Del Amanecer

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美しく哀しい物語 ~メキシコ映画「グッド・ハーブ」を鑑賞

2011-08-01 22:42:24 | CINEMA~映画
「グッド・ハーブ」・・・英語のタイトルにするとなんとも魅力がない。
原題はもちろんスペイン語で「LAS BUENAS HIERBAS」(ラス・ブエナス・イエルバス)。
hierbabuenaは薄荷だけど、ここでは薬草のこと。
この映画の主人公ダリアの母ララは、メキシコ先住民が治療に用いた薬草を研究する民族植物学者なのだ。
娘のダリアはラジオ局のパーソナリティを務めるシングル・マザーで幼い息子のコスモと二人で暮らしている。
ララの家はハーブの庭がある素敵な家で、映像で観ているだけで心地よさそうだなと感じさせてくれる。
窓からこぼれ落ちる緑、色とりどりのハーブの花。インテリアも可愛らしく色も綺麗だ。

お互いに干渉せずに暮らしてきた母娘の関係に、ある日変化の時が訪れる。
自分の言動に不信を抱いたララは自ら病院で検査をし、認知症だと診断される。
そしてこれまでの自分のハーブの研究を娘に引き継いで欲しいと願ったのだ。



母に寄り添いながら暮らすダリアの新しい日々。
でもそれは苦難の始まりだった。
少しずつ悪化していくララに対応することの大変さ。
実際身近にこの病気を患う人がいないので、実感することはできないけれど、その大変さは十分に伝わってくる。

テーマの重さとは裏腹に映像はリリカルで美しい。
ララとダリアのファッションも色使いやデザインがとても素敵でお洒落だ。
ハーブと暮らすスローライフ。
そんな生活を愛していたララだからこそ、最後まで毅然として自分自身でありたいと願うのだけど、病気の進行はそんな願いさえも少しずつ壊していくのだ。



母を尊重し、母をもっと知りたいと願う娘ダリア。
運命はまたダリアの願いも受け入れてくれない。
もはや何も語ってくれない母の前でダリアは無力感を痛感してしまう。
そしてあまりにも哀しい結末が待っていた。

この結末は賛否両論だろう。私はそのシーンはショックだった。
でもここまで追い詰められたことがない者には何も言えないのだ。多分。
それでも母の命の重みはいかばかりなのか。
人が人の人生を終わらせてもいいものだろうか?
それが相手の苦しみを終わらせることだったとしても・・?
答えは簡単ではない。



重いテーマを描きながらも、随所にユーモアを漂わせ、ハーブの効能もあってなのか、味わい深い作品だ。
ダリアの息子コスモの可愛さも一役かっているのかもしれない。
病気は違えど亡くなった母との記憶をたどりながらしばし心の旅に出たような気分。

病院ではなく、ハーブがいっぱいの自宅のベッドで亡くなったララは、病院で亡くなった母より幸せだったような気もする。
私ももう一度母を家に連れて帰りたかったから。
切なくて哀しくて、いろいろなことを考えさせられる作品だ。

ディミヌティーボ(縮小辞)を多用するメキシコのスペイン語。
居合わせたメキシコ人らしい人たちが、時々爆笑していた。きっと私たち日本人には字幕を読んでいるだけでは分からないニュアンスのユーモアなのね。
ロビーに出て、彼らがスペイン語で談笑しているのを聴いて、何だか肩の力が抜けた。

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「グッド・ハーブ」
原題「LAS BUENAS HIERBAS」

2010年: メキシコ
鑑賞日: 2011年7月29日(金)15:45~(120分)
映画館: シネマート新宿 スクリーン2 D-4



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