作者:ジャック・ウォマック
出版:ハヤカワ文庫(1992/7/10)
初出:1990
ジャンル:SF
評価:-8/10
久々に反感をおぼえる小説である。
まず第一に、その表現がひっかかった。マキャフリイが死人を生き返らせたことを話すジョアナにむかって、バーナードが話すセリフ「子供たちをサーカスにやれば、戻ってきて喋るのはピエロのことばかりだ」(P.49)や、「夜間外出禁止を示した標識は、銃撃でひどく穴だらけになっているから、おろし金に使えそうだ」(P.109)など、たしかに気の利いた表現なのだが、いたるところこんな調子ではかえって鼻につく。評価の分かれるところではあるが。
さらに納得がいかないのが、その内容である。ここには、権力に支配された人びとが描かれている。一般市民はつねに生きるか死ぬかの瀬戸際を彷徨し、警察や軍隊、そして、ドライコ社のボディガードたちに、手当たり次第、殺されている。そして、サッチャーとスージーに仕える人間も、市民とはくらべものにならない贅沢な暮らしをしていても、この2人に支配され、踏みにじられていることに違いはない。
が、ここでよくわからないのが救世主マキャフリイの存在だ。かれは救世主がもっていそうな力をもっているかのように行動し、思わせぶりなせりふを言う。しかし、人びとを救うようなことは何一つできず、権力者の激情により殺される。これにより、神をも恐れない現代の権力者たちや、この世に救いなどありえないことを描き出したかったのかもしれないが、マキャフリイがほんとうに救世主だったのかどうかわからないため、彼を殺すことが、どれほど罪深いことだったのかがわからないのだ。もっとも罪を低く見積もると、単に虚言癖の男を殺しただけなのかもしれない。だとすれば、この小説の価値もそれに比例して低くなる。
主人公ジョアナは最後にはマキャフリイを追うように自殺するが、これは救世主を殺す片棒を担いだことへの罪の意識によるものではなく、ドライコのやり方と、現実社会と、これらに背を向けていた自分がいやになって死んだように思える。つまり、マキャフリイの最大の理解者であるジョアナでさえ、かれが救世主だと信じていたかどうか、わからないのだ。
この小説には救いや成長があるわけではなく、また、困った現実を笑いとばすバイタリティがあるわけでもない。具体的な方向性もイメージも提示せず、ただ、何かが存在するような雰囲気だけをあいまいにただよわせている小説といえようか。
出版:ハヤカワ文庫(1992/7/10)
初出:1990
ジャンル:SF
評価:-8/10
久々に反感をおぼえる小説である。
まず第一に、その表現がひっかかった。マキャフリイが死人を生き返らせたことを話すジョアナにむかって、バーナードが話すセリフ「子供たちをサーカスにやれば、戻ってきて喋るのはピエロのことばかりだ」(P.49)や、「夜間外出禁止を示した標識は、銃撃でひどく穴だらけになっているから、おろし金に使えそうだ」(P.109)など、たしかに気の利いた表現なのだが、いたるところこんな調子ではかえって鼻につく。評価の分かれるところではあるが。
さらに納得がいかないのが、その内容である。ここには、権力に支配された人びとが描かれている。一般市民はつねに生きるか死ぬかの瀬戸際を彷徨し、警察や軍隊、そして、ドライコ社のボディガードたちに、手当たり次第、殺されている。そして、サッチャーとスージーに仕える人間も、市民とはくらべものにならない贅沢な暮らしをしていても、この2人に支配され、踏みにじられていることに違いはない。
が、ここでよくわからないのが救世主マキャフリイの存在だ。かれは救世主がもっていそうな力をもっているかのように行動し、思わせぶりなせりふを言う。しかし、人びとを救うようなことは何一つできず、権力者の激情により殺される。これにより、神をも恐れない現代の権力者たちや、この世に救いなどありえないことを描き出したかったのかもしれないが、マキャフリイがほんとうに救世主だったのかどうかわからないため、彼を殺すことが、どれほど罪深いことだったのかがわからないのだ。もっとも罪を低く見積もると、単に虚言癖の男を殺しただけなのかもしれない。だとすれば、この小説の価値もそれに比例して低くなる。
主人公ジョアナは最後にはマキャフリイを追うように自殺するが、これは救世主を殺す片棒を担いだことへの罪の意識によるものではなく、ドライコのやり方と、現実社会と、これらに背を向けていた自分がいやになって死んだように思える。つまり、マキャフリイの最大の理解者であるジョアナでさえ、かれが救世主だと信じていたかどうか、わからないのだ。
この小説には救いや成長があるわけではなく、また、困った現実を笑いとばすバイタリティがあるわけでもない。具体的な方向性もイメージも提示せず、ただ、何かが存在するような雰囲気だけをあいまいにただよわせている小説といえようか。