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アラブの春やイラク戦争が中東に与えた影響とは? 黒木英充、高橋和夫、萱野稔人らが議論(2)

2015-03-16 14:03:11 | キャリア・教育

 アラブの春やイラク戦争が中東に与えた影響とは? 黒木英充、高橋和夫、萱野稔人らが議論(2)


 

  THE PAGEが放送した生放送番組、THE PAGE 生トーク「中東とどう向き合うか~イスラム国から日本外交まで~」(http://thepage.jp/detail/20150302-00000006-wordleaf?)。出演は、黒木英充・東京外国語大学教授、鈴木恵美・早稲田大学イスラーム地域研究機構招聘研究員、高橋和夫・放送大学教授。司会・進行は、萱野稔人・津田塾大学教授、春香クリスティーンさん。
 
  以下、議論の第2部「中東の今を理解するためのポイントとは? アラブの春やイラク戦争まで」を議論した部分の書き起こしをお届けします(第1部はこちら(http://thepage.jp/detail/20150315-00000001-wordleafv?))。
 
 ※討論の動画は本ページ内の動画プレイヤーでご覧頂けます。


パラダイムの転換期にある中東

 [画像]黒木英充・東京外国語大学教授


 以下、書き起こし
 
 萱野稔人:はい。中東の今を理解するポイントは何か。今までのお話も踏まえまして、今の中東を理解するためには、何に注目したらいいのか、何がポイントになるのかっていうことをちょっとお話しいただければなと思うんですけども、まずじゃあ鈴木さん。
 
 鈴木恵美:ポイントもいくつもあってなかなか難しいんですけれども、1つは今現在の中東がパラダイムの転換期にあるということだと思うんですね。
 
 萱野:パラダイムの転換期。
 
 鈴木:はい。これまでの中東、そうですね。50年に一度、100年に一度、起こるか起こらないかぐらいの大きなこう、いろんな大転換期にあると思うんですね。
 
 萱野:そうですか。
 
 鈴木:ええ。例を挙げると本当にいくつもあるんですけれども、例えば、アメリカの対中東政策の基軸国、要の国だと言われてきたエジプトとサウジアラビアにしても、アメリカとの関係1つ取ってもこの数年でだいぶ変わったわけですね。
 
 萱野:そうですか。
 
 鈴木:そうですね。エジプトは非常に親米、今でも基本的には親米ですけれども、アメリカべったりの国だったわけですけれども、それがロシアに接近して。で、ロシアが最近ウクライナ情勢でちょっと歩が悪いということになると、去年12月ぐらいから急速に中国に接近していて、これまでの中東って言ったらサウジアラビアとエジプトががっちりアラブ諸国を束ねるっていうような形がちょっと崩れてきてると。アメリカに石油を安定的に供給するためのタッグっていうのがちょっと崩れてきていると。
 
 萱野:エジプトが例えば、ロシアや中国に接近する理由ってなんですか。
 
 鈴木:もうこれは、エジプトがこれまでアメリカからいろいろ援助してもらってたわけですけれども、2013年に軍事クーデターが起きて、で、軍事クーデターで成立した政権を、アメリカとしては大々的に支援することができないわけですから。
 
 萱野:一応そうですよね。軍事クーデターで成立したっていうことで。
 
 鈴木:そうですね。だからといってアメリカ政府はエジプトを切ったりしないわけですけども、関係はやはり、相対的には悪くなって、援助金もちょっと減ってるわけですよね。
 
 萱野:そうですか。サウジアラビアもアメリカべったりじゃなくなってるんですか、今。
 
 鈴木:そうですね。ちょっとシーア派とかそういうちょっと話が難しくなっちゃいますけども、1つにはよく言われてるのはシェール革命ですよね。アメリカでたくさんエネルギーが自分たちで調達できるようになって、もうサウジアラビア要らないよというような方向に向かってきてると。
 
 萱野:アメリカ自身もそういう方向に向かってる。
 
 鈴木:そうですね。こういった感じでだいぶこれまでの中東関係、アラブ諸国の域内のパワーバランス、あるいはアメリカとの関係、ロシアとの関係っていうのも、がらっと今変わりつつあるという、非常に転換期にあるということですね。なので、なかなか理解するポイントとしては難しいんですけれども、今はいろんなものががらがらと動いているときだっていうことを1つにはやっぱり知っておくべきだと思うんですね。
 
 萱野:そのパラダイムの転換、要するに大きな枠組みが変わるんだということだと思いますけど。
 
 鈴木:そうですね。
 
 萱野:今外交の話だったじゃないですか。内政って、国内的な状況でのパラダイムの転換っていうのはあるんですか。
 
 鈴木:そうですね。それは地域なり、1カ国、1カ国でだいぶ状況が違うので、それぞれ見ていかないといけないとは思うんですけれども。
 
 萱野:一言で言うと、でも、あの地域で起こってる国内的なパラダイムの転換があるとすればなんですか。
 
 鈴木:そうですね。初めのテーマともちょっと重なりますけれども、これまでの秩序が崩壊したわけですから、その秩序を再生しよう、復活させようという勢力が強いのがエジプトですけども、もうずっと混迷しているのがシリアですよね。アサド政権はこれまでの政権を維持しようとしてますから、そういう状態であるとか、もうリビアも完全に内戦状態ですから、もう崩壊しちゃってるわけで、そういった感じでいろんなこう、まあ、枠組みが崩れているっていうことですね。


世界と中東の相互作用が現在を形作る

 萱野:なるほど。今、パラダイムの転換、大転換だというお話ありましたけども、黒木さんは何が中東を理解するためのポイントだというふうにお考えですか。
 
 黒木英充:今、鈴木さんがお話になったように、その中東だけで話は収まんないですよね。アメリカが出てくる、ロシアが出てくる、中国が出てくるっていう感じでね。これはもう、なんて言うか、それらがみんな総合的にお互いの関係の中で作ってるものだというふうにまず考えるべきだと思うんですね。
 
 萱野:お互いの関係の中で作ってる。
 
 黒木:つまり、中東、中東って言ってもいろいろですけれども、そこと、それぞれの、もう世界中がそことの関係、していると。もちろん、濃い薄いはあるにしてもですね。もちろんアメリカっていうのはそこでは一番大きな関わり方だろうと思いますけども。ですので、その相互的な問題として、だから、アメリカも変わりつつあるわけですよね、そういう意味では。ロシアも変わりつつある。だから、まずそういうふうに考えるべきだっていうことが1つですね。それとあとやっぱり、いくつか大転換期にあるっていうのは私もまったく同じ意見なんですが、でも、変わらないことも、変わらないっていうか。
 
 萱野:変わらない部分もある。
 
 黒木:なんて言いましょう。長期的な、もっと長期的な要素っていうのもあるわけで、それは例えば、例えば今イスラムのいろんな過激思想とか、ジハード主義とか、いろんな考え方ありますけども、いわばそれ突き詰めていくと、例えばイスラムが始まってまだ間もないころの7世紀に、自分と意見の違う人たちは、もうこれはイスラム教徒としては認めないって言って、ほかの多くの人たちから離れていく人たちっていう、そういう宗派みたいなのも表れてくるんですね。で、もう正しい信仰者ではないと、彼らは。だから、そのためには戦って殺してもいいんだっていうような考え方ですね。ですから、そういうものがいわば今、それ、その後もいろんな形でその考え方は、例えば18世紀のサウジアラビアの今のサウジアラビアの元になったワッハーブ派っていうのが出てきたときなんかにも、そういう考え方がよみがえってきてるわけですね。ですから、今起こってる、これは時代錯誤的なアナクロの話ではなくて、非常に古い層がぽっと顔を出してくるということがあるわけですね。それが1つですね。
 
  それとあとは、今度はそのヨーロッパとの関係、欧米との関係で言いましても、例えばそれこそ今、イスラム国が十字軍ということを盛んに宣伝の材料として使ってますけれども、このイメージっていうのはやはりずっとあるわけですね。
 
 萱野:要するにイスラム教徒からすれば、キリスト教徒がわれわれを侵害してるんだと。もう侵略しようとしてるんだっていう。
 
 黒木:キリスト教徒っていうか、外のキリスト教徒ですね。自分たちにも、中東にもキリスト教徒はいっぱいいますからね。ですから、そうやって外から侵略してくるっていう、この感じですよね。
 
 萱野:それはやっぱり欧米だっていうことになるんですよね。
 
 黒木:最近の話ではなですね。で、それが、でも、よく考えてみると、今のシリアのアサド政権側の下で暮らしてる人たち。これもいろんな考えの人たちいますけれども、シリアの人口の中では大半を占めてるわけですけれども、そこにいる人たちからすると、いや、イスラム国こそまさに十字軍的に世界各地から集まって自分たちを攻撃してくるっていう、スンニ派の十字軍みたいな、そんな言葉さえ聞かれることもあるわけですが。ですから、まさに相互的な問題として。
 
 萱野:そこは一枚岩じゃないですよね。でも、やはり外から侵略されてて、自分たちがやられてるんだっていう意識はものすごくあるっていうことですね。
 
 黒木:ありますね。ただ、それもまた問題なんですけれども、中から外を引っ張り込むっていうこともあるわけです。隣のライバルをやっつけるために外の勢力を利用するっていうのは、この地域ではよくあることなんですよね。だから、常にサッカーをやってるように常に動いてるわけですよ。
 
 萱野:それはでも、本当にわれわれからすると分かりにくいというか、何が起こってるのかっていうのはよく分かりませんよね。
 
 黒木:サッカーをやるようなつもりになって。いくつかゴールがあって、なんかいろんなチームが入り乱れてて。
 
 萱野:チームも何チームもあって、途中でユニフォームを脱ぎ変えるような形で。
 
 黒木:入り乱れて、変えてると。そんな感じでやってる。
 
 萱野:そうすると、われわれからすると、あれ? って。この前まではこういう力関係だったのが、今度はまったく違う勢力図になってるとか。
 
 黒木:なってるわけですね。
 
 萱野:別のところで紛争始まっちゃったりとか、やっぱりどんどん起こるわけですね。
 
 黒木:そういうことですね。
 
 萱野:それだと本当にわれわれも分からないっていうことになるとと思いますけど。
 
 黒木:そうですね。だから、アメリカとロシアの力っていうのが、ここ20年ほどの間にぐーっと弱くなってきて、その分、そのさっきのサウジアラビアとか、今のトルコとか、あとは湾岸の、サウジアラビア以外の国々もいろんな形で動き出してるわけですよね。それぞれの自分の国の体制とか環境とかいろんな思惑があって、そういう多極的な、多極的な混乱ですね。
 
 萱野:アメリカの影響力が中東で落ちたっていうのはよく言われますけど、ロシアの影響力も下がってると考えたほうがいいんですか。
 
 黒木:ソ連のときから考えれば、やはり両極で押さえていたっていう、なんかその仕組みが崩れているっていうことは確かだろうと思います。これは高橋さんのほうがお詳しいと思いますけど。


アメリカと中東のかかわり

 萱野:いや、本当、すごいややこしい話がやっぱり出てきてしまうわけですけれども、ちょっと高橋さんから見ると、中東を理解するポイントはなんですか。一番のポイント。
 
 高橋和夫:私はもともとイランをやってたんで、イラン中心的な史観で見るんですけど、やっぱりイラン革命以降、中東の国際政治を規定してたのはイランとアメリカの綱引きだったんですよね。だから、エジプトもサウジもみんなアメリカに付いて、イランはほとんど独りぼっちだけど、シリアのアサド政権とか、ヒズボラとかが付いてる。それを、そういう構図があったのにアラブの春以降、アラブ陣営がばらばらっと崩れた。で、イランの陣営のほうもアサド政権ががたがたときた。で、しかも、今イランとアメリカが核問題で話し合いをして、仲良くなりつつあるというんで、これまでのイランとアメリカっていう分かりやすい構図がなんかぐちゃぐちゃとなってしまって、あれ? という感じですよね。
 
  ですから、今、イスラム国に対する攻勢、イスラム国はアメリカの敵でもあるし、イランの敵でもあるんですけど、アメリカとイランが同じ側に立ってイスラム国と戦ってるという。だから、これまでのセ・リーグとパ・リーグじゃなくて、セ・リーグとパ・リーグ、交流戦やっててという感じがちょっとして、これは見てる人は混乱しますよね。
 
 萱野:なるほど。スポーツの比喩が結構出てきますけども。そうか。イランとアメリカがずっと綱引きをしてたと。これ、どこまでさかのぼると考えたらいいですか。イラン・イラク戦争のころももうさかのぼれるっていうことですか。
 
 高橋:たぶんイラン革命ですよね。だから、それまではイランの政権はアメリカべったりでしたから。
 
 萱野:なるほど。79年。
 
 高橋:79年でぱっと。
 
 萱野:イラン革命によって。あそこで急に緊張が高くなって、そこからずっと綱引きが始まって、で、イラン・イラク戦争が起きる。で、ずっとアメリカはイランと戦うイラクを支援し続けるけども大きくなりすぎて、結局、湾岸戦争でたたいて。という形でちょうど冷戦も終わって、その後、イラク戦争があって。ずっと、でもそれは図式はやっぱり変わってなかったわけですよね。
 
 高橋:そうですね。
 
 萱野:イランとアメリカが綱引きをする。その中で力のバランスをなんとか保ちながら、中東を安定化させようという意図がお互い働いたと。でも、それが崩れてきてしまったということですよね。
 
 高橋:お互い話し合いましたからね。真ん中にいた国々は、なんなんだ、アメリカはとか思いますよね。サウジとかエジプトはね。
 
 萱野:そうですね。なるほど。それはなかなか明快な図式かな、という気はしますけども。
 
 高橋:うん。たいていの明快すぎる図式っていうのは間違って、詳細を排除してるんですけど、この図式もそうなんですけど、でも、詳細から入ると、本当に全体図が見えないから。うん。
 
 ———————-
 ※書き起こしは、次回「第3部」に続きます。


 ■プロフィール
 
 黒木英充(くろき ひでみつ)
 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授。専門は中東地域研究、東アラブ近代史。1990年代に調査のためシリアに長期滞在、2006年以降はベイルートに設置した同研究所海外研究拠点長として頻繁にレバノンに渡航。主な著書に『シリア・レバノンを知るための64章』(編著、明石書店)など。
 
 鈴木恵美(すずき えみ)
 早稲田大学イスラーム地域研究機構招聘研究員。専門は中東地域研究、近現代エジプト政治史。著書に『エジプト革命』中公新書、編著に『現代エジプトを知るための60章』、他、共著多数。
 
 高橋和夫(たかはし かずお)
 評論家/国際政治学者/放送大学教授(中東研究、国際政治)。大阪外国語大学ペルシャ語科卒。米コロンビア大学大学院国際関係論修士課程修了。クウェート大学客員研究員などを経て現職。著書に『アラブとイスラエル』(講談社)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会)、『アメリカとパレスチナ問題』(角川書店)など多数。
 
 萱野稔人(かやの としひと)
 1970年生まれ。哲学者。津田塾大学教授。パリ第十大学大学院哲学科博士課程修了。博士(哲学)。哲学に軸足を置きながら現代社会の問題を幅広く論じる。現在、朝日新聞社「未来への発想委員会」委員、朝日新聞書評委員、衆議院選挙制度に関する調査会委員などを務める。『国家とはなにか』(以文社)、『ナショナリズムは悪なのか』(NHK出版新書)他著書多数。
 
 春香クリスティーン
 1992年スイス連邦チューリッヒ市生まれ。父は日本人、母はスイス人のハーフ。日本語、英語、ドイツ語、フランス語を操る。2008年に単身来日し、タレント活動を開始。日本政治に強い関心をもち、週に数回、永田町で国会論戦を見学することも。趣味は国会議員の追っかけ、国会議員カルタ制作。テレビ番組のコメンテーターなどを務めるほか、新聞、雑誌への寄稿も多数。著書に、『永田町大好き! 春香クリスティーンのおもしろい政治ジャパン』(マガジンハウス)がある。


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「車いす社長」の父との思い出ヒントに新たな介護トラベルサービス開発

2015-03-04 23:53:06 | キャリア・教育

 「車いす社長」の父との思い出ヒントに新たな介護トラベルサービス開発


 

 [写真]スキー場で白雪に囲まれる春山ファミリー。(右から)春山哲朗さん、満さん、由子さん、龍二さん(春山家提供)


  介護医療分野で革新的な機器やサービスの開発を手掛けるハンディネットワークインターナショナル(大阪府箕面市)の春山哲朗社長が、従来にはなかった介護トラベルサービスを創案し販売を開始した。開発のヒントになったのは、父と楽しんだ濃密なる家族旅行の思い出だった。その父とは同社の創業者で、『闘う車いす社長』として活躍したものの、昨年惜しまれながら亡くなった春山満さんだ。


家族全員で楽しめるオリジナル旅行提案

 [写真]父である春山満さんが開発したスライド式入浴装置に寄り添う春山哲朗さん=大阪府箕面市


  春山哲朗社長が開発したのは「グッドタイムトラベル」。介護が必要な高齢者と出かける新しい家族の旅を、家族に代わって総合的にサポートする。
 
  高齢者にとって、旅行はつねに人気調査で上位に入る半面、介護を受け始めると、旅行とは縁遠くなりがちだ。春山社長は「介護は家族の負担が大きい。旅行をすると、家族の負担はさらに重くなってしまう。高齢者は家族に遠慮をして旅行をあきらめ、家族も日々の介護に追われるうちに、旅行への関心が薄れていく」と分析する。
 
  「グッドタイムトラベル」は、旅行に伴う家族の負担を徹底的に軽減。家族全員で安心して楽しめるオリジナル企画旅行を提案する。家族から問い合わせを受けた時点で、ヒアリングを実施。介護の状況やリクエストなどを面談方式で確認した上で、旅行プランを作成。予算の見積もり、最終打ち合わせを経て、旅行へ出発する。もっとも注目されるのは、介護旅行の専門スタッフ「トラベルケアアテンダント」制の導入だ。
 
  「トラベルケアアテンダントは介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)の資格を持ち、当社の教育プログラムを受けて訓練されたケアスタッフです。介護が必要な高齢者おひとりに対して、トラベルケアアテンダントが1名ずつ旅行に同行し、ご家族に代わって介護を担当させていただきます」(春山社長)
 
  「グッドタイムトラベル」事業の開始日は2月23日。昨年亡くなった春山満さんの命日だ。新事業の着想は満さんと出かけた家族旅行から生まれた。


忙しくても出掛けた家族旅行の本当の理由

 [写真]海水浴も家族4人で楽しんだ(春山家提供)


  昨春、春山社長は満さんがこよなく愛した淡路島を家族とともに訪れた。大黒柱を失った喪失感は大きかったものの、不思議な充実感がみなぎってくることに気づいたという。
 
  満さんは20代で、全身の運動機能が低下する進行性筋ジストロフィを発症。難病と闘いながら、介護や医療が立ち遅れている現実と直面。ビジネスチャンスととらえて介護医療機器の自社開発などに取り組んだ。車いすで全国を駆け回ったが昨年2月、力尽きて亡くなった。
 
  仕事に明け暮れる毎日だったが、年に3回の家族旅行だけは欠かさない。満さんを中心に、満さんを介護する妻の由子さん、長男の哲朗さん、次男の龍二さん。春山家の家族4人が、いつもいっしょだった。
 
  東北のスキー場。満さんが「俺も頂上へ行きたい」と言い出す。家族は満さんを車いすごとゴンドラに乗せて、ベレンデに降り立った。夏は海へ。満さんは全身まひながら海へ飛び込み、家族と騒いで楽しんだ。
 残された写真には、いつも家族4人の笑顔が浮かぶ。春山社長は「旅のだいご味は非日常性。旅人の心を開放してくれます。年3回の家族旅行を続けることで、春山家は心を開いて話し合い、お互いを知ることができた」と振り返る。
 
  「日常生活では言いづらい重たいテーマも、旅先なら話せることがある。父は『俺が死んだらなあ』などと、冗談めかしながらも大切なことをしっかり伝えようとし、私も多くを学ぶことができた。春山家は春山満という超重度の障害者とともに家族旅行を続けてきた。この家族旅行の体験を、介護と向き合うご家族のために生かせるのではないかと考えました」(春山社長)


父の経営哲学「狭く深く徹底的に」を受け継ぐ

 [写真]「狭く深く徹底的に」と話す春山哲朗さん。傍らの介護用ユニットバスは高齢者が座ったまま肩までお湯にひたれる革新的商品。父春山満さんが試行錯誤を経て世に送り出した=大阪府箕面市


  春山社長は1985年生まれ。『春山満の息子』と呼ばれるのが嫌で、反発した時期もあったと明かす。アメリカでの武者修行を経て2007年、ハンディネットワークインターナショナル入社。昨年2月、満さんの死去を受けて、社長の重責を受け継いだ。
 
  満さんから薫陶を得た経営哲学は「狭く深く徹底的に」。「グッドタイムトラベル」でも、顧客の満足を引き出すために、一切の妥協を許さない。旅行のプランニング段階で、高齢者の介護計画を立てているケアマネジャーやホームドクターの意見を聞き、宿泊先とも受け入れ態勢を入念に吟味。高齢者の万が一の体調急変にも備え、旅行先周辺での医療機関の情報収集なども怠らない。
 
  玄関先に介護タクシーが到着したら、あとはすべてまかせてもらう。徹底したワンストップサービス体制を確立して臨む。旅行料金に関しては、宿泊代などとは別に、「トラベルケアアテンダント」の料金として、1泊2日で10万円が基本となる。
 
  「宿泊先に関しても、私自身が視察して納得できるところしか推薦しません。バリアフリーをうたっていても設備が味気なくて、旅の華やぎが感じられない宿泊施設が見受けられるのは残念。家族風呂に当社の開発した入浴介助装置が設置されているホテルは、ゆったり安心してご利用いただけます」(春山社長)
 
  非日常の体験で、高齢者も家族も心が揺さぶられ、精気がよみがえる。日本の家族の旅が変わるかもしれない。
 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)


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「働きがいのある会社」は「採用」「配慮」「傾聴」に注力

2015-03-02 10:13:23 | キャリア・教育

 「働きがいのある会社」は「採用」「配慮」「傾聴」に注力


 

 「働きがい」とはなんだろうか。「給料」「評価」「誇り」…人によって基準は様々だ。


 世界49カ国、7,000社超を対象に、「働きがいのある会社」を調査・表彰するGreat Place to Workの日本支部 Great Place to Work Institute Japanは24日、「働きがいのある会社」のベストカンパニーにおける傾向を発表した。このレポートでは、「働きがいのある会社」に選出された企業の取り組み事例や傾向などを紹介する。


 「働きがいのある会社」受賞企業の代表


「働きがいのある会社」とは?

 まず同社は「働きがいのある会社」を以下のように定義する。


 「従業員から見た『働きがいのある会社』とは、従業員が会社や経営者、管理者を『信頼』し、自分の仕事に『誇り』を持ち、一緒に働いている人たちと『連帯感』を持てる会社である。マネジメント(会社)から見た働きがいのある会社とは、『信頼』に満ちた環境で、『一つのチームや家族』のように働きながら、『個人の能力』を最大に発揮して、『組織目標』を達成できる職場である」


 同社は上記定義に基づき、日本国内240社の社員を対象に、「信用」「尊敬」「公正」「誇り」「連帯感」の5つの要素からなるアンケートを実施。同時に、企業を対象に9つのエリアに分けたアンケートも行った(基準は世界共通)。


 調査の結果、2015年の「ベストカンパニー」(一定の水準に達した企業)は85社。従業員1,000人以上のランキングは、1位「グーグル」、2位「日本マイクロソフト」、3位「アメリカン・エキスプレス」となった。


 「働きがいのある会社 2015」ランキング


企業規模別の傾向

 続いて調査対象企業を規模別に分類。「大企業部門」(25社)、「中企業」(30社)、「少企業」(30社)それぞれに属する従業員の特徴が紹介された。


 同社によると、大企業に所属する従業員は、5つの要素の中で仕事に対するプライドを測る「誇り」の項目への評価が最も高い。同社シニアコンサルタント 今野敦子氏は「社会的影響力が大きい大企業は、商品名や会社名が社員の誇りとなり、働きがいを導いている」とコメントしている。


 一方中小企業では、職場での親密さやホスピタリティ、コミュニティの質を評価する「連帯感」の評価が最も高い。今野氏は「小さい組織であると、同僚・上司と信頼感をもってチームで何かを成し遂げるということが多い。また、お互いの顔を知っており、連帯感が生まれやすい環境が整っているため」と述べた。


特徴1 「採用」…トップを巻き込む

 最後に、「働きがいのある会社」を作るため、各社が取り組んでいる事例とその特徴を紹介する。近年の傾向として紹介された特徴は大きく3つ。それぞれについて、今野氏の解説とともに見ていこう。


 第1の特徴は「採用」。景気回復を受け新卒採用が難しくなる一方、3年内離職率は増加している。2015年のベストカンパニーと認定された企業では、新入社員を逃さないよう、入社後のフォローアップを手厚くする傾向が見られたという。


 新入社員研修はその1つであるが、近年の特徴として、「よりマネジメントを巻き込む傾向」が顕著になってきていると今野氏は指摘する。「経営トップを入社式や歓迎会にも参加させ、新入社員にとって身近な存在として感じさせる。教育係・メンターも入社式に参列させ、初めから親しい関係性を作れるようなプログラムを組む傾向が見られた」(今野氏)


 また、配属前に複数の部署を専攻・興味にかかわらず経験させるという取り組みも。「会社の仕組みを知るだけでなく、入社数年後のキャリアのつまづきやモチベーションの低下時に、同社他部門へ新たな機会を求めるきっかけに繋がる」と今野氏は説明した。


 講演会の様子


特徴2 「配慮」…夫婦揃っての転勤も

 第2の特徴は「配慮」。柔軟な働き方を支援するため、従来の発想を越えた制度が追加されている。


 例えば営業職の女性社員の産休・育休支援強化として、社員が育児で長期休暇を希望する際、代替人員を速やかに採用する制度を採用した企業も。忙しい部署・職種であっても、配属転換をせずにその仕事を続けることができる。


 社内結婚の場合、どちらかの転勤による退職者を防ぐため、希望すれば夫婦揃って異動できるという転勤制度を実施している事例も紹介された。


 上記のような制度が整っているのは大企業が多く、中小企業の中にはまだまだという会社もたくさんある。ただ、一人ひとりの負担が大きい中小企業では、個別の事情にあった支援を行うという柔軟性が見られる。また、個別ニーズを聞き取り対応していった結果、制度化するということもあるようだ。


 「働きがいのある会社 2015」第1位を受賞したグーグル 人事部 シルバ・ダニエル氏(右)とGreat Place to Work Institute Japan 代表 岡元利奈子氏(左)


特徴3 「傾聴」…社内SNSなど

 第3の特徴は「傾聴」。社内の連帯感や信頼関係をどのように高めるかは、部門障壁のある大企業にとって大きな問題となる。従来は「お祭り」「運動会」などの方法が採用されてきたが、今野氏は「その場限りの一時的なもので、お互いを知る機会にはなりにくい」と指摘する。


 こうした現状から大企業を中心に、自分に起きた身近な事、業務のちょっとした改善案を思った時に発信し、同僚・上司がフィードバックする場作りをしている会社が増えている。今野氏は「社内SNS」をその一例としてあげ、「ただ作っただけでは皆使わないので、誰かが常にフィードバックするようにし、コミュニケーションを活性化した」という事例を紹介。


 新入社員の業務日誌についても、先輩のメンターだけが確認するのではなく、全公開し全社員が読んでコメントするということも重要だという。こうした取り組みが、新入社員が将来やりたいことを発見したり、イノベーションに繋がる可能性があると今野氏はコメントしている。



(1)「友人多い」方へ…児童数の偏り拡大

2015-02-14 07:09:19 | キャリア・教育
(1)「友人多い」方へ…児童数の偏り拡大 
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  •   保護者や子どもが自ら学校を選ぶ「学校選択制」が、岐路を迎えている。

      15年ほど前から各地に広がり、学校の特色づくりや情報公開が進むなど一定の成果を上げてきた。一方で、児童生徒数の偏りも生じ、見直す自治体も目立つ。最新の動きを報告する。

    地元の子がよそへ…校長「もう1クラスできたのに」

     

      ランドセルを背負った子どもが校門の前を通り過ぎる。東京都葛飾区立東金町(ひがしかなまち)小で毎朝門前に立つ渡辺正弘校長(59)は、学校選択制で他校に進んだ児童を見つめながらつぶやいた。

      「地元の子がよそへ行ってしまうのは寂しい。あの子たちがいれば、もう1クラスでき、活気も違ってくるはず」

      葛飾区では、小学生は2004年度から地元の学区のほかに、隣接する学区の小学校を入学時に選べるようになった。中学生は03年度から区内全域の中学校を選択している。

      同小は団地造成に伴って1978年に開校。当初約900人だった児童数は住民の高齢化と少子化で、選択制導入前年度には約240人に。少人数指導に力を入れ、全国学力テストの算数は区の平均を上回り、校庭も芝生化した。だが、その後も減少は止まらず、11年度からは全学年1クラスずつになった。

      選択できる学校が周辺に7校あり、同小から最大1・5キロしか離れていない。「通学距離ではどの小学校を選んでも大差はない。人数が少ない学校は保護者らから避けられ、減少が加速していく」と渡辺校長。

     

    「いじめの逃げ場ない」…保護者の不安

     

      区教委の昨年11月の調査で同小学区に住む今春入学の新1年生48人のうち、同小の希望者は13人。学区外からの希望者を合わせても22人。全校児童数は初めて200人を切りそうだ。

      区教委が11年春に小中学校に入学した児童生徒6233人とその保護者にアンケートで選択の理由を聞いたところ、「地元の学区の学校」と答えた小中学生が6割前後いた一方で、「友人が多い」が中学生では最多、小学生でも4割を超えた。「教育活動の内容が良い」は小中学生とも1割前後にとどまった。

      区内の別の小学校に児童を通学させる母親(41)は「全学年が1クラスずつしかない学校は先生の目が行き届く反面、クラス替えがないので、いじめでもあったら逃げ場がなくて不安」と明かす。逆に、児童数の増加で校庭にプレハブ校舎を増築した700人規模の小学校もある。

    廃止決めた区も…町会長「地域の関係ひずんだ」

     

      児童数の偏りが拡大していくことに危機感を抱いた区小学校長会は2年前、選択制見直しの必要性を区教委に伝えた。東日本大震災後、「遠距離の通学は安全上、避けた方が望ましい」という声も強まった。区教委は昨年6月に見直しを決め、16年度入学者から住んでいる学区の学校を原則とするよう改める。特色ある教育活動などで学区外の学校を希望する場合は受け入れに余裕があれば認める。

      東京23区で学校選択制を導入した19区では、ほかに、杉並区が16年度からの小中学校の選択制廃止を決めた。板橋区は今年度の入学生から、居住学区の学校への就学を原則とするよう見直した。

      板橋区で昨春閉校された大山小は、導入前年度の03年度に282人だった児童数が、13年度には23人に減少。大山西町町会の後藤昭雄会長(73)は「選択制がなければ、学校がなくなるほど児童数は減らなかった。遠方の学校に行った子は町会の行事に参加しない。地域の関係がひずんでしまった」と嘆いた。

    97年に文科省が通知…大阪市で積極的に導入

     

      文部科学省が1997年の通知で「通学区域の弾力化」を打ち出し、三重県紀宝町が98年、東京都品川区が2000年にそれぞれ学校選択制を導入。文科省の調査では12年時点で、小学校は246自治体(2校以上ある自治体の15.9%)、中学校は204自治体(同16.3%)が取り入れていた。

      選択制には、〈1〉自治体内のどの学校でも選べる「自由選択制」〈2〉地域で分けたブロック内から選べる「ブロック選択制」〈3〉隣接した学区からも選べる「隣接区域選択制」――などのほか、特定の学校を選べる「特認校制」もある。

      最近では、大阪市が市内全24区のうち、14年度に12区、15年度に11区で取り入れるなど導入に積極的だ。一方、地域と学校の関係の希薄化や、通学時の安全、児童生徒数の偏りなどを理由に、都内3区のほか、多摩市、前橋市、長崎市などで制度を見直し、原則、学区の学校に就学するよう改めた。


学テ向上、2か年計画…和歌山県教委

2015-02-11 09:26:27 | キャリア・教育
学テ向上、2か年計画…和歌山県教委 

17年度平均以上目指す

 

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  •   2014年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)で、和歌山県内の小中学生の平均正答率が全科目で全国平均を下回ったことを受け、県教委は9日、来年度以降の2年間で取り組むべき学力向上対策を発表した。

      各学校で数値目標を掲げるほか、研修などを通じて各教員のレベルアップを図り、補充学習などで子どもたちの学力向上を後押しする。17年度の学力テストでは全科目で平均正答率が全国平均を上回ることを目指す。

      14年度の学力テストで、県内の平均正答率は、都道府県別順位が前年度と比べて後退するか横ばいで、小学生の国語で基礎知識を問う「A」は全国最下位だった。

      県教委は、授業の内容や家庭学習の実態などを調査。その結果、▽教職員らの間で学力向上の目標共有が十分でなかった▽児童・生徒への徹底した学力指導が行き渡っていなかった▽家庭学習が十分に行われていなかった――などが課題として浮かび上がった。

      今回発表された対策では、数値目標や具体策を盛り込んだ「学力向上推進プラン」の作成を各学校や市町村教委に義務づけた。さらに、組織的に質の高い授業が行われるよう、校長が授業の進め方を管理したり、各教員が相互に授業参観して欠点を指摘したりすることなどを求めた。

      また、30歳代を中心とした教員計60人を選抜し、授業改善を先導する「学力向上コアティーチャー」として育成。これまでの学力テストで好成績を収めた県の学校に派遣し、高いレベルの授業内容や学校生活などを学ばせ、研修などを通じて全教員の授業力の引き上げを図る。

      2年間に実施される学力テストや県独自のテストの結果を生かし、子どもたち一人一人の弱点を把握。子どもたちに詳しく解説した上で、学校での補充学習の徹底や家庭学習を促す。

      県教委は「子どもたちに、これからの時代を生き抜けるような高い学力をつけさせたい」としている。

    県独自テスト、応用力に課題

     

      県教委は9日、県内の小学4~6年生と中学1、2年生の国語と算数(中学は数学)について学習到達度を調べるため、昨年12月に実施した県独自テストの結果を発表した。テストには計376校の小中学生約4万人が参加。平均正答率は63・4%で、前年より1・3ポイント下がった。

      県教委によると、各科目の平均正答率は、小学生が▽国語55・4~58・7%▽算数64・2~71・9%、中学生は▽国語64・2~65・6%▽数学59・2~67・3%――だった。いずれの科目でも応用力に課題があったという。一方、記述問題の平均正答率は50・2%で、前年より7ポイント上昇した。(矢沢慎一)