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エリザベス女王は天皇陛下に歩み寄られた 【連載】藤原雄介のちょっと寄り道⑨

2022-09-24 05:26:09 | 【連載】藤原雄介のちょっと寄り道

【連載】藤原雄介のちょっと寄り道⑨ 

エリザベス女王は天皇陛下に歩み寄られた

ロンドン(イギリス)

 

 


 英国のエリザベス女王が96歳の天寿を全うされた。
 ロンドン勤務の長かった私には、何かと考えさせられる出来事だったと言えるだろう。
 ウェストミンスター寺院で執り行われた国葬には、世界各国から王族や首脳が大勢集まった。その中でひときわ注目されたのは、天皇皇后両陛下のご参列である。
 エリザベス女王の自ずと溢れ出る威厳に満ちていながらも人を惹きつけずにはおかないチャーミングなお人柄については、あらゆる言語で語り尽くされているので、何を書こうとも、誰もがどこかで見たことのあるようなものになってしまう。
 しかし、これだけ様々なエピソードが報道されているにも拘わらず、英王室と日本の皇室、いやエリザベス女王と天皇陛下(現上皇陛下)の強い絆が垣間見えた衝撃的な瞬間については、少なくとも私の知る限り、ほとんど語られていない。

 今から10年前の2012年5月18日のことである。
 エリザベス女王のダイアモンド・ジュビリー(diamond jubilee 即位60周年)を祝う午餐会がロンドン郊外のウィンザー城で開かれ、君主を頂く世界27カ国から22人の王族が招待された。
 女王とフィリップ殿下は、訪れた各国の王族の一人ひとりを会場の入り口で迎え入れる。悠然とした女王に歩み寄り、カーテシー (curtsy) をする女性王族、そして頭を下げてお辞儀をする男性王族。そんな彼らに女王は淡々と挨拶を返す。
 ちなみにカーテシーとは、今日のヨーロッパで、王室のメンバーに面会する際に主に用いられるお辞儀の一種である。17世紀以降、女性のみが行う礼法として発達した。
 目上の相手に対し、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたまま挨拶をする。それがカーテシーという礼法である。

 この午餐会の模様をBBCが伝えた。私も中継をみていた一人だが、BBCはゲストの身分と名前を告げるだけ。余計な説明はせず、淡々と中継した。女王はというと、優雅で威厳に満ち、いかにも女王然としたご様子である。けっしてその場を動かず、ゲストの挨拶を受けておられた。
 ところが、天皇陛下の順番になった時だ。エリザベス女王は、ごく自然に1、2歩前に歩み出て、両手で陛下の手を取られ、親しそうに陛下に何か語りかけられたのである。まるで親しい友人に出会った嬉しさに、思わず身体が勝手に動いてしまったかのようだった。
 天皇皇后両陛下(当時)がそろって訪英されるのは、5年ぶりである。この時が通算7回目であった。他の王族に対する態度との歴然とした差を目の当たりにして、私の背筋に電流が走ったのを今でも思い出す。


▲両陛下との再会を喜ばれるエリザベス女王

 
 そう言えば、似たようなことがあった。
 令和2(2019)年に行われた徳仁天皇の即位礼の時である。即位礼では、即位を披露して祝福をうけられるための宴「饗宴の儀」()が行われた。なにしろ招待客が約2400人と多いので、4日に分けて実施されている。
 第3日目(10月29日)の宴には、デンマークのフレデリック皇太子とメアリー皇太子妃を両陛下がお出迎えされた。親しい間柄であった雅子皇后陛下とメアリー皇太子妃がカーテシーの前に、なんとチークキスを交わされたのである。親しさ故に、礼法から外れてしまった訳だ。
 その後、妃殿下が慌ててカーテシーをなさったことで、場の堅苦しさがほどけ、和やかな空気が流れた。一連の流れは、本当に自然で、礼法を越えた親密さの発露であったのだろう。
 当時英国に駐在していた私は、この光景を何人もの友人に話したものである。だが、不思議なことに、私を感動させたあの場面を実際にテレビの画面で見たという人は誰もいなかった。
 この文を書きながら、自分の目に焼き付いているあの光景は幻だったのかと不安になり、丹念にネットで検索してみたのだが、いくら探してもあの映像は見つからない。

▲仲良しの雅子妃殿下(現皇后)とメアリー皇太子妃

 

 エリザベス女王のダイアモンド・ジュビリーに話を戻す。
 午餐会の席順は、在位年数など厳しい基準に基づき決められるものだ。しかし、それを無視して、天皇陛下には、エリザベス女王の左隣という2番手の席が用意されたのである。ちなみに皇后陛下の席は、女王右手の最上席に座るスウェーデンのカール16世グスタフ国王の右隣だった。

 このような特別待遇の背後には、昭和天皇、上皇陛下、現天皇陛下と3代に亘り、英王室と深い友好関係を築いてこられた歴史の重みがあるに違いない。更に言えば、「英王室と」と言うより「エリザベス女王と」と言った方が適切だろう。
 天皇陛下とチャールズ新国王がこれまで以上に素晴らしい日英関係の歴史を築き上げていかれることを心から願う私である。

▲ロンドン塔での筆者

 

 

  

【藤原雄介(ふじわら ゆうすけ)さんのプロフィール】
 昭和27(1952)年、大阪生まれ。大阪府立春日丘高校から京都外国語大学外国語学部イスパニア語学科に入学する。大学時代は探検部に所属するが、1年間休学してシベリア鉄道で渡欧。スペインのマドリード・コンプルテンセ大学で学びながら、休み中にバックパッカーとして欧州各国やモロッコ等をヒッチハイクする。大学卒業後の昭和51(1976)年、石川島播磨重工業株式会社(現IHI)に入社、一貫して海外営業・戦略畑を歩む。入社3年目に日墨政府交換留学制度でメキシコのプエブラ州立大学に1年間留学。その後、オランダ・アムステルダム、台北に駐在し、中国室長、IHI (HK) LTD.社長、海外営業戦略部長などを経て、IHIヨーロッパ(IHI Europe Ltd.) 社長としてロンドンに4年間駐在した。定年退職後、IHI環境エンジニアリング株式会社社長補佐としてバイオリアクターなどの東南アジア事業展開に従事。その後、新潟トランシス株式会社で香港国際空港の無人旅客搬送システム拡張工事のプロジェクトコーディネーターを務め、令和元(2019)年9月に同社を退職した。その間、公私合わせて58カ国を訪問。現在、NHK俳句通信講座講師を務める夫人と白井市南山に在住し、環境保全団体グリーンレンジャー会長として活動する傍ら英語翻訳業を営む。


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