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結晶を作る技術2 FZ法

2015年06月27日 | 結晶技術
Nd:YVO4というレーザーデバイス用結晶を例に挙げて、結晶製造についての従来技術の課題をご説明しました。
では、現在の技術で高品質結晶は作れないかというと、必ずしもそうではありません。
フローティングゾーン(FZ)法という方法を使えば、高品質な結晶をつくる事ができます。

FZ法は、原材料を細長い棒状に焼き固めてぶら下げたものと種結晶との間に原材料融液の帯をつくり、その融液から結晶を析出させる技術です。



坩堝を使いませんから、CZ法で酸素欠損不純物や坩堝の酸化物が結晶中に異物として入り込んでしまうような、結晶純度に係る問題は発生しません。
付け加えると、イリジウム(Ir)のような超高価な金属でできている坩堝を使いませんので、ランニングコストはとても低く抑えられます。

さらに付け加えると、CZ法では大問題となる偏析の問題も、FZ法では大きな問題になりません。

ちょっと詳しく説明しましょう。
Nd:YVO4結晶で、YVO4結晶にちょっと加えてYと置き換えるNdを、ドーパントといいます。原材料のドーパント濃度がa%のとき、結晶中に入り込むドーパント濃度がa×0.6%だとします。このとき偏析係数0.6といいます。

FZ法でNd濃度a%の原材料からNd:YVO4結晶をつくることを考えます。
初期にできた結晶は、Nd濃度がa×0.6%です。結晶に入れなかったNdは原材料融液中に留まりますから、原材料融液のドーパント濃度はa%よりも高くなります。結晶や融液の体積がわからないので具体的な数字にはしにくいですので、a+b%になります。
原材料融液の濃度が高くなるので結晶中に入り込むドーパントの濃度もだんだん高くなりますが、融液にはドーパント濃度a%の原材料が随時継ぎ足されているので、融液側のドーパント濃度の上昇は激しくはありません。
だんだん融液のドーパント濃度がたかくなっていき、1.666...×a%になったとき、析出する結晶中のドーパント濃度は1.666...×a×0.6=a%になります。
融液に供給される原材料のドーパント濃度はa%ですから、これ以上融液のドーパント濃度は高くなりません。結晶として出て行った分だけ原材料から入ってくる。バランスされるわけです。



ここから先は、ドーパント濃度が一定の結晶が出来続けてくれます。

このように、FZ法では高純度で均質な結晶を作る事ができます。

では、なぜ結晶製造方法といえばCZ法で、FZ法はあまり使われていないのでしょうか。
(これは初めて書きましたね。 結晶製造にFZ法は殆ど使われていません)

一言で言えば、結晶が細すぎてデバイスの取れ数が少なすぎるためです。

結晶の作りやすさは材料ごとにまるで違います。
例えば例に挙げているNd:YVO4結晶の場合、CZ法だと直径4センチ、長さ7センチくらいの結晶を1週間くらいかけて作ります。
FZ法では、直径8mm、長さ7センチくらいの結晶を1日で、と言ったところでしょうか。
直径が5分の1なので、長さが同じでも体積は25分の1です。
デバイスの取れ数は25分の1以下ですね。
(切断時の切りしろを考慮すると、かなり少なくなります。)
かかる日数は7分の1なので、その分フル回転するとして、一つの結晶製造装置から作られるデバイスの数は4分の1。装置への材料等のセッティング工数を考えると、デバイス一つあたりの結晶製造コストは10倍くらいになってしまうわけです。

CZ法で作られた結晶の品質では使えないような高性能や組成の均質性が求められる用途で、ようやく比較ができるようになる、と言った感じでしょう。

高品質な結晶が求められる場面。例えば、ものすごく高度なデバイスを作るとか、あるいは素材の基礎研究をするとか、そういう場面ではFZ法が使われているようです。
ようです、と言うのは、やはりそうは簡単な問題ではない、という事です。

FZ法は難しいです。

細い結晶と細い原材料焼結棒との間に融液が表面張力だけで保持されているのです。原料棒がちょっとでも揺れたりしたら融液は垂れ下がってしまいます。




原料棒は、原材料を高温で焼き固めて焼結体にしたものです。
混ぜ合わせた物質それぞれが残っていたり、一部反応したりしたものの混合体です。焼結体なので、一つ一つの粒子の内部と表面とで組成が違ったりもします。
均質に焼結するには、セラミックスの高度な技術が必要になります。
結晶を作るためにセラミックスの高度な技術が必要・・・なんだか訳のわからない話になりますね。
いずれにしろ、原料棒はセラミックスなので、密度は100%ではありません。組成のムラもあります。原料棒が融液と接している部分の表面超力が融液を支えていると言いましたが、この界面では融液が原料棒の空孔に吸い込まれたり、一部溶けやすい部分から先に溶けたりします。 酸化物は溶けると光を吸収しやすくなるので、一部溶けた部分はどんどん高温になり、周囲の原料を溶かします。こうして、原料の溶けやすい部分が一気に溶けて、界面の形状が不均質になります。 こうなると融液を維持するのが難しくなり、融液はたれてしまいます。



FZ法には、少なくとも一般的な自動制御アルゴリズムはありません。
仮に全てがうまくいっていたとしても、そのままうまく結晶ができるかは、神のみぞ知る、そして匠の技が神の声に少し近づく。そんな感じです。

材料の研究を進めたい研究者や、論文を書きたい大学院生、高度な試作的デバイスを製造するデバイスメーカーの開発よりの製造部にとって、これは大きな負担です。
材料研究のハードルを下げて地球と共生するモノづくりの世界を創りたくても、高品質な結晶デバイスで社会に貢献したくても、その方法が存在しないというのが実情なのです。




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