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The Alan Smithy Band

The band is on a mission.

シャッターモーニング

2010年12月04日 | ヒデ氏イラストブログ
鞄に伸ばした手はまるでドラマのようにあと数センチというところで届かない。

左足甲には激痛。

額からにじみ出る汗。震える全身。

完全なる窮地に立たされた事のあらましはこうだ。

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いつもの朝、支度をして家を出た。
家の前の階段を下りると、何かピーという異音がする。

耳を澄まして聞いてみると、どうもウチのガレージから音がしているような気がする。
注意しないと聞こえないが、周りが静かだと結構目だって聞こえてくる、高い音だ。
何だこれ?と思い鞄を置き、我が家のガレージのシャッターに近づく。明らかに音源はここだ。

シャッターと地面の接地部分を見ると、左端のほうに何かが挟まっている。
何かはよく分からないが、プラスチックのケースのようなもので、
多分端っこに追いやられていた半分ゴミみたいなものが挟まったのだろう。
これにより完全に閉まってないために、アラームが鳴っていると見た。

シャッターは電動である。開けるには、一旦階段をのぼり玄関に戻り、
リモコンを向けてボタンを押さなければいけない。
それも面倒だと思い、コンコンとそのケースを蹴ってみる。
要はこれさえ奥へやってしまえばちゃんと閉まるわけだ。

なかなか動かないので、更に強めに爪先で蹴ってみた。

ガツ!

瞬間、ケースは奥へ弾き飛ばされ間髪いれずシャッターに足を挟まれた。


軽率だった、としかいいようがない。

結構固いなと感じたときに、それが自分の思う以上にシャッターの圧力がかかっているからと冷静に思えば回避できた。
玄関に戻ってリモコンをとるくらいの労力を惜しんだ結果、私ヒデ氏は朝の8時に自宅のシャッターに左足を挟まれ、
全く身動きが取れなくなってしまったのだ。

大声を出して家の者を呼ぶことも出来るが、朝の住宅地でそれは避けたい。
どうしたどうした、とついでに出てきた近所の人が目撃すれば未来永劫語り継がれるほどの痴態だ。

とっさに頭に浮かんだ二文字。「携帯」。
振り返って手を伸ばすが、何せ左足はがっちりロックオンされている。
微妙に届かない。絶妙な位置に鞄を置いた自分を呪う。

誰かが通りかかるのは時間の問題だが、やはりそれもさっきの理由と同じで避けたい。
できれば誰かに目撃される前に脱出したいのだ。

革靴でなかったら折れていたのではと思うような力が足を押さえつける。
ふと昔何かで読んだカマクラの話を思い出した。あったかいからおいでと誘われるまま入ると、
誘った男がおもむろに自分と入れ替わりにカマクラから出る。すると「俺は呪いをかけられてこのカマクラからでることができなかった、しかしお前という身代わりを見つけたから出れた」と走り去っていき、いくらどうやってもそのカマクラから出られなくなってしまう話だ。

ああ。。。寒い。眠くなってきた。。
もうメンタルの限界を迎えそうになったとき、
最後の力をふりしぼって体をえびぞりにすると、指先がかろうじて鞄の取っ手にかかった。

た、助かった。

鞄を引き寄せ、携帯を取り出して家に電話をかける。
出てきたマネージャMikaは腹を抱えて笑ったが、それだけで済んだ。


俺は助かったのだ。。。!


起死回生の逆転劇の代償は、右足太ももと腰に今も残る異様なまでの痛み。



すんごい海老ぞりしたから筋肉傷めたみたい。













御堂筋線異常なし

2009年12月06日 | ヒデ氏イラストブログ
朝のラッシュ時の電車というのは、本当にいろんなことが起こる。
列車の遅れる理由を聞いていると、「信号機の故障」「急病人がいたため」など、
急いでいるほうからすると「ほんまかいな」というような気持ちになってしまうこともよくあるものだ。私ヒデ氏は、この日もそんな電車の中に居た。

いつものようにドア際のところに立っていると、同じ車両の端っこのほうから声がする。朝の電車というのは割合静かなので、目立つ。

「もしもし!・・・・! ちょっと、もしもし!」

完全には聞こえないのだが、とにかくもしもしと呼びかける声ははっきりと聞こえるのだ。女性が叫んでおり、緊迫感を帯びている。
こちらも集中し始めたため、言葉もはっきり聞こえるようになってきた。

「どこか、車掌に連絡できるボタンかなんかないですか!」

これは。。。ただごとではない。
瞬時に想像したのは、知り合いが急に倒れたため焦っている、という図だ。ただ、その割には呼びかけが他人行儀な気もする。もしかしたら端っこ=優先座席が近いので、目の前に座っていた他人である老人が急に意識を失ったので焦っている女性。。。そんな状況まで頭に浮かんだ。

自分の居るところからははっきり状況がわからない。周りの人もみんな同じ方向を見ている。

次はやや停車時間が長い大型のU駅だ。最終目的地の出口の関係で、どうせいつもこのU駅で一旦出て出来るだけ前の車両に移動するので、野次馬根性も相まって停車したときにホームにでて、渦中の端っこのほうに行ってみた。

すると、あの呼びかけをしていた女性が前方から走ってくる。でかいニット帽をかぶっていたのが見えていたのですぐわかった。後ろには駅員二人。おそらく走行中に非常ボタンで連絡し、停車するなり駅員のところへ走っていって現場まで誘導してきたのだろう。「7両目なんです!」とかなんとか言っている。

なんと行動力のある人間だ、こんなとき率先して協力しようとするわけでもなくただ傍観している自分がやや恥ずかしいとも思いながら、とにかく現場を覗いてみた。

想像した緊迫の場面はそこにはなかった。
問題の場所と思われる場所には、男性が座って寝ている。
イヤホンをし、音楽は漏れ、爆睡である。

同時に入ってくる駅員二人。彼らも目立った急病人らしき人が見当たらないので、当惑している。「えー、何か異常ありませんでしょうか!?」

私は駅員のすぐそばにいたため二人のささやきが聞こえた。

駅員A:「え。。。どれ?」
駅員B:「いや。ちょっとわからん。あの寝てる人かなとおもうねんけど」

確かにその寝てる男性というのは、体が斜めになりほぼ横になっている状態で、かけているメガネも思い切りずれているぐらいの爆睡っぷりなのでまあ朝のラッシュ時ではかなり浮いた存在ではあるが、そこに急病の匂いは感じられない。

その瞬間、見てしまったのだ。
その女性が口元に笑みを浮かべながら急速にそこから立ち去っていくところを!

そして頭の中で話が音を立ててつながった。

あの女性は、自分が座りたいのに一人で三人分の席を占有している爆睡男に腹を立て、もしもし!もしもし!と揺り起こしたのだ。それでも男は(寝たふりなのか本当に爆睡していたのか)全く起きようとしないので、腹いせに女は緊急ボタンまで使用し、駅員を連れてくるまでの騒ぎに発展させた。

ヒデ氏、それはあまりにもうがった見方だ、という人がいるかもしれない。もし本当に急病人だったらどうするのだ、きっとその女性にはそういう風に見えたのではないか。

それはよくわかる。しかし特にローカルなニュースにもなっていないところを見るとやはり男性自身には何も異常はなかったようであるし、結局駅員も異常は認めずさっさと帰ってしまった。何よりあの女性の笑み。。。怖すぎる。

思えば遠くから見ていた時も女性の騒ぎっぷりの割には周りに協力しようとする人が誰一人いなかったことも納得が行く。
全員引いていたのだ。そして全員がこう思っていたのだ。


「その人、ただ寝てるだけちゃうの。。。。」と。


しかしあの男性、寝たフリを最後まで敢行してたとしたら、天晴れだこれーーー!


一秒でリア一枚

2009年05月06日 | ヒデ氏イラストブログ
GWということで車で遠出する人も多いようだが、車の運転にはくれぐれも気をつけて。。。というお話。

以前住んでいたマンションでは、駐車場が立体になっていて、かなり時間がかかるのが難点だった。柵の前に止まり、備え付けのキーボックスを開き、鍵を差し込み自分のパレット番号を入力する。しばらくするとパレットが降りてくる。最後は柵が上のほうに上昇し、上がりきって完全に停止してからようやくバックで車を入庫する、といったシステムだ。このパレットが降りてきて柵が開き切るまでの間が、かなり長い。

駐車場に入ると大きく左右対称に同じシステムがあり、私ヒデ氏は右側のシステムを使っていた。左右どちらのシステムを使うかは、パレット番号によって決まっているのだ。

いつものように外出先から帰ってきて車をボックスに横付けし鍵を差し込んでパレット番号を入力して待っていると、後ろから別のワンボックスカーが入ってきた。
同じ右側の機械を使用する人だと自分が終わるまで待っていてもらわないといけないのだが、この人は左の人だったらしく、左側に備え付けてあるキーボックスに鍵を差し込んでいたので、ひとまず安心した。

ただ、駐車場に入ってくるそのスピードや、ボックスへの横付けのギリギリ度合いから見て、結構せっかちな人間であることはすぐに見て取れた。見た目も結構コワモテのおっちゃんである。

パレットがやっと降りてきたので、私は車を入れやすい角度にして柵が上がるのを待機。反対側を見ると、おっちゃんもすでに車を待機させ、パレットももうかなり降りてきている。

最初に自分のパレットがどこにあったかで降りてくる時間が随分と変わるのがこのシステムの特徴であった。私のは随分時間がかかっていたのに、おっちゃんのはすぐに降りてきたのだ。もうこうなると柵が開くタイミングが左右でそう変わらない感じになって、なんか競争のようになった。

私のほうの柵の上昇に少し遅れて、おっちゃんの側の柵が上昇し始めた。
ウィーンと柵が上がりきってからカタン、と停止するのだ。
そして自分の柵が上がって停止したので、車をバックさせようとしたそのとき。



ガッシャアアアアーーーン!


と音がして何事かと思い音のほうに目を向けると、
なんとおっちゃんの車のリアガラスが粉々に割れている。
おっちゃん顔真っ青。

原因はこうだ。

遅れて入ってきたおっちゃんは、後から来たにも関わらず、先に入庫待機していた私に追いつくほどの素早さでパレット降下までこぎつけた。ここで、不思議な競争心が芽生え、おっちゃんに気の焦りが生じる。

そして最終的に左右二つのシステムの入庫直前の最後のプロセス、柵の上昇がほぼ同時になった。ただしおっちゃんのほうは少しだけ遅い。

右のシステムを使っていた私の柵が上がりきったとき、特有のカタンという音がなるのだが、左のおっちゃんの方の柵は数秒遅れていたので開ききっていなかった。しかし焦っていたおっちゃんはヒデ氏の「カタン」を自分のサイドの「カタン」と混同し、車をバックさせた。
そしてまだ上がりきっていなかった柵におっちゃんの車がバックで激突した、というわけだ。

とりあえず私も車から降りて状況を覗き込んだ。
おっちゃんは血相を変えて車から飛び降りてきて、こういうのだ。

「ああ~ 自分(大阪弁で「あなた」、の意)のとこが上がったもんやから~」

そんな事言われてもなあ、と思いつつも気の毒だったので一応「ああ、まあ」とか言って見たのだが、時すでに遅し。

人前なのでできるだけ「たいしたことない」感じを出そうとしていたおっちゃんだが、リアのガラスは映画で見るようにこッなごなになっているのだ。。。


おっちゃんもかわいそうだが、


これから後ろに乗る人、さむゥ!



虹を作った男

2009年01月14日 | ヒデ氏イラストブログ
大学時代、私ヒデ氏は、ブログに時々登場する、友人Kと連れ立ってよく遊んでいました。
当時は今のように大型レコード店もほとんどなく、大学近くの京都河原町にヴァージンメガストアができた時は嬉しくてしょっちゅう行ったものです。
Kのバイクの後ろに乗り、二人でヴァージンでCDを物色したあと、Kの住む大阪の豊中までそのままバイクで帰り、Kの部屋で音楽を聴きながら遊ぶ、というようなことをやっては楽しんでいました。

PC修理の件でも触れたように、Kは昔から「自分でできることは何でもやってしまう」人間でした。それもKの家というのはお父さんが工務店をしているといういわば「職人」であり、
これはまさにK家全体の「家訓」といってもよいほど一家に浸透していた考え方でした。

まず驚いたのは、しばらくぶりにKの家に遊びに行くと、2階にあるKの部屋に前回までなかったはずの「トイレ」が設置されていたことです。
窓を開けた先のベランダのような部分にトイレが作りつけられていたのです。もちろん彼の父による仕事でした。
当時Kが次々と買い揃えるレコーディング機材をいじって遊んでいた我々にとっては、これは非常にありがたいリフォームで、長時間のレコーディングにも大活躍しました。

そんなある日、いつものようにKの家に遊びに行くと、2階の様子が様変わりしていました。
Kの部屋が、2階にあったもう一つの部屋とそっくりそのまま入れ替わっていたのです。もちろん、例のトイレまで入れ替わるはずはなく、Kの部屋は、ベランダはあるもののまた「トイレなし」の部屋に逆戻りしてしまいました。
Kは「両親があっちの部屋で寝ることになってな」と言うだけでした。
その日も音楽を聴いて遊び、そのまま近くの銭湯に行って、もう面倒だから泊まって明日の朝帰るわ、という流れになったのです。

今となっては細かい状況を覚えていませんが、Kは、銭湯への道すがら、「部屋を変わったのは色々心霊現象に悩まされていたからだ」と言い出しました。
聞くところによると、前のKの部屋は、夜毎、突然考えられないような爆音と共に外から窓を何かで叩きつけるような音がするというのです。
もちろん、飛び起きて窓を開けてもそこには何もないのだとか。
また、あるときKが大学から帰宅するとKの母親が「あれ?あんたおったん?さっきあんたの部屋からギター鳴ってたからおるもんやと思ってたわ」と真顔で言われるなど、
不気味な出来事が続いていました。

そんな部屋を両親の寝床にするというK家の人々の精神状態も普通ではないと思いましたが、ひとまずKはその部屋からは出て良かったのだろうとなんとなく納得して部屋に帰りました。
そして、全員が寝静まった深夜、3時ごろに僕はふと目を覚ましたのです。自分でも驚くほどの尿意で、もう我慢できない状態でした。

以前なら新設されたベランダのトイレがあったのに、部屋が変わった今この部屋にはトイレはない。。。
隣のトイレ付の部屋は、行き慣れた部屋ではあるがKの両親が寝静まっていて、部屋の構造上Kの母と父をそれぞれまたいで、なおかつ窓を開けてベランダに出なければならない。
さっき聞いた心霊現象も不気味だが、何より当事者であるK家の人々は当時夜中の物音に非常に敏感であり、
そんな状況の中、日ごろから非常に荒々しいイメージのあった、ほとんど交流のないKの父をまたいでトイレに行くとなると、物音で飛び起きたKの父に殺されかねない。。。
では1階のトイレは?これもノーでした。実はこれだけ頻繁に出入りしていながら、K家の1階には一度も足を踏み入れたことがなかったのです。
そんな未開の空間を深夜にガサゴソやっていれば、これまた新たなラップ現象と間違われ、駆け下りてきたKの父に半殺しの目に合うかもしれない。。。

色々と考えているうちに尿意は限界に達し、「もしかしてここにもトイレがあるのでは」などと考え、変わったばかりのKの部屋のベランダにトランス状態で出るなど、もはやまともな思考回路ではなくなっていました。
無意識に手はズボンのチャックを下ろしていました。


「ええい、ままよ。。。!」


深夜3時。僕はKの自宅の2階ベランダから一気に解き放ったのです。


「ああ。。。」


余りの開放感に薄れ行く意識の中で僕はつぶやきました。


「虹だ。。。」


僕が創り出したそのきらめきは、まさに真夜中の豊中の街ににかかった虹のようでした。
その美しさはある種の神秘性を含み、神々しいまでの輝きを放っていました。
バシャバシャと遠くに聞こえる着地音はまた、まるで全てを洗い流してしまう荘厳な滝壺にいるような感覚すらもたらしました。


翌朝、僕は何もなかったかのようにK家を去りました。
泊まった部屋の真下に位置する玄関で見送られるときに、地面を見ましたが、まるで昨夜の出来事が嘘のように何の跡もない乾いた地面でした。


それ以後、Kの家の一連の不思議な現象は消えました。


この出来事と関係あるのかはわかりません。






おまき

2008年11月16日 | ヒデ氏イラストブログ
思い出すのもおぞましい体験。
しかしそういった体験から学ぶかけがえの無い経験値と、知恵。
今日はもはや自分の中では常識となった「おまき」という技についてお話したいと思う。

あるとき、友達夫婦とドライブに行った。
本来の目的は今となっては何だったか忘れてしまったが、帰りの道程で見つけた、「無農薬野菜」の屋台販売に惹かれて車を止めて寄り道をした。

その安さと、田舎での開放感から我々はその晩どのみち予定していた鍋の野菜をここで調達しよう、ということになった。
そしてものすごい得をしただのなんだのと言いながら一路友人宅へ帰ったのだ。

帰ってからキッチンに立ったのはM夫婦の奥さんとマネージャMika。
M主人と私ヒデ氏は男子厨房に入るべからずということで、和室で雑談していた。
そのとき、あの事件が起こった。

最初に、カチッという音。

その直後に、女子二人の絶叫。
あの叫び声が今だに僕の耳の中にはっきりと残っている。
和室になだれ込んできた二人の女性陣は、泣いていた。

何事か分からない男子二人は、ただ事ではない雰囲気に、二人に「どうした!」と聞いた。女子二人は声も出せずキッチンを指差すばかり。我々はキッチンに駆け寄った。

新築して間もない家の、真新しいキッチンのカウンタートップは不気味なほどの静けさが漂っていて、一連の騒ぎで投げだされた包丁や、野菜の破片が散乱している。

まな板の上には、割れたかぼちゃがあった。

最初に気づいたのは、主人のほうだった。
「ひ、ひで、あれ。」

よく見ると、かぼちゃの種だと思ったものは虫の集合体だったのだ。
細かく描写するのははばかられるのだが、最初に聞いたカチッという音は、その虫が体を曲げたかと思うと急に開放して飛び跳ねる、その瞬間の音だったのだ。

全身鳥肌だった。しかしそのとき、M夫妻のこんなやり取りがはじまった。

奥さん:「ちょ、ちょっとなんとかして~ッ!」
主人:「何とかって、どうすんねん!」
奥さん:「おまきで。。。おまきで取ってよ!」
主人:「ああ。。。!そうか。わかった」

おまき・・・?この緊迫した事態に、そのコミカルな響きの単語を聞いて驚いたのだが、僕とマネージャMikaはこの後、おまきの正体とその実力に唖然とする。

「おまき」とは、絶対触りたくないものを取るときの「掴み方」なのだ。身近な例で言うと「殺したゴギブリの遺体処理」のようなケースだ。いくら分厚いものを使っても、普通に取るとどうしてもそのボディにタッチする感覚を我慢しなければならない。おまきは、それを回避する画期的手法だ。手順は以下:

1.対象物に二つ折りにしたティッシュを近づける。


2.対象物にそのティッシュをかぶせる。


3.ティッシュの両サイドを持ったまま、互い違いにねじる。


4.対象物が巻きとられたことを確認する。



結局、おまきにより僕らはこの虫を全部取り払うことが出来た。
この事件以来、ウチではおまきは常識となった。
ご主人は、キャンディの包装紙を見てこのおまきを思いついたのだという。
特許はもちろん、個人的にはノーベル平和賞でもいいと思う。

今日から、実践しよう、おまき!


ロングエスカレーター

2008年07月18日 | ヒデ氏イラストブログ
朝の電車というのは不思議な倦怠感を持っていて、
皆じっと黙ったまま新聞を読んだり音楽を聞いたり
一応能動的に活動しているように見えてどこかぼけーとしている。

自分もそんな状態だった。
特に乗り換えのときなど、乗り換え過程が後から全く思い出せない、
なんてこともままある。それほど放心しているのだ。

しかし、今日の乗り継ぎでの出来事は忘れられない。

電車から降り、次のホームへ向かう途中、
結構長いエスカレーターに乗る。いつもは割と左側(関東における右側)をすたすたと上っていくのだが、今日はなんとなく右側に留まり止まっていた。

そのとき、腰の辺りに違和感が。

完全にわさわさと人間の手が僕の腰の辺りを動いている。
故意に触っているとしか思えない手つき。
不思議なもので、最初の数秒間は自分の身に起こっていることとは思えず、
触られているのを分かっていながら何の反応もできなかった。

「な、なんと痴漢か。。。?しかもゲイの痴漢?」

しかも分かりやすい尻とかではなく、
いわゆる腰より少し上の、つまり肉が付いている場合浮き輪と呼ばれるような部分だ。

(な、なんちゅう趣味や。。。)

僕は戸惑った。エスカレーターというオープンな場所で仕掛けてくるこの大胆さ、そして長いとはいえ何分も乗っているわけではないそのわずかの間に浮き輪付近をまさぐってくる変態。。。

しかしこれはきっとエスカレーターから降りた瞬間何事もなかったかのようにスッと離れるという作戦なのだろう。片をつけるならエスカレータが終わる前に決断しなければならない。。。!僕は自分の目を普段の2倍に見開いて(つまり常人の5倍程度)振り返った。。。!





はまちゃんでした。


※はまちゃん:ヒデ氏の高校時代の親友。朝の地下鉄御堂筋線本町駅の利用者数、また彼の勤務先などを考えてもこの時間にこの場所で会うことはまずありえないはずだが、この日はたまたま彼が勤め先を休んでいつもと違う路線に乗ったのであった。はまちゃん曰く、「エスカレータ乗ってふっと前みたらお前やったから。。。」


ムチウチの刑

2008年06月28日 | ヒデ氏イラストブログ
来週、事情がありシンガポールに行くことになった。
行ったことのない国なので楽しみではあるのだが、
こないだ、兄夫妻とメシを食っているとき。

シンガポールに行く旨を話すと、兄曰く

「むちうちの国やな。」

そういえば、聞いたことがある。
シンガポールでは法律違反に対して「鞭打ちの刑」があるのだ。
小部屋みたいなとこに通されて背中やお尻にイガイガの竹の棒みたいなもんで何回も打ち付けられるらしい。
昔アメリカ人の青年が鞭打ち刑の判決を受けたときいて、米大統領がいちゃもんをつけたとか、なんかそんな話もあった。

ああ、そういやそんなんあったな、
と返していると、横で青ざめているマネージャMika。

Mika:「なんというむごい。。。」

うーむ、確かにむごいといえばむごいが話題になってるのは時代錯誤的なとこであってむごさから言うとどうなんかなーという話をするのだが、
どうも話がかみ合わない。

すでに彼女の中では刑執行のプロセスが確立していた。

名前を呼ばれ、暗室に通される。
ヘッドレストがない形のイスに座らされ、身体は縄で何重にも縛られイスにくくりつけられる。
前を向いているように指示され(どのみち真っ暗なため後ろに何があるかも見えない)、冷たい汗をかきながらじっと前を見つめて待つ。

突如、寺の鐘付き用のような丸太でイスの背面を突かれる!ガッツン!
「ぐああッ!」

そして叫ぶ刑務官。

「どや、ムチウチなったんかー!」

「ま、まだです~!」

ギリギリと音を立てて闇の中に戻っていく丸太。
再び来るのは分かっていても、身動きがとれず心の準備はおろか体も硬直したままだ。突如、再び丸太が襲う!

ガツン!

「ぎええ!」


「どや、ムチウチなったんかー!ムチウチなったんかー!」

「な、なりました~!もう、なりましたから~!」

「嘘や!まだなってへん!」

「あああ~!!」

ガツン! ガツン!


確かにむごい。




駆け込みリハ

2008年05月14日 | ヒデ氏イラストブログ
まあそれにしても電車ネタが多い。
利用の頻度が激しいので仕方がないのかもしれない。
ほんのちょっとした事が気になってくるのだ。

しかしこれは「ほんのちょっとした」などというハートフルな感じではない。
最近、駅のアナウンスがおかしいのだ。

世界的にも有名な日本の駅の「やかましさ」。
過剰なアナウンスも親切を通り越して単なるノイズと化し、
電車が入ってくる際のメロディも正直言って本来の目的を超越して
もはや駅の雰囲気を醸しだすための効果音にしかなっていない、と思う。

最近顕著に異変を感じるのが、駅員アナウンスだ。
電車に乗る。

「○○、○○ お忘れ物のないようにお降りください」
「この電車は○○行きです 次は○○に止まります」

ここまでは普通だ。
最近はここで、突如平静を保っていた車掌のテンションが最高潮に達する。

「か、駆け込み乗車はおやめくださぁぁーーーい!!」

一体何が起こったのだ、その声だけを聞くとものすごい形相のサラリーマンが駅員の再三の注意を振り切って、カツラがとれるのも構わず突っ込んでくる図を想像するほどだ。

最初は相当無謀な輩がいるのだな、ぐらいに思っていた。
しかし毎日毎日、同じように静か目のアナウンスの後に突如マイクが割れるほどの音量で叫ぶのである。

ここで言っておきたいのは、何もいわゆる「名物車掌」のことを言ってるのではない。皆一様にそういう言い方をするのだ。それが怖いのだ。

ある朝、GWの間でいつもより通勤客も少ない時、やはりこのアナウンスが出る予兆を感じた。ドア際に立っていた僕はどうしても確かめたくなった。
「この電車は○○行きです。次は○○に止まります。。。」

来る。絶対に来る。なぜなら最後の「す」がもう次のあの言葉のために
波形にすれば右肩上がりのカーブを描いているからだ。

「か、駆け込み乗車は・・・~!」

やはり来た!僕は勇気を出して顔をホーム側へ突き出しホームを見渡した!
右、進行方向を確認!駆け込み乗車人は居ない!ではこっちか?左に首を振る!

誰もいない。。!僕の首を除いて、ホームと電車の間に障害物は全くなかったのだ。。。!

「お、おやめくださぁ~い!!」

こ、怖すぎる。
人っ子一人居ない、よく晴れたホームに響き渡る車掌の声。
いや、もしや彼にはそこにはいないはずの駆け込む誰かが見えているのか。。。

これは推測だが、ダイヤを守るための障害となる駆け込み乗車を減らすために、乗客の危機感を煽るために切羽詰った感じでアナウンスするよう会社から通達がでたのではないか。だから皆同じ調子で叫ぶのではないか。僕はそう見た。

しかし実際に見えてないのにこの緊迫感。まあいわばリハである。
これが本番、つまり本当にすごい駆け込みがあったらどんだけ迫力が増すのか。

ただでさえ殺伐としている朝のラッシュ時なのだから、
同じ叫ぶにしても

「お、お出口は右側でしたぁーッ!」とか、
「しゃ、車掌は僕だぁ~!」など
ウィットに富んだコメントにしてくれたらいいのに、と思う。










かぜつき。

2008年01月10日 | ヒデ氏イラストブログ
今回は関西の方にしかわからないかもしれない話ですがあしからず。

先日、電車に乗っていると、目の前に若い女性3人。
全員かっちりとスーツを着ていて、標準語で話す彼女たち。
どうも出張、もしくは何かの研修で来阪したという様子。
爪には綺麗なネイルアートが施されておりなんとなく美容関係の仕事か、と思う。

いわゆるドア横の特等席に立っていた僕は、
同じようにドアの前に立つ彼女たち3人の会話を何気なく聞いていた。
ドアの上の長細い停車駅一覧を見ながら、

「うわ~この電車って神戸から大阪通って京都までいくんだ~」
「関西の人っていいよね~ 観光しまくりだよね、奈良とかも近いじゃん」

と感激。うんまあそうやけど、と思いながら耳をそばだてていると、
3人のうち一人は関西へ来たことがあり、「そうだよ」「知ってるよ」というような返答をしている。
あとの2人はまったくの初関西らしく、驚きっぱなしだ。

「電車のなか、思ったより静かだよね」
「電車のアナウンスは標準語なんだね」

と微笑ましい誤解たっぷりの発言に、関西経験者の女性も「あたりまえじゃ~ん」と笑っている。
しかし、話題が変わりどんどんこの唯一の経験者にもわからない事が次々と出てくる。。。!

「でさ、今から行くとこってなんてとこだっけ」

「えっとね、阪急。。。なんとか。阪急320番街だったかな」

さ、320番街。。。 32番街やろぅ。。。!

「梅田ってとこだよね?大阪から歩いていけるのかな?」

ごめん大阪は梅田やねんー。全然歩けるねん。

僕は心の中で叫んでいた。
ああ 教えてやりたい。すぐ目の前にいるこの迷える子羊たちに救いの手を。
しかし僕にはそれをする勇気がない。 なぜなら―――。


新手のナンパ。


そう思われることへの恐怖。
たった今まで無害に思えた向かいの男が突如彼女たちの目には軽薄な関西人として映り、
警戒心丸出しの視線を投げかけられたらどうする。
やばい、こわいよ、目大きいよ、と無視されたらどうする。
でもさっきから一番手前の彼女はこっちをチラチラ見てるような気がする「現地の人に聞く?」とでも言わんばかりの視線だでもそういう俺の思い込みこそがまるで変態の思考回路そのものなのでは云々・・・

ギリギリで思いとどまった僕の目の前で、更に会話が続いた。

「で、なんて店だっけ」

「あ、店の看板ね、写メもらってるんだー えっと、これ。」

そういって経験者が差し出した携帯の画面には、
関西人なら誰でも知っている漢字2文字のあの店の名前があった。

3人は声を合わせ、首をかしげながら言った。


「かぜ・・・つき?」


その瞬間電車は大阪に到着しプシューとドアが開く。どっと降りる人々、乗り込んでくる人々。
だめだ。もう我慢できない。今しかない―――。
「ここで降りるんだよね?」と迷っている彼女たちの横をすり抜けると同時に耳元でささやいた。


「ふうげつ。」


心臓が頭にあるのではないかと思うぐらいずきずきと頭蓋骨に鼓動を感じながら、
僕は小走りで駅の階段へ進んだ。

はあ、はあ。よかった。オレは人助けをしたのだ。
変態に声をかけられる前に救いの手を差し伸べたのだ。はあはあ。
あ なんかそういえばふうげつの「ふ」のときふわっとあの子の髪の毛が浮いたような気がする、それにしてもいいことをしたなあ はあはあ。振り向かないぞ、決して。たとえあの娘たちが敬意の眼差しで俺を慰留していようとも。
しかし世の中にはああいう女の子に隙あらば声をかけようとする気持ち悪いヤツがいるからなあ 彼女たち気をつけないと。

ほんとそう。

あれ?

俺?






おっちゃん

2007年11月16日 | ヒデ氏イラストブログ

「ええッ!!??」
それまで色々な方向を見つめていた車内の顔が一斉に二人に向けられた。

凍りついた表情の男性、
その男性に刺すような視線を浴びせる女性。

F駅に到着した電車のドアは無常にもプシューと音を立てて閉まり、
固まった二人を乗せたまま動き出す。


話は20分前にさかのぼるーーー。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

電車内での他人の会話、人はどの程度聞いているものだろうか。
僕はものすごい聞いている。もちろん、外見上は全く無関心を装ってのことだが。

とある電車に乗り込んだ時、そこに年齢差の大きなカップルが乗っていた。
男性の方は言っては失礼だが見た目はまさにしょぼくれたサラリーマン、といった風貌で折れそうなくらい細い。年齢は、50代は間違いないだろう。
一方の女性のほうは、歳の頃30代後半、決して美人とも言えず気だてもよくないが仕事はきっちりやります、といった感じに見えた。

僕が乗り込んだ時には既にドア際に立っていた二人。時間も遅く空席も目立つ車内だが二人は立ったまま会話している。その声がまた大きく、車内に響き渡る。

「なあ おっちゃん、私のこと好き?」

二人とも酔っているのだろう、特に「おっちゃん」のほうは何か別の乗り物に乗ってるかのように揺れ、両手でつり革を持っているものの、それを軸に恐ろしいほどの大きな円を腰で描くほどの酩酊状態。

「う~ん そらなぁ~ まあなぁ~」
目を瞑りながらはぐらかすおっちゃん。会話から察するに、女性のほうはおっちゃんに相当気があるらしく、異常なほど何度も自分の事が好きかと問いただす。問いただしているといっても、猫なで声でおっちゃんに擦り寄りながら言っているのだ。

「なあ どうすんの、私、降りてもええの~?」

どうも、女性はほどなく到着するF駅で下車、おっちゃんはその先に住んでいるようだ。
F駅で下車してしまってもいいのか、と引き止めてくれ感丸出しの女性。

僕が乗車してからすでに10数分が立とうとしているが、
すでに女性は何度も何度も同じセリフをおっちゃんに投げかける。
顔をおっちゃんの胸に埋めながら、その手はおっちゃんのスーツの袖を引っ張る。

「なあ おっちゃん、私のこと好き?」

どうやらF駅に到着するまでにどうしてもその答えが欲しいようなのだ。
相変わらず円を描きながらはぐらかすおっちゃん。

この時点で車内の9割の人間がこの二人の会話を聞いていたと言っても過言ではないと思う。
みなそれぞれ会話を交わしたり本を読んだりしている素振りはしているが、
その耳は一点集中である。そして全員がおっちゃんに心の中でこう問いかけていた。

(おっちゃん、どうなんだ!)

いくら酔っているとはいえ、いや酔っているからこそ適当に答えてしまいそうにも見える状態で、頑なにその核心部分は回答しないおっちゃん。それは裏を返せば、ここで「好きだ」と言ってしまえば二人の関係に大きな変化が生まれてしまい、すなわちそれはおっちゃんにとって都合の良くない展開だということだ。
ここまで泥酔してもそのルールを守るとはよっぽどだ。
次がF駅だ。車内アナウンスが流れる。
減速する電車のスピードと反比例するように二人の攻防はますますヒートアップするばかり。

女性が10度目になろうかという同じ質問を繰り返した。
「なあ おっちゃん、私のこと好き?なあ!」

おっちゃんは、答えた。
「う~ん、まあ好きというわけではないけども。。。。」

その言葉を聞くや否や、
女性は途端におっちゃんの胸を突き飛ばし、
恐ろしいほど冷たい声で言い放った!


「じゃ、なんであんなことしたん!」


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