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映画『ルンタ』/チベット人の心を知る。

2015-09-25 | 映画

ジャンル ドキュメンタリー
製作国 日本
製作 2015年
上映時間 111分
監督 池谷薫
出演 中原一博(案内人)


中国政府の弾圧に対し、非暴力で抵抗するチベット人たちを支援している中原一博さんが、ひとりひとりの死の背景を追って、なぜ彼らが死ななければならなかったのか、チベットで今、起こっているのか伝えようとされているドキュメンタリー映画。

チベット人たちはなぜ焼身抗議を続けるのか。
非暴力、非服従。なぜチベット人たちを助けられないのか。考えさせられた。

※【以下映画の内容に触れる】

 冒頭、火に体をつけて、歩いている人の映像に衝撃を受けた。人間が燃えているというだけではなく、それを見ている人が手を合わせ拝んでいるからだ。体が震えた。焼身抗議をする人たちは20代が多く、次に10代が多いという。この状況を前にして、私は「命を大切にしてほしい」とは言えない。称賛もできない。「どうしてこんなことに・・・」と思うばかりで言葉を見つけられない。

 政治犯として捕えられ、ひどい拷問を受けたチベット人の話を聞く。私にはわからない。彼らがあまりに清々しい顔をして語るからだ。中国人を責めない。彼らが憎悪を中国政府に向けていたら、私も共に憎しみを抱いただろう。しかし彼らは、非暴力を貫き、服従しなかったことを誇りとし、むしろこんなことをひどいことをせずにいられなかった「中国人」を思いやる。私にはとてもわからないほどの広い心をチベット人は持っている。こんな心やさしい人たちがなぜ苦しめられなければならないのか。この映画を観て、武力により押さえつける中国政府に対し、やり場のない感情が沸き苦しくなった。怒りは持てない。なぜなら私が暴力的な気持ちを持ってしまったら、チベット人の心ををわかっていないことになるからだ。チベット仏教の「利他」や「慈悲」といった他者を思いやる心。「自分が受けた苦しみを他の人が受けることがないように」と願う心の強さに圧倒された。

「ルンタ」とは、チベット語で、「風の馬」。天を翔け、人々の願いを仏や神々のもとに届けると信じられている、チベットの人々のシンボル。
 馬に乗る青年たちの生き生きとした目。子どもをかわいく撮ってもらおうとする母親。いいところだ。いい文化だ。大草原チベットは美しい。

 エンドロールで、焼身抗議をした人たちの名前が流れてくる。ひとりひとりの想いを考えると胸が締め付けられる。彼らをなぜ助けられないのだろう。
 
 チベット人が持つ「利他」「非暴力」の思想が全世界に広がれば、世界は平和になるはずだ。非暴力と非服従は尊い。素晴らしいと思う。それでも私自身のことを考えれば、抑止力を持つべきではないかと思ってしまう。ダライラマ14世がチベットにお戻りになり、チベットが自由を取り戻せたら、非暴力の力を信じられると思う。信じられるようになりたい。

 まずは知ること、知ったことを伝えることで、少しでもチベット人の力になれたらと思う。この映画を多くの人に観てもらいたい。

 

映画『ルンタ』オフィシャルサイト

池谷薫監督最新作『ルンタ』オフィシャルサイト

映画『ルンタ』オフィシャルサイト

 

 


『命を救われた捨て犬夢之丞 災害救助泥まみれの一歩』を読んで

2015-09-15 | 

私は、災害救助犬の夢之丞(犬の名)を昨年、広島で起きた土砂災害の報道写真で知った。泥まみれになって災害現場で働く姿は、大の犬好きの私の胸を熱くした。主人である人間に褒められたい一心で働く犬たちの気持ちを思うといつも犬の素晴らしさを感じずにはいられない。犬は人間を最良のパートナーとして受け入れてくれる。信じてくれる。

記事を読むと、夢之丞は元捨て犬で殺処分対象の犬だったという。人間に殺されようとしていた犬が、人のために危ない現場で働いているのだ。「ありがとう。夢乃丞」と感謝の気持ちでいっぱいになった。

夢之丞を知ってから数カ月後、本書を本屋で見つけた。
特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンの運営するピースワンコ・ジャパンは、活動のひとつとして災害救助犬を育てている。夢之丞は第一号の救助犬。保護当時、怯えていた夢之丞に根気強く接し、可能性を信じ育てていく様子は、はじめからうまくいく者(犬)だけに素質があるわけではないということを教えてくれる。
居場所がないから殺される。役に立たないから殺される。のであれば、居場所を作ってやる。長所を見つけて生かしてやればいい。「生きてこそ」可能性が生まれる。

命を奪われる瞬間、生き物は弱い状況に置かれている。だから助けが必要なのである。助けは人だけでなく、犬でも同じ。殺される寸前だった弱い子犬(夢乃丞)はピースワンコジャパンの人に助けられ、助けられた夢乃丞が、災害にあった人の命を助ける。この助けあいがあるから、安心して生きられるのではないだろうか。希望を感じられる一冊。

殺処分ない社会を。命を救う社会を願う。

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命を救われた捨て犬夢之丞 災害救助泥まみれの一歩 / 今西乃子/著 浜田一男/写真 - オンライン書店 e-hon

ノンフィクション知られざる世界 - 殺処分寸前に救い出され、広島土砂災害で災害救助犬としての第一歩を踏み出した夢之丞。一度は人間に見捨てられ...

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