朝日新聞の朝刊、建築家・安藤忠雄の講演記事が載っていた。
全文はこちら →
主題なき時代をどう生き抜くか_安藤忠雄さん「求めれば道は開く」
自分用にメモしておこう。『遊びと思考』という内容が面白い。
■大学と知識
自分の考えを話すには自分の価値観がいる。価値観を持つには知識が必要です。私は大学教育を受けていませんから、勉強で迷っても自問自答を繰り返すしかなく、なかなか自分の考えを見いだせませんでした。独学で一番つらかったのは、同じ問題を語り合える同世代の人がいないことでした。
■個人と社会
同潤会青山アパートは、関東大震災の後、頑丈で安全安心な住宅をと考えて作られた、日本最初の集合住宅です。約13年前に呼ばれて、アパートをどうするのか、100人以上地権者全員と徹底的に話し合いました。対話から新しいアイデアも出てきました。スロープは地権者の提案です。
建築は個人の表現であると同時に、社会的な期待も担っている。真剣に対話すると道が開けてくる大切さを知りました。
■震災と復興
自然(地震)に対抗する力は建物の強度ではなく、個人個人がどうお互いに助け合い、生き延びていくかを考えることだと知りました。見知った町で、知り合いの家が崩壊し、知人が亡くなる。価値観が変わりました。生きているものは死ぬ。建物は倒れる。自分に何ができるかを考えながら、ひたすら被災地を歩いたのが昨日のようです。
■大阪と東京
元気よく、夢かけて走っていた私に「夢を買いたい」と思い、チャンスをくれたクライアントが20人近くいます。
お気の毒な彼らのためにもがんばらないといけない(笑い)。
#「住吉の長屋」
日本建築学会賞受賞。建築家デビュー作品。
自然との共生を提案した家。打ちっ放しコンクリートで、冷暖房機もない。
中庭には屋根がない。雨の日は傘を挿さなければ、寝室からトイレに行けない。
便利さでは住み手に大きな犠牲を強いる家。
高名な建築家から「これは頼んだ人が偉い」と言われた。最もな批評だと語る。
2016年東京オリンピック(プロジェクト)を引き受けた理由は、64年の施設を補強して使うと同時に、お台場の先に海上の森を作る提案を都知事が受け入れてくれたからです。海に森を作ることで、経済大国以外の顔を持った文化、自然環境を大切にする都市ができないかと考えたのです。緑地率を上げ、皇居、東宮御所、明治神宮、神宮御苑、官庁街をつなげていくと、森の中に都市ができる。パリやロンドンとは違うアジア発の未来都市のモデルにしていきたいと考えています。
■遊びと思考
我々の時代は、遊びは子どもたちが自分で探すものでした。
今はコマシャーリズムがつくった遊びで遊ばされている。本来、遊びは子どもが友達と過ごす中で、人との付き合いや年長者への敬意、命の尊さ、自分自身の発見といった心身の成長に必要な経験を積むための場です。相撲とか野球、
魚釣りなら、釣るえさや道具を工夫することを考えた。けんかの仕方もそうです。年齢とともに遊びが変わり、大人になっていった。遊びで考える時間は、自分を発見する時間なのです。
その遊びの時間と場所を塾とゲームが奪ってしまった。豊かな社会で子どもたちは悪戦苦闘しています。
親子関係の問題は深刻です。
子どもの親に対する尊敬の念が薄い。だけど親が尊敬されるには、親が子どもを真剣に育てなくてはいけない。しかし、親は子どもがいい塾へ行ったら、後はほったらかし。一流の大学に入ったら、親は万歳と思っている。
まず親が子どもに対する姿勢を正すことから始める問題でしょう。
「どう生きるか考えろ。可能性は自分の中にある、あきらめるな。しかし頑張らないと可能性はない」目標を作ってがんばれば、可能性があることを分かっていない。可能性は自分の中にあって、学歴にあるのではないのです。
■建築と希望
建物はよくても悪くても、箱は箱です。命を与えるのは使う人たちでも、
どう育てていくのかは、作った側の問題でもあります。休日は手がけた各地の文化施設を訪ね、イベントなどに参加しています。
自治体は新しい物を作るより、
今あるものをどう育て、どう運営していくか、意識転換を図る時に来ています。
生活の豊かさは物質的充足とともに精神的充足を得て初めて実感できるものですから、人々に文化を伝える博物館、美術館は社会の屋台骨を支える重要な存在なのです。