2005年8月23日のことだったと思う。
私は収録を終えてスタジオを出た。
3時を過ぎた頃だった。声優のM君が朗読を噛みまくったので編集に時間がかかり、予定より1時間半近く押して帰途についた。
スタジオのロビーで食べるはずだった昼食用のパンを持ち、私は近くの緑地公園へ行った。
公園の傍にあるカフェの前で、店のお姉さんが何か小さな動物を手に持って、あやしているのが見えた。あ、子猫だな、と思った。
彼女のそばを通り過ぎたとき、はっきりと見た。それは手のひらにのるほどの小さな子猫だった。哺乳瓶からミルクを与えられていたが、上手く飲めていないようだった。他にも彼女の足元にある段ボール箱の中に何匹かいるようだった。
私は通り過ぎて、ほど近くにあるベンチに座った。そうして彼女と猫たちをちらちらと見ながらパンを食べた。食べながら、どうしてカフェのお姉さんが子猫にミルクをやっているのかを考えた。彼女の困ったような顔つきから、カフェで飼っているようには見えなかった。近くに捨ててあったのだろうか? カフェで飼うつもりがないのなら、子猫たちはどうなってしまうのだろう? 生きていけるのか?
パンを食べ終わると、私はお姉さんのほうへと向かった。何と言って話しかけたかは覚えていない。
子猫たちは朝、カフェの入っている大きなビルの前に捨てられていたのだという。
お客さんたちがミルクや哺乳瓶を買ってきてくれたと彼女は言った。
「店の中に入れるわけにはいかないし、どうしよう」
困り果てているようだった。
段ボール箱の中には子猫が2匹いた。ミュウミュウと弱々しい声で鳴いている。まだ目も明いていなかった。ほとんど動かない。もう死にかけているようにも見えた。
私は咄嗟に、
「獣医さんに診せますから、連れて行ってもいいですか?」
と、お姉さんに訊いていた。
それからなんと言ってやりとりをしたかは覚えていないが、私は子猫合計3匹を段ボール箱に入れて両手で抱えた。小さな箱だった。これなら電車でも持って行ける。箱の中に猫用ミルクの缶と哺乳瓶も入れてもらった。
そうして公園を出て、虎ノ門駅から地下鉄に乗った。渋谷で京王線に乗り換えて家を目指した。子猫たちは箱の中で小さく声を上げていた。片手で吊り革を持ち、もう一方の手で箱を抱えるようにして電車に揺られた。私の前に座った老婦人が、箱の中を察してこちらに微笑みかけてくれたのを覚えている。
もしあの日、天気が雨だったら?
もし私が仕事をしていなかったら?
M君が原稿を噛まなかったら?
猫たちとの出会いはなかった。
めぐりあわせとは不思議なもので、そう考えると私は今でもM君に少し感謝したいような気持ちになるのである。
私は収録を終えてスタジオを出た。
3時を過ぎた頃だった。声優のM君が朗読を噛みまくったので編集に時間がかかり、予定より1時間半近く押して帰途についた。
スタジオのロビーで食べるはずだった昼食用のパンを持ち、私は近くの緑地公園へ行った。
公園の傍にあるカフェの前で、店のお姉さんが何か小さな動物を手に持って、あやしているのが見えた。あ、子猫だな、と思った。
彼女のそばを通り過ぎたとき、はっきりと見た。それは手のひらにのるほどの小さな子猫だった。哺乳瓶からミルクを与えられていたが、上手く飲めていないようだった。他にも彼女の足元にある段ボール箱の中に何匹かいるようだった。
私は通り過ぎて、ほど近くにあるベンチに座った。そうして彼女と猫たちをちらちらと見ながらパンを食べた。食べながら、どうしてカフェのお姉さんが子猫にミルクをやっているのかを考えた。彼女の困ったような顔つきから、カフェで飼っているようには見えなかった。近くに捨ててあったのだろうか? カフェで飼うつもりがないのなら、子猫たちはどうなってしまうのだろう? 生きていけるのか?
パンを食べ終わると、私はお姉さんのほうへと向かった。何と言って話しかけたかは覚えていない。
子猫たちは朝、カフェの入っている大きなビルの前に捨てられていたのだという。
お客さんたちがミルクや哺乳瓶を買ってきてくれたと彼女は言った。
「店の中に入れるわけにはいかないし、どうしよう」
困り果てているようだった。
段ボール箱の中には子猫が2匹いた。ミュウミュウと弱々しい声で鳴いている。まだ目も明いていなかった。ほとんど動かない。もう死にかけているようにも見えた。
私は咄嗟に、
「獣医さんに診せますから、連れて行ってもいいですか?」
と、お姉さんに訊いていた。
それからなんと言ってやりとりをしたかは覚えていないが、私は子猫合計3匹を段ボール箱に入れて両手で抱えた。小さな箱だった。これなら電車でも持って行ける。箱の中に猫用ミルクの缶と哺乳瓶も入れてもらった。
そうして公園を出て、虎ノ門駅から地下鉄に乗った。渋谷で京王線に乗り換えて家を目指した。子猫たちは箱の中で小さく声を上げていた。片手で吊り革を持ち、もう一方の手で箱を抱えるようにして電車に揺られた。私の前に座った老婦人が、箱の中を察してこちらに微笑みかけてくれたのを覚えている。
もしあの日、天気が雨だったら?
もし私が仕事をしていなかったら?
M君が原稿を噛まなかったら?
猫たちとの出会いはなかった。
めぐりあわせとは不思議なもので、そう考えると私は今でもM君に少し感謝したいような気持ちになるのである。