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映画『普通の人々』/普通の人々普通の家族

2022-02-08 | 映画

原題 Ordinary People
ジャンル ドラマ
製作国 アメリカ

製作 1980年
公開 1980/9(アメリカ)1981/3(日本)
上映時間 124分
監督 ロバート・レッドフォード
脚本 アルヴィン・サージェント
原作 アメリカのありふれた朝』(1976)/ジュディス・ゲスト
製作 ロナルド・L・シュワリー
撮影 ジョン・ベリー
音楽 マーヴィン・ハムリッシュ
編集 ジェフ・カニュー
出演 ドナルド・サザーランド(父カルヴィン・ジャレット)、メアリー・タイラー・ムーア(母ベス・ジャレット)、ティモシー・ハットン(次男コンラッド・ジャレット)、シャド・ハーシュ(タイロン・バーガー医師)、M・エメット・ウォルシュ(水泳部コーチ)、エリザベス・カクガヴァン(恋人ジェニン・プラット)、ダイナ・マノフ(友人カレン・アルドリッチ)

私の評価 ★★★★☆(3.5点)
お家観賞 2回目 (1回目は4.5点)

内容を知らず観ることをお勧めする。あらすじを読んでからでも充分考えさせられる映画だが感じ方が決定的に違う。

見所 ①ロバート・レッドフォードの監督1作目
②第53回(1980年)アカデミー賞4部門受賞(作品賞、監督賞、助演男優賞:ティモシーハットン、脚本賞)
③丁寧に家族間の関係を描写していて、家族の在り方を浮き彫りにしている。
④パッヘルベルのカノンの音色が味わい深い。
⑤お父さん役のドナルド・サザーランドは『24-TWENTY FOUR-』のキーファー・サザーランドの父親である。顔がそっくり。

※以下ネタバレあり)



一見なんの変哲もない家族

食欲がないという次男(コンラッド)の朝食のトーストを母親(ベス)がすぐに捨てる。せっかく用意した朝食を食べない息子に母が腹を立てているぐらいにしか思わなかった。「フレンチトースト好きだったでしょう」と声をかける息子の反応は薄い。オレンジジュースが家族3人分置いてあるから母親もテーブルに着く気はあったのに、気を変えてさっさと行ってしまう。父親(カルヴィン)が息子を気遣い会話をしようとしても虚しく食卓にひとり残される。真正面から対立しているわけではないが家族はうまくいってない。この程度は普通にあることだろう。なんの変哲もない裕福な家族である。
 
家族間にある目に見えない緊張感
 
話が進むにつれ、家族が危機的状態なのがわかってくる。もともと家族4人で幸せに暮らしていたが、長男(バッグ)が事故で亡くなりその場に居合わせたコンラッドだけが生き残ったのである。それをきっかけにして家族が崩壊しはじめた。コンラッドは自殺未遂をし病院に入り治療を受けて帰ってきた。今一番気遣われるべきは次男なのに母親はひどく冷たい。状況がわかると朝食のトーストを取り上げるように捨て息子に関心を示していないのがこわい。
 それでもこの母親を責める気にはならなかった。私は子どもを亡くした経験がないからどのような心理状態になるのか想像もできないからである。ぎくしゃくした母と息子の様子を見ているだけで、コンラッドがかわいそうで胸が締め付けられるけれど一番苦悩しているのは母親かもしれないとも思う。父親はその関係に気付いているけれど間を取り持てない。

友人の自殺の危険に気づかなかった

衝撃だったのは、精神病院で一緒だったカレンが自殺してしまったことである。一足先に退院して、学校での活動をはじめ元気に見えた。治療を受け病院でコンラッドという信用できる友だちもできたのに死んでしまった。
カレンは退院後医者にしばらく通ったけど、やめて自分で治すことにしたと話す。いい先生に出会えなかったのかもしれないし、費用の問題があったのかもしれない。 
普通に見えたのに心の中で何が起こっているかわからない恐ろしさを感じる。

新しい友人、恋人

友人はコンラッドの力になろうとしていた。「どうしてだ。なぜ孤立したがる。俺もバッグが恋しい。俺たち3人は親友だった」の問いにコンラッドは答える。「君といるとつらいんだ。もう行く」と。
兄夫婦はベス(母親)を気遣っている。妹夫婦喧嘩を見かねて「幸せになってほしい」と落ち着かせようとしても「兄さんの子どもは生きている」と反発する。「(幸せを)私に自慢したいわけ?」と怒りをぶつける。
コンラッドは相性のいい新しいカウンセラー(バーガー先生)に出会えて運がよかった。診療外で診てくれて「友人」だと、抱きしめてくれる先生なんてそうそういない。カレンには現れなかった。ジェニンという恋人が現れたのも大きい。親友では救えなかったし、カレンでもダメだった。人の心は複雑でありまた単純である。
母はカウンセラーを拒否して、これまでの付き合いの中で今まで通り暮らそうとして家族との間に溝ができる。

息子の葬儀に夫のシャツや靴を気にした妻

「苦しさが生きている証拠」とバーガー先生はコンラッドの感情を吐き出させる。対して母は息子に抱きしめられても無感情である。苦しさから逃げて、生きていないのかもしれない。
夫はずっと妻に違和感を持ち続けていたけれど言えなかった。妻の心の中で起きていたことが夫の言うとおりだとは、私には思えなかった。本人にもわからないかもしれない。夫に「君は自分しか愛していない」と言われて家を出る決意をした時もまだ冷え切っていて気の毒だった。ひとりになったときはじめて泣ける気がする。今までの生活は無理なのだろう。離れるとやさしくなれるかもしれない。
ハッピーエンドではないがコンラッドが苦しみから解放される結末となってよかった。父と次男は愛情を確かめあえた。父が息子を失うことはもうないだろう。

普通の人々

2度目の観賞も「普通の人々」だと感じた。普通の人々が家族を事故で亡くすという悲劇に見舞われたのである。陽気で明るい兄バッグのおかげでまとまっていた家族が、兄の死で危機に直面して崩壊したのだと思う。人はみな平然として暮らしているけれどそれぞれに事情を抱えているかもしれない。

カルヴィン「人生は偶発的なものだ。何が起きてどう対処するか」

自分のせいやだれかのせいで起こった必然ではなく、偶然だと理解するのは当事者にとっては難しい。考えさせられる作品である。

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映画 普通の人々 (1980)について 映画データベース - allcinema

 平穏な日常生活を送っていた家族4人の家庭に、長男の事故死、続いて次男の自殺未遂という事件が起こる。この出来事を契機として、愛情と信頼によっ...

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