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新・アドリアナの航海日誌

詩と散文、日記など。

今日の風のなかで出会うものたち

2012-09-23 22:10:08 | 翻訳詩
    
そのころ
白衣を着て
わたしは病院の窓口にいた
あなたは
写真集を売って歩いていた
まだ出会っていなかった頃

イラクで
爆弾が炸裂した
子どもが
飢え死にした

詩を書いていたわたし
詩をまだ書いていなかったあなた

イラクで
死んだ子どもには
会ったことはなかった
生涯
会うことはなかった

飢え死にはしなかったが
爆弾も浴びなかったが
人生の吊り橋を
うまくわたれなくて
つまずいてばかりいた
あなたも
わたしも
そのころ・・・

イラクで子どもが死んだ
砂漠の黄色い風の中に
眠っていたあの子の
ハタハタと翻っていた
青い服の切れ端

何もかもが
ひとつにつながる
生きるという
今日の風の中で



鳥への挨拶

2012-05-03 15:10:13 | 翻訳詩



僕はきみに挨拶を送る
むかし僕が知っていた
漆黒の水のかけすよ
妖精の鳥
火の鳥 街の鳥
人足の鳥 子供の鳥 狂った鳥
僕は挨拶する
おどけた鳥
よく笑う鳥
君の名誉に
僕はもえ上がり憔悴する
花火のように
骨も身もまるっきし
僕がまだ子供だったころ
おまえはす早く通り過ぎた
風にまう葉の間を笑いながら
バリ、サン・シュルピス広場の
市役所の階段の上を
僕は挨拶する
おどけた鳥
とても幸福できれいな鳥
自由の鳥
平等の鳥
兄弟の鳥
持って生まれた幸せの鳥
僕は挨拶し思い出すんだ
一番美しかった時間を
僕は挨拶しよう優しさの鳥に
初めての愛撫の鳥
僕は決して忘れやしない
塔の上高くとまっていた時に
おまえが見せたほほえみを
華々しいユーモアの鳥
羽で合図しながら
おまえはウィンクした
カーカー叫ぶモラルの鳥
人間らしいあわれな鳥
人間らしくないあわれな鳥
サン・シュルピスの緑の大がらす
地獄の悲しみの鳥よ
天国の悲しみの鳥よ
おまえは建物のまわりをせかせかと動きまわっているが
足場のかげにはかくされている
愛に目をくらまされた若者の前に
コルセットを半ば開いた娘
僕は挨拶を送る
ぐうたらな鳥に
惚れっぼい若者の鳥に
挨拶を送る
雄々しい鳥
街の鳥
僕は挨拶を送る
決して来ない鳥
郊外の鳥
グローキヤィユの鳥
プティーシャンの鳥
アルの鳥 イノサンの鳥
挨拶を送る
プランーマントーの鳥
シシリーの鳥
地下労働者の鳥
下水掃除夫の鳥
炭焼人の くず屋の鳥よ
ロジエ街の帽子屋の鳥よ
僕は挨拶する
最初の真実の鳥
贈った言葉の鳥
大事に守られた秘密の鳥
挨拶を送る
舗道の鳥
プロレタリアの鳥
5月1日の鳥
僕は挨拶を送る
市民の鳥
建物の鳥
溶鉱炉の鳥 生きている人間の鳥よ
挨拶しよう
家政婦の鳥
雪だるまの鳥
冬の太陽の鳥
捨て子の鳥
ケーオーフルールの鳥 犬の床屋の鳥
僕は挨拶を送る
ジプシーの鳥
ろくでなしの鳥
空飛ぶ地下鉄の鳥
挨拶を送る
洒落の鳥
わるふざけの鳥
殴りっこする鳥
僕は挨拶を送る
禁じられた楽しみの鳥
貧乏な 食うや食わずの鳥
未婚の母の鳥 公園の鳥
つかのまの愛の鳥 娼婦の鳥
挨拶を送る
休暇をもらった兵隊の鳥
召集に応じない鳥
どぶの鳥 貧民窟の鳥
挨拶を送る
病院の鳥
婦人養老院の鳥
産院の鳥
鐘の鳥
惨めな鳥
停電の鳥
僕は挨拶を送ろう
力強いフェニックスよ
僕は名付ける おまえを
鳥達の真の共和国の大統領と
そして僕は前もって贈り物をしよう
僕の生命の葉巻
僕が死んだ時
おまえの友達であった僕の
灰の中から
再びおまえが
よみ返るために。

    ジャック・プレヴェール
         第一詩集「言葉」より


この愛(Cet amour)

2012-05-03 11:18:52 | 翻訳詩


この愛
こんなに激しく
こんなにもろく
こんなにやさしく
こんなにも望みにない
この愛
ひかりのように美しく
お天気が悪ければ
同じようにご機嫌ななめ
こんなにも本物の愛
こんなにも素敵な愛
幸福で
愉快で
こんなにもあざけり笑う
暗闇の中の子どものようにこわがって震え
真夜中にも落ち着き払った男のように
頼もしく
他の人たちをこわがらせ
しゃべらせ
真っ青にさせたこの愛
見張られた愛
僕らがみんなを見張っていたために
追い詰められ、傷つけられ、踏みつけられ、止めを刺され、否定され、忘れられた愛
それは僕らが、愛を追い詰め、傷つけ、踏みつけ、止めを刺し、否定し、忘れたから
この愛そっくりそのまま
それでも、こんなに生き生きしていて
少しも翳らない
それはきみのもの
それは僕のもの
そうであったもの
いつも新しいもの
そして変わらなかったもの
一本の木のように真実で
一羽の鳥みたいに震えて
夏のように照りつけて、生き生きとして
僕らは二人ともできる
行ったり、戻ったり
忘れることだって
その上 眠ること
目覚めること、悩むこと、年をとること、
そして再び眠ること
死を夢見ることも
僕らはできる
目を覚ますこと、ほほえむこと、笑うこと、
若返ること
僕らの愛はそこに住む
牝ろばのように強情に
欲望のようにはつらつとして
記憶のように残酷で
後悔のように愚かで
思い出のようにやさしく
大理石のように凍てついて
陽のようにきれいで
子どものようにたよりなく
ほほえみながら僕らを見つめ
黙ったまま僕らに話しかける
そして僕は
震えながら聞く
僕は叫ぶ
僕はきみのために叫ぶ
僕は僕のために叫ぶ
お願いだ
きみのため、僕のため、愛しあっている者たちのために
愛しあった者たちのために
僕は叫ぶ
きみのため、僕のため、他のみんなのために
僕の知らない人のために
そこにいてくれ、と
愛よ、
今、きみのいる所
かつてきみのいた所
その場所にいてくれ
動かないでくれ
行かないでくれ
愛された僕ら
僕らはきみを忘れてしまったけれど
きみだけは僕らを忘れないでくれ
僕らにはきみしかなかったのだ、この地上に
僕らを凍えさせないでくれ
ずっと遠く、いつも
どこでもいいから
僕らに命のしるしを与えてくれ
ずっと遠く、森の隅から
記憶の森の中から
突然現れて
僕らに手をさし延べてくれ
そして救ってくれ
僕らを。


Jacques Prèvert 『Paroles』より

月と夜(LA LUNE ET LA NUIT)

2012-05-02 22:04:13 | 翻訳詩

その晩ぼくは月を見ていた
そう、ぼくは窓辺にいて
月を見ていた
それから窓辺を離れ
服を脱ぎ
ベッドに横になった
するとその時 部屋がとても明るくなった
お月さまが入ってきたんだ
そう、ぼくが窓を開けっ放しにしてたから
それでお月さまが入ってきたわけだ
その晩月はぼくの部屋にいた
彼女はひかり輝いていた
話しかければよかったけど
触ってみればよかったけど
ぼくは何もしないで
ただ見とれていただけ
彼女はとても穏やかで幸せそうだった
撫でてみたかったけど
ぼくはどうしていいかわからないまま
そこにいた・・・身じろぎもしないで
彼女はぼくを見つめ
輝き
微笑んでいた
それから、眠りに落ちてしまったぼく
目覚めたときには
もう次の日の朝だった
そして・・・家々の上には
太陽だけが輝いていた


Jacques Prévert『Soleil de nuit』より

わかりきったこと(SIMPLE COMME BONJOUR)

2012-05-01 23:19:01 | 翻訳詩

愛は日のひかりのように明るく
とてもたやすい
愛は手のひらのように裸
君の愛や僕の愛のことだよ
偉大な愛の話をしてるんじゃない
偉大な生涯についてしゃべっているんじゃない
僕らの愛は生きていることが幸せ
それで充分さ

それは本当だ 愛することはとても幸せ
そして幸せすぎるいので・・・、たぶん
僕らが扉を閉めたときには
窓から逃げようと願ったりする

けれどもし愛が出ていこうとしたら
僕らは引き留めるために何だってするだろう
愛のない人生なんて
音楽のないのろまなワルツ
決して笑わない子ども
誰も読まない物語
故障した機械
愛のない人生なんて!


Jacques Prévert1「Soleil de nuit」より