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孔子学院

2018年04月15日 09時15分00秒 | 国際・社会



「文化スパイ機関」発言で解任 「中国」を発信 日本には14私大 管轄あいまい「あまりに無防備」

 世界遺産に登録されている京都・金閣寺から十数分歩くと、閑静な地域の一角に白い大きな建物が姿を現す。戦争や平和をテーマにした展示をしている「立命館大学国際平和ミュージアム」だ。2階に上がると、「立命館孔子学院」の看板が目に入る。

 室内には赤提灯など中国の伝統的な装飾が施され、壁には平成19年に中国の前首相、温家宝が立命館大を訪れた際の写真パネルも掲示されている。

 「ご自由にお持ち帰りください」との案内とともに、中国共産党の機関紙「人民日報」(海外版)の束が置かれている。

 孔子学院は中国語と中国文化教育を世界に普及することを目的として、中国政府が海外の教育機関内に設置している非営利教育機構で、16年に始まった。

 中国では1970年代前半、文化大革命中の「批林批孔(林彪と孔子を批判する)」運動で、孔子を始祖とする儒教は大打撃を受けた。最近では中国文化のシンボルとして利用しており、学院にも「孔子」の名前を冠したとみられる。

 設置には、日本の大学を運営する学校法人と中国教育省傘下の国家漢語国際推進指導小組弁公室(漢弁)との調印が必要で、日本の学校法人とパートナーとなる中国側の大学との共同運営の形を取る。カリキュラムや教材は孔子学院が提供し、資金は中国政府と日本の学校法人が折半するのが原則という。

 講師は中国の大学から派遣され、講師の給与は漢弁が支給する。中国の大学への留学支援のための奨学金制度もある。


 現在、日本には14の私大で「孔子学院」が設置され、小中高などには「孔子課堂」「孔子学堂」が8カ所ある。

 日本の「第一号」にあたる「立命館孔子学院」は、学校法人立命館と北京大の共同運営で17年10月に設置された。地域貢献、国際交流、国際相互理解への寄与を目的とし、約300人が中国語などを学ぶために通っている。

 学院長の宇野木洋は「孔子学院を中国の出先機関と見る方もいると思う。しかし、僕らは中国とは切っても切れない関係の中で、相互関係は絶対に必要だと考えている」と語る。

 それでも、孔子学院に対しては中国共産党思想の政治宣伝や中国政府のスパイ活動に利用されているとの指摘は絶えない。米連邦捜査局(FBI)長官、クリストファー・レイは2月の上院情報特別委員会で、孔子学院が「捜査対象」になっていることを明かした。

 日本でも22年に大阪産業大の当時の事務局長が組合との団体交渉で孔子学院について「(中国の)文化スパイ機関」と発言し、職を辞す事態となった。

 元事務局長は産経新聞の取材に「インフォーマルな組合の話し合いの時に、孔子学院に関してインターネットなどで流布されていたことを話したら騒がれた」と語った。役職だけでなく、大学まで追われることになったため、元事務局長は大学側を提訴、裁判は和解となった。元事務局長は「(当時)言った通りのことにはなっている」と語った。

 大阪産業大は元事務局長の解任の理由について「(他にもいろいろあったと思う」とだけ語り、詳細は明かさなかった。

 日本にある孔子学院はどのような活動をしているのか。学院関係者は「学生や地域住民を対象に中国語教室を中心としたカルチャースクールのようなもの」と口をそろえて説明する。

 中国語のほか太極拳、書道、ギョーザやちまきといった中国の家庭料理などを教えている。

 昨年1年間をみても、春節を記念した「針灸特別講座」(神戸東洋医療学院孔子課堂)、「日中キッズふれあいコーナー」(福山大学孔子学院)、「全日本青少年中国語カラオケコンテスト」(桜美林大学孔子学院が上海外国語大学で主催)などのイベントが開催された。

 10月には大阪市で、「2017年度日本孔子学院協議会」が開催され、在日中国大使館の公使参事官、胡志平が2018年の日中平和友好条約締結40周年をとらえた孔子学院の発展に向けた大使館からの協力について述べた。

 仮に孔子学院の狙いがカルチャースクールのようなものだったら、教育機関との共同運営といった仕掛けは大規模すぎる。

 岡山商科大孔子学院(岡山)の学院長、蒲和重は、「(パートナー校の)大連外大は優秀な生徒を派遣してくれる。それなら、関係を保つためにも、開設していた方がいい」と説明する。

 日本国内では18歳人口が減少して大学進学者が減っていく「2018年問題」に直面している。中国からの学生派遣や資金提供は大学にとって運営上プラスになっている面もある。孔子学院を設置したある大学の担当者も「一番のメリットは、中国の学生の受け入れだ」ともらす。

 日本の孔子学院は現在のところ閉鎖の動きはないが、過去には平成26年に福山銀河孔子学堂(広島)が閉鎖した。運営していた銀河学院(同)の関係者は「ニーズがなく、希望者が少なかった。中国からの補助も出ていたが、わずかなもので、ほとんどこちらの持ち出しだった」と語る。

 中国の文化を普及し、相互理解を深めることを目的としている孔子学院だが、中国公船や航空機は尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の接続水域や、防空識別圏への侵入を繰り返している。

 「立命館孔子学院」の学院長、宇野木洋は「そういうことを打破し、等身大の中国人を理解する意味での相互理解を深める必要がある。その役割を孔子学院は果たせると思っている」と強調した。

 日本ではどの省庁が「孔子学院」を管轄しているのか。文科省国際企画室によると、孔子学院は大学間での取り組みであり、設置や認可の届け出は必要ではないという。

 文科省で所管する部署を問い合わせたが、電話をたらい回しされるだけだった。文科省だけでなく外務省にも問い合わせたが、所管部署はなかった。

 自民党衆院議員、杉田水脈は2月26日の衆院予算委員会分科会で、日本国内での孔子学院の設置数を質問した。

 文部科学省高等教育局長の義本博司が答弁した。

 「孔子学院のホームページおよび日本孔子学院協議会の本年度の幹事校、関西外語大のホームページによると、平成29年12月31日現在、日本には14校の孔子学院があるとされているところでございます」

 杉田は「ホームページによるという答弁だったが、(文部科学省からの事前説明で)きちっと把握をしている部署がないということだった。あまりにも無防備である。文部科学省でしっかりと対応してほしい」と苦言を呈した。

 2004(平成16)年から始まった孔子学院(孔子課堂も含む)は昨年末の段階で、世界138カ国(地域)に約1600カ所の拠点を置くようになった。最も多いのが米州で735拠点、このうち米国には611拠点がある。次いで欧州480拠点、アジア219拠点、大洋州120拠点と続く。

 中国当局は普及を急ぐため、時間がかかる政府間協定ではなく、自由裁量で開設できる「大学間協力」という方式を採用している。

 外国人の中国語教師育成にも力を入れており、大学卒業後、3年間は海外で中国語教師として働くことを条件に、奨学金などを提供している。こうした好条件に各地の若者が飛びつき、5年間で約1万人の教師を輩出している。

 ある公安関係者は「多くの国が孔子学院に対する懸念を共有しているが、効果的な対策を取れていないのが現状だ」ともらす。

 中国の経済力増大とともに、世界各地に影響力を及ぼすための手段として増え続けている孔子学院。一方で欧米などでは警戒感も急速に広まっている。各地の状況を報告する。


欧州の沿線国で関連行事急増 一帯一路に「奉仕」求められ

 昨年12月12、13の両日、中国の古都・西安で「第12回孔子学院大会」が開かれた。13日の中国共産党機関紙、人民日報のウェブサイトによると、「協力を強め、イノベーションによる成長を促し、人類の運命共同体の構築に貢献する」をテーマとした大会には、世界約140カ国・地域の大学学長や孔子学院代表ら2500人近くが出席した。

 挨拶に立ったのは、孔子学院本部理事会主席を務めていた副首相(当時)の劉延東。孔子学院について「言語交流を紐帯として親善増進の懸け橋、協力・ウィンウィンの推進装置となるべく努力する必要がある」と語り、「人類運命共同体の構築に新たな貢献を」と呼びかけたという。

 中国政府は、「人類運命共同体」と国家主席、習近平が提唱する広域経済圏構想「一帯一路」を重ね合わせる。中国の影響力や思想を世界に広げるための機関と位置付けられる孔子学院は、その最前線で「一帯一路」への“奉仕”を求められている。

 日本では北海道・釧路で孔子学院設置の動きがあった。「一帯一路」構想の一環として北極海航路の活用を検討するなかで、釧路港に注目しているとみられる。平成26(2014)年3月には札幌大学孔子学院の院長らを講師として、釧路で短期中国語・中国文化集中講座が開催された。

 ある国の情報機関の調べによると、孔子学院側が世界各地で「一帯一路」を推進する目的で開催した行事は、把握できているだけで2015年に7だったが、17年には37にまで増えた。孔子学院のある地域と「一帯一路」を関連付けたシンポジウムや講演会が中心となっている。

 特に目を引くのは、37の行事のうち21が欧州で開催されたことだ。

 セルビアでは中国語を勉強する小学生や大学生ら約100人による「『一帯一路』・私と中国語の物語」作文コンクールがあった。

 なかでもマケドニアの聖シリル・メソディウス大学孔子学院は、2月に講演会「マケドニアの『一帯一路』構想と16+1協力における関係と発展」を開き、10月にも「中国-中東欧フォーラム 『一帯一路』構想における人的資本の作用」を開催した。ポーランドでも2回、クラクフ大学孔子学院で一帯一路に関する行事が開かれた。

 3カ国は「一帯一路」構想の「沿線国」。中国は旧ソ連崩壊後、疎遠になっていた中東欧諸国との経済関係を強化するため「16プラス1協力」の枠組みで、2012年から毎年首脳会議を開いている。

 ボスニア・ヘルツェゴビナでは18年1月にバニャルカ大学で2つ目の孔子学院が設置されており、中国がこの地域を重視していることは明らかだ。


独首相お膝元で一致した思惑

 バルト海に面するドイツ北東部シュトラールズントは、中心部一帯が世界文化遺産に登録された街だ。石畳の通りを進むと、中世に歴史を遡る巨大なレンガ造りの市庁舎や教会が威容を誇る。「孔子学院」が入居するのは広場を挟んだ向かいの建物で、目立たない造りだが、観光スポットである市内の「一等地」だ。

 「私の地元に学院ができてうれしい。学院は両国民の交流と理解の促進に貢献できる」

 2016年8月末、開設式に出席した地元選出の独首相、アンゲラ・メルケルは挨拶で歓迎の意を示すとともに、こうも述べた。

 「学院は中国の伝統医学を紹介する点でも重要だ」

 シュトラールズントの学院は言語や文化とともに、「世界3カ所」(地元紙)しかない中国医学にも重点を置いた施設だ。実現の中心役は大学元学長で学院運営協会会長のファクル・ヘーン。長年かけて築いた中国との関係を生かし、メルケルの15年の訪中を好機に設立契約の署名にこぎ着けた。

 背景にはドイツ統一後、旧西側との経済格差が残る旧東側の事情もある。ヘーンは当時、学院設置に伴う「国際化」により、若者の流出で難しくなる学生確保を図り、中国医学を中心とした健康増進の「ヘルスツーリズム」を季節変動が大きい主要産業の観光の新たな柱にしようと考えた。

 大学と別に設置された学院は今、地域の学校にも中国語を教え、イベントや地元医療機関との協力を通じて中国医学の普及も図る。ヘーンは「今のところ活動は成功だ」と語る。

 大学周辺で市民にたずねると、孔子学院の認知度は高いとはまだいえないが、イベントなどで協力もする隣の薬局の男性店長は「一歩一歩だ。期待はとても大きい」と語る。

 市長のアレクサンダー・バドロウも「1年で文化的豊かさをもたらした。ヘルスツーリズムは大きなチャンス」と評する。

 孔子学院本部のホームページによると、ロシアを含む欧州の学院数(孔子課堂は除く)は約170カ所。英国(23カ所)、ドイツ(19カ所)をはじめ各国をほぼ網羅する。中国の台頭ぶりを示すが、一方でその動きは警戒も生む。

 「独裁主義者の進行」

 ドイツのシンクタンク「国際公共政策研究所」と「メルカトル中国問題研究所」は2月、こんな表題の下、政治的な影響力の拡大のため、さまざまなレベルで行われる中国の試みに焦点をあてた報告書を発表した。

 報告書はその舞台を(1)政策決定を担う政治・経済エリート(2)メディア(3)市民社会と学術界-に分類。中国と関係を持つシンクタンクや留学生・学者団体などと並び、孔子学院は市民社会・学術界に働きかける手段の一つとの位置づけだ。

 共同執筆者の一人、メルカトル研究所のルクレチア・ポゲッティはその役割について「学術的議論に影響を与え、中国政府に不快な問題の議論を制限する」ことと指摘する。

 英国のブリティッシュ・カウンシルやドイツのゲーテ・インスティトゥートなどの国際交流機関とは「独裁主義国家の指示や資金を受ける点で大きく違う」とした。

 懸念を裏付ける動きはある。14年7月、ポルトガルで孔子学院も関わり、中国に関する学会が開かれた際、訪問した学院本部トップが、冊子に掲載された台湾の学術交流基金の紹介に反発した。

 スウェーデンのストックホルム大学は15年、欧州初だった学院を閉鎖した。大学幹部は当時、「他国の資金を受ける機関を大学内に設けるのは問題だ」と現地紙に語った。

 欧州は今、メディアを通じた偽情報の拡散など、ロシアが欧州に影響を及ぼそうと仕掛ける「ハイブリッド戦争」に直面するが、ポゲッティは「ロシアはやり方が破壊的で目標も短期的。中国は責任あるグローバル・プレーヤーとみなされたいため、戦略は長期的で、ソフトな手法をとっている」と分析する。

 欧州では現時点で孔子学院に対し、米国ほどの反発は起きていない。だが、学院が中国政府の影響下にあるとの認識は関係者に広がっている。

 ポゲッティは孔子学院などを通じた中国の影響力増大への対処にも欧州連合(EU)の連携は重要とし、「中国国家に付随する機関が介入しようとする試みに関し、加盟国間で情報を共有することも手段だ」と述べた。


「豪州学術界へのマルウエア」 多額援助に中国人留学生

 1850年に創立されたオーストラリア最古のシドニー大学は名門8大学の連盟「Go8」に属している。歴史を感じさせる石造りの建物が並ぶキャンパスの一角に、まだ新しそうな孔子の石像が立っていた。2008年に学内に設立された「孔子学院」の象徴だ。

 学院のサイトによると、16年度に中国語の授業に600人を募集した。中国語や文化講習だけでなく学外での催事にも取り組み、11年10月には上海・交通大学からカナダ出身の教授を招いて「儒教の観点から見た中国の政治的正統性」と題する公開講座も行っている。

 学院事務局を訪れると、院長の金杏は名刺交換に応じずに、流暢な北京語と英語で「とても忙しい」「最近は取材依頼が多いが、応じていない」などと取材を拒否した。学院理事への取材要請も「みんな国外にいる」と応じず、「そんなに孔子学院のことが知りたければ、日本にもあるので、そちらを取材したらどうか」とかわした。

 なぜ、取材に応じようとしないのか。背景には、豪州社会で中国に対する警戒感が強まっていることがある。孔子学院を含む学術界もその対象の一つだ。

 豪州全土の大学41校のうち孔子学院が設立されている大学は14校に上り、うち6カ所はシドニー大学を含む名門8校の中にある。

 豪州の政界や学術界への中国の浸透について、警鐘を鳴らす豪チャールズ・スタート大学教授のクライブ・ハミルトンは今年2月に出版した著作『サイレント・インベージョン(静かなる侵略)』で、孔子学院のことをこう記した。

 「学術界へのマルウエア(悪意のあるソフト)」

 ハミルトンは著作で、シドニー大学孔子学院の理事、祝敏申に注目した。上海生まれで豪州国籍を持つ祝は1996年、シドニーで親中派の中国語紙「オーストラリア時報」を設立した。法輪功など「反中勢力」を批判し、2008年には、北京五輪の聖火リレーをチベット独立派らから守る中国人留学生の動員に資金提供もした。

 14年3月には中国の国政助言機関、全国政治協商会議(政協)の定例会議に招待されて出席した。南シナ海問題で中国寄りの発言をするなどして今年1月に辞任に追い込まれた野党、労働党の上院議員、サム・ダスティアリに政治献金も行っていた。

 ハミルトンは産経新聞の取材に、孔子学院は中国共産党に対する批判を許さないが、「それを検閲する方法は極めて巧妙だ」と指摘する。

 中国が嫌がる人権問題などを取り上げないよう直接要求するのではなく、多額の資金提供を行い、豪州側に「忖度させる」というのだ。しかも孔子学院を置く大学当局は5カ年の協定を孔子学院本部と締結するが、協定は大学の教員にも公開されていないという。

 産経新聞は事実関係の確認と協定の開示をシドニー大学に求めたものの、12日までに回答はなかった。

 シドニー大学では17年8月、インド系の講師が、中国が領有を主張する地域をインド側に含めた地図を使ったとして、中国人留学生の集団から謝罪を求められた。大学当局は講師を批判し謝罪した。

 大学は同月末には、上海・交通大学と共同プロジェクトへの資金拠出を含む「戦略的パートナー」締結を発表した。学長のマイケル・スペンスは、ターンブル政権が進める外国からの諜報監視強化にも「中国恐怖症的な無駄口を止めよ」と反対している。

 豪州の大学における中国の影響は孔子学院にとどまらない。豪州の教育・訓練省の統計によると、17年の海外からの留学生62万人のうち、中国人は約18万5千人と全体の約30%で首位を占める。

 留学生が豪州経済にもたらす価値は286億豪ドル(約2兆3千億円)で、豪州の「輸出」項目の3位に相当し、13万人の雇用を生み出している。その3割が中国人に握られている計算になる。

 防衛大学校教授の福嶋輝彦(オセアニア地域研究)によると、奨学制度で学費の支払い猶予がある豪州人と異なり、現金で学費を支払う中国人留学生は「大学にとって大きな収入源になっている」という。

 ハミルトンは「豪州の大学が学内に孔子学院を置き続けるのは、中国の資金の影響を受けているからだ。完全に北京になびき、学問の自由を損なっている大学もある。金銭の力に屈し、いま起きていることに目をつぶっている」とため息をついた。


「中国政府と共犯だ」米で警戒拡大、関係見直す動き

 米南部ケンタッキー州の人口約6万5000人の都市、ボーリンググリーンの市内を見下ろす丘の上にウェスタンケンタッキー大学(WKU)はある。キャンパスの一角に昨年5月、「WKU孔子学院」の建物が完成した。

 約750平方メートルのレンガ模様の平屋建てで、隣には庭園も造られた。総工費約300万ドル(約3億1千万円)は、中国教育省傘下の国家漢語国際推進指導小組弁公室(漢弁)と大学側で折半した。開設式典には中国の孔子学院本部の幹部も出席した。

 中に入ると、ホテルのロビーのような趣で、上海から直輸入した中国様式の家具や調度品が飾られる。20-30人収容可能な教室が4つあり、システムキッチンも完備している。

 「全世界に500以上ある孔子学院の中で、トップ15のモデル校に選ばれた」

 院長を務める潘偉平は誇らしげにこう語った。

 WKU孔子学院は2010年に開設された。地域の中国語教育に力を入れたい大学側の協力と、漢弁からの潤沢な資金提供を受け、順調に規模を広げてきた。

 その一例が、漢弁が推進する地域の小、中、高校などへの中国語教員の派遣だ。初年度の派遣数は11人だったが、今年は47校に52人を派遣する。学院職員のテリル・マーティンは「教員を新たに雇うと、福利厚生を含めて年間約6万ドルかかるが、孔子学院の教員の場合、学校側の負担は4分の1以下になる。手頃で質の高いプログラムは好評だ」と話した。

 図書館棟には「中国文化展示センター」が併設され、孔子像や兵馬俑を見学できるなど大学内での孔子学院の存在感は際立つ。

 米国には世界で最も多い約110の孔子学院が存在するが、中国政府の「プロパガンダ機関」と化しているとの批判は強い。論争は米政界にも発展した。

 「中国はよく仕組まれた長期戦略により、米国に取って変わって、世界で最も力強く影響力のある国家になろうとしている」

 2月13日の上院情報特別委員会公聴会で、共和党上院議員マルコ・ルビオは、こう切り出した。ルビオは学院が中国に有利な世論形成や歴史教育を行っているとして「(中国政府の)共犯だ」と言い切った。

 答弁した米連邦捜査局(FBI)長官、クリストファー・レイも「孔子学院への懸念はわれわれも共有しており、注意深くみている」と同調した。レイは、中国が学生や教授らを情報収集員として使い、「米国の開かれた研究機関を悪用している」と批判した。

 ルビオは3月21日に孔子学院を念頭に、外国代理人登録法(FARA)に基づく登録を義務付け、監視の強化を目指す法案を共同で提出した。孔子学院がスパイ活動や「親中派」の育成の場としても使われているのではないかとの疑念は強まる一方だ。

 ルビオは2月5日、地元フロリダ州で、孔子学院がある5つの大学などに契約を打ち切るよう要請。ウエストフロリダ大学が契約を更新しない方針を明らかにした。テキサス州でも民主、共和両党の下院議員が声を上げ、テキサスA&M大学が契約打ち切りを発表するなど、大学側にも関係を見直す動きが出始めた。

 これまでも中国共産党がタブーとする政治テーマを扱わないなどの問題が取り沙汰され、米大学教授協会は04年、孔子学院が「学問の自由」を脅かしているとして各大学に関係断絶を勧告した。シカゴ大など一部で廃止が決まったが、多くの大学で存在したままだ。

 シカゴ大学名誉教授、マーシャル・サーリンズは00年以降の州政府などによる大学予算の削減と、中国留学生の増加が背景にあると説明する。そのうえで「経営が厳しい大学にとって、中国人留学生の学費は貴重な収入源だ。孔子学院を拒否して、中国政府の機嫌を損ないたくない」と話す。

 昨年末には、米シンクタンク「全米民主主義基金」が、世論操作する中国の強引な対外戦略を「シャープパワー」と命名した。約10年前にペンシルベニア大学で孔子学院設立に反対した教授のビクター・メアは「中国の帝国主義」への警戒は強まっており、「政治家の発信などで形勢は変わりつつある」と分析する。

 ただ同時に、メアは「あらゆる手段で大学に近づく中国の意思は固く、巧みであり、手ごわい」とも語る。拡大路線を掲げる孔子学院への対策は、緒についたばかりだ。

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