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京都・神護寺 宝物公開 ~伝・源頼朝像ほか国宝が勢揃い

2018年04月27日 | お寺・神社・特別公開

日本の武将の肖像画として最もよく知られる「伝・源頼朝」像が、毎年ゴールデン・ウィークに神護寺(じんごじ)で公開されます。高雄と呼ばれる嵐山の奥深い山中にある神護寺は、仏像・絵画などの文化財は京都のお寺でもトップクラスの質の高さを誇ります。

秋の紅葉で有名な神護寺は、春の青もみじも抜群の美しさを見せてくれます。京都駅からバスで50分かかりますが、わざわざ行く価値は充分にあります。


神護寺には仏像・絵画など美術品の国宝が17点、重文は2,800点以上あります。一方建物の国宝・重文はゼロです。平安時代の初期に最澄や空海が入るような都で重要な寺であったこと、平安時代初期に寺を再興した文覚(もんがく)が源頼朝や後白河法皇といった時の権力者の庇護を受けていたこと、が上質な美術品の多さの背景にあります。

境内は、室町時代以降に権力者の庇護から遠ざかったことに加え、明治の廃仏毀釈の影響を強く受け、縮小の一途をたどります。そのため境内や建物に往時の面影を感じることができず、世界遺産にも指定されていません。

厳しい寺勢が長く続いた間、これだけ多数の美術品を守り抜いたことは奇跡に近いでしょう。



宝物公開は「虫払い(むしばらい)」と呼ばれ、京都の寺院ではよく行われています。年に一度風を通して虫がつかないようにし、保存に努めていたことに名前の由来があります。「虫干し(むしぼし)」と呼ぶ寺院もあります。


書院「灌頂の庭」

神護寺の虫払いは、普段は非公開の書院で行われます。虫払いと同時に公開される書院の石庭は、現代的なデザインが妙にマッチしています。

【公式サイトの画像】 伝平重盛像・伝源頼朝像・伝藤原光能像


目玉は何といっても日本の肖像画の最高峰と言われる「伝・源頼朝像」と「伝・平重盛(たいらのしげもり)像」です。座像ですがほぼ実物大の大きさがあり、鎌倉時代に流行した肖像画である「似絵(にせえ)」よりかなり大きくなっています。

ヨーロッパのバロック時代の肖像画のように、その人物の内面や性格までを描き出しているところに、中世の日本絵画の中では際立った特異性があります。「伝・源頼朝像」は恐怖感を抱かせるような眼光の鋭さと冷静沈着な表情で描かれており、とても強い意志があることをうかがわせます。「伝・平重盛像」は対照的に包容力のある柔和な表情で、悟りを開いた如来のような落ち着きを見せています。どちらもその人物ならではの腹のすわった内面が表現されており、実物からは強いオーラを感じる傑作です。

神護寺の国宝・肖像画はもう一点「伝・藤原光能(ふじわらのみつよし)像」があります。東京国立博物館に寄託されているため、虫払いでは公開されません。「伝・源頼朝像」「伝・平重盛像」の二点も普段は京都国立博物館に寄託されていますが、毎年の虫払いの時だけ伝統にのっとって寺に里帰りし、展示されています。

三像とも「伝(でん)」が付いているように、現在は名称の人物を描いたものか論争が続いています。「伝・平重盛像」は150年時代が下った足利尊氏、「伝・源頼朝像」は尊氏の弟・直義(ただよし)、「伝・藤原光能像」は尊氏の嫡男・義詮(よしあきら)とする新設がります。現代の教科書も頼朝の肖像として教えづらくなっているでしょう。よほどの文献が発見されない限り結論は出せないよ思われます。こうしたミステリアスな論争も、この肖像画の魅力を一層高めています。

【公式サイトの画像】 灌頂歴名

虫払いでは、空海が行った儀式の出席者名簿で空海自筆の「灌頂歴名(かんじょうれきみょう)」も展示されます。空海の自筆でとても力強い文字です。日本の書道史上の最高傑作と言われる国宝です。



寺の随所にモミジの文様が見られます。美術品の宝庫である神護寺の上質な空間を感じさせます。常時公開の金堂本尊・薬師如来もお見逃しなく。「伝・源頼朝像」のように強い意志を感じさせる平安初期の傑作です。国宝です。

こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。



日本で最も有名な肖像画の謎を明晰に推理


神護寺
http://www.jingoji.or.jp/
会期:毎年5月1日~5日(日付で固定)
会期中休館日:なし


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