このままで

「このままでよろしいですか」今にもシールを貼ろうとする。

私は、彼女のその手を止めるために早口で言う

「袋に入れて下さい」

やはり不満そうだ。
袋に入れるつもりは無かったのに、レジの上にある袋の束に
掛ける指は、苛立ちを隠せない。

環境にやさしくありたい。
誰もが願うであろう、その気持ちを踏みにじるつもりはある筈も無く。

ただ、私は毎朝買う「ヘルシアウォーター」を袋に入れて欲しいのだ。

私はカゴの無い自転車で通勤している。肩に掛けている鞄には
書類が入っており、ペットボトルが入る隙間は空いていない。

そんなことは一言も口にせず、「袋に入れて」と懇願している。

毎朝、同じものを買い、毎朝同じやりとりがある。

店員は、２～３名。おばさんと若い娘のアルバイト店員だ。

そろそろ覚えても良い頃だ。

朝８時近辺に現れ、ヘルシアを買うサラリーマンは必ず
袋に入れて欲しいと言うことを。

たとえそれが１本であってもだ。

たかが１８９円であってもだ。

店員おばさんのヘアースタイルが「おさげ」であってもだ。

私にとっては「袋にいれますか？」の方が親切である。
「はい」で済むわけだから。

袋に入れない人にとっては「このままで？」「はい」で済むわけか。


男と女の話で

「私、貴方のためにもっといい女になるわ」

「君は、このままでいいんだよ」

なんてことが、よくある。
まあ、そうは言わずに袋に入れてやれよ（何を？）

競馬では最後の直線で、自分の買った馬券通りの順番で
馬がゴールに向かってくると
「そのままっ！」と叫ぶことがよくある。

環境に優しいギャンブラーだ（「このまま」ではなく？）

最近、仕事のプレッシャーから逃げ出したくなる。
こうして、現実逃避している時間が好きだ。

このまま、逃避してしまいたい（どこへ）

さあ、仕事しよう。