あきさんのゲーム・映画感想

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ザ・キラー

2023-11-21 19:06:00 | Movie


ザ・キラー

監督 デヴィッド・フィンチャー
2023年


 映画感想
 Netflixで視聴。

 面白い。
 映画館で観たかったですね。

 特徴的なオープニングクレジットはアートティックでお洒落でした。

 なにより主人公たちの疲れている感じはデビット・フィンチャー監督ならではで、これを観るためにお金を払っているまであるのでそこは後述するとして。

 まずは映画の概要です。

 この映画。
 シンプルに言えば殺し屋の復讐劇です。もう少し言えばジョン・ウィックのお洒落サスペンス映画版、緊張感が常に続くアクションスリラー映画です。監督の日本好きも垣間見える点も同じですね。

 主役の俳優マイケル・ファスベンダーがドイツ系なことがミソでして、彼が演じる殺し屋のいかにもドイツ人な神経質っぷりには説得力がありました。

 特にマイケル・ファスベンダーの自然な疲れ具合とストレスフルな殺し屋という仕事の親和性は素晴らしく、演技には魅せられるものがありました。

 私が最も好きなシーンは物語の後半、駐車場のシャッターをくぐり潜入するシーン。

 本当、なんでもないただのシーンで、車が出る際に自動シャッターが開き、その数秒を利用して潜入するだけのちょっとしたシーンなのですが、そのときのマイケル・ファスベンダーの背中が疲れ果てていて哀愁があり、非常に魅力的で印象的だったのです。

 また、別のシーンにて、レストランで殺されることを悟ったターゲットが彼に最後の晩餐だと話を延々としているシーンがあるのですが、あのときの虚無な表情も素晴らしかったですね。


(↑デヴィッド・フィンチャーについての本。所持することで満足してしまった税抜4,500円。ちくせう)


 映画って基本的に「よし! 良い演技するぞ!」って気合を入れて撮影します。ゆえに虚無な表情は生まれない。力の抜けた演技は非常に難しい。

 邦画で良くあるのですが、力が入るゆえに演技臭くてリアリティがなく大げさで、私には邦画は保育園のお遊戯会みたいに観えちゃうんですよ。泣き叫ぶシーンなんてまさにそう。そんなこと生きててほぼない、嘘くさいシーンです。邦画あるあるです。

 もちろんそれが好きな人もいます。しかし私はそういう演技はミュージカルで観たいタイプなので、映画には求めていません。その方向性ならばミュージカルの方がより魅力的で、よりダイレクトに演者の迫力や感情表現が伝わってくると考えているからです。

 そういう点では、今年観た邦画である庵野秀明監督の「シン・仮面ライダー」は最高でしたね。撮影方法に批判のあった映画でしたが、私は庵野秀明監督の言っている意味が良く伝わってきました。ホンモノが撮りたいんですよね。黒澤明監督のような、深作欣二監督の「仁義なき戦い」のような。怪我をするでしょうけど、それ込みで。

 そして、このザ・キラーでは映画にありがちな「演技するぞ!」があまりありません。

 なぜなら、デビット・フィンチャー監督が同じシーンを数十回、ときには100回を超えるリテイクを俳優に要求してしまうからです。

 5分を超えるシーンを90回以上リテイクした映画「ソーシャル・ネットワーク」は非常に有名な話となっています。

「うーん。これがいいかな。やっぱりこうかな。もしかしたらこうかも」

 と、彼は小物の位置や俳優の立ち位置、カメラや音響やらなんやかんや変更したりしつつ、何度も何度も同じシーンを繰り返し撮影します。

 すると俳優は最初、映画監督によくある「意図的で性格のめちゃくちゃ悪い意地悪」だと思って撮影に根気よく望みますが、次第に疲れてき、だんだんイライラします。そして情緒が不安定になったり、虚無になります。もちろんセリフは完璧に、その上、自然となります。

 それが今作「ザ・キラー」です。

 殺し屋を演じるマイケル・ファスベンダーは映画の中で常にストレスフルです。疲れており、ストレスを抱え、虚無になっています。それが殺し屋という危うい立場と見事にマッチしていて、さらに凄腕という設定と彼の自然体な動作にも素晴らしいケミストリーが生まれています。

 先に述べた私の好きなシーンもそうした産物です。

 もしかしたら。
 今年観た映画の中で1番好きかもしれません。