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ムービー・クリティサイズ

映画ブログ。映画を愛でよ!監督を愛でよ!
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借りぐらしのアリエッティ

2011-07-25 07:18:19 | DRAMA
本作で長編監督デビューとなる米林宏昌。

声の出演:志田未来、神木隆之介

ストーリー:主人公の小人族のアリエッティは14歳になり、自らの生活の糧を稼ぐ方法である「借り」を父親から教わるようになる。小人族は人間に姿を見せてはならないという掟があるが、アリエッティは病を抱える少年、翔に姿を見られてしまう。

思ったよりはいいと思ったけれども、突き抜けた面白さは全く感じない。一度観れば二度と観ない類の映画であるかもしれません。
「異種間コミュニケーション」が本作のテーマですね。

【滅びゆく生命】
 本作に描かれた主人公二人の性質には共通点があります。それがこの物語の重要な前提になっています。それはアリエッティと翔は共に滅びゆく(可能性が高い)存在であるということ。
アリエッティは小人族。小人族はどうやら昔と比べて衰退してしまっている。昔近くに住んでいた種族は人間に見つかり、姿を消してしまった。翔の祖母も「昔はよく小人を見たけど、最近はすっかり見なくなってしまった」と言う。アリエッティの家族も僅か3人。他の小人族との交流もない。小人族は最早滅びる運命にある種族なのです。
そして、翔の方は病を抱えています。どのような病か忘れてしまいましたが(心臓だっけ?)、とにかく結構重い病気で手術しないと死にそうだ。という情報が映画からは読み取れます。

 大事なのは翔がアリエッティに語りかけるシーンで、かなり劇中で浮いているシーンでもありますのでギョッとして覚えている方も多いかと思いますが、翔はアリエッティに「君らはどうせ滅びゆく種族なんだよ」と言います。この台詞は翔の死生観を端的に示しており、この言葉はむしろアリエッティというより翔が自分に向けて語っていると考えられます。それに対しアリエッティは猛然と反論します。この反応に翔はハッとします。明らかに滅びゆく種族であるアリエッティは、こんなにも生きる力に溢れている。それなのに自分は何だ、と。

【異種間のコミュニケーションと、それがもたらすもの】
 異種間のコミュニケーションはアリエッティと翔のやり取りだけに止まりません。この映画に描かれた猫にも、その関係性は描かれています。猫は物語序盤にはアリエッティと翔に対し敵対的な行動を見せます。そしてそれは物語が進むにつれて、心を許すようになっていきます。最後に猫はどういった役割を担うのか?それはアリエッティと翔を「繋ぐ」役割を果たします。これがこの映画の根本的なテーマを集約した行動です。
 異種間のコミュニーケーション、それは何をもたらすか?それは「明日を生きる力」です。前章で書いたようにメインキャラクターは滅びゆく存在ですが、アリエッティと関わることで翔は自らの死生観が打ち壊され、生きる力を取り戻していきます。一方アリエッティが翔と関わることで得た「生きる力」とは未来の亭主でした。アリエッティは一族の掟を守り、人間と関わることがなければ、家族3人静かに滅びていくのをただ待つばかりでした。しかし、翔と関わることによって発生した「引っ越し」の過程で他の小人族の男性と知り合うことになる。この出会いはアリエッティが子どもを授かる機会が生まれ、「小人族の滅亡」に対する小さな希望として描かれます。

 主人公二人は本来決して関わることのない種族間のコミュニケーションによって「生きる力」を獲得していくのです。

【冒険活劇としての物足りなさ】
 テーマ的なところはともかくとして『~アリエッティ』にはカタルシスが決定的に欠けるように思えます。それは勿論「冒険活劇ではないから」と言われてしまえばそれまでですが、これぐらいの内容であればテーマをもっと裏側に潜ませて、エンタメ要素を全面に打ち出してもいいようなものです(こんなにいい冒険が出来そうな設定があるのに)。
 しかし映画を思い返すと、冒険活劇はしなかったのではなく、出来なかったのではないかという気がします。それは劇中内の描写に表れていると思うのですが、例えば、アリエッティが棚の上から居間の風景を見渡す一幕があるますが、このシーンに全くダイナミックさに欠ける。ただ我々が自分の家の中を見渡すのと同じような印象しか受けない。ここは絶対に失敗。もっと大胆な演出を付ける必要があったと思う。風がビュウビウ強く吹いてるとか、日差しが強く照りつけているとか。ここはアリエッティが初めて経験する広い世界なのだから、普通の人が初めて見るナイアガラの滝ぐらい強烈なインパクトが絶対に必要。それが出来ないのはやはり絵的な面白さを追求出来ないところの弱さがあったと思う。他にも意味ありげに拾う針とか、怪物的恐さを漂わせたネズミとか出しておきながら全く役に立ててない。こういうの無駄だと思います。こういうのをやるなら最低限『ミクロキッズ』ぐらいは楽しませて欲しかったです。

【最後に】
 薄々感づいてはいましたが、『~アリエッティ』で確信しました。
 ジブリはそう遠くない未来に日本を代表するアニメーション会社ではなくなるでしょう。なぜなら、我々が熱狂したジブリはイコール宮崎駿であり、彼の表現の根幹部分は伝承されることはなかったと見えたからです。ジブリは今後『~アリエッティ』の様な、そこそこの内容の映画を作ることは出来るでしょうが、宮崎駿が生み出したような圧倒的な世界観を駆け巡る体験や、抑えつけられていた力が暴発する瞬間のアニメーションカタルシスを見せることはきっとないでしょう。残念です。


オススメ度:

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ソーシャル・ネットワーク

2011-01-28 09:05:46 | DRAMA
『ファイト・クラブ』、『ベンジャミン・バトン 数奇な運命』のデヴィッド・フィンチャー監督作品。

キャスト:ジェシー・アイゼンバーグ、アンドリュー・ガーフィールド、ジャスティン・ティンバーレイク

ストーリー:2003年。ハーバード大の二年生マーク(J・アイゼンバーグ)は恋人のエリカと口論に陥っていた。その場で関係を終わりにした二人だったが、激しく憤ったマークはブログに彼女の悪口を書き、ふと「学内の女性の顔ランキングを付けるwebサイト」というアイディアを思いつく。<フェイスマッシュ>と名付けられたそのサイトは大きな反響を呼び、後に<フェイスブック>となり世界中を席巻するが―。

2011年度ゴールデン・グローブ作品賞、監督賞、脚本賞、音楽賞、受賞。同年のアカデミー賞も本命の本作。
わざわざ私が良いとか悪いとかいう前に歴史に名を刻む作品であることは間違いありません。先日、劇場で観てきましたが勿論素晴らしい出来栄えだと思いました。
観賞層(普段映画を見に行かない、ネット関係者が多いように見受けます)のためか、事実と違う!とか主人公のやり方が気にいらん!という感想もチラホラ耳にしますが、映画は創作物ですので、注視するポイントを誤っています。ってかそんな感想で、この映画の評判落とすの止めて下さい。

【天才の能力と孤独】
 監督のD・フィンチャーは「どうして、俺は今ここにいるのか?その意味は?」というこことを映画にしていると公言しています。彼のフィルモグラフィーを見る限り『パニックルーム』以外は全て、人の生きる意味を考えさせる物語を展開しています。本作は巨額の富を手に入れた天才が本当に欲しかったものは何なのか?という話です。実にクラシックなテーマで、同じようなテーマとしては『市民ケーン』や『アビエイター』がすぐに頭に浮かびます。
 主人公のマーク(J・アイゼンバーグ)は天才。ハイスクールのテストでは満点を取ることが出来、ハーバードの講義で皆が俯いてしまう難問もスンナリ解いてしまう。しかし、彼は子どものような性格で、人の心を汲み取ってあげるような言い方や行動が出来ず、またそれを開き直る強さも持ち合わせていない。マークは冒頭の恋人との会話で「君は二流大学に通っているから勉強する必要はない」などと口走ってしまう(マークの発言は嫌味ではなく事実を言っているだけ)。

恋人は当然怒り狂い「あなたが人から好かれないのはオタクだからじゃない。性格が最低だから(you are ass hole!!)なのよ!」と言って去ってしまう。取り残されたマークがカメラに映る。明らかに傷ついている。
 マークはこの体験からフェイスブック開発の糸口を見つけ、友人とエドアルド(A・ガーフィルド)と共にフェイスブックでムーブメントを起こしていこうとするが、ムーブが大きくなればなるほど二人の間に亀裂が入っていく。そして、ついに<フェイスブック>のユーザーが100万人を超えた瞬間、二人の友情は終わる(マークがエドアルドと開けるつもりだった二本のシャンパンが泣ける。自分の分の他には一本しか用意してないシャンパンがマークにとってエドアルドが特別な人物であることを印象付ける)。
 物語はマークがエドアルド(とウィンクルボス兄弟)に訴えられる時系列から回想方式で語られる。この物語はマークがいかにして友人を失っていったかという苦い青春劇なのです。


【既存の権威への挑戦】
 この映画ではハーバードのファイナルクラブが権威の象徴として描かれています。ファイナルクラブとは平たくいって社交クラブのことで、入会が特に難しいものから最も簡単なものまで8つのクラブがあります。入会には数度に渡りテストがあり、ファイナルクラブで構築出来るコネ、社会ステータスから得られる恩恵は計り知れないほどです。
 冒頭の恋人との会話でマークは何か特別な存在になりたいことを示します。その中の一つとしてファイナルクラブへの入会を考えていました。しかし、ファイナルクラブ入会の第一関門「招待状が送られる」ことは彼にはありませんでした(彼が超天才プログラマーであるにも関わらず)。彼は確かな能力を持ちながらも、旧来の権力機構からは認められない存在なのです。この能力がありながらもコミュニティーに属することの出来ない不満、怒りが彼のエネルギーの原動力として描かれています。
 そして皮肉にも、最も入会が難しいクラブ<フェニックス>から「招待状」が送られたのは友人のエドアルド。エドアルドはマークにとって唯一の友人でありながら、憎むべき権力の下へと進みつつある立ち位置の危ういキャラクターなのです。さらに明白にファイナルクラブの権威性を引き受けたキャラクターはウィンクルボス兄弟。親は資産家、イケメン、彼女持ち、ボートの国体選手、ファイナルクラブメンバー。ウィンクルボス兄弟はフェイスブックの原案になる<ハーバード・ネット>のアイディアをマークに持ちかけるも結局、お互いが組み合うことはなく、兄弟は<フェイスブック>が<ハーバード・ネット>のアイディアを盗用したものとしてマークを訴えます(劇中ではマークが彼らのアイディアを盗んだかどうかは曖昧にしています)。当然、マークとウィンクルボス兄弟の対立も権力との対立として描かれます。


【ショーン・パーカ=タイラー・ダーデン】
 物語中で明らかに異彩を放つキャラクターがいます。中盤から登場する人物、ナップスターの創始者ショーン(J・ティンバーレイク)です。彼は物語で唯一マークに憧れを抱かせることに成功します。彼がいずれの権力に与せず自由に振舞っていること、またゼロから築き上げたナップスターというwebサービスが世界に影響を与えたことが魅力に繋がっていることは言わずもがなです。
 ショーンは言わば、マークの願望そのものといえます。実はこういったキャラクターはD・フィンチャー監督の過去作『ファイト・クラブ』にも姿を現わしています。タイラー・ダーデンです。
『ファイト・クラブ』がどういう話だったのか少し記載します。消費社会の中で生きる意味を見失ってしまった主人公が、タイラーという超反社会的な人物に心を奪われる。ところが蓋を開けてみるとタイラーは主人公自身であり幻だった。最後に主人公は幻と決別して新しい価値観に気付く。という話でした。
 この構図は丸ごとこの『ソーシャル・ネットワーク』に当てはめることが可能です。
 マークは前述したようにショーンに心酔していますが、ショーンは終盤にとある出来事からマークの下から去ってしまいます。これはただ単に去ったというよりかは決別として描かれています。根拠としては二つ。直前にエドアルドへの接し方について二人で口論している点。二つ目はショーンが去った後、マークは自分の名刺の裏に書かれた「俺が社長だ!文句あるか!」という文字を見てやり切れない表情を浮かべる点です(この文言はショーンの提案で入れたもの。既存の権力に対して「俺はやってやった」という一つの着地点の象徴)。
 ショーンがマークの下を去った後、マークも『ファイト・クラブ』の主人公と同様に新たな価値観に気付きます。それは次の項に書きます。


【ヴィクトリアズ・シークレットの話とラストシーン】
 ラストシーンに関しては劇中でハッキリと前振りされています。フェイスブックの成功がかなり確かになり、クラブでマークとショーンが会話する一幕がそれに当たります。

ショーンはヴィクトリアズ・シークレット社、創業の話をします。
内容はロイ・レイモンドという男が妻に下着を買おうとしたことをキッカケにビジネスを起こし、4百万ドルで会社を売却したものの、2年後に会社の収益が5億ドルに至っているのを知り、自殺してしまうという話。ショーンは最後に「彼は妻に下着を買おうとしただけなのに」と話を結びます。
 この話が使われたのは、マークのラストの行動の説明になっているためです。マークは<ファイスブック>で世界を席巻したけど、本当は何がしたかったのか?
 全ての友達をなくし、弁護士に過去を洗いざらい話したマークは新米の弁護士に「あなたは悪い人じゃない(you are not ass hole)」と声を掛けられます。ハッとするマーク。彼は一人<フェイスブック>を開く―そこに映るのは冒頭の恋人エリカ。彼は少し迷いながらも、「友達申請」を送る。そして、返事が来ないか何度も何度も何度も「更新」ボタンを押してチェックする。
 彼が物語で最後に気付いたのは、本当に欲しかったのは、友達だと分かる。

ラストシーンでかかる曲はビートルズの『Baby you’re rich man』
大事なので歌詞の意味を記載します(ちょっと意訳してます)

 どんなんだと思う?金持ちの仲間入りした気分って
 気付いたでしょう?自分が何者か
 それで、どうなりたい?
 遠くまで旅してきた?その目が届く限り
 どんなんだと思う?金持ちの仲間入りした気分って
 そこにはよく行くのかい?色んなことが分かるぐらい
 そこで何を見てきた?見えないものは何もなかった?
 ベイビー 君は金持ち ベイビー 君は金持ち
 ベイビー 君はついに金持ち


【最後に】
 こうした「何もかもを手にいれたかに見える人物が本当に欲しかったもの」というテーマは既に多くの作品で語られています。しかし、この『ソーシャル・ネットワーク』がそれまでの作品と決定的に異なる点があります。重さです。
 過去作においてこのテーマを取り扱ったものは総じて、長尺であったり、もしくは作品そのものの纏う雰囲気が重くなりがちでした。『ソーシャル・ネットワーク』は上映時間120分。このテの作品にしては短い。更に軽快なテンポとトレント・レズナーが作曲した電子的ナンバーに彩られて全く重みを感じさせることがありません。それでいて、映像に詰め込まれた情報量はとても多いので薄いという印象も与えません。これがこの作品の凄まじいところです。この効果を成した脚本家のアーロン・ソーキンは今年のアカデミーに輝くでしょう。
 アカデミーでは『英国王のスピーチ』と作品賞を競っていますが、どちらの作品も後世に語り継がれる名作であることは間違いないと思います。


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レイチェルの結婚

2010-11-17 22:46:02 | DRAMA
『羊たちの沈黙』のジョナサン・デミ監督作品。

キャスト:アン・ハサウェイ、ローズマリー・デウィット

ストーリー:主人公キム(A・ハサウェイ)は姉であるレイチェル(R・デウィット)の結婚式のため薬物療法の施設から家に戻る。しかし、家族の厄介者となってしまっているキムは周囲の人間と衝突を繰り返す。

【観客の快感を無視した脚本】
結婚式を通じて、家族の実態を浮き彫りにする作品。
ある出来事を通して家族像を浮き上がらせる作品は最近では『ジュノ/JUNO』がありました。『ジュノ』は妊娠という出来事から家族の愛情を認識する映画でしたが、本作『レイチェルの結婚』は逆です。結婚式という出来事で、家族の亀裂が明らかになるのです。
脚本を手掛けたジェニー・ルメットは有名な映画監督シドニー・ルメット(代表作『十人の怒れる男』など)の娘。S・ルメットはジェニーが書いた脚本をJ・デミ監督へ紹介しました。
そこに書かれていた脚本には、観客が期待するような心温まるホームドラマを無視するような展開、登場人物に容易に感情移入させない描写が記されていました。

【最高に美しいホームビデオを目指して】
J・デミ監督はインタビューで「最高に美しいホームビデオを撮りたかった」と語っています。そのため本作では以下の3点の施策が取られています。
・役者はJ・デミ監督の直接の知り合いが多数出演しており、身内の雰囲気を作り出した
・役者は台詞が決められていない即興の演技を求められた
・特定のカット割を決めなかったため、カメラマンのデクラン・クラインが現場を自由に撮影した。当然、役者はいつ自分がカメラに映るのか分からない
この3点による効果が、まるで本当に結婚式の風景を撮影したかのように見え、この話にリアリティという重みを加えることに成功しています。


【トラウマの片鱗】
中盤、身も凍る1シーンがあります。
花婿と花嫁(レイチェル)の父親が食器洗い機に同じ時間でどれだけ食器を詰めれるか競争します。キムは場を盛り上げようと棚から山ほどの食器を持ちだします。
父親が皿の一山を持ち上げると、、、他の皿とは明らかに趣きの異なる子ども用の皿が一枚。父親の手は止まり、足早に部屋を後にしてしまいます。子どもの皿が棚の奥に眠っていたのは、それが捨てられない大事なものだから。
奥底にしまっていたのは見るには辛いものだから。ということが容易に想像出来ます。
つまり、この皿の持ち主こそがこの物語のタブーであることが分かります。
この偶発の出来事による「見てはいけない物を見てしまった感」が心をヒヤリとさせます。

【主人公キムの純真さと絶望】
A・ハサウェイはキム役を演じるにあたって「観客がキムのことを好きにならなくてもいいように演技した」と言っています。キムは家族内で自分の居場所を見つけるのに必死なため、自己中心的な振る舞いを繰り返しがちになってしまっています。
しかし、映画を見ていて一つ気付くことがあります。キムはこの映画に出てくる人物の中は最も繊細な心の持ち主だということです。彼女はその繊細さが故に、己を許すことが出来ずにいるのです。
終盤、キムは最後の頼みの綱であった母親からも拒絶され、絶望から自殺行為に走ります。結果的に死なずに済むのですが、状況は劇的に変わることはありません。それでも、僅かな希望を感じることが出来るのは、キムが他の人と接する時にほんの少しだけの柔らかさを持たせることが出来るようになったこと、施設に戻るキムをレイチェルが見つめていること。最後に僅かな変化を描くことで、決して絶望に満ちていないことが分かります。
A・ハサウェイは本作でアカデミー賞主演女優賞ノミネートを始めとする、いくつもの賞を賑わせました。彼女の過去出演作では『プラダを着た悪魔』など「お嬢」の役が多かったので、今回の「ヤク中」というエキセントリックな役で演技の幅を認められたと言えるでしょう。


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私の中のあなた

2010-08-09 02:54:34 | DRAMA
原題『MY SISTER'S KEEPER』
『きみに読む物語』のニック・カサヴェテス監督作品。

キャスト:アビゲイル・ブレスリン、キャメロン・ディアス、アレック・ボールドウィン

ストーリー:アナ・フェッツジェラルド(A・ブレスリン)は白血病の姉ケイトのドナーとして、遺伝子操作で生まれてきた。アナはケイトのために臍帯血、輸血、骨髄移植などでケイトの犠牲となってきた。アナが13歳の時、腎移植を拒み、両親を相手に訴訟を起こす(出典:wikipedhia)


面白い題材だと思いチェック。しかし、ぬるいラーメンが出てきた印象は否めないです。
この映画の題材を思うに、「二人の間で一つしかない選べない命を、どういう結末にもっていくか」がキモなんじゃないんですか?

アナの臓器提供がなくては、生きられないケイト、
しかし、臓器提供を続けることが苦痛であり、恐らくその末に辿り着くのは自身の死に繋がるアナ。
アナの生命が元々、ケイトの人生を補佐するために生み出されたものでありながら、「アナの人権」を深堀するからこそ、この題材が生きるんじゃないでしょうか。

それなのに、まさか実はケイトが「死にたい」と思っていて、既に口にしているという結末だったとは。
こりゃ。あんまりです。
結果として、ラストまで一体なんのためにそれぞれのキャラクターが主張し合っていたのかが、分からなくなってしまいました。

特に母親役のC・ディアスなんてケイトの言葉に耳を貸さず、自分のエゴを通すことだけにムキになったヒス女じゃないですか。
白けましたよ。

もし、どうしてもこの結末にするのであれば、主人公をケイトに据え、いかに「自分の命」を断とうと思ったという点に焦点をあてて、ストーリーの展開と演出を広げた方がよかったです。
その場合は「臓器提供者として生まれた妹」の設定は不要になり、「嫌々ながら延命措置を受けるケイトの苦痛」を描けばよかったハズです。
本作にあるような突飛な設定は不要ですよ。

人物の感情の揺れ動きを後回しにして、設定に頼ったひ弱な映画。
観なくて結構です。


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空気人形

2010-07-02 16:19:09 | DRAMA
『誰も知らない』の是枝裕和監督作品。

キャスト:ペ・ドゥナ、ARATA

平たく言ってダッチワイフが心を持つという話。
明確なテーマ、愛くるしいキャラクター、エッジの利いたストーリー、激ハイレベルです。

劇中では「あなたの代わり」という台詞が繰り返し、語られます。
人は誰かに必要とされないと生きていけない。
「花にも雌しべと雄しべがあるように、生命は単独では存在出来ない」との語りにも、それは主張されます。

主人公の空気人形は、元々ダッチワイフという生身の女性に代わり、性処理をする道具でしかありません。云わば100%代えが利く存在です。
そんな彼女ですが、代えが利かない存在、他の人に必要とされることを望むようになります。


空気を吹き込まれる限り、永遠の命である空気人形ですが、レンタルビデオ屋の店員純一との交流で、生と死の概念を理解します。
そして、空気が抜けるというハプニングを通して、自分にも「死」は起こりうる。自分は生きていることを実感します。
生を実感した彼女は、空気ポンプを捨て、生と死の循環に身を置くことを選択します。

空気人形にとっては性行為はただの摩擦行為でしかありません。
彼女にとって性行為に相当するものは「空気を吹き込まれること」
命を与えるという共通の目的が、この二つをイコールの意味に押し上げます。

主人公の空気人形が、最初に人魚の衣装を纏う場面や、子どもが『リトル・マーメイド』の話をする場面、空気人形が自分があぶくになる夢を見る場面から、この映画が『人魚姫』を模した寓話であることが読み取れます。

ペ・ドゥナって脱ぐタイプの女優さんじゃないので、今回の濡場にはドキドキしてしまいました。
まるで良く知っている近所のお姉さんの裸を見てしまったような気恥かしい感じ。いや、綺麗です。ホント。


「いきるって何?」「なんで心なんてあるの?」無垢な疑問と、少しの残酷さ、この世の美しさが2時間に凝縮されています。
正直、この映画の素晴らしさを言葉で説明するのは容易じゃない。

日本アカデミー、優秀賞にすら入ってないの?
なんで???


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おくりびと

2009-11-29 04:08:05 | DRAMA
『秘密』の滝田洋二郎監督作品。

キャスト:本木雅弘、広末涼子、山崎努

ストーリー:所属するオーケストラの解散を機にチェリストとしての限界を悟る主人公小林。別の職に就くべく故郷へ帰るが、彼がそこで出会った仕事は「納棺士」という仕事だった。

2008年度アカデミー賞外国語映画賞受賞。
観賞中かなりの割合、涙と鼻水でズビズビでした。

「死」に対して、優しいタッチで取り組んだ作品と感じました。
作中では「死」は忌むべきものとして考えられていることが表現されます。
例えば、「納棺」という死に関わる仕事へ「汚らわしい」と罵倒するシーンや、食用のタコが死んでないと思うと海へ放しに行くシーン(食べるためにはタコを殺さなくてはならない)が挙げられます。

しかし、「死」は周囲にごく自然に存在します。
それに対して敬意と愛情を注ぐことがなんと素晴らしいことか、「納棺士」の秀麗な所作を始めとするシーンから語られます。また食事のシーンで「生き物は命を食べて生きるんだ。どうせ食うなら美味い方がいいだろ」というセリフからも読み取れます。


出演者全員が好演してますが、キラリと光って見えたのは余貴美子。彼女が演じた、納棺事務所の事務員が自分の過去を吐露するシーンは涙なくして観れません。

安心して人に勧められる映画。
家族と一緒に観るといいのではないでしょうか。


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グラン・トリノ

2009-11-04 00:36:51 | DRAMA
最早、解説不要の一流監督クリント・イーストウッド作品。

キャスト:クリント・イーストウッド、ビー・ヴァン、アーニー・ハー

ストーリー:偏屈な老人ウォルトは周囲の人々との接触を拒絶する。例えば、彼は家族と辛辣なやり取りを繰り返し、家の庭に侵入する者へライフルを突きつける。ある時ウォルトの隣へモン族のタオが越してくるが、タオはウォルトの愛車「グラン・トリノ」を盗もうとする。その後ウォルトはタオの根の良さに気づき、次第に彼と打ち解けていくようになるが-。

何でもイーストウッドが俳優として引退を決め込んだという本作。
出来を結論から言うと「やっぱし傑作」というところ。
ハズレはないもんね。イーストウッドさん。

さてさて内容の話ですが、物語はかなり繰り返し「コミュニケーションの重要性」を語ります。具体的にはタオの姉であるスーがウォルトの警戒心を解いていくくだりや、ウォルトがタオへ「大人の男の会話を覚えろ」と床屋へ連れて行くシーンから読み取れます。
周囲の人々とのコミュニケーションが円滑になることによって、事態は好転することが表現されます。


しかし、主人公のウォルト自身こそが物語で一番のコミュニケーション不全者なのです。その原因は朝鮮戦争で幼い子供に対して引き金を引いてしまったことが起因します。
その経験を吐露することが彼の「心の解放」を意味するのですが、彼は教会の神父の説得にも応じず、自身の経験を心の奥底へ閉じ込めます。
そんなウォルトに心のトラウマを吐かせたのは、隣家の少年タオです。
(ここのシーンは非常に印象的です。金網越しに朝鮮戦争の体験を語るウォルト。この「金網」が教会の懺悔室に代わる表現であることがよく分かります)


いいところが非常に多いですがが敢えて、減点箇所を述べると
①セリフがいちいち説明くさい(「自分の家族より、隣家の人々の方が家族に思える」というのはセリフで言わずに演技やカットで表現して欲しい)
②ビー・ヴァンの演技があまりに未熟
といったところでしょうかか。まぁ、逆に言えばそれぐらいしかないんですけどね。

これは、観ておくべき一本にカウントします。
是非。


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ポネット

2008-05-25 02:40:04 | DRAMA
ジャック・ドワイヨン監督作品。


キャスト:ヴィクトワール・ティヴィソル


ストーリー:突然の事故によって母親を失った4才の少女ポネット。彼女は未だ「死」を理解できず、ただひたすらに健気に母親の帰りを祈る。


この映画の見所はただ一つ。それは

ヴィクトワール・ティヴィソル

私が知る限り、最も素晴らしい演技をした女優です。
映画館の本作の予告編でポネット搾り出すように言った台詞「お、お…か…ぁ、、さ…んっは……し、、、しに…まっ…し、た」でもらい泣きしたのをよく覚えています。まさか45秒程度のCMで自分が泣くとは夢にも思っていなかったので。


弱冠4歳で史上最年少ベネツィア国際映画祭、主演女優賞を受賞。
まさに奇跡。まさに神童。現人神です。

映画の内容どうこうより、是非彼女の演技を見てもらいたいです。


オススメ度:

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ポーラー・エクスプレス

2007-12-24 09:59:53 | DRAMA
『フォレスト・ガンプ』のロバート・ゼメキス監督作品。


声の出演:トム・ハンクス。

ストーリー:年頃になりサンタの存在を信じなくなってきた少年の前に、突如、北極点を目指すポーラーエクスプレスが止まった。少年は半信半疑で乗り込むが…。


真っ先に挙げるべきは神秘的な映像にあると思います。この作品は「パフォーマンスキャプチャー」という新技術を使った、CGアニメーションで描かれています。理由は簡単。普通に撮影したんじゃありえんほどの美しい景色を創り出すのは不可能だから。かといってセルアニメじゃ、ただのキレイな絵で終わってしまうから。
個人的な好みなんですけど、夜の幻想的な光を放つ大自然の中を列車が走って行くのって大好きなんですよ。見たことなんか無いのにノスタルジー感じちゃう。
はっちゃけたアクションもCGのよさを思う存分に発揮していて好印象。ホントにゼメキスとアニメは相性がいいなぁと感じました(前にも『ロジャーラビット』やってるしね)

ストーリーはロバート・ゼメキスらしくドタバタドタバタ一難去ってまた一難みたいな感じ。テーマの「信じること」が分かりやすく主張されてますし、肩の力を抜いて楽に観れる爽やかな映画です。
物語がファンタジーになればなるほど必要性が増してくるのは音楽。担当はアラン・シルヴェストリ(ゼメキスとシルヴェストリの組み合わせは『バック・トゥ・ザ・フューチャ』と同じ)。もう完璧なゴールデンペアです。実際に音楽いいですよ。オリジナル曲はやけに耳に残って口ずさんでしまいますし、散りばめられた既存のクリスマス・ソングもいいチョイスしてます。だからサントラもオススメ。


いいないいなー。私も乗ってみたいよポーラーエクスプレス。あのココアも飲んでみたい。外の景色に酔いしれたい。ユニバーサルスタジオでアトラクション化してくないかなぁ。マジに。

自分の切符になんと書かれるか考えてしまいます。

クリスマスシーズンには抜群にオススメの映画です。家族でココア用意して鑑賞するといい感じ。


オススメ度:

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バベル

2007-12-18 03:05:16 | DRAMA
『21g』のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督作品。

キャスト:ブラッド・ピット、ガエル・ガルシア・ベルナル、菊池凛子。

ストーリー:モロッコで放たれた一発の銃弾。そのライフル銃を放った兄弟と、弾が命中した夫妻、夫妻のベビーシッターと、ライフルを元保持者であった日本人の父子の模様を描く。

バベルは旧約聖書に記してある寓話。内容は「人間が天にまで届く塔を建設していることを知った神は人々に別々の言葉を与えた。それによって人間は互いに意思の疎通を交わすことが出来なくなり、塔は完成せず、人間は世界中に散っていった」
この映画は「伝わらないこと」による人々の苦しみを描いた作品です。

この映画、実は形式としてオムニバスです。一つの出来事を複数の目線から語るアナザーサイドストーリーを分解して、時間軸をずらして語ることで一本の話にするっていう難しいことやってます。イニャリトゥさん、『21g』でもこれやってたんで多分これが得意技なんでしょうね。

さて、本作はテーマにとても忠実。「伝わらない」から「間違い」があり、「怒り」、「孤独」、「誤解」が起こります。全てのエピソードがこの「伝わらない」というピースで出来上がっていて、各エピソードを繋ぎます。


菊池凛子が演じた女子高生「千恵子」は耳が聞こえないという設定でした。イマドキの彼女がディスコで立ちすくむシーン。周囲の人間が楽しそうに踊る中、自分だけ音を感じることが出来ず、ただただ楽しそうなフリをする一幕はとても痛々しくて印象的でした。


とってもいい映画だと思うのですが、MSNホームページに掲載されたニュースによると『バベル』は一般ユーザーの評価では今年観てガッカリした映画トップ3の内の一本…。ん~、やっぱ「伝わらない」ね!テーマを考えたらこの評価がこの映画に最も相応しい評価なのかも。


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