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映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』/ディズニーのそばにある町で暮らす子どもたち

2022-02-18 | 映画

 

 

原題 The Florida Project
ジャンル ドラマ
製作国 アメリカ
製作年 2017
公開 2017/10(アメリカ)2018/5(日本)
上映時間 112分
監督 ショーン・ベイカー
脚本 ショーン・ベイカー、クリス・バーゴッチ
製作総指揮 ダーレン・ディーン、エレイン・シュナイダーマン
製作 ショーン・ベイカー、クリス・バーゴッチ、ケビン・チノイ、アンドリュー・ダンカン、アレックス・サックス、フランチェスカ・シルヴェストリ、ツォウ・シンチン
撮影 アレクシス・サベ
美術 ステフォニック・ユース
衣装 フェルナンド・A・ロドリゲス
編集 ショーン・ベイカー
音楽 ローン・バルフェ、
音楽監修 マシュー・ヒアロン=スミス 
レイティング G(一般映画)

出演 ウィレム・デフォー(管理人ボビー)、ブルックリン・キンバリー・プリンス(主人公の女の子ムーニー)、ブリア・ヴィネイト(母ヘイリー)、ヴァレリア・コット(友だちジャンシー)、クリストファー・リベラ(友だちスクーティ)、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ(ボビーの息子ジャック)、メラ・マーダー(スクーティの母アシュリー)、ジョシー・オリーヴァ(ジャンシーの祖母)

概要 ①ディズニーワールドリゾートに隣接する町で暮らす子どもたちの夏休み。真夏のフロリダの陽射しと鮮やかな空の青さに、ディズニーの延長のようなカラフルに作られたポップな建物の立つ町で、悪びれない子どもたちが生き生きとして過ごしている。
②「フロリダプロジェクト」とはウォルト・ディズニーによるフロリダでのテーマパーク開発計画を示す言葉。また「プロジェクト」とは低所得者のための公営住宅を意味する言葉でもある。二つの意味が込められているタイトルである。
②悪役出演が目立つウィレム・デフォーがモーテルの管理人役。仕事に忠実で子どもたちを遠くから見守るまなざしがやさしい。

私の評価 ★★★★☆(3.5点)
お家観賞 

※以下ネタバレあり


オープニングは弾む音楽と元気いっぱいの子どもたち

子供の目線に合わせた低いカメラワークで、彼らの夏を追っている。主人公の6歳の女の子ムーニーの暮らすのは、パープル色のモーテル「マジックキャッスル」。お向かいのモーテルは「フューチャーランド」。ディズニーワールドリゾートの延長のような夢のある名前のモーテルに滞在しているのは安アパートさえ借りられない人々。入居審査や保証金を納めるのが難しいので割高になるモーテル(1日35ドル)に居住するしかないのである。
町に点在する観光客目当てのギフトランドやアイスクリーム店はオレンジや魔法使いの形をして楽しい雰囲気を作り出している。ムーニーたち子どもも楽しそうである。観光客にお金をせびってソフトクリームを買ったりチップを期待したりする。それが当たり前のようにけろりとしている。

管理人ボビーの見守り

子供らしいいたずらは、陰湿ではないし悪い子たちではないのだけれど、ほほえましいともいえない。周りの大人(ボビー)は冷静に対処しているが、肝心の母親ヘイリーは子どものしつけができない。子どもたちの安全も十分とはいえない。ボビーがしっかり掃除修繕管理をしていて、モーテルに荒れた感じはなくても近くにはハイウェイの車がビュンビュン走っていて、事故の心配やさらわれる危険を感じる。ボビーは子どもたちを遠くから守っている。よからぬ大人を追っ払ったり、子どもたちを叱り約束を守らせる。管理人という立場を超えないように親切にしている。ムーニーたちが不平不満を言いながらボビーの周りをうろつく様子に心が和む。守ってもらっていることに気づかないのがまたかわいらしい。ヘイリーが気づいていないのは問題だけれど。

悲壮感がなく同情を誘わないのがこの映画のよいところ
 
ヘイリーは生活能力がなく子どもの教育もできない。それでも娘ムーニーが大好きで一緒に過ごす時間を楽しんでいるのを見ると応援したくなる。偽物の香水の押し売りに娘を加担させたり盗んだ物を一緒に売りにいったり、悪影響を与える行動をとっていても基本的に明るいからムーニーは楽しそう。ムーニーの姿はヘイリーの子どもの頃の姿にも思える。人懐っこくて逞しい。だからこのままではムーニーも大人になったらヘイリーのようになってしまうのがわかる。ヘイリーは仕事を持たずモーテル代は滞りがち、貧困で身動きが取れず状況が悪化していく。雨の中、びしょ濡れになって子供のようにヘイリーはムーニーとはしゃぐ。ヘイリーは本当は泣きたかったんじゃないのだろうか。ムーニーと一緒にいるために何度も気を取り直して頑張っているからヘイリーを責める気になれない。
 
ムーニー「大人が泣くのがわかる」
 
経済的にしっかりした家庭であっても愛情がなければ子どもはかわいそうだし、愛情があっても生活が危ういと落ちていく。ムーニーの食事はフードバンクやヘイリーがどうにか作るお金で確保できていて、お腹を空かせるようなことはない。しかし野菜や肉がなくて栄養が足りてない。体も清潔にしている。ヘイリーなりにムーニーの世話をしていて、愛情は十分あるのに状況が悪くなっていく。ついには母親不適格とされ児童家庭局の人にムーニーを連れて行かれそうになる。どちらが正しいのかわからない。ムーニーを連れて行かれたら、ヘイリーは立ち直れないだろうと思うくらい仲良し。それなら働けばいいのにと言いたくもなるが、ヘイリーは粗野で短気なところもあるから就職口を見つけるのが難しそう。確かなのはムーニーがヘイリーのようにならないためには教育が必要なことである。

ジャンシーとの友情

児童家庭局の人に連れていかれるのに気付き、ヘンリーは逃げる。ジャンシーの元に走り、泣きだす。ジャンシーが親友のただならぬ様子を見て行動する。いつも受け身で控え目だったジャンシーが動くまさかの展開に胸が熱くなった。向かった先は夢の国ディズニーワールドのキングキャッスルだった。
ジャンシーはおばあさんにしっかり面倒を見てもらっているとはいえ、お母さんがいないさみしい子である。ムーニー母娘にお誕生日に小さなケーキにキャンドルを立てて、ディズニーの花火を見せてもらったり、ムーニーにサプライズの虹を見せてもらったことが思い出される。だからムーニーにディズニーランドのお城を見せて元気づけようとしたんじゃないだろうか。

魔法の国に走り込んでいくところで、突如、映画は終了

ムーニーはやさしい子に育っている。ジャンシーは「虹のたもとには金貨を隠している。でも分けてくれないの。やさしくないのね」と言っていた。ソフトクリームを分けてくれるムーニーはジャンシーにとってやさしい友だちなのである。ヘイリーの育て方が悪いなんて言えないし引き裂くのはかわいそうだけれど、このままというわけにはいかない。火事を起こしてしまうなど悪いこともしてしまった夢の国ディズニーに逃げ込んでも何もかわらないことはわかっている。それでも夢のように楽しい時を重ねて、子どもたちは夏休みを過ごしていたんだと思うと泣けてきた。問題は解決されないまま映画は途切れたかのように終わった。

ムーニー「どうしてこの木が好きか知ってる?倒れても育ってるから」

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法 : 作品情報 - 映画.com

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法の作品情報。上映スケジュール、映画レビュー、予告動画。全編iPhoneで撮影した映画「タンジェリン」で高く...

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おススメ映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』
貧困で苦しむシングルマザーが登場する。ヘイリーとは違うタイプの母親でヘイリーを批判的に見る人でもこちらは同情するだろう。どちらも子供を一番に大切にしているのは変わりない。

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映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』公式サイト

第69回カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)受賞。文部科学省特別選定作品。「人生は変えられる。隣の誰かを助けるだけで。」名匠ケン・ローチが...

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映画『普通の人々』/普通の人々普通の家族

2022-02-08 | 映画

原題 Ordinary People
ジャンル ドラマ
製作国 アメリカ

製作 1980年
公開 1980/9(アメリカ)1981/3(日本)
上映時間 124分
監督 ロバート・レッドフォード
脚本 アルヴィン・サージェント
原作 アメリカのありふれた朝』(1976)/ジュディス・ゲスト
製作 ロナルド・L・シュワリー
撮影 ジョン・ベリー
音楽 マーヴィン・ハムリッシュ
編集 ジェフ・カニュー
出演 ドナルド・サザーランド(父カルヴィン・ジャレット)、メアリー・タイラー・ムーア(母ベス・ジャレット)、ティモシー・ハットン(次男コンラッド・ジャレット)、シャド・ハーシュ(タイロン・バーガー医師)、M・エメット・ウォルシュ(水泳部コーチ)、エリザベス・カクガヴァン(恋人ジェニン・プラット)、ダイナ・マノフ(友人カレン・アルドリッチ)

私の評価 ★★★★☆(3.5点)
お家観賞 2回目 (1回目は4.5点)

内容を知らず観ることをお勧めする。あらすじを読んでからでも充分考えさせられる映画だが感じ方が決定的に違う。

見所 ①ロバート・レッドフォードの監督1作目
②第53回(1980年)アカデミー賞4部門受賞(作品賞、監督賞、助演男優賞:ティモシーハットン、脚本賞)
③丁寧に家族間の関係を描写していて、家族の在り方を浮き彫りにしている。
④パッヘルベルのカノンの音色が味わい深い。
⑤お父さん役のドナルド・サザーランドは『24-TWENTY FOUR-』のキーファー・サザーランドの父親である。顔がそっくり。

※以下ネタバレあり)



一見なんの変哲もない家族

食欲がないという次男(コンラッド)の朝食のトーストを母親(ベス)がすぐに捨てる。せっかく用意した朝食を食べない息子に母が腹を立てているぐらいにしか思わなかった。「フレンチトースト好きだったでしょう」と声をかける息子の反応は薄い。オレンジジュースが家族3人分置いてあるから母親もテーブルに着く気はあったのに、気を変えてさっさと行ってしまう。父親(カルヴィン)が息子を気遣い会話をしようとしても虚しく食卓にひとり残される。真正面から対立しているわけではないが家族はうまくいってない。この程度は普通にあることだろう。なんの変哲もない裕福な家族である。
 
家族間にある目に見えない緊張感
 
話が進むにつれ、家族が危機的状態なのがわかってくる。もともと家族4人で幸せに暮らしていたが、長男(バッグ)が事故で亡くなりその場に居合わせたコンラッドだけが生き残ったのである。それをきっかけにして家族が崩壊しはじめた。コンラッドは自殺未遂をし病院に入り治療を受けて帰ってきた。今一番気遣われるべきは次男なのに母親はひどく冷たい。状況がわかると朝食のトーストを取り上げるように捨て息子に関心を示していないのがこわい。
 それでもこの母親を責める気にはならなかった。私は子どもを亡くした経験がないからどのような心理状態になるのか想像もできないからである。ぎくしゃくした母と息子の様子を見ているだけで、コンラッドがかわいそうで胸が締め付けられるけれど一番苦悩しているのは母親かもしれないとも思う。父親はその関係に気付いているけれど間を取り持てない。

友人の自殺の危険に気づかなかった

衝撃だったのは、精神病院で一緒だったカレンが自殺してしまったことである。一足先に退院して、学校での活動をはじめ元気に見えた。治療を受け病院でコンラッドという信用できる友だちもできたのに死んでしまった。
カレンは退院後医者にしばらく通ったけど、やめて自分で治すことにしたと話す。いい先生に出会えなかったのかもしれないし、費用の問題があったのかもしれない。 
普通に見えたのに心の中で何が起こっているかわからない恐ろしさを感じる。

新しい友人、恋人

友人はコンラッドの力になろうとしていた。「どうしてだ。なぜ孤立したがる。俺もバッグが恋しい。俺たち3人は親友だった」の問いにコンラッドは答える。「君といるとつらいんだ。もう行く」と。
兄夫婦はベス(母親)を気遣っている。妹夫婦喧嘩を見かねて「幸せになってほしい」と落ち着かせようとしても「兄さんの子どもは生きている」と反発する。「(幸せを)私に自慢したいわけ?」と怒りをぶつける。
コンラッドは相性のいい新しいカウンセラー(バーガー先生)に出会えて運がよかった。診療外で診てくれて「友人」だと、抱きしめてくれる先生なんてそうそういない。カレンには現れなかった。ジェニンという恋人が現れたのも大きい。親友では救えなかったし、カレンでもダメだった。人の心は複雑でありまた単純である。
母はカウンセラーを拒否して、これまでの付き合いの中で今まで通り暮らそうとして家族との間に溝ができる。

息子の葬儀に夫のシャツや靴を気にした妻

「苦しさが生きている証拠」とバーガー先生はコンラッドの感情を吐き出させる。対して母は息子に抱きしめられても無感情である。苦しさから逃げて、生きていないのかもしれない。
夫はずっと妻に違和感を持ち続けていたけれど言えなかった。妻の心の中で起きていたことが夫の言うとおりだとは、私には思えなかった。本人にもわからないかもしれない。夫に「君は自分しか愛していない」と言われて家を出る決意をした時もまだ冷え切っていて気の毒だった。ひとりになったときはじめて泣ける気がする。今までの生活は無理なのだろう。離れるとやさしくなれるかもしれない。
ハッピーエンドではないがコンラッドが苦しみから解放される結末となってよかった。父と次男は愛情を確かめあえた。父が息子を失うことはもうないだろう。

普通の人々

2度目の観賞も「普通の人々」だと感じた。普通の人々が家族を事故で亡くすという悲劇に見舞われたのである。陽気で明るい兄バッグのおかげでまとまっていた家族が、兄の死で危機に直面して崩壊したのだと思う。人はみな平然として暮らしているけれどそれぞれに事情を抱えているかもしれない。

カルヴィン「人生は偶発的なものだ。何が起きてどう対処するか」

自分のせいやだれかのせいで起こった必然ではなく、偶然だと理解するのは当事者にとっては難しい。考えさせられる作品である。

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映画 普通の人々 (1980)について 映画データベース - allcinema

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