本と映画の感想文

本と映画の感想文。ネタバレあり。

『黙示録3174年』

2005年05月08日 | SF
作者:ウォルター・M・ミラー・ジュニア
出版:創元推理文庫(1971/9/25)
初出:1959
ジャンル:SF
評価:8/10

 核戦争による破壊と混迷、科学の復活、そして、再度の戦争と新しい人類への希望を、1つの修道院を通して描いた力作である。飽くことなく過ちを繰り返す人類が冷徹に描かれている。人類の未来に対し、SFが描けることは何か?という命題に真摯に取り組んだ結果ともいえる。

 キリスト教をふくめ宗教には縁が薄く、その活動や教えなどほとんど知らないのだが、この小説でその一端を垣間見た気がする。たとえば第3部で、もはや治療も無理という母娘に対し、科学者(といっても政府のお先棒だが)は「死になさい」といい、修道院長は「祈りなさい」という。祈ることが、怪我・病気の解決になるわけではない。それでも祈るのは「からだがつらいおもいをしているにもかかわらず、魂が信仰と希望と愛を保っていることが神を満足させる」のだそうだ。そして、修道院長は自殺ではなく尊厳ある死を迎えることを説く。ちょこっとだけ宗教の真髄に触れたような気がした。