるかは、冷静にどれだけ早く銃をぶっ放せるかにかかっていると保安官は分析していた。決闘の場面になったとき、マニーは大声で自分がどんなに残虐かを印象づけ、周りを威圧しひるませる。動いたら容赦なく撃つと言って、全方向を警戒している。圧倒的にマニーは勝つ。拍手喝采は起こらず、娼婦たちは事の成り行きを息を潜めてみている。悪が滅び善が栄えるのではなく悪が悪を懲らしめたのだ。その後マニーは商売で成功したと説明される。そこで理解した。これは勧善懲悪の映画ではない。どうりでスカッとしないはずだ。

アカデミー賞受賞作品なので感動を期待したのにそんなものはない。

西部時代の暴力を暴力で解決する話にすぎない。マニーの妻の母親がやさしい娘がどうしてならずものと結婚したのか分からないと語っている。映画を観る者にもわからないだろう。正義とは存在するのであろうか。



映画『狼たちの午後』/アル・パチーノの顔に見とれた。

2019-05-16 | 映画

原題 Dog Day Afternoon
製作国 アメリカ
製作年 1975年
上映時間 125分
監督 シドニー・ルメット
脚本 フランク・ピアソン
出演 アル・パチーノ、ジョン・カザール、チャールズ・ダーニング、クリス・サランドン
私の評価 ★★★★☆ 4.0点
お家観賞

映画館のスクリーンで見たかった。

映画の中の人物が見分けられなくて混乱することがある。だがアル・パチーノは一度見れば記憶に残る。大きな目が語りかけてくるようで、きれいな顔に見とれた2時間だった。あの大きな顔は見応えある。

※(以下ネタバレあり)

なんでそんな杜撰な計画を立てたんだ。

映画は1972年に実際にあった銀行強盗を元にして作られている。主犯格のソニー(アル・パチーノ)と、相棒のサル(ジョン・カザール)が銀行に押し入る。手際の悪さと人の良さから逃げ遅れ、いつの間にか警察に包囲されている。人質を取って籠城という犯人にも人質にも誰のためにもならない状況に陥る。頼りない強盗なので随所に笑える要素がある。喜劇のようなやり取りなのに、アル・パチーノの昂揚と緊迫感、ジョン・カザールの感情を押し殺したような不安定さで、いつ暴走するかわからない緊張が続いた。

 ロックスターのようでかっこいい。アル・パチーノ。

夏のうだるような暑さで膠着状態のまま緊迫の時間が過ぎていく。人質たちは犯人との間に親近感と情が生まれてくるストックフォルム症候群になっていく。臨場感がたっぷりだった。警察を挑発するように「アッティカ」と叫ぶソニーに呼応して、野次馬たちが熱狂する。
別の映画が出来そうなくらい興味が尽きないキャラクターだ。そのソニーの奥さんが太っていてびっくりしていたら、男の人とも結婚しているという。男と結婚していたのがショックの奥さんは電話で「私がデブだからダメだの?」って問い詰める。

アメリカの社会の構造が見える。

夫婦問題、LGBT、ベトナム帰還兵、DV、母親からの虐待、貧困、人種差別、雇用不安などいろんな問題が垣間見える。誰もがどこか共感するのではないだろうか。メディアに誘導されるかのように観客があおり立てて、事件がショーのようになる。犯人はもとより人質、警察、メディア、観客、何もかもが変に思えてくる。

サルは「成功か死ぬか」だとソニーに詰め寄る。刑務所に入るくらいなら死ぬけれど、健康のためにたばこを吸わない。死に急ぐ行動をしながら健康に気遣うという矛盾を抱えるサルに孤独を感じる。「逃亡先はどこの国に行きたい?」と聞かれ、「ワイオミング」と教養のないサルが答える。「ワイオミングは外国じゃないよ」とソニーが教えるのがせつなかった。

ソニーのサルを哀れむような表情がいたたまれなかった。

逃走用のバスに乗ったとき、危ないから銃を上に向けてくれという警察官に素直に従うサルは根のいいやつなのにどうしてこうなったのだろう。サルだけが撃ち殺されてしまう。人質からお守りのネックレスをもらったのに誰からも悲しまれない。さっきまで連帯感を持って行動していた人質たちは一変して、振り向きもせず去って行く。人質に何かを強いたわけではない。むしろやさしくした。それでも銃を向けた犯人と向けられた人質以上でも以下でもなかった。ソニーのすべてを傍観しているかのような目が印象的だった。最後のソニーの表情が映画のすべてを色づける。全体がむなしさで包まれた。結局何も変えられなかったのだ。

蒸し暑かった。ひどく汗をかいた『Dog Day Afternoon』 

邦題は『狼たちの午後』なので、狼たちを待っていたのに出てこなかった。原題は『Dog Day Afternoon』のDog Dayとは盛夏という意味だそう。猛暑の午後といったところだろうか。終わってみれば「ただひどく暑い日だった」。人間がひとり撃ち殺されただけだ


映画『ROMA』/ぜひ体調を整えて観てください。

2019-05-06 | 映画

(映画館観賞)

大変評価が高い映画なので映画館に足を運んだ。

前半うとうとしてしまったのは、観る前から眠気に誘われていたからで作品のせいではない。しかし眠気を飛ばすほどの刺激はないので、体調を整えて観てほしい。美しさを感じるには耳や目を研ぎ澄ませる必要がある。さて、ぼーっと観てしまった人間の感想を書く。

(以下ネタバレあり)

白黒で物語の流れもゆっくり、キャラは立っておらず普通。
 
犬が沢山出てきても犬好きの私でさえ「かわいい」と思うところがない。うんこの始末がたいへんだなと生活を感じ、淡々と時は過ぎていく。音楽は流れず、生活音が重なる。風や空気を感じる立体感のある素晴らしい音響だった。音だけでも映画館で経験してほしい。映画館で誰かが音を立てているかと思ったくらい自然だった。普段の生活で耳にする静かな音が届いてくる。

私の目が覚めたのは、男が、真っ裸で武術家を気取っているところである

家政婦は自分の家族とは疎遠になっており、ひとりだ。雇い主に大切にされてはいるけれどやっぱり家政婦に過ぎないのだと話の所々で気付かされる。子どもたちも慕っている。それでも家政婦の立場を充分すぎるくらいわきまえている。妊娠したら男は逃げるし、無口な故に腹の中にいろいろため込んでいるのがよくわかる。どうしようもない状況だ。雇い主の母親は夫が愛人の元へ行ったので離婚し、仕送りはなしで子供4人を養う決意をする。くだらない男ばかりであった。誰かが誰かを心から思って助けているわけではない。

だからこそ荒れ狂う波の中、命がけで雇い主の子供を救う場面が尊かった。

今日は映像を感じ取る力不足だったので、次回は観るときはするどい感覚で臨みたい。心の調子がよかったら見えるものがまた違うだろう。昔を懐かしめる余裕ができたら観たい。

 

ROMA/ローマ - Wikipedia