アンクロボーグの世界

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ショートショート 『働き物』

2009年02月04日 17時29分55秒 | ショートショート
《 自動創作プログラムが作製したショートショート作品です 》

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『働き物』


私、耐重野 続樹( たえの つづき )は、一日の仕事を終え6人の私が住む共同住居に帰宅した。
「お帰り…」と耐重野のオリジナル体原態(げんたい)が声をかけてくれる。
この声を聞くと不思議な気持ちになる。「なぜ?」とつぶやく…
オリジナルの人間の耐重野は、電算機に向って何やら管理ソフトと情報のやり取りをしていた。
どうせ、私たち複製奴隷の稼ぎと国に収める税金の数値合わせでもしていたのだろう。
軽くシャワーで体を洗い、細胞安定剤入りの栄養ジェルの食事を済ませ、整理棚みたいな粗末な多段ベッドに体を滑りこませ眠りにつく。他の棚には、すでに4体の私が帰宅していた。私が最後だったようだ。
いつものように私たちは、腕を伸ばし、指を絡ませてお互いに手をつなぎ合い、今日あった出来事を語りあった。この時だけが私たち複製体が唯一、心安らぐ瞬間。

20年前の2015年頃、この国は、以前から指摘されていた急速に進む高齢化と、少子化による労働力の減少であえいでいた。
国のあらゆる生産力は縮小し、国際競争力は、最悪となる。
何とか、財政健全化をめざし、国は、各省庁のすべてのスリム化をと、出来もしない事を試みる。
同時に、就労人材の見直しを検討、社会保障制度の改革(改悪)を行い、実質GDPの成長率を上向かせようともがいてみせた。
だが、かたくなに外国人労働者の全面解放を拒んだ結果、経済成長は低下し続け、税収は、ますます落ちこみ、社会保障費の支出は、膨らむ一方。たよりの一部優良企業は、すべてを国外生産にシフトさせ、名ばかりの邦人企業と化した。
すでに消費税率アップは限界、国債の発行は、止められるはずもなく、国の財政破綻は、目の前までせまっていた。

そんな状況下で私たちの出番がやってきた。
実用化段階に来ていた意識の転写技術に目をつけた政府は、すばやい行動をとる。
個人情報の保護と使用方法に関しての法律は施行された。
スキャンされ取り出された個人独自の精神や意識の情報のこと。それらは、厳重に社会から保護され、他人が無断で使用することを防いだ。
ただし、自分が自分の情報をどう利用するかは、自由化が徹底的に緩和されていた。つまり、自分を複製し労働力として働かせる権利は、認められたのだ。

優秀な人材の意識複製が合法化され、この国の救世主となった。アルファー、ベーター、ガンマー、デルタ、イプシロンの転写レベルの設定がなされランク分けで生産される自己認識モードの複製意識。
俗に言われるハックスリー体系の事だ。
オリジナルの人間原態(げんたい)の元へは、複数の労働所得が集り、生活は、潤った。十分な資産の中から国家へ支払われる高額な税は、国を安定させた。

そして現在…
すべては原態(げんたい)の所得増加の為に働き続ける私たち。

コピーされる私たちの意識は、生まれ出た際に、思考の制限処置がほどこされている。原態(げんたい)の存在に対し疑問を持つことは、許されるがそれに対して不満を持ち行動を起こす事は決して許されないし、ありえなかった。
私のようにオリジナルと同等の知能レベルを持つ、アルファープラスの上級バージョン意識でも…だ。
人材派遣公社の徹底的な管理の元、私たち働き物は、今日もせっせと原態(げんたい)のために、国の財政支援のために、働き続け、サラリーを稼ぐ。
人材派遣公社が提供する標準複製(クローン)素体の私たち。つまり、肉体は普通の人間と同じ。あったかい血液が流れ呼吸をし、食物を食べ、排泄もする。

1日が終わり今日も寝床へ就く私…すると…私が死んでいた…

ガンマーマイナスバージョン体の過酷な肉体酷使の仕事をしていた私が1体、帰って来ていなかった。
巨大質量コンテナの下敷きになり虫けらのように死んだ。
私たちは、いつものように指と指を絡めながら声を出さずに心で泣いた。そしてどこかにいる(…と洗脳時に教えられている)神様にすがった。
これで3人目の私が死んだことになる。2、3日もすれば人材派遣公社が新しい私をすぐに用意してくれる事だろう…

それでも労働クローン体で生きる私たちは、まだ良い方かもしれない…人間の形で生きているのだから…
意識のみで存在している私達もいる。
無限生産システムに組みこまれた産業ロボットの中の私。
遠い異国の砂漠の戦場で戦う戦闘機械の私、暗黒の宇宙空間で黙々と作業をしている私、悪魔さえも逃げ出す極濃度の原子力発電施設内で働く作業機械の私…
意識移植されている機械の私は、現在の個人情報保護法の許容範囲数いっぱいの166体が存在している。

今日も仕事を終え帰宅した私…
「お帰り…」とオリジナル体の耐重野 ( たえの )がいつもの声をかけてくれる。
この声を聞いた瞬間、いつもと違い何かが私の心を乱暴にひっかいた。「なぜだ!」とつぶやく…
オリジナルの人間の耐重野は、今日も電算機に向って管理ソフトと情報のやり取りをしていた。
この時、オリジナルと同等の知能を与えられているアルファープラスの私の心にはっきりとした原態(げんたい)への憎悪と殺意が芽生えた…

寝床に入った私は、共にベッドに眠る性能の劣ったベーター、ガンマー、デルタ、の私と語り合い、明日に計画した解放の相談を始めた…デルタ、の2人は、計画のすべては、把握できていない様子だったが…かまう事は無い、明日は、特別の日…
そう!!私たち耐重野 続樹( たえの つづき )達すべての記念日。オリジナル体の生まれた誕生日。

朝が来て5月17日が始まった…「おはよう」と元気にあいさつをして、5人の複数の私達は、いつものようにそれぞれの職場へ向かう…何事もなかったように…

働き物達には、秘密のプログラムコードが滑りこませてあった。絶対的なプログラムコード。
一年に一度発動する、労働で発生するストレスによる精神の歪みをクリアし、新鮮なピュアな状態に戻すプログラム。
それは誕生日に発動する魔法の呪文…
今日も奴隷たちは、ひたいに汗し元気に働いていた。

ご主人の為に…国家の為に…

《 お わ り 》