よろずのモノ語り(『近代建築撮影日記』別館)

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宮川泰先生の音楽-宇宙戦艦ヤマト-【その3】沢田研二「ヤマトより愛をこめて」

2020年05月18日 07時30分18秒 | 宇宙戦艦ヤマト

大変なご無沙汰です。
『ラジオ・スイート 宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち』が放送されヤマト音楽モード全開となり
重い腰を上げてかねてよりの懸案について記述しようと思った。

※この記事には続きがあります
『宮川泰先生の音楽-宇宙戦艦ヤマト-【その3-2】沢田研二「ヤマトより愛をこめて」レコード盤の分類』
『宮川泰先生の音楽-宇宙戦艦ヤマト-【その3-3】沢田研二「ヤマトより愛をこめて」映画用モノラルミックス版の検証』



ヤマトファンなら誰もが知る名曲「ヤマトより愛をこめて」
言わずと知れた『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』の主題歌だ。

作曲者は宮川泰先生ではなく大野克夫だが、先生は編曲を担当している。
この曲に関しては、考察すべきことが多々あるのでとりあげることにした。


今回は以下の4っつの音源について考察してみようと思う。

1.大野克夫デモテープ(1978年)
品切れでプレミアム価格の入手困難品だが
CD幻のメロディー VOL.1に収録されている
おそらく、歌唱者である沢田研二や編曲者の宮川泰先生が最初に聴いたのがこの音源であろうと思われる。

2.シングルレコード(通常版)(ポリドール/DR 6235/1978年8月1日発売)
1978年に発売された当時のシングルレコードに収録されたバージョンは
『さらば宇宙戦艦ヤマト』や『宇宙戦艦ヤマト 2202』で使われたものとは違い、「ピロリロリーン」というエレキギターが消され、2番にオーボエの副旋律が加えられたものであった。
私は1978年当時映画を一度見たきりでレコードを繰り返し聴いたため、このバージョンに最も馴染んでいる。
現在入手可能な音源として、アルバム『今度は、華麗な宴にどうぞ。』(オリジナルLP 1978年8月10日発売)のCDと配信がある。

3.シングルレコード(後期版)(ポリドール/DR 6235)
『宇宙戦艦ヤマト 完結編』以降、1983~85年頃に再度購入したシングル盤を再生して驚いたのだが、別バージョンに差し替わっていた。
いつプレスされた分から差し変わったのかは不明だが、
CD『沢田研二 A面コレクション』(1986年・2009年再発)やYAMATO ETERNAL EDITION File No.10『ヤマト・ザ・ベスト』(2001年発売)で聴くことが出来るのはこのバージョンになる。
『さらば宇宙戦艦ヤマト』本編で使用されたのもこのバージョンのトラックダウン違いのモノラル音源である。
なお、中古でシングル盤を購入すれば殆どが2.シングルレコード(通常版)のバージョンで収録されている。そのため、2.を通常版とした。

4.カラオケ版
徳間音楽工業のフォノシート、ファンファニーシリーズ『宇宙戦艦ヤマト』(FL 1001)のみに収録されているもので、CD化されていない。
これは不思議な音源で、はじめの50秒はエレキギターが消されておらず、3.シングルレコード(後期盤)と同じ、
50秒以降は、エレキギターが消され、2番にオーボエが加えられた 2.シングルレコード(通常版)と同じになっている。
更には、終りにフェードアウト処理が無く急に演奏が止まるという中途半端なものだ。


その他の音源として、

5.沢田研二ベストアルバム『Royal Straight Flush』(ポリドール/MR 3170/1979年4月1日発売)版
シングルレコード(後期盤)の最初がフェードインになったもの。

6.『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち 音楽集』(日本コロムビア/CQ-7011/1978年8月1日発売)版(インストルメンタル)

7.ささきいさお版とそのカラオケ
泰先生による再編曲のバージョン。
歌は、YAMATO ETERNAL EDITION「ヤマト・ザ・ベストII 宇宙戦艦ヤマトボーカルコレクション」に収録
カラオケは、YAMATO SOUND ALMANAC 1980-III「ヤマト・フェスティバル・イン・武道館・ライブ 1980」のボーナストラックに収録

8.大野克夫Windward Hill(WATER RECORDS/SW25-5001/1978年発売)版
デモテープと違うアレンジになっている。

9.沢田研二本人による各種ライブでの歌唱
音盤の紹介は割愛します。

などがあるので、機会があれば聴き比べてみてほしい。



では、一曲づつ聴いていこう。

1.大野克夫デモテープ(1978年)

JASRACのホームページに「作家で聴く音楽」というインタビューがある。
その中の大野克夫氏のページにCD『幻のメロディー VOL.1』についての記述があるのでそのまま抜粋する。

「当時、デモテープ大賞ができたらいいねとまじめに言っていたんです。デモテープでも、ギター、キーボード、ドラム、ボーカルなども加えて、アレンジしてと、ここまで凝ったものにするというのは、やっぱり趣味の領域なんですね。ただメロディーだけ作って担当者に渡して打ち合わせというのもなんだかもったいないし、同じ作るならカラオケまで作って、自分でも歌ってみたいという気持ちがあって、それはもう趣味でしかないんです(笑)。70年代のハードなスケジュールのときにここまでやったというのは、情熱と根気だったと思います。ぜひ聴いてみてください。
(中略)
■  『ヤマトより愛をこめて』(78年8月)この曲のピアノのサウンドがすごく気に入っています。アタッチメントを付けて弾いているんだけど。レコーディングのとき、編曲の宮川泰さんが「あのピアノの音どう出しているの」と聞いてこられて、「生ピアノにマイクを入れてこのコンプレッサーに通して・・・」と説明したんです。」

とあることから、この音源が泰先生や沢田研二が最初に聴いたもので間違いなさそうだ。
そのアレンジは、映画本編使用版や 3.シングルレコード(後期版)とほぼ同じで、ピアノ伴奏と「ピロリロリーン」という特徴的なエレキギターが入っている。


2.シングルレコード(通常版)(ポリドール/DR 6235/1978年8月1日発売)
3.シングルレコード(後期版)(ポリドール/DR 6235)

まず、音声編集ソフト「Audacity」でそれぞれ波形として可視化してみる。


上が 2.シングルレコード(通常版)下が 3.シングルレコード(後期版)で、ご覧の通り収録時間が異なる。
後期版の方は、フェードアウトが早く後奏が短い。それだけでなくピッチも幾分速くなっている。
どちらのピッチが正しいのか不明だが、聴いた印象では通常版の方がジュリーの声質に近いような気がする。
しかし、音がクリアなのは後期版。通常版は、少しこもっているように思う。エレキギターを消したりオーボエを加えたりして音をいじったからだろうか。
以上のことから、録音当初は後期版のアレンジで、通常版はリアレンジ版であると言えよう。
リアレンジ版(通常版)は大野克夫のデモテープを踏襲したエレキギターが消され泰先生オリジナルのオーボエが加えられていることから、泰先生のアレンジの完成版と考えられる。私個人も、通常版のアレンジの方が歌詞や曲調に合っていると感じる。特に「いつの日か~よみがえり」の歌詞とオーボエの副旋律の相乗効果は泰先生ならではのものと思うのだが、どうだろうか。


4.カラオケ版

この曲も、音声編集ソフト「Audacity」で波形として可視化してみる。


上が 2.シングルレコード(通常版)下が 4.カラオケ版である。
カラオケ版は通常版とほぼ同じピッチだが、フェードアウトが無く後奏が長い。録音当初の後奏の全貌が分かるという意味でも貴重な音源となっている。
更に言うと、通常版と同じくオーボエが入っているにもかかわらず前半のエレキギターが残ったままになっているので、何らかの手違いで編集途中の音源が商品化されたのではないかと思われる。

ちなみに、このピアノ演奏は羽田健太郎だといわれている。当時の沢田研二のヒット曲「勝手にしやがれ」「サムライ」「さよならを言う気もない」などのピアノ演奏も羽田健太郎で、歌謡界におけるスタジオミュージシャンの質は非常に高く、伴奏の質が最も成熟していた時代であった。



【まとめ】
・この楽曲は、宮川泰先生の編曲作品として考えると 2.シングルレコード(通常版)のアレンジが完成版である。この曲の歌詞・曲調を最も引き立てるアレンジであり、音楽として愉しむのであればこのバージョンがお薦め。
・ 3.シングルレコード(後期版)は大野克夫のデモテープに準拠した原初版。映画使用版に近く、サントラとして聴くならこちら。
・「宇宙戦艦ヤマト」のシングルレコード(日本コロムビア/SCS-241)のコーラスがミュージカル・アカデミーからロイヤル・ナイツに差し替えられたのと同様に、同一品番でありながら内容が差し替えられた謎についての真相は解らない。しかし、デモテープを含めて複数の音源を聴くことが可能であり、その制作過程に少しでも迫ることが出来るのは幸運というほかない。



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