【連載エッセー】岩崎邦子の「日々悠々」(67)
あ~っ! 一瞬体がふわりとなって、転んだ。5メートルほど離れたところを歩いていた人が、びっくりしたように、「大丈夫ですか!」と、駆け寄ってくれた。よほど派手な転び方をしたらしい。
先週の木曜日の午前、体操教室を終えて、郵便局の方へと向かった直後のことである。雨模様だったので、自転車ではなく歩いて出かけたが、いつもと違った道順と行動である。せっかちな私は、そこに7~8センチほど下がる段差があることに気付かずに、前ばかり見ていたようだ。
「大丈夫です。ありがとうございます!」
そう言って、私は急いで立ち上がった。
「ほんとに、大丈夫?」
「あ、はい。ありがとうございます!」
2回もはっきりと礼を言って、何事もないように歩き始めた。
恥ずかしさの方が先に立って、うじうじと弱音など吐いていられない。しばらく歩いていくうちに、右ひじが痛み始めた。「痛いよ、痛いよ」「あぁ、痛いよ~」と、声には出さずに叫んでいた。それでも、予定をしていた郵便局、銀行、スーパーマーケットの用事を済ませて家路を急ぐ。昼食の準備をしなければならないからだ。
「転ぶなよ」「気を付けろ」が口癖の夫には何と言おうか。えーい、もう言うしかないか。そして、意を決した。
「また、転んだ…」
と、小声で。
「え~っ」
夫はあきれ顔である。そんな夫に向かって、私はさらに小声で、
「多分、肘を怪我してるかも」
生地が雨にも強い上着の右袖は少し汚れていたが、別に破れてはいない。だから、大したことはないと思っていた。ところが、中に来ていた薄手のシャツの袖をめくると、右肘からは、べっとりと血が出ているではないか。
「うわぁ」
それを見た夫が驚いた。
幸いに傷口には汚れがない。この怪我に適した薬は何だろう? 思いつかないまま、メンソレータムを塗り、薄いガーゼを当てた。テープ止めは夫に頼んだ。薬が染みてズキンズキンと痛いのだが、弱音は吐けず、夫の空腹を満たすことに専従する。右の鎖骨が少し痛いので、「次の月曜日のパークゴルフは出来るだろうか」と心配した。
明くる金曜日―。
肩と肘の痛みはやはりあるが、体操教室には行けたので、捻挫や骨折はしていないようである。その次の日から予定していた行事が少なくない。土曜日に白井健康元気村の定例村会と児童公園の清掃、日曜日には市長と市民の意見交換会がある。そして、月曜日がパークゴルフで、火曜日はカラオケだ。それぞれの時間は短い。すべて参加できたのが何よりである。
さて、私は家の中ではまだ転んでいないが、出かけた先などでは結構ある。以前にもエッセーでも書いたが、船橋駅で派手に転んだ。またある時は、夜道でやはり段差に気付かずに転んだことも。この時は右の顔面をぶつけた。かけていた眼鏡に損傷はなかったが、あわや「お岩さん」になるところだった。
その他にもまだあったなぁ。そして、今回またもや転んだ。私は単なるせっかち、おっちょこちょいだけなのか。
「何もないところでよく転ぶのは病気の前兆? その原因と予防法」
そんな項目をネット上で見つけた。私の場合、道路に段差があったから、なのだが。でも、これも苦しい言い訳なのだろうか。ともかく、以下にネット記事の要約を記してみよう。
65歳以上になると転びやすくなり、その5人に1人は、年に1回以上は転ぶと考えられている。転んでも必ずしも怪我をするわけではない。しかし、骨がもろくなっていると、簡単に折れてしまう。高齢者の4大骨折というのがあって、太ももの付け根、背骨、手首、肩の骨とある。
太ももの付け根の骨は、大腿骨頚部(だいたいこつけいぶ)という。80歳以上で、ここを骨折すると、5年後の生存率は3割低下する。転倒、骨折、寝たきりというプロセスをたどり、あの世に旅立ってしまう。高齢者の転倒は、肉体的要因と、生活習慣に負うところが多い。
よく転ぶ原因として、足の筋力の衰え、脳や脊髄の病気の可能性がある。足が冷えている状態だと、バランスを保つセンサーが働かなくなり、ちょっとした段差や何もないところでバランスを崩してしまい、転びやすくなる。特にこれは、自宅などで裸足や靴下だけでいる時に起こることが多く、自宅で転ぶことが多い人は足が冷えている可能性が高い。
外反母趾になると、足の指や足裏などをしっかりと動かすことができない。そのため、体のバランスが崩れてしまい転びやすくなる。そこで、手軽で簡単にできる「スクワット」などの筋力アップ運動を行うとよい。また、股関節の柔軟性を高めることで、足のひきずり原因を解消することができる。
ここまでがネットからの要約である。対処法や運動のやり方は、本からでも、ネットからでも知ることができ、健康講座(筋力アップ、ロコモティブ・シンドロームの予防など)で誰もが実践出来ることばかり。要するに、自身の筋力を鍛えて努力をすることが大事なのだが、それを継続することの難しさを痛感している私である。
そそっかしく、せっかち、あわてんぼう。そんな性格でも、一向に懲りない。でも、このままだと、何度でも転ぶかも。ああ、傷口が痒くなってきた。今、私に必要なのは、冷静で落ち着いた行動である。それは分かっているのだが……「少しでも性格が変わりますように」と、祈るしかない。