Curse priest

Trigger Happy 出張所。D.Gray-manとシャドーハウスのネタバレ感想、アニメ感想を書いてます。

屍鬼(SQ感想) 第悼と偽話 1

2010-12-03 01:45:41 | 屍鬼

SPECの小説本買って、明日はビジュアル本が来る予定。
でも、本屋に1冊しか入らない予定らしいので困る。
いや、ホントSPEC面白いわ。
でも、深夜のケイゾクの再放送がまた面白いんだわ。
キャラ立て、ホントうまいよね。
さて、今回から屍鬼早売り感想書いてみます。
不慣れなので、色々ご容赦を。

屍鬼(SQ感想) 第悼と偽話 1

それは初夏の一場面。
まだ村が平穏だった頃。
こんな幸せな日が明日も明後日も続くと、何の疑問もなく考えてた頃。

村はミンミンセミの声に覆われていた。
目に痛い程の田園の緑。深い樅の山々の緑。底抜けに青い空。
日差しが肌に痛い程照りつける夏。

奈緒は夫の幹康と息子の進と共に近所の川に水遊びに向かっていた。
途中で田茂定文と息子の広也に出会う。彼らは川釣りに向かうところ。
広也が釣りが好きだからと、定文は笑った。
たわいない挨拶をして、なごやかにすれ違う。
「水には気をつけろよ」
「おまえらもな」
と、笑いながら。

あの頃は皆、笑っていた。
朝になれば、お日様を見れるのだと当たり前のように思っていた。

でも、今は11月6日。
その何気ない村の平穏はもう戻らない。

奈緒はもう朝を知らない日々に生きている。
暮らしている、とは死んでも呼べない日々に。


初夏にミンミンセミ? 地方によって違うんかしら?(^_^;)

さて、11月6日午後。神社にて。
田茂定文は射殺された父親の前に座り込んでいた。
村長の息子。彼の息子の広也は鬼が引いていった。
何もかも屍鬼に奪われた。
夏、釣りを愉しんでいた男は、もうここにはいない。


狩りは体が基本だ。
女衆は心づくしのご飯を男衆にふるまう。
村迫智寿子やかずこも笑顔だ。
まるで祭りの合間のように冗談が飛び交っている。

それはある意味、現実逃避かも知れない。
通常通りにふるまわないと、立ち位置がブレてしまう。
震えが止まらなくなる。
自分達の行為を考えると、気が触れてしまうから。

何故なら、神社の脇には屍鬼達の骸が塔のように積み上げられている。
しかも知ってる顔ばかりだ。
自分達の罪の痕。
その凄惨な有様と匂いはたまらない。
直視した者は、とても飯など食ってられなくなる。

だが、食わねばならない。
まだ祭りは始まったばかり。
そして、それは戦場と同義語だ。
日常からいきなり前線に叩き込まれたとあっては、覚悟の上の臨んだ者ですら慣れるのは難しい。

だが、敏夫はおにぎりを食べる。食べれる。
医者は血を見慣れてるのもあるが、戦いの前に感情は凍らせてしまった。
それに自分が司令官である事もよく解っている。
自分が怯めば、動揺が伝わる。村人はすぐ浮き足立つ。
だから、率先して食べねばならない。
落ち着いている事も人を率いる事の基本だ。

これは村を巣食ってる病巣と戦うのと同じ。
医者は冷徹でなければならない。看護婦と共に、病に立ち向かわねばならない。
だから、敏夫は人を率いるということをよく知っている。

だが、順調な戦果に満足しない者もいる。

「…若先生。
 呑気にメシなんか食ってていいのか?」
「定文、メシぐらい食っても大丈夫だろう?」

夏野からの情報で怪しい家はほぼ回り尽くした。
念を入れて、二周目も回らせてある。
だが、定文は首を振る。

「…連中は人間じゃないのだろう?
 だとしたら、何も家に隠れてるとは限らないんじゃないのか?
 例えば、地下の穴ぐら」

定文は村長の息子だ。農業の治水に詳しい。
彼が指摘したのは村を貫く尾見川の水口にある農業用のパイプラインだ。
医者である敏夫には盲点だった。
徹が知らなかったのは、山入で行動を制限されてた為か。

早速、敏夫達は定文の案内で外場主頭工に向かう。
堰のパイプは大人が一人立って歩けるほど大きい。
懐中電灯で照らさないと中は見えないが、潜むだけなら充分な広さだ。

「確かに連中が隠れるのは絶好の場所だな」
村迫正雄の兄・宗貴が呟く。

「…そうか、田茂家は水利組合にも顔を出してたんだっけな」
「ああ、詳しいぞ」
定文は敏夫に説明する。
「水口堰は江戸時代からあり、明治時代からは溝辺町にまで水を送る大動脈となっている。
 だが、今は農閑期だから取水口は閉めているんだ。
 ほうら、水がないだろう。
 しかし」

定文はさもおかしそうに笑い出す。

「何だ?」
「いや、ここに隠れてるなら面白いことになる」

定文は暗い笑みを浮かべて、闇の奥を見つめる。
父の、息子の敵が取れる。その理由を知ってるから。


村人達は奥に向かう。

「いた…。本当にいるぞ!」

そして、電灯は屍鬼達を闇の底から浮かび上がらせる。
男が三人。こんな臭いぬめったコケだらけの場所で平気で寝ている。
人間ではありえない。
出来れば、定文の予感が外れた方がよかったのだろう。
だが、村の死者数は神社に積み上げた数では足りない事を示していた。
その理由の一つがここだ。

敏夫は削った鉄パイプを眠ってる柚木の頬に突き刺した。
ズブズブ頬に食い込んでいくのに、柚木はピクリとも反応しない。
まるで痛覚などないようだ。

「大丈夫だ。睡眠中は文字通り死んだように動かない」

やはり、これは死人なのだ。
人間の反応としてもありえない。
だが、宗貴は怯む。
図書館の柚木。ボロボロの顔をした後藤田秀司。知ってる人間ばかりだ。
これを自分達は狩らねばならない。人と思ってはいけないが、知人の顔をしている。
間違いなく。

「真ん中は…」

横向きに寝ている男の顔が見えない。
確認しようとする宗貴を「やめとけ」と、敏夫が止める。

「名前なんか確かめるな。
 こいつらは昔のこいつらじゃない…別物だ!!」
タバコに火をつけながら敏夫は呟く。
「あんたらの知ってる柚木さんは人を殺すようなやつだったか?」
「いや、それは…」
「じゃあ、別物だ!!
 違うものになっちまったんだよ!!」

屍鬼を人間と見れば、殺せなくなる。
静信がそうだった。
そう取る余り、静信は屍鬼になってしまった。
静信ほどではなくても、一度殺せなくなれば逃げるしかなくなる。
杭など持てなくなる。

割り切らねばならない。
何処かで線を引かねばならない。
だから、名前を知る必要もないのだ。
ただ処理するだけだ。感情移入する必要などない。
自分の心に傷が残るだけだ。
もうこれは知らないものなのだから。

だが、宗貴は出来ない。
敏夫のようには割り切れない。知ってる顔には思い出がつきまとう。
それを消すことは出来ない。
杭を持ったまま立ち尽くす。

「でも、駄目だ!!
 柚木さんには世話になってる!!
 とても出来ない!!」

宗貴は首を振る。柚木が化物に変貌してればよかった。
中身だけが化物では、余りに人間そのものでは、例え痛覚も嗅覚も人と離れたものだと
解っても、頭が理解を拒む。

柚木が息子を殺したと、宗貴は知らない。
知っていれば態度が変わっていたろうが、誰もその事実を知らなかった。

柚木はいい人だった。
その思い出が彼を縛る。

怯む宗貴から無言で定文が杭を奪う。
そして、躊躇なく、自分で柚木の胸に杭を打ち込んだ。
柚木の口から泡を含んだ血が溢れる。
噴水のように血が吹き出る。
それでも柚木は目覚めない。

「ぐふぅ…」

柚木が漏らした言葉はそれだけだった。
たったそれだけ。
許しを請う言葉も、憐憫を誘う仕草もない。
ただ、また骸に帰った。

その傍らで定文は呟く。

「蝉の声がね、若先生。
 止まらんのですよ」
「蝉?」
「おれの息子の広也は10月17日に死にました。
 あいつとの最後の思い出は初夏に行った釣りなんです。

 その時、背景で鳴いていた蝉の声が、今も耳について離れんのです…」

水は青かった。
冷たかった。
沢の中で魚影が踊る。
染み入るように蝉が鳴く。
みーん、みーん。
みーん、みーん。

今もそれはこだましてる。
恐らく、一生。
定文を責めるように、息子を悼むように鳴き続ける。
永遠に戻らない夏を悼んで。

今、杭を打ったところで蝉の声は止まない。
解ってる。
でも、じゃあ、このやり場のない思いは何処へ行けばいいのか。
ずっと探していた。
何故、息子が彼を置いて早く亡くなってしまったのか。
ずっと答を探していた。

見ないフリをしていた。気づかないフリをしていた。
それを積み上げた結果がこれだ。
蝉の声に祟られる。
夏が永遠に終らない。
11月になっても。
来年の11月になっても、その後もきっと。

村人達は沈黙する。
それは誰しもが抱いていた感情だ。
定文が蝉の声であるなら、他の者も亡くした者への追憶があった。
それが今も彼らを責め苛む。
何か出来たハズだ。何か取り返せる事が出来たはず。
でも、もう何もかも手遅れだ。
戻ってこない。
死者が引いていってしまった。
そして、自分達と同じ運命を背負わせていく。

蝉の声を消さねばならない。
あの猛暑の夏。
葬式が村を覆い尽くした夏を終らせるのだ。
災厄を祓わねば。

「すっ…すまん、定文。
 次はおれが…」
幼かった息子の思い出は宗貴も忘れない。
杭を握り締める。

「じゃあ、わたしが木槌を…」

他の者が木槌を握り締める。
そして、彼らは始めた。
誰が言うともなく、彼らは平等に手を汚すことを暗黙の了解としていた。
全員が共犯者である為に。
祭りに血を注ぐ為に。
水路に血が流れていく。
夏は清らかだった清水の代わりに。

だが、後藤田は柚木のように安らかとはいかなかった。
打ち所が悪かったのか、物凄い悲鳴を上げ、のた打ち回り、血を噴水のように撒き散らす。
それでも、やらねばならない。続けねばならない。

思わず、宗貴が榊原郁恵の「気まぐれヴィーナス」を歌い始めた。
他の人間もそれに続く。

狂気に心を食い荒らされない為に。
あえて、機械的にその作業をこなしていく。

人間じゃない。
殺人でもない。

作業だ。祭りだ。祭祀だ。
杭を打って、穴を開けるだけの簡単なお仕事。

だから、歌う。
明るい楽しい歌ばかり選んで歌う。
祭りに歌はつき物だから。
歌がうめき声や断末魔を少し消してくれる「ような」気がする。

だから、ここは地獄じゃない。
でないと、狂気に追いつかれる。
自分のやってることを振り返るハメになる。


敏夫だけが歌わない。

彼は自分のやってる事をわきまえている。
妻を杭で刺した時、屍鬼を殺す為にはそれしかないと解ってしまった。
他に楽な方法があれば、村人の為にも是非それを選んだろう。
だが、心を削って、杭を打つしかないのだ。
他に方法はない。それ以上の残酷な殺ししか。
だから、歌声と絶叫の響き渡る狂気の渦の中で、敏夫は毅然と立ち続ける。
自分の罪を見据える。

村人をここまで率いてきたのは自分なのだから。

が、昼はいつまでも続かない。
屍鬼の時間が来る。
夜が来る。

それは兼正の医師・江渕の番で始まった。
歌いながら杭を打とうとした瞬間、江渕はパチリと目覚めた。

「うわっ!!!」
「うわっ」

村人も江渕もお互いに驚く。
さっきまで置物同然だった屍鬼が「生き物」として起動したのだ。
そして、彼らの牙が危険だという事を知っている。
村人は「逃げろ!」「起きたぞ!」と思わず撤退する。
敏夫を除いて。
だから、村人達も完全には撤退できない。
とりあえず、敏夫の後ろに固まって様子を見守る。

敏夫は時計を見た。夕方の5時を過ぎている。
驚くほど屍鬼は時間に正確な生き物だ。

(なるほど、陽が落ちて連中の領分がやってきたか)

「こんなに血が…酷い…」

江渕は足元に広がる血の流れを見て、大量に仲間が殺された事を知る。
江渕の隣は奈緒、その隣は彼女を誘ってここに連れてきた高俊、警官の佐々木と役場の男。
残っているのはこの5人だけ。

「眠ってる間に相当やられたな」

人数がいれば、この暗闇だ。
対等に、いや屍鬼に優位に戦えただろう。
血を少しでも吸えれば操れるのだから。

だが、敏夫は少しも怯まない。
狩人はダメだ。
辰己の警告が今更ながら甦る。
さっさと殺してしまえばよかったのだ。
だが、静信の事もあって、先延ばしにしてしまった。温情をかけた。
挙句がこのザマだ。

「こうなったら前に進んで戦うしかない」

江渕は村人と向き直った。
敏夫さえ崩せばいい。後は烏合の衆だ。
暗闇に乗じて逃げ出せる。
挟み撃ちにして返り討ちにする事だって出来る。

「何をバカな!!
 奥に逃げようぜ!!」

だが、高俊は逃げ腰だった。
戦える訳がない。戦った事もない。
いつも油断してる相手を襲ってきたのだ。
苦もない狩りばかりしてきた。
杭を持ち、戦う意志を固めた集団となど戦えない。
負けるに決まっている。
真正面から戦うなど出来るものか。

特に相手はあの尾崎の若先生だというのに。

だが、江渕は首を振った。
「無理だ。ここに出口はない」
戦うしかないのだ。

それは定文も知っていた。
だからこそ、さっき嗤ったのだ。勝てる事を確信して。

「若先生。
 いったん入口まで戻ろう。
 ここの奥はどんどん先細りになっていて行き止まりなんだ。
 どうせ入口で待ち伏せていれば連中は逃げられない」

また連中が眠ってから殺せばいい。
腹が減って、出てきたのを仕留めればいい。
楽に殺せる方法はいくらでもある。

だが、敏夫はその提案を軽くあしらった。

「バカを言うな。
 なぜ、あんな弱い連中から逃げなくちゃならないんだ?」
「え?」

弱い?
定文は首を傾げる。
屍鬼は人を殺す。
血を吸うだけで人を操れる化物だ。

なのに、弱い?
敏夫は何故そう言い切れる。


その間、江渕は4人を説得し終えた。
出口はない。
背水の陣だ。
だから、前に進むしかない。
人間には屍鬼への恐怖心がある。
襲えば絶対に怯む。
後は闇が味方してくれる。

江渕が敏夫さえ倒せば、後は何の障害もない。
5人は固まって走った。江渕を先頭にして。

「いいか、闇は我々の領分。
 灯りさえ叩き落せば、あいつらは何も見えない」

江渕は闇の中で飛び上がった。

「キエエエエエエッ!!」

敏夫に向かって襲い掛かる。

2へ続く。



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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2022-08-28 03:05:00
榊原郁恵じゃなくて桜田淳子です

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