【連載】呑んで喰って、また呑んで（75）
ウイスキーはほどほどに
●日本／白井
山本徳造 （本ブログ編集人） 
テニスの練習で左膝を痛めたのは、昨年末のことだった。もう１年も経つが、いまだに完治しない。それどころか、今度は右膝に激痛が走った。「数日もすれば、痛みが治まるだろう」とタカをくくっていたが、日に日に悪化し、まるで老人（「もう立派な老人ではないか」という声は無視する）のような歩き方に。
辛抱できない痛さに耐えかねて、病院に行った。すぐにレントゲンを撮ったところ、骨には異常が見当たらない。そこで担当医が痛み止めの注射を右膝に。
「い、痛～い！」
思わず悲鳴を上げた。目には涙が。いろんな注射を経験したが、こんな痛い注射は初めてである。まるで拷問だ。
「せ、先生」と哀願するように尋ねた。「こんなに痛いもんなんですか」
「ええ、痛いところに直接、注射針を突き刺してますからね」
と医師は平然と答えた。
やっと注射が終わったが、全身汗びっしょり。私は痛みに弱いのだ。看護師がくすくす笑っている。私がスパイで敵に捕まって拷問されそうになったら、「はい、何でもしゃべります」とあることないことを洗いざらい自白することだろう。さてと――。
「じゃあ、歩いてください」
そう医師が言うので、歩いてみた。すると、右膝の痛みが嘘のように消えているではないか。
「先生、もう全然痛くないですよ。有難うございます!!」
米つきバッタのようにお辞儀を繰り返す私だった。
普段なら病院から自宅までは歩いて20分ほどである。行きは這うようにしてヨチヨチと歩いたので、30分以上かかった。が、帰りはステップを踏むような軽やかな足取りである。なんと15分で帰宅できた。嬉しい。こんなことから、もっと早く病院に行っておけばよかったと悔やむ。
その日の夕食は豚のレバーを中華風の甘煮にした。いつもなら血糖値を気にして発泡酒しか呑まないが、前日に知人からお歳暮としてビールの詰め合わせセットが届いたので、久しぶりのビールで祝杯を挙げる。キャハー、やっぱり本物のビールは美味い！
ビールの後はウイスキーの炭酸割だ。これもレバーに合う。膝の痛みが消えたので、嬉しさのあまりウイスキーをボトル三分の一は空ける。妻が「けっ、この単細胞め！」と言いたげに私を眺めていた。
そして、翌日（昨日）――。野暮用で新鎌ヶ谷に夕刻まで出かけていた私は北総線に乗って白井駅に。スマホで時間を見ると、午後５時17分である。私は焦った。所の仲間たちが午後４時から私が住むマンションの集会所に６、７人が集まって呑み喰いしているからだ。
駅から集会所までは徒歩で５分ぐらいだが、膝が痛くないので、小走りになった。一刻も早く呑みたいし、早く行かないと料理がなくなるかもしれない。やっと到着した。いい匂いが漂う。幸い料理は残っていたようである。ヒロシさんが、
「今日は魚の鍋です。イナダとスズキをしゃぶしゃぶにして食べてください」 会の料理を一手に引き受けるヒロシさんが解説する。
まずはウイスキーの炭酸割で喉を潤す。そしてイナダを煮立った鍋にしゃぶしゃぶと泳がし、ウニのタレに付けて口に運ぶ。うーん、何とも言えない。ヒロシさんの料理は凝っているので、毎周開かれるこの会が楽しみである。
誰かが持ち込んだ年代物のウイスキーがまた絶品だった。ストレートで何倍も呑む。ひゃー、たまらん。宴は８時まで続いたらしい。「らしい」というのは記憶が定かでないからだ。
朝起きると、膝がヒリヒリする。見ると、擦り傷が。どうやら、どこかで転んだようである。参加者の一人であるユウちゃんに「昨夜はどうなった？」とＬＩＮＥすると、すぐに返事が。
「短時間で相当酔ってましたね。マンションの中庭を突っ切ったところのドアまで送りましたけど、真っすぐに歩けない状態でした」
情けない。せっかく膝の痛みが消えて喜んだのもつかの間。今度は擦り傷を抱え込む始末だ。情けない。皆さん、いくら美味いからって、調子に乗ってウイスキーをストレートで何倍も呑むのは控えましょう。「えっ、自分に言い聞かせろ！」ですか。はい、そうします。
