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感想です。

映画『キングスマン:ゴールデンサークル』/悪人は死んでもいいか。

2018-01-29 | 映画

【ネタばれあり】

「キングスマン」とは、どこの国にも属さない最強のスパイ組織。表の顔はロンドンの高級テーラー。品のいいイギリス紳士たちがスーツ姿で切れ味鋭いアクションと粋なスパイ道具を使って戦う。続編である本作は謎の組織ゴールデンサークルからのミサイル攻撃で本部が壊滅する。二人だけになったキングスマン(タロン・エガートン、マーク・ストロング)はアメリカに渡る。敵に挑むため同盟機関「ステイツマン」と組む。キングスマンがスマートスーツなのに対し、ステイツマンはワイルドカーボーイハット。

前作『キングスマン』ではがっしりと心を掴まれた。スタイリッシュで刺激的な映像でとくに師匠コリン・ファースの紳士然とした戦いぶりがかっこよかった。ありえないスピードと技で繰り広げられる大量殺人は残酷きわまりないのだが、現実味がなく痛みを感じないので目を背けずみていられた。終盤クライマックスでは人の頭がポンポンと飛び死んでいき悪ふざけがすぎていると一瞬思ったが、カラフルなポップさと音楽による昂揚で人が殺されているのに笑ってしまう自分に驚いた。度肝を抜かれここまでめちゃくちゃなら楽しもう。とにかく「かっこよかった」と大満足だった。

本作もキングスマンのかっこよさは健在。しかし後味悪さもあった。あんなふうに死にたくないし殺したくもない、血(ミンチ)の色が脳裏に残った。無邪気に楽しめなかった。しばらくハンバーガーは食べられない。

悪の組織ゴールデンサークルの女ボス(ジュリアン・ムーア)が仲間をグロテスクな方法で惨殺するように命令する。現実で起きている猟奇的な殺人を思い出し、吐き気がする気持ち悪さだった。それでも自ら悪事に手を染めた人だからろくな死に方ができなくても当たり前自業自得だと言い聞かせて、映画を見続けたのだが、悪人が殺されるのは仕方ないという考えが成り立たなくなった。善悪でことを分けられるほど単純ではなかった。ゴールデンサークルがばらまいたドラッグに仕込まれたウィルスに感染をした人たちが解毒剤を打たなければ、むごたらしい死を迎える事態になる。ドラッグをするのが悪い。救わなくてもいいと切り捨てることもできる。大統領の命令で発症した人々が隔離される風景は身の毛もよだつ恐ろしさ。これを機会に麻薬使用者を一掃できると考える大統領の方が悪人と思えてくる。
どんな理由があろうと犯罪に手をだしたらいけない。でも私は正しく生きている人間だろうか。たまたま平和な日本で暮らしたからまっとうに生きているつもりだが、犯罪が近くにあったらあちら側にいってしまわなかっただろうか。悪人だから殺してしまえ、むごたらしく死んでも仕方ないと考えるのはろくでもない人間ではないだろうか。殺戮満載の映画を楽しいなんと言えるなんて、死に対して麻痺してしまっているのかもしれない。でもやっぱりおもしろかった。セレブ代表役で出演しているエルトン・ジョン役のエルトン・ジョンが楽しそうだった。一番笑ったのは殺人ロボット犬からのエルトン・ジョンの「お友達」判断。ロボットとはいえ犬好きの私には人を襲う犬の姿を見るのはつらかった。命令されているだけでロボットは悪くないんだ。簡単に善悪はつけられない。

今回もスパイガジェットが魅力的、二人の紳士がスーパーハイテク傘を盾にしてスマートに戦うのが笑えてかっこよかった。スパイガジェットがほしくなったので黒地に金のキングスマンマークのパンフレットを買った。


カントリーロードで泣いた。死んだと思われた人がまた生きていますように。