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ザ・コーヴ

2011-03-11 08:48:30 | DOCUMENTARY
ルイ・シホヨス監督作品。

概要:日本の和歌山県太地で行われているイルカ漁の実態に迫る。

まず、言いたいのは無事日本で本作が公開されたことの喜びです。
『ザ・コーヴ』は2010年のアカデミー賞ドキュメンタリー作品賞を受賞しましたが、日本を名指しで批判しているため、日本での公開が危ぶまれていました。
公開が決まった後も関東を中心に上映中止運動が起こり、トラブルが続いたような状態でした。その国にとって批判的な内容だからという理由だけで、特定のメディアが排除されてしまうのは民度の低さを表わすと思っています。ですから、この国でこの映画が上映されたことにホッとするのです。

では、観た感想を。
思っていたより酷い(笑)「内容はともかくとして、見せ方などは上手い」と聞いていたのでメッセージは抜きにしてエンターテイメントとして成立しているのかと思ったら、あまりそうでもない。エンタメ性が薄いため、内容の雑さにばかり目がいってしまい親指を下に向ける評価になってしまいます。ファック!!

【本質的なメッセージは】
 この映画の本質的なメッセージは何か。それは「イルカが大好きだ」ということです。
 登場人物のオバリー氏は元イルカの調教師。アメリカでイルカ人気を爆発させたドラマ『わんぱくフリッカー』のイルカの調教をしていたことが劇中で明らかになります。彼はイルカの素晴らしさとイルカへの愛を語りまくり、劇中では度々イルカの可愛さや知能の高さを訴える描写があります。更に映画のラストではリック・オバリー氏が『わんぱくフリッカー』で死なせてしまったイルカへの後悔の念を懺悔します。この映画の根底的なメッセージは「イルカ大好き」であり、イルカ漁に対しての「イルカ殺すな」なのです。

 それはそれでいいとして。問題なのは、この映画の制作者は「これは環境問題の映画です」と謳っていること。なんで?先に書いたようにこの映画のメッセージは明らかに「イルカ大好き。イルカ殺すな」なのに。これはあくまで想像の域をでませんが、恐らく制作者達は「イルカ大好き」という話では人々からまともな映画として見なされないと思ったのではないでしょうか。決して高尚な内容ではないのに、「環境問題」などと高尚な態度を気取っているのが腹立たしい。

【観客を惑わすエピソード】
 前章でこの映画の本質は「イルカ愛」であり、「環境問題」は偽のメッセージであると述べました。劇中で描かれた「環境問題」と何故、それが偽のメッセージであると判断出来るのかということに言及します。
 一つ例に挙げれば、水質汚染問題。本作ではイルカ漁反対の理由に「イルカの肉が水銀に汚染されていること」を指摘します。だからイルカ漁を止めろという主張です。しかし、何故イルカが水銀に汚染しているのか、その理由は明らかになりません。またイルカ以外の水産物が水銀に汚染しているとする描写は一切ありません。本当に水質汚染の問題を取り上げたいのであるならば、水銀の出所は一体何処であり、何が理由で流出し、その汚染はいつから始まっていたのかを描かなければなりません。それらがないままに「水質汚染」を描いた。と言われても説得力はないのです。

【数字の嘘】
 劇中では様々な数字が取り扱われますが、明確な誤りが一つあります。太地におけるイルカの収益性に関してですが、本作によれば「イルカは高値で売れた場合、一頭につき1200万円(1ドル80円換算)」。さらに太地で23,000匹のイルカが捕獲されているとのことですが、そうする太地は年間2,700億円儲かっていることになります。単価を高く見積もっているので、低めにみても半分の1,350億。どう考えてもそんなに儲かっているとは思えません。そこで、実際に太地でのイルカの捕獲量を調べてみると。。。桁が一つ違うようです。気になる方はちょっとググってみるといいと思います。

【ラストミッションは盛り上がらない】
 劇中で最も盛り上がる部分でもあり、最も「面白い部分」とされる最後の盗撮作戦ですが、ここは全くと言っていいほど盛り上がらないです。なぜならば、その盗撮によって何が明らかになるのかが全く明示されないからです。これだと気持ちが乗らない。。この仕組みを例えると『走れメロス』を思いだして下さい。皆さん、小学生なり中学生の時に読んでちょっと興奮したと思います。興奮したのは何故か考えてみて下さい。それは、メロスの到着が遅れたら友人が死んでしまうからですよね。「友人を救う」という目的があるからこそ、話が盛り上がるワケです。『ザ・コーヴ』の盗撮作戦は、その作戦が成功することによってどういう結果が期待されるのかが全く分かりません。ですので、何も盛り上がらないんです。
 そして、盗撮の末に撮られた映像を鬼の首取ったりと、制作者たちは大騒ぎするのですが、全っくもって意味不明です。何故ならば太地でイルカがされているのは既知の情報であり、盗撮によって何かが明らかになった部分はないためです(正確に言うとイルカが安楽死させられていないことが明らかになっていますが、そこがポイントではないので割愛します)

【最後に】
 イルカのシーンは確かに惨いですよ。それは否定しません。イルカが大好きだ!という方々したら目を背けたくなる気持ち、この惨状をなくしたい!という気持ちは理解できなくはないです。

しかし、映画を見ていてすごく、ものすごく気になった部分は、「では何故イルカ漁が発展したの?」という疑問に対して導きだされた一つの回答。
 イルカ漁を成り立たせているのは、水族館へのイルカの売却なワケです。それで思いだして欲しいのは、そもそも世界的にイルカを見たいという需要を作り出したのは『わんぱくフリッカー』じゃないですか。オバリーさん、あなたのせいですよ。自分の行いの結果を、他国の人々になすりつけるのはおかしいんじゃないですかね?


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