『ベータ2のバラッド』 サミュエル・R・ディレイニー著
1965年の作品。解説によれば「若書き」らしいが、僕のレベルからすればこの程度で十分です(笑)。
まず表層の物語は、なにか大変なことが起きたっぽい<星の民>の船ベータ2について、なにが起きたのか調べること。
この調べモノは、大学の図書館と、現地でであった緑の目をした少年のナイスな誘導によって滞りなく解決する。その滞りのなさ具合はまったく見事。読んでるほうとしてはベータ2に関する謎解きはストーリーの流れに身をまかせておけばよいのでとても楽チン(笑)。だが、この滞りのなさが本作のテーマその1。ここに出てくる<破壊者>は知識を蓄えたいわゆるホストコンピュータ、<破壊者の子どもたち>はクライアント端末、そして、将来、人間は端末に尋ねれば簡単に答を得られるようになるし、学問の探求がとても簡単になるだろう、といいたいらしい。まったくその通りになりました(笑)。
さらに想像すると、もしかしたらディレイニーは、そんなシステムの登場によって本当に困難に満ちたアドベンチャーに直面する機会が少なくなる、人は「耐圧ゲル」の中のような安全な場所にいたまま冒険の答を得られるようになるといいたかったのかも。
<破壊者の子どもたち>の生い立ちに注目すると、かれらは船のクルー、リーラ船長から生まれ、片目族のメリルに育てられた。後半、明らかになるが船には3種類の人間がいた。クルーはその立場から軍人を、片目族は学者を、シティに住むその他の儀式好きな連中は衆愚(笑)を象徴している。上記のコンピュータシステムは軍事から生まれるが、学者が知識を教え込むということだ。ちなみに、本作品の中では緑の目のガキんちょと衆愚の交流はまったくない。ディレイニーもさすがに現在のインターネットの大衆化までは予想できなかったようだ(←あたりまえ)。
さて、衆愚による片目族虐殺はなにを象徴しているか? 時代的に近いのは「赤狩り」だろうか? ただし、赤狩りはWikipediaによると「1948年頃より1950年代前半にかけて」ということで、この小説が書かれた時代より10年ほど古い。それよりも、全体的に色に関する記述が多いことや、知識人の虐殺、その理由が些細な体の特徴であること(「眼鏡をかけている、手がきれい(労働階級ではない)という理由だけで処刑された事例もあった」・・・Wikipediaより)、<髑髏(しゃれこうべ)>などなどを読むと、クメール・ルージュ(ポル・ポト派)によるカンボジアの大虐殺のほうを思い浮かべてしまう。もちろん、時代的に合わないのでそんなことはないのだが・・・。人間は愚かなので何度でも同じ愚を繰り返すというだけのことだろう。
その他、各所に出てきた色の意味や、ブラント艦長とリーラ艦長の40年ぶりの再会の意味するところはよくわからない。気づいてない要素もまだまだいっぱいありそうだし。
ディレイニーは読み応えがあるねぇ(笑)。
その他;
- 青いの(一次記録であることを示す) (P.19)
- ベータ2は・・・まだ青い光が燃えている。(P.21)
- 緑の炎のように光る難破船(P.28)
- ここは真紅だ。(P.72)
- 『白鯨』、『イリュミナシオン』、『ヴォエッジ・オレステス』、『ウロボロス』⇒ 『白鯨』はハーマン・メルヴィル(1851年)、『イリュミナシオン』はランボーの詩集、『ヴォエッジ・オレステス』はディレイニーの幻の作品(笑)、『ウロボロス』は自分の尻尾を自分で飲み込んでる蛇、または、竜のシンボルで、「死と再生」、「不老不死」を象徴するらしい(Wikipediaより)。
- ティツィアーノの「聖母被昇天」⇒ こんなところ参照。これがあとでリーラ艦長につながる。
- 「かれらは、やめろといわなかった」(P.109)⇒ まったくコンピュータらしい言い草(笑)。
『四色問題』 バリトン・J・ベイリー
パス!
『降誕祭前夜』 キース・ロバーツ著
ナチス・ドイツに負けたイギリス政府と、敵対する自由戦線が存在する。主人公のマナリングはその戦いに巻き込まれた。
降誕祭前夜のパーティでは、出席者の子どもたちが芝居の悪魔に脅かされ、芝居の光の女王に導かれ、恐怖と希望を演出したプロデューサーからご褒美のプレゼントをもらって喜ぶ。その心には現政府の思想が刷り込まれる。
マナリングも政府と自由戦線の恐怖と希望の演出に翻弄される。最後は自由戦線の策略のまま連携担当大臣を暗殺するが、どちらのプロデュース力が勝っていたかなんて問題じゃない。結局、マナリングは駒に過ぎなかった。どんな世界になろうと、個人の意思なんて踏みにじられるだけなのだ。
『プリティ・マギー・マネーアイズ』 ハーラン・エリスン著
いつの世でも、どんな場所でも、男と女の関係なんてこんなものなのか(笑)。
てゆうか、コストナーはカジノにくる前に妻の(つもりだった)スージーにも裏切られてるんだけど!
やっぱ、男はそうなんだろうねぇ(笑)。
『ハートフォード手稿』 リチャード・カウパー著
予備品が手に入らない場所に出かける際は、予備品も持参しようという話。
現代のコンビニに慣れきった日本人にぜひ読んでもらいたい(笑)。
『時の冒険家たち』 H・G・ウェルズ著
まず気づくのは、そのお堅い文章。でも、冗長ではない。1から10まですべて説明したいが、11以上説明する気はないよ、といった感じ。10のところ3ぐらいしか説明しないハーラン・エリスンとは対照的(笑)。