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ノーベル賞を受賞した本庶佑教授の憂鬱(下)

2019-01-22 09:46:29 | 【短期集中連載】ノーベル賞を受賞した本庶佑教授の憂鬱

【短期集中連載】(最終回)

ノーベル賞を受賞した本庶佑教授の憂鬱(下)

オプジーボについて

 

  横山祐作 (東邦大学名誉教授)

 

 前回までに、本庶先生の研究に対する考え方、あるいはがん免疫療法薬としてのオプジーボの特徴について書いてきました。今回はオプジーボについてさらに詳しく解説したいと思います。

 ギリシャのヒポクラテスの時代から、「医療は人間の治癒する力を助けるもの」だと言われてきました。この観点から、癌細胞を直接殺す副作用の強い抗がん剤より、人自身の治癒力を増強する免疫療法は望ましいものだと考えられてきました。

 そのため免疫療法はサルノコシカケ、丸山ワクチン等数多く試みられてきましたが、「末期がんが治る」などの謳い文句で安易な治療を行う機関が登場したこともあり、医師の多くから「科学的根拠(エビデンス)のない怪しげな治療」というレッテルが貼られることとなりました。

 本庶先生は、1992年に詳細な免疫の仕組を世界で始めて解明した(1回目の記事参照)のですが、その仕組みを応用して癌治療法(免疫療法)の開発研究を続け、2002年に小野薬品との共同研究により動物実験でこの療法が有効であることを見出しました。

 しかし、人間でこの療法を試みるために克服すべき大きな壁が2つありました。1つ目は「医薬品としてのオプジーボの供給」、2つ目は「オプジーボの医薬品としての有効性を証明するための臨床試験に実施」です。

 1つ目の「オプジーボの供給」について説明しましょう。人への臨床試験には、大量のオプジーボが必要でした。だが、通常の医薬品と異なりオプチーボは大変複雑な物質で、小野薬品には臨床試験に必要なオプジーボを供給する技術はありませんでした。

 そこで、小野薬品は国内のすべての大手製薬会社に共同開発を持ちかけます。ところが、成功する見込みが少ないと考えられていたがん免疫療法薬の開発であること、さらに製造技術を有していなかった事等を理由に国内すべての製薬会社から断られました。

 小野薬品はこの時点でオプジーボの開発を諦めようとしたのですが、本庶先生がアメリカのベンチャー企業を探し出し、その企業との共同研究の結果、臨床試験に十分なオプジーボの量を確保することが出来たのです。

 2つ目の「臨床試験に実施」について説明します。2002年当時、免疫療法薬であるオプチーボの臨床試験を引き受けてくれるお医者さんはほとんどいませんでした。ようやく臨床試験を引き受けてくれるお医者さんを見つけても、従来の癌治療(手術、放射線、抗がん剤)では全く手の施しようのなかった患者さんに限って実施されました。

 その結果はどうでしょう。なんと、助からないと思われていた患者さんの約30%が助かったのです。お医者さんが驚愕し一流の学術雑誌に発表して以降、世間の注目を浴びるようになり、臨床試験が一気に加速しました。こうしてオプジーボの免疫療法剤としての有効性が世界で始めて科学的に証明されたのです。

 ここで、オプジーボの副作用についても述べたいと思います。2回目の投稿記事を思い出して下さい。その中でオプジーボは免疫細胞の鍵(PD-1)を覆ってしまうと述べました。このことは、一見癌細胞と正常細胞両方とも攻撃してしまうと予想されます。しかし、免疫細胞は正常細胞を見分けるための沢山種類の鍵を持っているのです。

 オプジーボは癌細胞を見分けるための鍵(PD-1)だけを覆うので、すべての正常細胞を攻撃するわけではありません。一方、臨床に使うようになってから日が浅いので、予測困難な免疫のバランスの崩れによる副作用も報告されています。

 また。オプジーボが有効だと証明されたがんの種類は限られており、さらに他に治療法がない場合にのみ投与が認められているので、がんの特効薬とは言えません。しかし、救うことの出来ない患者さんの約30%が助かる様になったことは、癌治療の大きな進歩だということを強調したいと思います。

 日本人の基礎研究からの画期的な新薬が、世界的に見れば小さな企業である小野薬品から発売されたことの意味を考えてみましょう。世界で新薬をコンスタントに開発できる国は、アメリカ、ヨーロッパの先進諸国とアジアでは日本だけです。

 その中でも日本は新薬の創出数では、常に3~4位を保っており、アジアの国で日本だけが新薬を開発できる国です。世界ではメガファーマと言われる巨大企業が新薬の開発を担っています。大型合併に成功した武田でもでもようやくトップ10入りしたぐらいで、日本はメガファーマがほとんどない国なのです。

 日本の製薬メーカーは規模が大きくないにもかかわらず、伝統的に薬を根本から開発するスタイルを取っていました。即ち基礎研究に近いことを製薬メーカーでも行っていたのです。これは、世界でも日本だけの特殊形態であり、このことが日本の基礎研究のレベルを挙げたとも考えられます。

 前回も書きましたが、本庶先生は新薬開発につながる基礎研究が危機に陥っていることを大変心配されています。国の科学技術政策が、「目先の成果優先主義」ではないかという危惧です。

 私は、国の科学技術政策の方向付けに国民の理解が大きな影響を与えると信じています。皆さんにもぜひ基礎研究の重要性を理解し、国の科学技術政策のあるべき姿を考えていただければ幸いです。

 


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