彼女は絶対魔法を使う

　この間皆で食事に行った。

　いわゆるひとつの親交を深める為、というぐらいの食事会。

　『ジョナサン』での当たり障りのないそれは、淡々と進み、粛々と終わるはずだった。

　彼女があんな呪文を解き放たなければ。

　それは少し前の出来事。

　彼女はバイトかなにかである男性（ひょっとしたら少年かも）と知り合った。

　その男性は彼女曰くかなり気持ち悪い人で、お客相手に、

『この商品買って下さいよ～。買ってくれないと僕死んじゃう～』

　とか云う人だったらしい。

　確かにかなり気持ち悪く、僕でも仲良くはなれそうにないな、と思わせる男性だ。

　その男性に対し、彼女はいまさらながらに呪文を放つ。

『本当に気持ち悪かったの。ホントもう、死ね！！って、思った』

　文字を大きくしたのは彼女の思いを表現したかったからだけではなく、彼女の声の大きさも表現したかったから。

　そのとき『ジョナサン』にいた全員に聞こえたんじゃないかという大声を出したから、そりゃあもう吃驚したよ。

　吃驚しただけでなく、凍りつきもした。それだけ怨念がこもっていたからね。

　彼女はすぐに顔を赤らめ、普段はこんなこと云わないんだけど、とフォローしていたけど少し遅かった。

　少なくとも僕は、そのとき魔法使いの姿を見ていた。

　一撃で敵を葬り去ると言う『ザキ』を使う魔法使いの姿を。

　後日あのときのことは忘れて欲しい。私だって女の子なんだから、と再度フォローされてもちろん僕は快諾した。

　だってまだ、死にたくはなかったから。