よろずのモノ語り(『近代建築撮影日記』別館)

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宮川泰先生の音楽-宇宙戦艦ヤマト-【その3-3】沢田研二「ヤマトより愛をこめて」映画用モノラルミックス版の検証

2020年05月29日 21時08分42秒 | 宇宙戦艦ヤマト

沢田研二が唄うシングルレコード「ヤマトより愛をこめて」(ポリドール/DR 6235/1978年8月1日発売)は同じ録音でミックスダウン違いの2種(通常版)(後期版)の音源を聴くことが出来るのだが、もう一つ『さらば宇宙戦艦ヤマト』本編で使用されたトラックダウン違いのモノラル音源があるということには触れたのみで検証はしていなかった。そこで、追加検証することにした。



このトラックダウン違いの映画用モノラルミックス版はシングルレコード(後期版)と同じ編成ではあるが、音の印象が違う。
どう違うのか、なぜ違うのか、ということを私なりに検証してみる。
※「なぜ」という点については、私自身は当事者でもなく音楽制作の経験者でもないので個人的な憶測にすぎない。憶測の部分には「おそらく」「多分」などの憶測の言葉を冠するように留意するが、関係者・経験者の方よりの間違い等の指摘があれば、遠慮なくお知らせいただければ幸いです。


映画『さらば宇宙戦艦ヤマト』は何度かソフト化されているが、上映当時を忠実に再現したという4Kリマスター版のCS放送よりアナログ接続でWAVデータ化したものを検証に使用する。

今回も、音声編集ソフト「Audacity」でそれぞれ波形として可視化する。


上から映画用モノラルミックス版、シングルレコード(通常版)、シングルレコード(後期版)である。(以後それぞれ映画用、通常版、後期版と略す)

まず、ピッチ(スピード)について。これは映画用が一番遅いが、通常版とほぼ同じ。最も古いと思われる映画用が、おそらく本来のスピードであろうと考えると、後期版は早回しになっているのだろう。沢田研二の声の高さからの私自身の印象とも一致する。

次にフェードアウトのタイミングだが、映画用は後期版と同じ。前にも述べたように通常版の後奏が長い。
そして、映画用のみ前奏がフェードインになっている。これは、映画の演出上の都合だろう。

そういえば、前に紹介だけした
沢田研二ベストアルバム『Royal Straight Flush』(ポリドール/MR 3170/1979年4月1日発売)版(以後、Royal Straight Flush版と略す)
は後期盤の最初がフェードインになっただけのものであった。
これは、ベストアルバムを作る際に映画用のイメージに合わせたステレオミックスを作ったのではないか?
レコードの編曲が映画と異なっていたので、映画と同じものを望む声があったのかもしれない。
何故かピッチが速くなっているのだが、LPレコードの収録時間に収める、声質の透明感を高める、などの理由があったのではないかと憶測している。
何故だか理由はわからないことだが、そのフェードインを排したものがシングルレコード(後期版)になったのであろう。
(ただし、Royal Straight Flush版以前にシングルレコード(後期版)がプレスされた可能性も残されているので更なる検証が必要)


さて、どう違うのかということを耳で聴いて確認してみよう。

私自身は、映画用と後期版はトラックダウン違いであると知っていても、同じ編成であるという理解で完結し、その違いについては全く意識していなかった。今回初めてこの2曲を交互に再生して聴き比べた。

結論を言うと全然違う。
ボーカルとすべての楽器の分離が良いというか、輪郭がはっきりしているというか、耳コピで楽譜を起こすには最適なバランスでミックスされているのである。しいて言うとピアノが弱いのだが、全ての楽器を平等にミックスしたのでメイン楽器のピアノが相対的に弱く感じるということだろうか。だが、アコギのアルペチオやハープの一音一音までくっきりと見える。そう、目に見えるように聞き分けることが出来るのである。4Kリマスター版の為に特に状態の良いマスターが使われたということかもしれないが、泰先生が編曲して散りばめた「音」の全てを聴きとれるという意味でベストなミックスである。
そして、演奏するプレーヤの細かいテクニックの息遣いのような所まで感じることが可能である。ミックス違いで、しかも、音盤ではなく映画で聴く音にそこまでの解像度の違いがあるということに驚きを隠せない。

それに比べて後期版は、通常版よりはクリアに聴こえるとはいえ、アコギのアルペチオやハープの細かい所の輪郭は埋もれ気味に感じる。
それはなぜか?その原因を私なりの推測で考えてみたい。
1.音盤商品として聴かせるために、ステレオでミックスしたため。つまり、脇役であるアコギやハープの音は肩チャンネルのみにミックスされて、相対的に小さい音になってしまった。
2.音盤商品として聴き易くするため、楽器の音量バランスをメイン楽器であるピアノに集中させた。
3.音盤商品として聴かせるために、エコーなどのエフェクトをかけることにより音の輪郭がぼやけてしまった。
という所ではなかろうか。音盤商品として聴いてもらう為の音作りによってクリアな輪郭が失われたと考える。

映画用は製作作業スケジュールがひっ迫していたことを考慮すると
録音したままのマルチトラックから、かなり初期の段階でモノラルミックスされたものだと思われる。
即ち、エコーなどのエフェクトも加えず、各トラックの音を平等にミックスしただけのものではないだろうか。
その為、録音したままの音に最も近くクリアな音で聴くことが出来るのではなかろうか。



【まとめ】
・映画用はエコーなどのエフェクトをかけたり、各トラックの音量差の調整をしていない、録音したままの原音に最も近い状態なのではないか?しかし、モノラルなので、鑑賞用として良い音源とは言えない。
・レコードなどの音盤商品の音源は、聴いてもらう為の音作りによって鑑賞用の体裁を整えているが、そのことによって録音したままの原音が損なわれているのではないか?
・私個人的としては、エコーなどのエフェクトはかけず、各トラックのすべての楽器を均等に聴きとれるバランスでステレオミックスした音源があればベストである。
このブログのタイトルにある「宮川泰先生の音楽」を聴くということは、泰先生が編曲して散りばめた「音」を余すことなく楽しむということだと考えている。その為の音源としてベスト、ということになる。



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