黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

教育再生実行会議に潜む「病根」

2013-07-27 23:26:52 | 法学教育論
 現在公開停止措置になっている記事は,記事の内容そのものが問題とされたのではなく,また例のなんとかという弁護士を誹謗中傷するコメントが多数投稿されていたので,一時的に記事ごと公開を停止する措置がとられた,ということです。
 いま,該当コメントの削除を終えてgoo事務局に連絡を入れたところですので,順調に行けば数日中に復旧できるかと思います。とりあえず,法科大学院サイドの圧力による言論弾圧とかではないようなので,その点は少し安心しました。

 本題ですが,最近公開された法曹養成制度検討会議第15回会議の議事録に,以下のような鎌田委員の発言が載っていました。

「それから,もう一つは,これは個人的な感想であって意見は大いに分かれるところだろうと思うんですけれども,現在,この法曹養成制度検討会議で議論すべき事柄としては,若者がみんな法曹を目指さなくなってきたということを全体としてどう打開していくか,それからこれからの日本の司法といいますか,広い意味での法律実務の在り方をどう構築していくかということが重要であろうというふうに考えていますが,この法曹養成制度をめぐる議論の最も重要な論点が修習生に対する経済的支援であり,これがずっと今後も継続して重要な議論として語られ続けていかなきゃいけない,それがここでの非常に強い認識だという印象を与える提案については,私は違和感を持っています。
 例えば,教育再生実行会議のある会の最後に,安倍総理は,アメリカからどんどん訴訟を起こされてきているのに,日本の政府もアメリカ人の弁護士を雇って対応するしかないような,こういう状況を非常に強く嘆かれていたんだけれども,それをじゃどうやって打開するのかというふうなことについては,今回,何も検討していないわけですよね。そういう問題をもっともっと議論しておくべきときに,ここで,法曹養成制度の最も重要な論点は,司法修習生に対する経済的支援であるということを,そこまで強調しなきゃいけないかという点について,疑念があるということが第2です。」


 鎌田委員の発言自体については,論点のすり替えも甚だしいところで,いちいち論評する気にもなれないのですが,気になったのは赤字で表記した安倍総理の発言です。教育再生実行会議の開催状況を確認したところ,上記に該当するような安倍総理の発言は議事録にも見当たらなかったので,おそらくは非公式の発言だと思いますが,それでも現在の法曹養成制度に関しては,安倍総理も一定の問題意識を持っていることが窺われます。

 ただ,気になるのは教育再生実行会議の内容で,第三次提言の資料によると「日本では諸外国に比べ,修士・博士の人材が少ない」「日本では企業の研究者や役員に,博士号の取得者が少ない」(15頁)とされ,また大学卒業者の約半数は修士課程に興味を持っているものの,実際に進学しない理由としては「費用が高すぎる」「勤務時間が長すぎて十分な時間がない」「職場の理解を得られない」「処遇の面で評価されない」「自分の要求に適合した教育課程がない」といった理由が上位を占めている,という調査結果が示されています。
 これを踏まえて,第三次提言では「産学官の連携を図り、産業界、国は博士課程修了者を積極的に採用し活躍の場を設け、大学は多様なキャリアパスの開発・開拓と実社会にマッチした大学院教育を行うよう、それぞれが責任を果たす」「国は、大学・専門学校等で学び直しをする者や社会人受講者の数について、5年間で倍増(12 万人→24 万人)を目指し、支給要件の緩和など奨学金制度の弾力的な運用、雇用保険制度の見直しによる社会人への支援措置の実施、従業員の学び直しプログラムの受講を支援する事業主への手厚い経費助成等の支援策を講じる」といった方針が示されています。

 これらを読むと,大学院については海外の例を挙げて「もっと増やせ」というバイアスを掛けている一方,なぜ修士号や博士号の取得者が社会で評価されていないのか,この点をどのように改善したらよいかという視点が極めて不十分であるという印象を受けます。
 特に,教育再生実行会議の蒲島委員は,「日本社会では、修士、博士が大事にされない。修士、博士を大事にするカルチャーをつくることが必要」「大学院生を大事にしない日本社会を早く変えなければいけないということが国家戦略の在り方として一番大事だと私は思っています」などと繰り返し発言しており,要するに「修士課程や博士課程の修了者が伸びないのは,大学が悪いのではなく社会が悪い」と言わんばかりの議論をしているのです。

 この教育再生実行会議は,検討会議と異なり安倍総理自らも出席しているため,安倍政権の中ではかなり重視されていると思われますが,実行会議における議論を法科大学院の問題に当てはめると,「法科大学院の入学者数が伸びないのは,大学が悪いのではなく,法務博士様を大事にしない社会が悪い。大学院生を大事にしない日本社会を早く変えなければならない」という結論になってしまいます。
 法科大学院生や卒業生の皆さんなら,もはや怒るか呆れるか失笑するくらいしかない議論だと思います,法科大学院制度を廃止すれば大学院の修了者は大幅に減ってしまい,文科省が進めてきた専門職大学院構想も頓挫してしまうため,制度がかなりの破綻状態になっても,文科省が法科大学院制度の廃止に同意する可能性は極めて低いと思われます。
 そして安倍総理は,自ら教育改革を唱え教育再生実行会議を立ち上げましたが,会議では既存の大学教育に対する批判的視線が欠けており,結局は文科省の言いなりになって,破綻の著しい法科大学院やその他の専門職大学院に関する文科省の政策に,総理大臣としてのお墨付きを与えてしまっているのです。
 これまでは,検討会議が法曹養成制度に関する検討機関として注目されてきましたが,実際には破綻した法科大学院制度をなおも支え続ける「病根」は教育再生実行会議の方にあり,こちらの方を批判していかないと現状の打開は困難ではないか,と思えてくるようになりました。
 このまま議論が進めば,名目上の修士号・博士号取得者を増やすため,医学部を医科大学院(メディカルスクール)に変えたり,教員免許に教職大学院修了を義務づけたりといった,さらにふざけた改革が提言されるかも知れませんが,そんなことをしたって教育の質はまず上がりません。
 かえって,お金持ちしかそういう職業に就けない傾向が助長されて貧富の差が拡大し,文教予算の無駄遣いが行われるだけでしょう。

 法科大学院はもはや廃止するか,少なくとも司法試験の受験資格から外して再出発を図るしかないと思いますが,外の大学院(特に文系)についても,外部の意見を聴いて教育カリキュラムの抜本的改革を行い,社会から高く評価されるような教育を実施するようにならない限り,実行会議の思惑どおりに入学者数が増えることはないでしょう。
 安倍総理のやっている「教育再生実行会議」の内実は,少なくとも大学以上の高等教育に関しては,「教育崩壊実行会議」になっていると評しても過言ではないと思います。

2 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-07-28 01:34:20
他所からの引用です。

studyweb5 ‏@studyweb5 7月24日
宮澤博行委員(自民)「平成十年代の中ごろは、司法修習生の手当の予算は六十五億円から七十五億円ぐらいでした。合格者数が倍になったり修習期間が短縮されたりして、今に換算すると…八十九億円から九十六億円、手当と貸与の実績があるわけです」

宮澤博行委員「一方…法科大学院に対する財政支援は七十一億円から九十九億円…法テラスの運営費は、最初百十億円だったのが三百十一億円に上がっている。…この貸与に関する、手当に関する…八十九億円―九十六億円、これを削ってバランスをとるというその合理的な感覚が本当に適切なのか」

http://t.co/72ViBQwR6d
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法務博士の価値 (Unknown)
2013-07-28 01:22:09
「法務博士」の価値を過大評価していたローの学者先生と全く評価していない社会、ロー生との温度差といいますか、認識の違いは、恐ろしいものがありました。

 学者は、ほとんどが博士課程単位取得退学をされるので、その後博士の称号を取得するのは、大変なのだそうで、「だから学生に対して厳しくせざるを得ない」と真剣におっしゃっているのを聞いたことがあります。
 学者というお公家社会のような閉鎖的な社会で生きてこられた方には、その世界での見識でしか物事を判断することができないのだと呆れた一瞬でした。
 「法務博士」なんて、社会的認知度も低いばかりか、受験生の間では「三振法務博士」と侮蔑表現に使われたりします。

 百歩譲って、法科大学院を存置させるのなら、まともな講義ができて、かつ、受験生の現実と物事の本質を見極めることができる教員との入れ替えが必要であると考えます。
 
 
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