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ブラック・スワン

2012-03-08 08:20:27 | MYSTERY,SUSPENSE
『レクイエム・フォー・ドリーム』のダーレン・アロノフスキー監督作。

キャスト:ナタリー・ポートマン、ヴァンサン・カッセル、ミラ・クニス

ストーリー:バレリーナのニナはニューヨークでプリマドンナの夢を追いかけている。中々主役の座につけない彼女だったが、ある日「白鳥の湖」の主役を勝ち取るチャンスを掴む。振付師から「もっと色気をつけろ!」と言われるニナ。主役の座を確固たるものにするため努力を続ける彼女だったが、次第に幻覚を見るようになっていく―。

2011年のアカデミー賞でナタリー・ポートマンが主演女優賞を獲得した注目の一本です。ダーレン・アロノフスキーという作家性の強い映画監督の作品でありながら全国のシネコンで上映され、結果的に興行は成功。
ラストの稽古場の照明がバーン!と落ちてから始まる、畳みかける展開と大音量で流れる「白鳥の湖」がむちゃくちゃ気持ちいい傑作でした。

【性の目覚めと母親】
 この物語は「性に目覚める女性」というもの。それと究極の芸術を体現する姿勢が同期している。順を追って説明していこう。
 ニナ(N・ポートマン)は母子家庭で育ち、母親に完璧にコントロールされて生きてきた。それは母親の夢であったプリマドンナをニナも追いかける姿、何かにつけて娘に報告を求める母親の姿から分かる。ニナは箱入り娘なのだ(しかもいい歳こいてフリフリの服とかピンクの服を着ているから重症)。
 ニナはバレエの才能で可能性を掴み取る。だが、それはまだ可能性。彼女がその才能と表現力を確固たるものにするには「色気」が必要。ニナがそれを意識してから変化が始まる。ニナの代役のリリー(M・クニス)は色気ムンムン。リリーがニナの性欲面を刺激するファクターとして描かれる。映画で最初にリリーが映るのは序盤。その時はニナとリリーは面識がない。それにも関わらず、ニナは電車に乗るリリーを遠くから見つめる描写がある。ニナは僅かながら性への目覚めを意識し始めているのだ。最初は遠くからリリーを見ていたニナだが「性」の存在は段々とその気配を増してくる。自宅前の廊下ですれ違うセクシーな女性。リリーと行動を共にする内に性に目覚めていくニナ。ニナはベッドで自慰行為にふけ、大人の階段をのぼるが、ベッドの脇に母親がいることに気付き自慰行為を慌てて止める。

ニナが大人の女性になるのを阻害しているのは母親なのだ。
 母親の行動を振り返ると娘に対するアンビバレントな態度が伺える。母親はニナに一流のバレリーナになることを望むも、いざそのチャンスが訪れるや否やケーキを差し入れる(バレリーナにとって高カロリーな食べ物はご法度)。ニナがケーキを食べるのを拒むと、大げさに悲しんでみせる。或いは、娘に自身がバレリーナとして活躍していた時期の話をしてみたり。母親の行動を整理すると、彼女はニナの成功を望んでいるように見えて、その実は妬んでいる。終盤に描写される、彼女が描いた絵が動き出す様子は母親の怨念を分かりやすく象徴したものと言える。
 そうした母親の阻害から逃れようとニナはもがく。そうした中で幻覚に苦しみ、自身の腹を刺すが、これは処女喪失と捉えることが出来る。彼女はここで初めて大人の女性と成る。そのため直後にブラック・スワンと変身を遂げバレリーナとして最高のパフォーマンスを披露するのだ。

これが『ブラック・スワン』の物語だ。

【ニナはどうして死ぬのか】
 多くの観客が一つ疑問に思ったことだろう。「何故ニナは最後に死ぬのだろう」。この結末は監督であるダーレン・アロノフスキーにとってはマストだった。何故ならはこの『ブラック・スワン』は監督の前作『レスラー』と元々は一つの企画であり、『レスラー』のラストも『ブラック・スワン』と同様のものであるからだ(見比べて観るとよく分かる、二作とも共通で飛び降りた後に絶命するのと、飛び降りる寸前に重要人物を一瞥するところ)。アロノフスキーがこのラストを採用したのは恐らくバレエ映画の金字塔『赤い靴』へのオマージュだからだ。『赤い靴』はバレリーナが恋とバレエを天秤にかけ、バレエを選び、バレエの悪魔に命を奪われるというものだった。恐らくアロノフスキーの初期の構想では『ブラック・スワン』のニナと『レスラー』のランディが恋仲になっているという設定だったのだろう。この二作が別企画になったことによって『ブラック・スワン』からは『赤い靴』の恋の要素が消え、芸術を追い求める処女の話となったのだろう。

【最後に】
 ちょっと最近ミステリー映画が過激なゴア描写に頼り過ぎていて、心理的な怖さに踏み込まない作品が増えていたかなという印象でしたが、本作はそうした懸念を払拭してくれる一本だったかなと思います。アカデミー賞にノミネートされた作品として後世に語り継ぐのに恥ずかしくない一本だと思います。


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