今回の『虹ヶ咲』の振り返りは、第5話「今しかできないことを」です。
エマちゃんのお当番回ではありますが、エマちゃんを語るうえで欠かせない存在である果林さんの同好会入部までの過程を描きます。
さっそく振り返ってみます。
エマちゃんと果林さんの出会い
日本のスクールアイドルに憧れ、スイスから虹ヶ咲に転入してきたエマ・ヴェルデちゃん。
日本にやってきた初日(?)でしょうか、虹ヶ咲学園から学生寮に向かおうとしていたところで、果林さんに出会います。
後日、学園にある食堂で、エマちゃんは果林さんにお礼を言います。
卵かけご飯をおいしそうに食べるエマちゃんをみて、それを食べるためにわざわざ日本へ来たのかと揶揄う果林さん。
エマちゃんは、憧れたスクールアイドルのように心をぽかぽかにできるアイドルになりたいと日本に来たことを話します。
一方の果林さんは読者モデルとして知られていて、1年生の子から声をかけられていました。
そんな果林さんをみて、すごいと褒めるエマちゃん。
お互いにがんばりましょう、とニコニコな笑顔を向ける果林さん。
2人の出会いの物語から、5話はスタートします。
(ここまで冬服なので、おそらく春先の出来事?)
それからしばらく経って。
エマちゃんは果林さんに、最近の同好会の近況を話します。
果林ちゃんも一緒にやれたらいいのに、と話すエマちゃんですが、賑やかなのは苦手、と素っ気なく返す果林さん。
話が終わると果林さんはスタスタとどこかへ行ってしまい、エマちゃんは訝しみます。
シーン変わって同好会の部室。
いつものように(?)、彼方ちゃんの膝枕をしてあげるエマちゃん。
スイスの大自然に囲まれて、飼っているヤギたちの前で歌を歌っていたことを思い出します。(めっちゃ似合うw)
本人としてはホームシックではないけれど、家族は日本にいるエマちゃんのことを心配しているようです。
そんな中、部室に現れたせつ菜ちゃんとかすみちゃん。
2人はメンバーに、ソロアイドルとして、自己紹介や特技などで自分をアピールするためのプロモーションビデオをつくることを提案します。
歩夢ちゃんの自己紹介動画、せつ菜ちゃんのDIVEのPV(璃奈ちゃん編集)、かすみちゃんの自己紹介動画は既にアップされており、再生数も増えてきている様子。
これで知名度を上げて、自分たちのライブを実現しようというせつ菜ちゃんたちの提案に、メンバーは賛同します。
エマちゃんにとっても、このプロモーションビデオを見せれば、スイスにいる家族も安心するに違いありません。
彼女が目指しているのは「人の心をぽかぽかさせちゃうアイドル」、でも具体的なアイドル像はまだありません。
心をぽかぽかというイメージは、メンバーみんなバラバラ。
そこでエマちゃんのイメージを膨らませるために、エマちゃんから果林さんに服飾同好会を紹介してもらい、PVで使う衣装を試着させてもらうことになります。
メイドさん、浴衣、チアガール、クマの着ぐるみ。
それをみて「癒される~」と燥ぐ侑ちゃん。
エマちゃんの中にも「人の心をぽかぽかにする」イメージが少しずつ湧いてきたようです。
そんなエマちゃんに、積極的に衣装を提案する果林さん。
しかし写真撮影をしようとする同好会のみんなの輪の中に、果林さんは入ろうとしません。
それどころか、電話がかかってきたという理由もありますが、部屋の外に出て行ってしまいました。
なぜか、輪の中に入ることを拒否している果林さん。
そんな果林さんの様子にエマちゃんは不安を募らせます。
果林さんの拒絶
その日の夜、学生寮の自室で、果林さんは雑誌のインタビュー記事に載せるアンケートを書いていました。
そこへエマちゃんが訪問。
2人とも寮生、かつ、果林さんの実は「片づけられない系女子」であることを知っているからか、たびたび部屋のお掃除をしにきてくれるみたいです。
これは、部屋が散らかっているという大人びたイメージとはかけ離れた自分の姿を、果林さんはエマちゃんにだけは見せることを許しているという意味合いもあるのかなと思います。
その片付け中にエマちゃんが見つけたのは、スクールアイドルの雑誌。
もしかして果林さんはスクールアイドルに興味があるのでは?
そう思って、エマちゃんは再度、果林さんを同好会に誘います。
しかし、果林さんは「興味なんてない」「その雑誌はエマのためになると思っただけ」「読者モデルの仕事もあるし、スクールアイドルなんてやってる暇ない」と断ります。
エマちゃんを手伝っていたのも「頑張っているエマを応援したいと思っただけ」そして「そんな風に思われるならもう(手伝うのも)やめる」「もう誘わないで」と、かなり強い口調でエマちゃんを突き放してしまうのでした。
なぜここまで果林さんはスクールアイドルをやることを拒否しているのか。何が彼女をそうさせているのか。
エマちゃんには果林さんの気持ちがわかりませんでした。
ちなみにこのスクールアイドルの雑誌は、無印ラブライブにも登場している雑誌です。
そして表紙の女の子たちは、スクフェスのモブに登場する姫乃ちゃんという子と小雪ちゃんという子なのです。
そもそもエマちゃん・しずくちゃん・彼方ちゃんは、スクフェスの転入生総選挙によって、PDPのメンバーに選ばれた経歴があり、スクフェスの他のキャラがTVアニメに出てくるのは、ファンとしてうれしい限りです。
このように旧来のファンを喜ばせるこういう小ネタが仕組まれているところがうれしいですね。
さてさて、後日行われたエマちゃんのPV撮影会。
この間の果林さんの言葉がずっとひっかかってしまっていたエマちゃん。
これまでの優しい果林さんとは違う、自分に向けられた鋭い言葉に、撮影会にも集中できていないようです。
そこへ、着替えるために部室に戻ったエマちゃんがなかなか戻ってこないことを心配した侑ちゃんと歩夢ちゃんが、部室にやってきます。
そこで果林さんから貰ったスクールアイドルの雑誌を見つけ、手に取る侑ちゃん。
そのアイドル雑誌に挟まっていた1枚の紙が、床にひらりと落ちます。
それは、果林さんが書いていた、雑誌のインタビュー記事に載せるアンケート用紙でした。
そこに書かれていた果林さんの本当の気持ち。
それを知ったエマちゃんは、急いで果林さんのもとへ向かいます。
そして、果林さんを半ば強引に、外へ連れ出すのでした。
果林さんの本音と、包み込むエマちゃん
2人はデトックス東京ビーチ内にある「たこ焼きミュージアム」やDonatello'sで食べ歩き
ウエストプロムナードや「重力の無い杜」・「滝の広場」で遊んで、日本科学未来館のドームシアターへ。
めいいっぱいお台場デートを楽しんだのでした。
なぜエマちゃんは急にデートを画策したのでしょう?
それは果林さんのアンケート用紙に答えがありました。
エマちゃんはこのアンケートに書かれていた「お台場をブラブラ食べ歩いたり」「友達と思い切り遊」びたい、という果林さんの本音を叶えたのです。
エマちゃんなりに、果林さんに真意を問う前に、まずは果林さんの心をぽかぽかにしなきゃ、という思いがあったのでしょう。
そして、ジオ・コスモスの前で、果林さんにアンケート用紙を渡して、「スクールアイドル」に興味があることをどうして隠していたのか、理由を尋ねます。
心をぽかぽかにするスクールアイドルになりたくて、スイスから来日したエマちゃんにとって、一番最初に出会ってずっと応援してくれた友達。
同好会が廃部になりそうなときも、果林さんが積極的に動いてくれたし、復活後は(第4話でもわかるように)「エマの悲しむ顔がみたくないから」とサポートまでしてくれた親友。
その親友が自分に心を許してくれない部分がある。
まだまだ自分の知らない果林さんがいる。
だからこそもっと果林さんの本当の気持ちを知って、心の底から果林さんと笑いあえるようになりたい。
そんな彼女のひたむきさが強く感じられます。
その後のシーンで、果林さんとエマちゃんの間にあった床の線がなくなります。
これは、エマちゃんの思いを受け取り、果林さんの心の壁が解放されたという暗示。
果林さんは、エマちゃんの説得によって、自分の心にしまい込んでいた本当の気持ちを吐露します。
同好会を手伝うようになり、みんなで1つのことに向かって悩んだり、言い合いしたり、笑ったりすることが楽しかったこと。
そして、同好会に入りたい、スクールアイドルをやってみたいという思いが、心の中に生まれていたこと。
でも、朝香果林はクールで格好つけて大人ぶっている、というキャラがある。
だから、今更同好会に入部するなんてことはできないのだ、と。
そんな果林さんをエマちゃんは後ろからハグします。
「クールで格好つけて大人ぶっている」果林さんも「同好会で笑顔でスクールアイドルをやっている」果林さんも、笑顔でいることが一番なのだと。
だから、もっと果林さんの気持ちを聞かせてほしい、いろんな果林ちゃんを見せてほしい。
エマちゃんはその気持ちを果林さんにぶつけるために、自分のステージを見せるのでした。
やりたいと思った時から、きっともう始まっている
エマちゃんの曲『La Bella Patria』。
イタリア語で「美しいふるさと」という意味があります。
スイスにいる家族に向けて、そしてスイスという美しい故郷に向けて、不安なことも多いけど、みんなと一緒にスクールアイドルとして羽ばたいていくんだという決意の歌です。
ここで重要なのは、これまでの劇中歌とは違って、この歌は「大勢のみんな」に向けてではなく「果林ちゃん」に向けられた歌だということです。
エマちゃんと同じく、果林さんも家族とは離れ、虹ヶ咲学園に入学し寮生活を送っています。
エマちゃんは日本でスクールアイドルになるためにスイスから、果林さんは東京でモデルになるために八丈島から、それぞれ虹ヶ咲学園にやってきました。
(果林さんは八丈島出身という設定はスクスタでの設定なので、アニメ媒体で引用するのは違うかもしれませんが……)
ちなみに、日本からスイスまでは飛行機で片道約15時間かかりますが、実は東京から八丈島までは船で片道約10時間かかります。
2人とも気軽に帰れる距離ではありません。
そんな異郷の地でともに親友となった2人。
それぞれが目指すべき目標があり、違った夢を持っていました。
しかし果林さんは、エマちゃんたち同好会の様子を見て、モデルだけじゃなくてスクールアイドルもやってみたいという気持ちが生まれます。
でも、「モデル」というクールでかっこいいキャラとは対極にある「アイドル」に、自分のキャラは合わないのではないか。
この「カセ」が彼女自身を縛り付けて、本当にやってみたいことから目を背けさせていたのでしょう。
だから、本当の気持ちを知ることができたエマちゃんは、自分の「決意の歌」を「果林ちゃん」だけに披露したのです。
PVをみてもわかるように、この曲の幕は閉まったまま。
つまり、この舞台に一緒に立っている「果林ちゃん」にだけに見せているのです。
多くの人の心をぽかぽかにする前に、まずは目の前で「カセ」に縛られている「果林ちゃん」の心を温めてあげたいというエマちゃんの気持ちが伝わってきます。
大切な親友に向けた、自分の「決意の歌」。
異郷で目標に向かって走ってきたエマちゃんだからこそ、同じく異郷で新しく生まれた夢を追うことに躊躇する果林さんの心に響き、彼女を縛り付けている「カセ」から解放させることに成功したのです。
こういった理由から、果林さんを「カセ」から解放するのは、エマちゃん以外できなかったのだと、個人的には思っています。
確かに、エマちゃんのお当番回なのに果林さんの加入回みたいになっているという意見も最もですが、エマちゃんの博愛主義的なスクールアイドル像の一端を垣間見せるストーリーにするには果林さんの加入エピソードを混ぜる必要があったのかと……。
(クリエイターさんたちも悩んだんだろうなと思います)
そのステージをみた果林さん。
「やりたいと思った時から、きっともう始まっているんだと思う」というエマちゃんの後押しもあって、果林さんは同好会へ入部することを決めます。
騒がしいところは苦手、雑誌モデルの仕事があるや自身のキャラのイメージを理由に断っていると一人でクールなくだらないと思っていた果林さんはもういません。
彼女はエマちゃんと共に、同好会の一員として、新たな一歩を踏み出したのでした。
『虹ヶ咲』にも流れる「ラブライブ」の「血」
余談になりますが、私はこのエマちゃんの言葉を聞いて、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』はやっぱり「ラブライブ」だなあと思いました。
この「カセ」に縛られて自分の本当にやりたいことに踏み出す勇気がない、けれど仲間からのアドバイスや後押しで、自分のやってみたことに飛び込む勇気を得る、という構図は、無印『ラブライブ!』の第8話を思い起こします。
絵里ちゃんが「今更私がアイドルやりたいなんて言えると思う?」と意地になってμ'sに入らなかったときに、μ'sのみんなが受け入れてくれたから、彼女はスクールアイドルとしての一歩を踏み出すことができましたね。
「やってみたい」と言えない人がいるならば、「まずはやりたいならやってみるべき」「考える前に走ってしまえ」と背中を押してあげるというのは「ラブライブ」シリーズの根幹に流れているいくつもの「血」のひとつです。
エマちゃんのこのセリフから、この「血」がやっぱり『虹ヶ咲』にも流れていることを確信することができました。
(まあこのテーマは「ラブライブ!」シリーズに限った話ではないので、これをもって虹ヶ咲は所詮外伝扱いだ、という意見に反論できないのが、虹ファンとしては悲しいところ)
人は、何かを始めることに対して、理由を求めたがります。
そして、今回の果林さんのように、理由を求めようとして、マイナスな理由ばかりが思い浮かんでしまって、並べた理由が体のいい言い訳になりさがって、結局やらない、踏み出せない、なんていう経験はだれしもあるのではないでしょうか。
でも、それで本当にやりたいことができない、なんて、勿体ない気がしますね。
ましてや「スクールアイドル」のように、学生の間でしかなれない、「今しかできないもの」であるなら尚更です。
やってみないとわからないことなんて、この世の中にいっぱいあるのですから。
理由なんて関係ないでしょう、理由を求める暇があれば挑戦してみなさいよ、という「熱い思い」が、現代を生きる私たちに必要な気がしました。
その「熱い思い」が、きっと私たちの心をぽかぽかにしてくれるに違いありません。
というわけで、第5話の振り返りでした。
次回は璃奈ちゃんのお当番回。
こちらも振り返りがいのあるエピソードとなっていますので、記事を書くのが楽しみです。
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました!
【ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会】第5話「今しかできないことを」
脚本:伊藤睦美
演出:横手颯太