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美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

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嵐山らしい美術館が誕生_福田美術館 開館記念コレクション展

2019年10月07日 | 美術館・展覧会

京都・嵐山でしか体験できない空間が10/1にオープンしました。福田美術館です。
 開館記念「福美コレクション展」では、江戸・近代の日本美術の名品を渡月橋と大堰川の絶景をのぞみながら楽しむことができます。



 目次

  •  福田美術館とは?
  •  最先端の鑑賞提案
  •  近代京都画壇の名品をカバーしている
  •  江戸絵画の名品もカバーしている


 嵐山の絶景をのぞみながら、質が高くブレのないコレクションを味わうことができます。
 快適な鑑賞を後押しする、日本の美術館では稀有な鑑賞システムも整えています。
 嵐山を訪れる機会がありましたら、ぜひ訪れてみてください。
 とても斬新な印象を受けることほぼ間違いなしです。



 福田美術館とは?


 館名はコレクターを表しています。消費者金融大手・アイフルの創業者で、現在も社長を務める福田吉孝氏です。
 出身地の京都でアイフルを10代で創業し、日本屈指の大富豪として知られるようになった立志伝中の人物です。

 美術館創設のために15年を費やし、約1,500点を蒐集しました。
 京狩野から近代の竹内栖鳳らまで、京都で活躍した絵師たちの名品を俯瞰することができます。
 江戸の風俗画・浮世絵、竹久夢二、加山又造や近代西洋絵画も一部所蔵しており、京都画壇の名品とは一味違う刺激を与えてくれます。



 縁側のような開放感のある廊下


 美術館は、渡月橋から2分ほど歩いた川沿いにあります。
 廊下に2フロアぶち抜きの巨大なガラス壁が設置されています。
 目に飛び込んでくる嵐山の四季折々の絶景と清々しい陽光が、名品を見る前にワクワク感を高めてくれます。
 「今、私は嵐山にいる」、展示室に入る前にこの廊下を通るだけで、強く実感できます。


 最先端の鑑賞提案


 写真撮影OKとスマホ無料音声ガイド、この2点が日本の美術館ではまだまだ珍しいシステムです。

 「福美コレクション展」では、著作権が有効な作品を除いて、ほぼ「写真撮影OK」です。ただしフラッシュはNG。
 なお「撮影OK」といっても、「第三者の顔をそのまま投降」「商用利用」といった最低限のNG利用は意識しなければなりません。

 スマホ無料音声ガイドは、作品リストに表示されているQRコードで指定サイトにアクセスし、利用することができます。
 アプリのダウンロードは不要で、ヘッドホンだけのレンタルもあります。
 公開サイトへのアクセスですので、鑑賞後にあらためて作品解説を楽しむこともできます。

 企画展に頼らず館蔵品を売り物にしたい美術館にとって、ファンづくりを重視した興味深い最先端の鑑賞提案です。



 美術館入口


 展示エリアは3つに分かれています。1Fが近代日本画、2Fが江戸絵画、渡月橋をのぞむパノラマギャラリーが近代西洋絵画です。


 近代京都画壇の名品をカバーしている


 【美術館公式サイト:コレクション】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

 1Fではまず、竹内栖鳳らしい超繊細なモフモフ感の「猛虎」が観る者を出迎えてくれます。
 その隣には同じく栖鳳の「金獅図」が並んでいます。
 栖鳳の猛獣画は、この両作品のように口を開けて描かれている作品が目立ちます。
 荒々しい息遣いを感じさせるところが栖鳳流です。

 上村松園「軽女悲離別図」は、大石内蔵助が江戸に下る前夜の愛妾・お軽との別れを描いています。
 松園ならではの、お軽の凛とした気概の描写がとても清らかに感じられます。

 木島櫻谷「遅日」は、春が近づく温かみのある柔らかな情景を、墨だけで表現した絶品です。
 近年評価が高まる櫻谷のスゴ腕を感じさせます。



 展示室の様子

 「黒き猫」で知られる菱田春草は、「白き猫」を描いてもさすがです。「梅下白猫」は猫の真っ白な毛並みが陽光に輝いており、梅と合わせて早春の情景を見事に表現しています。

 「切支丹波天連渡来之図」は竹久夢二が、東寺流行していた南蛮趣味を見事に表現しています。宣教師と遊女と言う不思議な組み合わせが、京都画壇の作品にはない夢二の個性を強烈に感じさせます。

 福田コレクションは近代京都画壇を代表する画家を俯瞰しており、それぞれの作品からは画家の個性を充分に感じ取ることができます。
 続いてご紹介する江戸絵画も然り、ぶれることなく名品をカバーしています。


 江戸絵画の名品もカバーしている


 深江芦舟が「草花図屏風」で六曲一隻に描いた四季の移ろいには、師の光琳の洗練さよりも、宗達と伊年作品のような柔らかい華やかさが感じられます。
 重要文化財にふさわしい名品です。

 「茶筵酒宴図屏風」は、談笑する人たちが囲む赤い机の色を際立たせることで、与謝蕪村一流の洒脱感を表現しています。
 白い肌に浮かぶ口紅のようにとても効いています。

 伊藤若冲「群鶏図押絵貼屏風」は、12羽も描いた”鶏”に単調さはなく、それぞれの個性が見事です。
 若冲はん、流石です。

 「薬玉図」は、”構図の妙”が何と言っても魅力的な長沢芦雪らしい名品です。
 垂れ下がるツツジの花と葉だけを画面上に描き、下には茎はありません。
 右下隅に落款を入れることで下の空間を引き締めています。
 こちらも、芦雪はん、流石です。

 

 北斎「墨堤三美人図」は、印象派作品のように鮮やかに、都市の日常の光景として隅田川に佇む女性を描き出しています。
 オーダー品の肉筆画だからこそ、北斎にこんな優雅な表現を可能にさせています。

 2Fパノラマギャラリーでは、カミーユ・ピサロ「エラニーの積み藁と農婦油」が注目されます。
 西洋絵画は少数の展示ですが、正面に見える渡月橋と共に、濃厚な日本美術にひたった余韻に、爽やかな風を送り込んでくれます。

 パノラマギャラリーの下はカフェ、東京や大阪で話題の「パンとエスプレッソと」です。
 福田美術館の隣でいつも外国人観光客で大行列のアラビカ・コーヒーとは異なり、静寂の空間の中で極上のコーヒーと渡月橋の絶景を楽しむことができます。

 隣接する嵯峨嵐山文華館とのお得な共通チケットも発売されています。
 美術館が少なかった嵐山に、福田美術館が新たな魅力を加えました。

 展覧会は11/20からのII期展示で大幅に展示替えされます。2回行きましょう。



 アラビカの大行列は相変わらず、


 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



 現代の京都画壇の人気の実態や如何に?


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 ________________
 利用について、基本情報

 <京都市右京区>
 福田美術館
 開館記念
 福美コレクション展
 【美術館による展覧会公式サイト】

 主催:福田美術館、日本経済新聞社、京都新聞
 会期:2019年10月1日(火)~2020年1月13日(月・祝)
 原則休館日:火曜日
 入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

 ※11/18までのI期展示、11/20以降のII期展示で展示作品/場面が全面的に入れ替えされます。
 ※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

 ※この美術館は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。
  フラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音と動画撮影は禁止です。
 ※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。




 ◆おすすめ交通機関◆

 JR嵯峨野線「嵯峨嵐山」駅下車、南口から徒歩12分
 京福電鉄・嵐山本線(嵐電、らんでん)「嵐山」駅下車、徒歩4分
 阪急電鉄・嵐山線「嵐山」駅下車、徒歩11分

 JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
 京都駅→JR嵯峨野線→嵯峨嵐山駅

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※この施設には障がい者や車いすの方だけが利用できる駐車場があります。
 ※道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。

 ________________

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大阪南部の茶の湯美術の至宝_正木美術館「利休と茶の湯」12/1まで

2019年09月25日 | 美術館・展覧会

大阪府南部にある正木美術館で「利休と茶の湯」展が行われています。
唯一の生前の「利休像」など、驚きの名品が揃う正木美術館の禅宗美術コレクションをしっかりと味わうことができます。




目次

  • 関西に多い伝説のコレクターの一人、正木孝之
  • 中世絵画や墨蹟を見ると、いつも心が引き締まる
  • 大阪南部の2つの美術館「正木」「久保惣」はマスト・スポット


正木美術館は大阪府南部の泉大津市と岸和田市に挟まれた日本一面積が小さい忠岡町にあります。
町の面積は3.97平方km、関西空港島の半分以下しかありません。
忠岡町の周辺は古くから繊維産業が盛んなところで、多くの素封家を輩出しています。

日本有数の個人コレクションを築き上げた伝説の美術コレクターが、驚くことに4人もこの地域から出ています。


関西に多い伝説のコレクターの一人、正木孝之


日本の禅宗美術を中心としたあまたの名品を所蔵する正木美術館を1968(昭和43)年に開館したのは、正木孝之(まさきたかゆき)です。
代々庄屋を務めた旧家で戦前に建設業や映画館経営で財を成しており、戦後すぐの預金封鎖や財産税によって大量の美術品が売りに出された際に数多くの名品を入手しました。

現在の日本の美術館のコレクションの少なからずは、こうした終戦直後の混乱期に蒐集された作品が主流をなしています。
あと3人の伝説のコレクターも同じ頃に蒐集しており、現在はそれぞれの美術館の輝かしいコレクションとして大切に守られています。

美術館 コレクター 本拠 事業 国宝/重文所蔵件数
正木美術館 正木孝之 忠岡町 建設業、映画館 国宝3件/重文13件
細見美術館 細見亮市、實 泉大津市 毛織物業 重文17件
和泉市久保惣記念美術館 久保惣太郎(3代) 和泉市 綿織物業 国宝2件/重文29件
旧:萬野美術館 萬野裕昭 忠岡(出身) 建設・海運業 国宝1件/重文30件


4人の内3人のコレクションは、コレクター当人や子孫が解説した美術館に収められていますが、萬野美術館だけは2004年に閉館しています。
萬野美術館の所蔵品の多くは京都・相国寺に寄贈されました。
相国寺にもとから伝来していた名品と合わせ、承天閣美術館を日本有数の古美術の殿堂としての地位を不動にしています。



美術館入口


正木美術館のコレクションの軸になるキーワードは「茶の湯」です。
茶道具はもちろん、絵画/墨蹟から仏画に至るまで、茶室で披露されることで究極の美しさを醸し出す作品たちです。

正木美術館は毎年春秋の2回の展覧会を行っていますが、ほとんどすべて館蔵品だけで構成しています。
館の建物は小振りに見えますが、中の収蔵庫の中ではまさに名品が”うなっている”のです。


中世絵画や墨蹟を見ると、いつも心が引き締まる


この展覧会のタイトルは「利休と茶の湯」。正木コレクションの王道とも言える名品が披露されています。

【所蔵者公式サイトの画像】 伝長谷川等伯「千利休像」正木美術館

展覧会の目玉作品が真っ先に登場します。
肖像が多数残る中で唯一存命中に描かれた「千利休像」です。
永らく等伯筆と考えられてきましたが、表情の違いから現在は土佐派の筆とする説が有力です。

本能寺の変の翌年、1583(天正11)年に秀吉からの重用が目立つようになった頃に描かれました。
62歳ながらも、若々しく気力が充実したような表情は老年期の肖像にはなく、とても希少価値があります
茶人と言うよりも大店の主人のように見える鋭い目線も印象的です。重要文化財です。

【所蔵者公式サイトの画像】 「建盞天目茶碗」「朱漆輪花天目台」正木美術館

「千利休像」の隣に「建盞(けんさん)天目茶碗」が、置台である「朱漆輪花天目台」と共に展示されています。
建盞天目とは、中国の建窯(けんよう)で宋~元代に作られた天目茶碗の総称で、曜変や油滴は建盞の中でも格別なものを指します。
曜変や油滴の主に円形のまだら紋様とはことなり、無数の縦方向の直線が黒地に妖艶な輝きを放っています。

墨蹟も見応えのある名品が並んでいます。

一休宗純による墨蹟「滴凍軒号」は、孝之が特にお気に入りだった逸品です。
孝之が戦後に自宅を建てた際に、この作品に因んで茶室を「滴凍軒」と名付けたほどです。
この自宅は「正木記念邸」として、週末を中心に内部が公開されています。

高僧の墨蹟はとても奥が深く、その人物の個性がよく表れているような気がしてなりません。
一休の墨蹟は、”ヘタうま”に見えるほどユーモアにあふれた大らかな筆の走りが印象的です。
きっと人を引き付ける魅力にあふれた人物だった、そう観る者に思わせる風格も兼ね備えた名品です。



正木記念邸


茶杓(ちゃしゃく)とは、抹茶の粉末を茶碗に入れる耳かきのような形状のいわばスプーンです。
一見、美術品というよりは何の変哲もない民芸品にしか見えません。
400年の時を経て数多の茶人の手垢がしみ込んだような独特の竹の風合いを見ると、不思議なことにその風合いがオーラを放っているように感じてきます。

「茶杓 銘ゆみ竹」は千利休作であることが、その美術的価値やオーラを感じる度合いを格段に高めています。

孝之は、正木美術館所蔵の3点の国宝「三体白氏詩巻」「白氏詩巻」「大燈国師墨蹟」と同じく、「ゆみ竹」も鴻池家から入手しました。
正木美術館は、鴻池伝来品の少なからずを受け継いでいます。

「竹図屏風」は、二曲一双の金屏風の全面を竹の枝と葉で埋め尽くしています。
大画面の屏風を単一の草花だけで描くという、それまではあまり見られなかった構図で、幾何学紋様のように見える竹の枝と葉の配置も斬新です。
夏にこの屏風が飾られている座敷を想像すると、エアコンが動いているような清涼さを感じます。


大阪南部の2つの美術館「正木」「久保惣」はマスト・スポット


関西の個人美術館は、阪神間と京都の東山や上京といった、いわばお屋敷街に集中しています。大阪府南部は必ずしもお屋敷街とは言えず、これだけの質と量の名品が大切に守られていることには驚きを隠せません。

4人の伝説のコレクターの内、2人のコレクションは今も大阪南部にあります。”こんなところがあったのか”、訪れる者はきっとそのように感じます。

【公式サイト】 和泉市久保惣記念美術館

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



正木美術館の名品揃いに驚かされる

________________

<大阪府忠岡町>
正木美術館
秋季展
利休と茶の湯 -茶の世界と道具の美
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:正木美術館
会期:2019年9月1日(日)~12月1日(日)
原則休館日:月曜日、10/15-17
入館(拝観)受付時間:10:00~16:000

※10/14までの前期展示、10/18以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。
※毎年4-6月の春季展、9-11月の秋季展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

南海本線「忠岡」駅下車、徒歩15分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間10分
大阪駅(梅田駅)→大阪メトロ御堂筋線→なんば(難波)駅→南海本線急行→泉大津駅→南海本線普通→忠岡駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には無料の駐車場があります。
※休日やイベント開催時は、道路の狭さ/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


________________

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呉春 池田でリボーン 応挙を超える_逸翁美術館 12/8まで

2019年09月20日 | 美術館・展覧会

大阪・池田・逸翁(いつおう)美術館で『画家「呉春」池田で復活(リボーン)』展が行われています。
 四条派の祖・呉春(ごしゅん)コレクションでは日本有数の所蔵品をたっぷりと味ことができます。


 このデザイン、見覚えがない?


 目次

  •  小林一三と呉春、池田は共通のマザータウン
  •  (写実+洒脱)÷2=呉春


 展覧会のチラシ/ポスターのデザインを見て、何かひらめきませんでしたか?
そう、ゴジラ→東宝→阪急→逸翁美術館という連想が成立します。



 小林一三と呉春、池田は共通のマザータウン


 逸翁美術館は、阪急電鉄の創業者・小林一三(こばやしいちぞう)が蒐集した美術品を展示・保管するために、彼の邸宅を利用して開設されました。
 美術館のある池田市は、阪急電鉄が日本で初めて住宅を分譲し、住宅ローンで販売することで沿線の乗客を増やしたという、阪急電鉄はもとより、日本の私鉄のビジネスモデルの原点のようなところです。

 小林一三の人となりについては、以前ご紹介した拙ブログをご参照ください。
 【美の五色】 小林一三 ~日本人の生活スタイルを創った男が残した思い出

 東隣の箕面市と共に大阪平野の北端に位置し、風光明媚な景観と背後の山から湧き出す豊かな水にも恵まれています。
 この湧水が、逸翁美術館と呉春の縁(えにし)の原点です。

 江戸時代の初め、北摂(摂津国北部)エリアで酒造りが盛んになり、江戸への”下り酒”で巨万の富を築いた日本最大の大店・鴻池家が本拠とした伊丹はその中心地となります。
 西宮・灘は江戸時代後半になって栄えるようになります。
 現在の酒処として池田はほとんどイメージされませんが、江戸時代前半には伊丹と並ぶ”下り酒”のトップブランドでした。
 ”下り酒”で儲けた大店が多数あり、師の与謝蕪村のパトロンがいたことから、呉春は池田に拠点を移すことになります。

 呉春が京都から池田に拠点を移した直接的な理由は、相次いだ身内の不幸に見舞われた呉春を嘆いた師の蕪村が、環境を変えることでリフレッシュをすすめたためです。
 池田の大店は、京都の新進気鋭の絵師・呉春を温かく迎えます。
 呉春という名は、池田滞在時に名乗り始めた名前です。それまでは松村月溪(まつむらげっけい)と名乗っていました。
 呉春は池田で傷心を癒やし、画才にあらためて火をつけます。
 展覧会の名称「復活(リボーン)」は、池田の地が呉春の画業を大きく発展させたことに基づいています。

 ちなみに池田の酒蔵は現在も1軒だけ醸造を続けています。
 その銘柄「呉春」は絵師にちなんで名づけられました。



 美術館の周囲は現在もお屋敷街


 時を経て、小林一三は結婚した時の嫁入り道具に含まれていた与謝蕪村の掛軸に目を奪われます。
 事業に成功した後、本格的な美術品蒐集は蕪村から様々な方向に発展していきます。
 一三が呉春作品と出会うと、母なる池田との縁もあり、一三の審美眼に火が付きました。

 逸翁美術館は蕪村/応挙/呉春といった江戸時代半ばの京都画壇のコレクションが何と言っても秀逸です。
 ”池田酒”が逸翁美術館の原点なのです。


 (写実+洒脱)÷2=呉春


 展覧会はすべて、逸翁美術館(阪急文化財団)が所蔵する作品だけで構成されています。
 館としての自信を垣間見ることができます。
 展示は前後期でほとんどが展示替えされますが、前後期2回訪問をおすすめします。
 逸翁美術館の呉春コレクションをほぼ完ぺきに堪能することができます。
 展示室が館蔵の呉春作品で埋め尽くされている光景は圧巻です。

   

 呉春は師の蕪村が病に伏すと京都に戻りますが、献身的な看病の甲斐なく蕪村はこの世を去ります。
 呉春はこのタイミングで人生を大きく変える出会いに再び恵まれます。
 写実画で当時の京都画壇を一世風靡していた円山応挙です。

 呉春は画業人生の前半生を蕪村に学んだ南画、後半生を応挙に学んだ写実画と、画風を転換させた器用な絵師のイメージがあります。
 ”転換”というよりは”融合”と言う方がフィットしていると私は感じます。
 呉春は応挙の生真面目なまでの写実画に洒脱の趣を加え、肩の力を抜いて味わえる「四条派」の画風を起こしました。
 応挙が起こした円山派の画風を瞬く間に凌駕し、竹内栖鳳や堂本印象ら、現代まで続く京都画壇の主流となっています。

 呉春の”洒脱”の趣は、ゼロから生み出したものではなく、師の蕪村の個性そのものです。
 蕪村と応挙、二人の対照的な師の”いいとこどり”を見事に成就したのが、呉春です。
 呉春は京都の金座の役人と言う裕福な家に生まれ、俳句や横笛などの”あそび”もさらりとこなす、都会的で粋な社交好きの人物でもありました。こうした人柄も呉春の洗練された表現を支えています。



 新館

 展示はおおむね制作時期の順に並べられています。

 「平家物語大原小鹿画賛」は、チラシに採用されているキュートな鹿です。
 ゴジラ的フォントでチラシに大書きされた「ゴシュン」というキャッチコピーと実によく合っています。

 「十二カ月京都風物句図巻」はタイトルの通り、人々がふざけるように生活を楽しんでいる様子を12通り描いています。
 蕪村が得意とした洒脱な表現が見事に受け継がれています。巻替されますが通期展示です。

 「桜花游鯉図」は呉春の写生画の円熟味を感じさせる名品です。
 桜の木の上下をぼやかせることで、鯉がまるで空中を泳いでいるかのように見せています。前期のみの展示です。

 【阪急文化財団ブログの画像】 呉春「秋夜擣衣図」

 「秋夜擣衣図」は、写生画と南画が見事に融合した作品です。
 俳句に詠む農家の情景を絵にしたような趣があり、素朴ながらも洗練された表現を感じさせます。
 前期のみの展示です。

 【文化庁・文化遺産オンラインの画像】 呉春「白梅図屏風」逸翁美術館

 逸翁美術館が誇る呉春の代表作「白梅図屏風」は後期展示です。
淡い藍色に染めた絹本に描くという、アイデアで、夜にひっそりと花を咲かせる白梅の情景を見事に描き出しています。
藍色の背景をこれほどまでに上手に使う並外れた才能を感じさせる重要文化財です。



 どこかで見たことある...


 今年2019年はなぜか、円山・四条派の展覧会が目白押しです。
 4月にこのブログでもお伝えした西宮市大谷記念美術館「四条派への道 呉春を中心として」が行われました。
 9月からはリニューアルオープンした東京・大倉集古館で「桃源郷展―蕪村・呉春が夢みたもの―」が行われており、11月からは京都国立近代美術館で、先に開催の東京藝大美術館から巡回してきた「円山応挙から近代京都画壇へ」が始まります。

 【展覧会公式サイト】 「円山応挙から近代京都画壇へ」京都国立近代美術館

 回顧展が開催されることが多い主役の生誕/没後の周年にも、応挙/呉春のいずれもあてはまりません。
 呉春以下、四条派の絵師たちの知名度は応挙に比べると高くありません。
 応挙の写実画を発展させた四条派の絵師たちに光が当たる意味では、集中開催は効果的です。

 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



呉春と池田の縁を今に伝える酒

 ________________

 <大阪府池田市>
 逸翁美術館
 池田市制施行80周年記念
 画家「呉春」―池田で復活(リボーン)!
 【美術館による展覧会公式サイト】

 主催:阪急文化財団(逸翁美術館)
 会期:2019年9月14日(土)~12月8日(日)
 原則休館日:月曜日、10/21~10/25
 入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

 ※10/20までの前期展示、10/26以降の後期展示で展示作品が大幅に入れ替えされます。
 ※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
 ※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



 おすすめ交通機関:
 阪急宝塚線「池田」駅下車、徒歩10分
 JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
 JR大阪駅(梅田駅)→阪急宝塚線→池田駅

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※この施設には無料の駐車場があります。
 ※休日やイベント開催時は、道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


 ________________

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「文化財よ、永遠に」_六本木 泉屋博古館 分館も”すごい”展示

2019年09月19日 | 美術館・展覧会

「文化財よ、永遠に」、文化財修復をテーマにした興味深い美術展です。
東京・六本木一丁目の泉屋博古館分館では、主に東日本にある修復文化財が展示されています。




 目次

  • 泉屋博古館の分館とは?
  • 名品を伝える古刹は、京都・奈良ばかりではない
  • 元の状態を改変せず、輝きを蘇らせるスゴ腕の修復技術


 文化財修復の意義とその成果の素晴らしさを一挙両得で吸収できる展覧会に仕上がっています。素晴らしい企画です。


 泉屋博古館の分館とは?


 泉屋博古館分館(せんおくはくこかんぶんかん)は、住友コレクションを所蔵する美術館である京都・鹿ケ谷の泉屋博古館による、東京における展示・収蔵拠点です。
両館で個性の違いが出るよう工夫されており、同じテーマの企画展でも京都と東京で趣向を変えることが多くなっています。
単独での企画展も多数開催されています。

 泉ガーデンの敷地は、1917(大正6)年に当時の住友家当主・住友友純(ともいと)が麻布別邸を建てた地です。
友純は当代随一の数寄者でもあり、春翠(しゅんすい)という号の方がよく知られているほどです。
泉屋博古館が誇る古代中国の青銅器コレクションは、主に春翠が蒐集したものです。

 住友不動産が肝いりで再開発した泉ガーデンの名前は、住友家の屋号「泉屋」にちなんで付けられています。
六本木一丁目の地は住友グループにとっては東京における商いの原点のようなところです。
日本と東洋の古美術では日本有数の住友コレクションを展示するには、まさにふさわしいところでしょう。



 六本木一丁目駅から分館へ、エスカレーターで上がっていく


 「文化財よ、永遠に」は、住友グループが設立した住友財団が、過去30年に渡って助成してきた文化財修復によって蘇った作品を展示しています。
加えて文化財修復の技術や修復のポイントを丁寧に解説し、全国4会場でほぼ同時並行に行われるという、とても興味深くユニークな企画展です。

 文化財修復の意義や4会場の展示のすみ分けは、前回お伝えした京都の本館の展覧会のレポートで詳しく解説しています。こちらも見ていただければ大変うれしいです。


 名品を伝える古刹は、京都・奈良ばかりではない


 東京の分館では、会場が東京国立博物館になっている仏像を除いた、主に東日本にある修復文化財が展示されています。
美術館はともかく、関東の古刹にも驚きの名品がとてもたくさん、大切に伝えられていることに驚かされます。
絵画を中心に、京都の本館の展覧会に引けを取らない名品が揃っている印象を受けます。


 【住友財団公式サイトの画像】 「十二神将像」称名寺

 4幅並んで展示された仏画がまず目に飛び込んできます。
金沢文庫を永らく管理してきた横浜の称名寺(しょうみょうじ)に伝わる、鎌倉時代の「十二神将像」です。
それぞれセンターの中尊のまわりに眷属や動物が描かれています。
通常は単独で描かれる十二神将としては、涅槃図のような賑やかな描写が印象的です。
 修復により色彩は鮮やかさを取り戻しており、十二神将らしい躍動感がリアルに伝わってきます。
重要文化財です。十二神将の内4神ずつ、前後期で入れ替えて展示されます。


 この9月に5年ぶりにリニューアルオープンした大倉集古館の「十六羅漢像」も鎌倉仏画の名品です。
修復で羅漢の表情の描写や色彩が鮮やかに蘇っています。
こちらも4者ずつ、前後期で入れ替えて展示されます。


 【住友財団公式サイトの画像】 「長谷雄草紙」永青文庫

 中世の巻物も見応えがあります。
永青文庫の「長谷雄草紙(はせおぞうし)」は、鎌倉末期から南北朝時代の絵巻物です。
題材の怪奇檀は、御伽草子のような説話のかなり古いものの一つと考えられています。
描写や着色はとても緻密で、物語のテンポがしっかりと伝わってきます。
重要文化財です。前後期展示で巻替えされます。



 尾根道から見た分館、春には一帯が桜で埋め尽くされる


 「法華経一品経(ほけきょういっぽんきょう)」は埼玉県にある唯一の絵画・書跡・典籍の国宝です。
慈光寺(じこうじ)は埼玉県西部の山中にある古刹で、平安時代は天台宗の一大拠点寺院でした。
重要文化財の開山堂や大般若経も伝わっており、北関東の文化財の宝庫でもあります。

 経典を絵画も交えて絵巻のように制作した「装飾経」としては、同じく国宝の厳島神社「平家納経」、鉄舟寺「久能寺経」と並ぶ最高傑作に位置づけられています。
 「一品経」とは、法華経を章毎に多人数で分担して書写し、巻物にしたものです。
装飾経にされることが多く、王朝文化の優美な趣を今に伝えることから、やまと絵としての美しさも兼ね備えています。
慈光寺の「法華経一品経」は金泥の剥落が修復され、往時の輝きが蘇っています。
前後期で入れ替え展示されます。


 元の状態を改変せず、輝きを蘇らせるスゴ腕の修復技術


 展示作品はいずれも、100年単位の時を重ねて来たとは思えないほど、保存状態が良いように見えます。
ここがまさに修復技術のスゴ腕の成果です。
しかも元の状態を改変せずに行っています。

 会場では至る所で作品の修理の状況や技術の工夫が解説されています。
絵の具の剥落/紙の反り/表面の汚れなどの経年劣化を、年単位の時間をかけて丁寧に緻密に修復しています。
世界最高峰と呼ばれる日本の文化財の修復技術もしっかりと学ぶことができます。


 【住友財団公式サイトの画像】 徐九方筆「水月観音像(楊柳観音像)」泉屋博古館

 「水月観音像(楊柳観音像)」は泉屋博古館が誇る高麗仏画の傑作です。
右手に柳を持つ優美な姿から、楊柳(ようりゅう)観音と呼ばれています。
日本国内に複数の楊柳観音像がありますが、泉屋博古館本だけが作者と制作時期が判明していることから、古くから仏画の記念碑的名品として珍重されてきました。

 高麗仏画は、高麗青磁と同じく洗練された優美な表現に加え、緻密な装飾文様を流れるように表現しているところに魅力を感じます。
泉屋博古館の楊柳観音像はその代表例であり、2016年に修復を終えて京都の泉屋博古館で公開された時に見た印象が強く残っています。

 4会場に分かれたこの展覧会のすみ分けでは、京都会場に展示されるはずの作品です。
東京の分館ではまだ展示されていないこともあり、配慮されたものだと思われます。
後期のみの展示ですが、分館会場での目玉作品であることは間違いありません。


 【住友財団公式サイトの画像】 「葡萄蒔絵螺鈿聖餅箱」東慶寺

 鎌倉・東慶寺「葡萄蒔絵螺鈿聖餅箱(ぶどうまきえらでんせいへいばこ)」は、イエズス会のシンボル「IHS」のロゴが、箱のふたに螺鈿で施されて燦然と輝く見事な漆器です。
桃山時代に欧州向け輸出品として制作されたと考えられています。
主に表面の劣化が修復されており、ピカピカです。


 【住友財団公式サイトの画像】 「秋草図」佐野美術館

 静岡・三島の佐野美術館「秋草図」は、緻密ながらも豊かな葉ぶり・枝ぶりの表現が魅力的な、俵屋宗達が始めた工房「伊年」の典型的な作品です。
屏風は永らく実際に使用されていたものが少なくなく、傷みやすい美術品でもあります。
そうした痛みを全く感じさせない見事な修復ぶりです。


 【住友財団公式サイトの画像】 狩野一信「五百羅漢図 六道鬼趣」増上寺

 増上寺「五百羅漢図」は、幕末に狩野一信(かずのぶ)が、1幅に羅漢5人×100幅で”500羅漢”全員を10年かけて描いたという超大作です。
明治の廃仏毀釈や第二次大戦の空襲の際も、増上寺によって大切に守られてきました。

 住友財団の助成で傷みの目立った10幅が修復され、完成後の2011年に100幅を一挙公開する江戸東京博物館での展覧会が話題を呼びました。
2015年に森美術館で行われた「村上隆の五百羅漢図展」では、村上は増上寺の「五百羅漢図」から着想を得て制作しており、再び注目を集めました。
現在も増上寺の宝物展示室では、10幅ずつ入れ替えながら常時展示されています。


 幕末の作品であり、仏画ながらも奥行き感のある表現が目立ちます。
洋画の技法も取り入れたのでしょう。とても奥の深い作品です。
前後期で入れ替えながら5幅ずつ展示されます。



 ホテルオークラ


 分館のすぐ近くにある大倉集古館も、ホテルオークラの建て替えに伴う5年に及ぶリニューアル休館を終え、観覧を再開しています。
六本木周辺も上野と並ぶ美術館集積エリアとしてますます楽しくなりそうです。

 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



 西洋絵画の修復では日本の第一人者の仕事ぶりやいかに

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 <東京都港区>
 泉屋博古館分館(東京)
 住友財団修復助成30年記念
 「文化財よ、永遠に」
 【美術館による展覧会公式サイト】

 主催:泉屋博古館分館、住友財団、住友グループ各社、読売新聞社
 会期:2019年9月10日(火)~10月27日(日)
 原則休館日:月曜日
 入館(拝観)受付時間:10:00~16:30(金土曜~19:30)

 ※9/29までの前期展示、10/1以降の後期展示で大幅に展示作品/場面が入れ替えされます。
 ※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品/場面があります。
 ※この展覧会は全国4会場でほぼ同時期に行われています。4会場で展示作品はすべて異なります。
   泉屋博古館   9/6~10/14
   東京国立博物館 10/1~12/1
   九州国立博物館 9/10~11/4
 ※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

 ※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



 ◆おすすめ交通機関◆

 メトロ南北線「六本木一丁目」駅下車、「泉ガーデン」を通り抜けて徒歩5分
 メトロ日比谷線「紙屋町」駅下車、4a出口から徒歩10分

 JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
 東京駅→メトロ丸の内線→赤坂見附駅→メトロ銀座線→溜池山王駅→メトロ南北線→六本木一丁目駅

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※この施設には駐車場はありません。
 ※休日やイベント開催時は、道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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文化財修復ってすごい_京都 泉屋博古館「文化財よ、永遠に」展

2019年09月18日 | 美術館・展覧会

修復で蘇った文化財を集めたという興味深い美術展「文化財よ、永遠に」が、京都・泉屋博古館(せんおくはくこかん)で行われています。
文化財修復で得られる様々な成果も学ぶことができます。




目次

  • 文化財を修復すると新たな発見がある
  • 国宝「明月記」など著名作品がずらり、住友財団の修復助成


住友財団が30年続けてきた文化財修復への助成による素晴らしい成果が一堂に会しました。



アメリカの文化財修復実績

泉屋博古館は、日本の歴史的な大店(おおだな)・財閥を代表する名家の一つ、住友家が蒐集した美術品コレクションを保管・展示する美術館です。
日本と東洋の美術品コレクションの質は国内有数です。

「せんおくはくこかん」という、日本有数の難読美術館名称としても”有名”ですが、「泉屋(いずみや)」というのは江戸時代に銅精錬業により大坂で日本最大級の大店となった住友の屋号です。
住友コレクションにとっては、とても大切な”名前”なのです。


文化財を修復すると新たな発見がある


この展覧会「文化財よ、永遠に」の展示品はすべて、文化財修復によってリフレッシュされた作品で構成されています。
展示品の修復を助成したのは、住友グループ企業各社により1991年に設立された「住友財団」です。

公的な文化財保護予算確保への理解が進まない日本において、住友財団が30年に渡って継続している文化財修復助成はとても注目されます。国内はもちろん、欧米の美術館が所蔵する日本美術や、世界中の文化財の文化財修復助成を行っています。
世界トップクラスと言われる文化財の修復技術を活用し、とてもたくさんの名品に再び輝きを取り戻させているのです。


「元の状態を改変しない」という文化財修復の大原則をふまえるために、修復方法を検討するための事前の科学的調査も大抵行われます。
主な目的である「美しさを蘇らせるリフレッシュ」以外にも、現代の最先端科学技術により様々な付帯成果を創出することができます。

  • 制作に用いた素材や修正の過程が判明し、名作の制作履歴が明らかになる
  • 仏像胎内など外部から見えない部分への記録から、制作時期・作者など歴史的事実が明らかになる
  • 過去の修理でよく見られる当初の姿からの変容を、制作当初の元の姿に戻すことができる
  • 最先端科学に基づいた詳細な記録を残すことで、次回の修復をスムースにする
  • 修復を続けることで、”いにしえ”から伝わる制作・修復技術を継続できる


展覧会では多くの展示作品で修理の様子や修理技法のパネル解説が行われています。
一般的な展覧会ではなかなか得られない、文化財を維持する”匠の技”について学べること。何と言ってもこの展覧会の大きな魅力です。



館の借景は大文字山


この展覧会は全国4か所の美術館でほぼ同時並行で行われるという、異色の演出がなされています。
住友財団は30年間で、1,000件を超える文化財修理を助成しています。

修復によって得られた新たな知見を幅広く紹介するために、展示作品を4会場に分けたのでしょう。
すみ分けはおおむね以下になります。

  • 泉屋博古館(京都):関西にある文化財(仏像除く)
  • 泉屋博古館分館(東京):主に東日本にある文化財(仏像除く)
  • 東京国立博物館:全国の仏像(九州・沖縄除く)
  • 九州国立博物館:九州・沖縄にある文化財



国宝「明月記」など著名作品がずらり、住友財団の修復助成


出展リストを見ると、見覚え/聞き覚えのある著名作品が多いことに気づかされます。国宝・重要文化財も目白押しです。


【住友財団公式サイトの画像】 「大日如来坐像」浄瑠璃寺

京都府最南端の山中ある国宝/重文の宝庫・浄瑠璃寺が所蔵する文化財では”珍しく”文化財指定を受けていませんが、若き日の運慶の傑作、奈良・円成寺(えんじょうじ)・国宝の大日如来像にとてもよく似た神秘的で美しいオーラを発しています。
平安末期の慶派仏師の作と考えられており、毎年1月の3日間しか公開されない美仏です。修理の際には近世の修理で後補された下地を取り除き、制作当初の姿に近づけられました。


京都・建仁寺の塔頭・霊源院(れいげんいん)のルーツとなった南北朝時代の僧・中巖圓月(ちゅうがんえんげつ)の坐像彫刻は、写実的な美しさでは日本の肖像彫刻のトップクラスです。
玉眼が表情のリアルさを強調し、時間の経過で黒光りするようになった地肌が像の存在をとても神秘的に見せています。
修理の際に発見された胎内仏・毘沙門天立像もあわせて出展されています。
小振りながら意志が強そうに造形された表情が印象的です。


【住友財団公式サイトの画像】 狩野山楽「唐獅子図」養源院

山楽筆の「唐獅子図」は、俵屋宗達筆の襖絵「松図」と並んで、京都・養源院が誇る桃山美術の傑作です。
本物を常時公開で鑑賞できるという、京都でも数少ないお寺として知られています。
仏壇の正面下部の板に描かれた珍しい小振りの獅子ですが、荒々しさの表現は見事です。
絵の具や紙の剥落が修復され、輝きを取り戻しています。


国宝の「山水(せんすい)屏風」神護寺蔵は、東寺旧蔵・現京都国立博物館蔵と並ぶ、中世のやまと絵屏風の傑作です。
元は貴族の邸宅にありましたが、密教寺院に移されて儀式で用いられ、現代まで伝えられたものです。
平安貴族が好んだ優雅な趣が見事に表現されています。

後世の修理で配列が錯綜していたのを、修理の際に元に戻しました。前期のみ展示です。


【住友財団公式サイトの画像】 長谷川等伯「竹林七賢図屏風」両足院

京都・建仁寺の塔頭・両足院(りょうそくいん)が所蔵する「竹林七賢図屏風」は、等伯晩年の円熟味を感じさせる名品です。
人物の表情の描写がそれぞれ個性的で、七人が持つ知恵を見事に描き分けています。
扇をつなぐ蝶番が破損して自立できないなど、深刻だった状態が修理で見事に蘇りました。後期のみの展示です。


【文化庁・文化遺産オンラインの画像】 藤原定家「明月記」冷泉家時雨亭文庫

藤原定家「明月記」は、日記では藤原道長「御堂関白記」と並ぶ、芸術的にも歴史的にも超一級の史料です。
全長700mもある巻物のため12年を要した修復の半分を住友財団が助成、裏打紙を中心に丁寧な補修が行われました。


【住友財団公式サイトの画像】 以心崇伝「武家諸法度草稿」金地院

徳川家康と秀忠のブレーン、金地院崇伝が構想を練った「武家諸法度」の”草稿”という、珍品の重要文化財です。
手擦れによる表面の毛羽立ちなどが修復されました。



琵琶湖疎水トンネル「ねじりまんぽ」


日本では財団による助成はひっそりと行われることが一般的でしたが、近年は積極的にPRする姿勢も見られます。
美術品修復の分野でも、こうした展覧会により”裏方の努力”がPRされることは素晴らしいことだと感じました。
泉屋博古館さん、とても価値のある企画をありがとう。

泉屋博古館へは地下鉄蹴上駅から歩くと、ねじりまんぽの赤煉瓦と南禅寺の美しい境内を満喫できます。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



美の最高峰、東京藝大が紐解く日本画のヒミツ

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<京都市左京区>
泉屋博古館
住友財団修復助成30年記念
「文化財よ、永遠に」
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:泉屋博古館、住友財団、住友グループ各社、読売新聞社、京都新聞
会期:2019年9月6日(金)~10月14日(月)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30
※9/23までの前期展示、9/25以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は全国4会場でほぼ同時期に行われています。4会場で展示作品はすべて異なります。
  泉屋博古館分館(東京) 9/10~10/27
  東京国立博物館     10/1~12/1
  九州国立博物館     9/10~11/4
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていますが、企画展開催時のみ鑑賞できます。



◆おすすめ交通機関◆

京都市バス「宮ノ前町」バス停下車徒歩1分、「東天王町」バス停下車徒歩3分
地下鉄東西線「蹴上」駅1番出口からから徒歩20分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30~40分
京都駅烏丸口D1バスのりば→市バス100系統→宮ノ前町

【公式サイト】 アクセス案内

※休日の午前中を中心に、京都駅ではバスが満員になって乗り過ごす場合があります。
※休日の夕方を中心に、渋滞と満員乗り過ごしで、バスは平常時の倍以上時間がかかる場合があります。
※この施設には無料の駐車場があります。
※休日やイベント開催時は、道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


________________

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続き:コートールド美術館展、世界最高峰の印象派が来日_東京都美術館 12/15まで

2019年09月17日 | 美術館・展覧会

上野・東京都美術館で行われている、2019年秋の目玉美術展「コート―ルド美術館展 魅惑の印象派」のレポート、前回に引き続き後半戦をお伝えします。



マネの晩年の傑作「フォリー=ベルジェールのバー」、若きルノワールの傑作「桟敷席」。輝かしい二人の画業の中でも特に輝く不朽の名作であることをしっかりと実感できます。

目次

  • 名作との対話その3:印象派の画家が生きた時代を読み解く
  • 名作との対話その4:巨匠の表現を科学的に読み解く


これだけのラインナップが一挙来日することは、当分ないでしょう。コート―ルド美術館が改修休館中というめったにない機会を活用した展覧会だからです。まるでロンドンの「コート―ルド美術館」に足を運んで鑑賞したように感じられます。めったにない機会をしっかりと活用されることを強くおすすめします。

前半戦を鑑賞しても、世界最高峰の美術研究機関の附属美術館でもあるコート―ルド美術館ならではの展示構成の個性が感じられます。作品が描かれた時代背景や、X線で科学的に分析した筆致の工夫が随所で精緻にパネル開設されています。いつもと違う角度からの鑑賞を通じて、傑作の奥深い魅力に触れることができるよう、しっかりと演出されています。



第2章「時代背景から読み解く」は、19c後半の豊かな生活を楽しむパリ市民にもスポットをあてています。セーヌ県知事オスマンによりパリ市街の大改造が行われ、新しい街並がパリを彩っていくようになります。科学技術の進歩で街灯や電灯が普及し、市民は劇場やカフェで夜の娯楽を楽しむようになります。

そんな都市の繁栄を、印象派の画家たちは科学技術の進歩も取り込んで、見事に描き出しました。。


名作との対話その3:印象派の画家が生きた時代を読み解く


明るく柔らかい表現でパリの人々の日常を描いた印象派を代表する画家として、日本でも高い人気を誇るルノワール。会場内でもひと際人だかりが目立っていました。

【所蔵者公式サイトの画像】 ルノワール「アンブロワーズ・ヴォラールの肖像」コート―ルド美術館

アンブロワーズ・ヴォラールは、20c初頭にルノワール作品を扱った主要な画商の一人です。小さな石膏像を手に取って作品を吟味している様子を、晩年のルノワールがとてもまろやかな趣で描いています。実際のヴォラールは団子鼻で身だしなみに欠けていた人物だったようです。ルノワール・マジックは見事に成功した画商にふさわしい姿に変身させています。

【所蔵者公式サイトの画像】 ルノワール「桟敷席」コート―ルド美術館

「桟敷席」は、見覚えのある方が少なくないでしょう。若き日のルノワールの最高傑作で、1874年の第1回印象派展に出展された作品です。いかにも上流階級に見える輝くような白い肌の女性は、当時のパリの華やかさを象徴しているように感じさせます。

パリの最新のファッションを披露する場であった劇場の桟敷席は、雑誌の挿絵としてよく取り上げられており、市民の憧れの場でした。会場内にはそうした当時の雑誌も展示されており、時代の空気がとてもよく伝わってきます。

第1回印象派展では、桟敷席を初めてモチーフにした作品として人々を驚かせました。当時のルノワールはまだ無名で、高価な桟敷席のチケットを入手することは不可能だったと思われます。後方の安い席から桟敷席を観察して描いたのでしょう。女性はルノワールのお気に入りのモデルで、決して上流階級ではない普通の少女です。

桟敷席というモチーフを思いつき、最新のドレスと宝石で身を包み市井の少女を見事に上流階級に変身させる。ルノワールの才能が具現化した記念碑的な作品と言えるでしょう。





【所蔵者公式サイトの画像】 マネ「フォリー=ベルジェールのバー」コート―ルド美術館

「フォリー=ベルジェールのバー」はマネの最高傑作の一つでもあり、印象派を代表する絵画の一つとしても世界的に著名な作品です。フォリー=ベルジェールは1869年に営業を始めたミュージック・ホールで、世紀末の時代には絶大な人気を博しました。驚くことに2019年現在も営業を続けています。

主役のメイドは画面中央で綺麗な三角形になるように両手をカウンターに置き、客の注文を待っているようです。背景にはショーを楽しむ観客席の様子が電球で明るく照らされています。マネ最後の大作となったこの作品はとても不思議な絵です。背景の描写はよく見ないと気付かないですが、すべて鏡に映った光景です。

右端に描かれた女性の背中はメイドですが、写実的に描くならばメイドの真後ろに描かなければなりません。マネは、メイドの存在を際立たせるためなのか、鏡に映った光景とすぐに気付かれないようにしたかったのか、不自然にメイドの背中を右にずらしています。

フォリー=ベルジェールのバーはマネの晩年、繁栄を謳歌するパリの象徴のようなスポットでした。女性のモデルは実際にバーで働いていたメイドだと考えられてます。大都会パリの普通の若い女性の存在を、都市の生活を楽しむ観客を借景に際立たたせています。

【所蔵者公式サイトの画像】 ヴァトー「ピエロ(ジル)」ルーブル美術館

メイドがまっすぐに正面を見つめる表情は、ロココの扉を開いたヴァトーによってこの作品から150年ほど前に描かれた「ピエロ(ジル)」の表情と重なります。道化師として人々から嘲笑されるピエロ、娼婦ともみなされていたメイド。いずれも社会の底辺で一生懸命生きる人間の生命力や意地を見事に描き出しています。

【所蔵者公式サイトの画像】 マネ「草上の昼食」コート―ルド美術館

出展されているマネ作品では「草上の昼食」も見逃せません。オルセー美術館所蔵の同名作品と比べて、どこか”完成度が低い”印象を受けますがそれもそのはず。完成品のオルセー所蔵作と同時並行で制作された仕上がりを検証するための作品と考えられています。

オルセー所蔵作よりもわずかに背景の空間が広く、明るい印象を受けます。不朽の名作の裏には、画家の不朽の努力が隠されているのです。



展覧会場内の記念撮影コーナー


第3章「素材・技法から読み解く」では、19c後半の印象派とポスト印象派作品の制作を下支えした科学技術の進展にスポットをあて、名画の魅力を読み解いていきます。


名作との対話その4:巨匠の表現を科学的に読み解く


「筆触分割(ひっしょくぶんかつ)」という印象派が編み出したテクニックがあります。色は、光では重なり合うほど白くなりますが、絵の具では逆に重なり合うほど黒くなります。また明るい色と暗い色が並んだ状態で少し離れてみると中間色のようにぼやけて見えます。

印象派の絵はなぜ鮮やかなのか? 絵の具を混ぜないから。これがチコちゃんに叱られない答えです。

19cはこうした色彩理論が確立した時代で、印象派の画家たちは早速絵画表現に取り込みました。できるだけ絵の具の色を混ぜずに、本来の色が持つ鮮やかさをキャンバス上に表現したのです。屋外制作を可能にしたチューブ入り絵の具と色彩理論。印象派の画家たちが豊かになった市民が屋外でのレジャーを楽しむ姿を描くには画期的な科学技術の進歩でした。


【所蔵者公式サイトの画像】 スーラ「舟を塗装する男」コート―ルド美術館
【所蔵者公式サイトの画像】 スーラ「グランド・ジャット島の日曜日の午後」シカゴ美術館

スーラは、筆触分割理論の究極として点描(てんびょう)を完成させた画家として知られています。代表作である「グランド・ジャット島の日曜日の午後」シカゴ美術館とほぼ同時期の1884年頃に描かれた作品ですが、「舟を塗装する男」は点描で描かれていません。スーラが様々な表現にチャレンジしていたことをうかがわせる名品です。

【所蔵者公式サイトの画像】 モディリアーニ「裸婦」コート―ルド美術館

「裸婦」はモディリアーニが数多く残した裸婦像の中でも、最高傑作に位置づけられるでしょう。モディリアーニ特有の”首の引き延ばし”はなく、かなり写実的に描かれています。目を閉じた女性の顔の描写は実に甘美で、背景の蒼い壁がその甘美さをより際立たせています。モディリアーニの才能の原点を感じさせます。

【所蔵者公式サイトの画像】 ゴーガン「ネヴァーモア」コート―ルド美術館

展覧会のフィナーレを締めるのはゴーガンです。「ネヴァーモア」はタヒチ島の女性がヌードでベッドに横たわる構図で描かれていますが、女性美が理想化されているわけでもなく、生々しくもありません。背後に描かれた二人の人物の会話に聞き耳を立てるような女性の目線、窓辺の鳥、暗い描写、全体的にとても謎めいています。

【所蔵者公式サイトの画像】 ゴーガン「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」ボストン美術館

「ネヴァーモア」は、ゴーガンの最も著名な作品「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」ボストン美術館と同じ1897年に製作されました。1897年はゴーガンが求めたプリミティブな精神性が最も昇華した頃だったのでしょう。「ネヴァーモア」は、私にとってはゴーガンの不朽の名作です。

会期は12/15まであり、日本美術のように作品の展示替えもありませんが、会期が迫るにつれ混雑が激しくなることは確実なレベルの高い展覧会です。お早めに。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



ロンドンのミュージアムガイドの決定版

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<東京都台東区>
東京都美術館
特別展
コートールド美術館展 魅惑の印象派
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:東京都美術館、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション
会場:B1F 企画展示室
会期:2019年9月10日(火)~12月15日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~17:00(金曜~19:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、2020年1月から愛知県美術館、2020年3月から神戸市立博物館、に巡回します。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

JR「上野駅」下車、公園口から徒歩7分
東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩12分
東京メトロ・千代田線「根津」駅下車、1番出口から徒歩15分
京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩12分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
JR東京駅→山手・京浜東北線→上野駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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コート―ルド美術館展、世界最高峰の印象派が来日_東京都美術館 12/15まで

2019年09月16日 | 美術館・展覧会

上野・東京都美術館で、2019年秋の目玉美術展「コート―ルド美術館展 魅惑の印象派」が行われています。誰もが見覚えのあるマネの晩年の最高傑作「フォリー=ベルジェールのバー」が20年ぶりに来日します。


会場内の記念撮影コーナー


目次

  • コート―ルド美術館展とは?
  • 名作との対話その1:巨匠の手紙から芸術観を読み解く
  • 名作との対話その2:印象派の明るい風景画が描かれた理由を読み解く
  • 名作との対話その3:印象派の画家が生きた時代を読み解く
  • 名作との対話その4:巨匠の表現を科学的に読み解く

 

コート―ルド美術館展とは?


「コート―ルド美術館」という日本ではあまり知られていないロンドンにある小さな美術館の名前を、鑑賞後にほぼすべての人が強く印象付けられることは間違いないでしょう。”ロンドンにこんな美術館があったのか”、と多くの人がつぶやくと思います。

コート―ルド美術館は、20c初頭に繊維業で巨万の富を築いたサミュエル・コート―ルドが蒐集した世界トップクラスの印象派とポスト印象派のコレクションで知られています。ロンドン大学を構成する世界最高峰の美術研究機関の付属美術館であることもあり、高いレベルで鑑賞者が名作と対話できるよう展示構成が工夫されています。

展覧会の章立てが、いつもとかなり毛色が異なっていることに気付かれる方も少なくないでしょう。かなり高尚な印象を受けますが、そこに世界最高峰の美術研究機関ならではの”展示構成の工夫”が見られます。
  • 第1章 画家の言葉から読み解く
  • 第2章 時代背景から読み解く
  • 第3章 素材・技法から読み解く


欧米の美術品鑑賞者は、日本人以上に作品の描かれた時代背景や表現の裏に隠された工夫に興味を示します。美術研究機関はこうした背景や工夫を紐解くプロフェッショナル集団です。彼らなりの美術鑑賞スタイルへの思いが、こうした章立てに現れています。




ツイッターでもつぶやかれているように、確かに普段の美術展よりもかなりゆとりのある展示になっています。都美館の企画展示室3フロアを使って60点ほどの展示ですので、普段の展覧会の展示作品数の半分以下くらいに感じます。名作とじっくり対話してほしいという、主催者やコート―ルド美術館の”思い”が感じられます。

加えてこの美術展は、画家の直筆の手紙やコレクターがのこした史料など、博物館的な展示が多いことも特徴です。こうした博物史料は、時代背景を感じることに大いに役立ちます。





第1章「画家の言葉から読み解く」では、ゴッホやセザンヌの名作が登場します。電話がまだなかった時代、手紙を通じて画家/画商/コレクターたちは相互理解を深めていきました。そうした手紙からも、巨匠たちの芸術観を垣間見ることができる展示構成になっています。


名作との対話その1:巨匠の手紙から芸術観を読み解く


【所蔵者公式サイトの画像】 モネ「アンティーブ」コート―ルド美術館

ゴッホやモネ、セザンヌの穏やかな風景画から展示は始まります。モネ「アンティーブ」コート―ルド美術館は、地中海をはさんだ遠方の山並みを借景に、手前の大きな木の全体像を描かない構図が印象的です。日本の障壁画や浮世絵によく見られる構図で、”ジャポネスク”を感じさせます。

【所蔵者公式サイトの画像】 ゴッホ「花咲く桃の木々」コート―ルド美術館

ゴッホ「花咲く桃の木々」は、アルルの田園風景を描いています。ゴッホ作品としてはかなり穏やかな印象で、まるで日本の里山風景を描いているようです。「日本の風景画のようなモチーフに惹かれた」と語ったゴッホの手紙ものこされています。ゴッホの”ジャポネスク”へのあこがれは、浮世絵表現の学習だけではありません。

【所蔵者公式サイトの画像】 ゴッホ「耳に包帯をした自画像」コート―ルド美術館

今回の展覧会では、コート―ルド美術館が所蔵する印象派とポスト印象派の超一級作品はほぼもれなく出揃っている印象を受けます。その中で唯一、ゴッホ「耳に包帯をした自画像」だけが今回来日していません。二点だけ現存する、耳切り落とし事件直後の自画像の一つです。ロンドンまで見に行くしかありません。

コート―ルド美術館は、セザンヌのコレクションでは世界最高峰の一つです。それを実感できる超一級品を3点ご紹介したいと思います。

【所蔵者公式サイトの画像】 セザンヌ「大きな松のあるサント=ヴィクトワール山」コート―ルド美術館

「大きな松のあるサント=ヴィクトワール山」は、故郷の名山をセザンヌがしばしば描いたモチーフです。この作品は、前景に木の枝をサント=ヴィクトワール山の稜線に沿うように配することで、主役の山の美しさをかえって印象付けています。”ジャポネスク”を感じさせる、セザンヌならではの構図の”妙”がとてもよく表れています。

【所蔵者公式サイトの画像】 セザンヌ「カード遊びをする人々」コート―ルド美術館
【所蔵者公式サイトの画像】 セザンヌ「パイプをくわえた男」コート―ルド美術館

本展にも登場している著名作「カード遊びをする人々」よりも、「パイプをくわえた男」の方に、私はよりセザンヌ・マジックの美しさを感じます。モデルはセザンヌの別荘の使用人で、「カード遊びをする人々」の左の人物をモデルにしたと考えられています。パリに押し寄せる近代化の波からは程遠い、昔ながらの生活を営む人物です。

セザンヌはサント=ヴィクトワール山のように、ナチュラルな美しさをこの人物に見出したのでしょう。肖像画は、モデルの何気ない一瞬をありありと表現した作品ほど、観る者に深く訴えるオーラが出ます。モデルの小さな瞳にそんなオーラが凝縮されています。

【所蔵者公式サイトの画像】 セザンヌ「キューピッドの石膏像のある静物」コート―ルド美術館

静物画を得意としたセザンヌは、キューピッドの石膏像を好んでモチーフにしました。この作品は、現実にはあり得ない空間の歪みが、セザンヌならではの構図の”妙”を際立たせています。キューピッドの立つ床は傾斜したように見えますが、その床の上にはリンゴが置かれています。転がってきそうに思えますが、重力のない宇宙空間のように動きません。

セザンヌは”写実からの脱却”が主流となった20c絵画の先駆者として、後世の画家たちに多大な影響を与えました。この作品の歪んでいながら絶妙にバランスがとれている構図は、そんな先駆者としてのセザンヌの先進性をまさに強く印象付けています。

サミュエル・コート―ルドが最初に購入したセザンヌ作品でもあります。当時のイギリスでは見向きもされなかったセザンヌの可能性を目にして、サミュエルの脳内に電流が走ったのでしょう。





第2章「時代背景から読み解く」では、近代化と科学技術の進歩がもたらしたパリ市民の日常の表情を描いた作品が並びます。19c後半に印象派がなぜ欧州で絵画の主流になったのか? そんな時代背景を読み解きながら名作と対話できるのが第2章です。


名作との対話その2:印象派の明るい風景画が描かれた理由を読み解く


印象派による、明るい陽光を前面に押し出した風景画表現は、それまでの欧州にはなかった画期的な表現でした。それを可能にしたのが、19cの科学技術の進歩の一つである「チューブ入り絵の具」の発明です。

それまで絵の具は缶入りで、大きくて重く持ち運びに不便なため、絵画制作は主に室内で行われていました。風景画はその場で見える風景を描くのではなく、”記憶”に基づいて描かれることになり、ナチュラルな”明るい陽光”の表現は控えめになりがちです。

印象派の前にも、バルビゾン派が写実的な風景画を描いていましたが、明るさの表現は控えめです。チューブ入り絵の具により、モチーフをのぞむまさにその場で表現できるようになったことが、明るい陽光を前面に追い出した作品の制作を促進したのです。タブレット/スマホにより、今いるその場で簡単にデジタル記録できるようになった現代と同じような”発明”の感覚です。

【所蔵者公式サイトの画像】 ブーダン「ドーヴィル」コート―ルド美術館

青い大きな空を描くことで名を馳せたブーダンの名作です。モチーフの主役はあくまで空であり、空の下でくつろぐ人々や山と海の風景ではありません。ドーヴィルは、ドーバー海峡に面した古くからのリゾート地です。豊かになったパリ市民を最先端の娯楽であるリゾート滞在に誘うにが、大きな青空こそが絵の主役としてふさわしかったのです。


【所蔵者公式サイトの画像】 ピサロ「ロードシップ・レーン駅、ダリッジ」コート―ルド美術館

鉄道も19cを象徴する科学技術の偉大なる進歩の一つです。馬車や徒歩と比べ、鉄道は人々の移動を画期的に便利にしました。そんなあこがれをモチーフとして、この時代の画家たちはこぞって描きました。印象派の最古参であるピサロのこの作品は、印象派の特徴である大きな青空の下に、最先端の科学技術を素朴に表現しています。印象派の特徴を集約したような名品です。

【所蔵者公式サイトの画像】 ルソー「税関」コート―ルド美術館

近年、”へたうま”の画家として注目を集めるルソーの風景画の名品です。自らの職場であったパリの税関をモチーフとした作品で、ルソーならではの現実と創造の組み合わせで描かれています。都市の活力をイメージさせる”税関”とは程遠く、森に囲まれたノーベル賞を輩出するがの如く高尚な研究所のように描かれています。ルソーのクリエイティブ力をしっかりと感じることができます。



コート―ルド美術館の館内の様子


実に内容の濃い展覧会です。ご紹介したいポイントはとてもたくさんあります。「名作との対話その3」以降の後半戦は次回にお伝えさせていただきたいと思います。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



展覧会に行く前の予習におすすめ

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<東京都台東区>
東京都美術館
特別展
コートールド美術館展 魅惑の印象派
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:東京都美術館、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション
会場:B1F 企画展示室
会期:2019年9月10日(火)~12月15日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~17:00(金曜~19:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、2020年1月から愛知県美術館、2020年3月から神戸市立博物館、に巡回します。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

JR「上野駅」下車、公園口から徒歩7分
東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩12分
東京メトロ・千代田線「根津」駅下車、1番出口から徒歩15分
京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩12分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
JR東京駅→山手・京浜東北線→上野駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


________________

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さすがは根津美術館、花鳥画の進化を「美しきいのち」展で満喫 11/4まで

2019年09月14日 | 美術館・展覧会

根津美術館で、中国と日本の花鳥画の変遷をたどることができる展覧会「美しきいのち」が行われています。新館開館10周年の企画展でもあり、根津コレクションのとっておきの名品が出揃っていることが注目されます。

  • 花鳥画の歴史、唐時代の中国がルーツ
  • 気品ある院体花鳥画が中世の日本人を魅了した
  • 花鳥画は日本でも中国でもたゆまず進化していった


東洋絵画では、花や鳥をはじめとする動植物は、山水画や人物画と並んでとてもポピュラーなモチーフです。生きもののナチュラルな「美しきいのち」、数々の花鳥画の名品からその素晴らしさがひしひしと伝わってきます。


いつ見ても美しい天井


花鳥画の歴史、唐時代の中国がルーツ

植物/動物/昆虫といった生きものを主役のモチーフとした絵画作品で現存しているものは、おおむね中国では11c頃の北宋時代、日本では15cの室町時代以降です。中国では、唐時代の宮廷画家の組織だった翰林図画院(かんりんとがいん)で、花鳥画が制作されていたことが伝承により知られていますが、作品は現存しません。

宋代に院体画(いんたいが)と呼ばれる宮廷趣味の画風が栄え、花鳥画も数多く描かれます。中国で制作された絵画を意味する唐絵(からえ)の一つとして、花鳥画は山水画や人物画とともに留学僧や交易を通じて日本にもたらされます。戦国時代には中国風を脱却してやまと絵風の花鳥画も制作されるようになります。

日本では、奈良時代の正倉院宝物に見られるような工芸の意匠や、絵巻物の背景の一部として花鳥が描かれることは古くからありました。花鳥画という絵のジャンルとして認識されるようになったのは、中国からの輸入がきっかけです。桃山時代以降は武家や商人など様々な階層で人気を博すようになります。襖絵や屏風・掛軸・浮世絵から磁器まで、花鳥画は日本で独自の進化を遂げていきます。

根津美術館の古美術コレクションは日本トップクラスであり、こうした花鳥画の歴史を俯瞰できる作品が揃っています。根津美術館でないとできない展覧会と言っても過言ではありません。





気品ある院体花鳥画が中世の日本人を魅了した

展覧会は花鳥画の歴史を中国と日本に分けてたどれるよう構成されています。第1章は古代中国の青銅鏡の文様にほどこされた花鳥です。正倉院宝物のようなエキゾチックな趣があり、吉祥や異国情緒など、後世と同じ思いが花鳥文様に込められていたことが伝わってきます。第1章はすべて通期展示されます。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

第2章は宋代の院体花鳥画です。緻密な描写、気品のある彩色といった宮廷趣味の表現が究極にまで高まった名品が並んでいます。中国と日本の後世の多くの絵師たちの美意識の規範となりました。

【根津美術館 公式サイトの画像】 伝李安忠筆「鶉図」根津美術館蔵

「鶉(うずら)図」は根津美術館が誇る中国絵画の至宝の一つで、東山御物(ひがしやまごもつ)として伝来した国宝です。鶉の温もりが伝わってくるよう柔らかい筆致に目を見張るとともに、楕円形の構図の中に絶妙の存在感をもって表現されています。前期のみの展示です。

江戸時代の土佐光成筆「粟鶉図」根津美術館蔵は、院体花鳥画表現を学んだことを感じさせる作品です。土佐派が得意としたやまと絵表現を上手に融合させているようです。前期のみの展示です。

【根津美術館 公式サイトの画像】 呂敬甫筆「瓜虫図」根津美術館蔵

第2章は、後期展示で14-15c明代の呂敬甫筆「瓜虫図」が登場します。花鳥が描かれていないため草虫図(そうちゅうず)と呼ばれますが、写実表現の質の高さは秀逸です。この作品も多くの日本の絵師たちが規範としたのではと感じさせます。重要文化財です。

第3章は水墨画で描かれた花鳥です。日本の水墨画の興隆に大きな影響を与えた南宋の画僧・牧谿(もっけい)筆と伝わる作品が前後期共に展示されますが、注目は後期展示の「竹雀図」です。

【根津美術館 公式サイトの画像】 伝牧谿筆「竹雀図」根津美術館蔵

水墨画特有の大気の湿潤感が醸し出されており、牧谿らしい柔らかな情緒を感じさせます。古来「濡れ雀」評されてきた東山御物です。

牧谿の画風を学んだ室町時代の日本の絵師の作品も見応えがあります。啓孫筆「芦雁図(ろがんず)」根津美術館蔵は、はばたく雁と風になびく芦の様子を生き生きと描いています。筆致は柔らかく、水墨画ながらも温かみのある作品です。前期のみの展示です。





花鳥画は日本でも中国でもたゆまず進化していった

第4章は中国・朝鮮半島・日本の陶磁器に表現された花鳥画です。時代に応じて発展を続けた花鳥画の一つの進化系が陶磁器です。陶磁器は展示品の入れ替えはなく、すべて通期展示されます。

【根津美術館 公式サイトの画像】 景徳鎮窯「青花花卉文盤」根津美術館蔵

明代の景徳鎮で焼かれた「青花花卉文盤」は、美しい純白の大盤の地に青い釉薬で花の文様が描かれています。紋様と余白のバランスが絶妙で、とても上質な印象を与えます。

【根津美術館 公式サイトの画像】 肥前鍋島藩窯「染付白鷺蓮葉文皿」根津美術館蔵

「染付白鷺蓮葉文皿」は鍋島らしい気品の高さが伝わってくる名品です。地に薄く青色の釉薬が塗られていますが、スプレーをかけたように筆致の跡を残さず、主役の白鷺を見事に引き立てています。葉に施された濃淡のぼかしが、全体を柔らかな印象に見せています。鍋島の凄腕が伝わってくる作品です。

第5章は日本における中国風の花鳥画表現を完成させたともいえる狩野派の作品です。狩野派より前に足利将軍家の御用を務めた小栗派の絵師の作品にもさかのぼって、狩野派に至る花鳥画の発展をたどっています。

伝狩野元信筆「四季花鳥図屏風」は、六曲一双の大画面に雄大な山水を借景にして孔雀や雁を描いています。大きい余白で雄大さを表現する手法は中国の伝統に基づいていますが、孔雀や近景の松の描写にはすぐ後の桃山時代に流行した華やかな装飾的な表現が施されています。新しい時代への転換を今に伝えているようで、とても見応えのある屏風です。前期のみの展示です。

第6章は明・清代の中国の花鳥画の発展を俯瞰します。清朝・乾隆帝時代の宮廷画家・銭維城による「秋草図巻」は、30種の草花を標本のように描いた博物画集のような作品です。清らかな印象を与える写実表現が印象的で、花の美しさを忠実に伝えています。前後期で展示場面が巻替えされます。

最後の第7章は、江戸時代の日本の円山四条派と南画の花鳥画です。松村景文筆「花鳥図襖」は写実性の高い作品ですが、洗練された情緒があわせて表現されています。江戸時代に進化した「写生」の一つの到達点を感じさせます。

花鳥画を得意とした松村景文は呉春の弟で、岡本豊彦と共に四条派の地位を不動にした絵師です。大画面の襖のほとんどは余白ですが、大気感を花鳥の借景としてうまく表現しており、冗長感をまったく与えません。




現在の新館ができて10年経ったと聞くと、そんなに前だったかと驚きますが、館内は今も新しい趣を保っています。隈研吾による”木の温もり”がそうした印象を与えているのでしょう。

素晴らしい建物の中に、素晴らしい名品が並んでいます。根津コレクションの素晴らしさをあらためて確認できるこの展覧会、ぜひお出かけください。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



日本絵画の手本、中国の山水・花鳥画が生まれた背景を紐解く名著

________________

<東京都港区>
根津美術館
新創開館10周年記念 企画展
美しきいのち
日本・東洋の花鳥表現
【美術館による展覧会公式サイト】

会場:展示室1、2
会期:2019年9月7日(土)~11月4日(月)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※10/6までの前期展示、10/8以降の後期展示ですべての絵画が展示/場面替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていますが、企画展開催時のみ鑑賞できます。



◆おすすめ交通機関◆

東京メトロ銀座線/半蔵門線/千代田線「表参道」駅下車、A5出口から徒歩8分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
東京駅→メトロ丸の内線→赤坂見附駅→メトロ銀座線→表参道駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には無料の駐車場があります。
※道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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近代日本画のパイオニア4人_山種美術館 大観・春草・玉堂・龍子展 10/27まで

2019年09月13日 | 美術館・展覧会

近代日本画の4人の巨匠の名前がそのまま美術展名になった「大観・春草・玉堂・龍子」が、東京・山種美術館で始まっています。新しい表現を模索し続けた4人を「日本画のパイオニア」と位置づけた展示は、いつもながら山種コレクションの競演の質の高さを実感することができます。

  • 山種所蔵の4人の名品が一挙公開、近代日本画コレクションでは本当にすきがない
  • やまと絵と南画の融合、大画面の会場芸術、大正~昭和の”パイオニア精神”がとてもよくわかる
  • 大観・玉堂・龍子と館創立者・山﨑種二の交流を物語る作品も見事、3人の円熟味が伝わってくる


山種美術館の2019年は、広尾開館10周年記念の特別展オンパレードです。「大観・春草・玉堂・龍子」はその第5段、今回も間違いなく楽しめます。




近代日本画のコレクションでは、山種美術館は日本トップクラスです。コレクションの質の高さは数値化するのがめちゃ難しいです。本意ではないですが「重要文化財の近代日本画」の所蔵作品数をあげます。寄託品件数は含まれません。明治以降に製作された近代絵画の国宝はまだありません。

  • 1位:東京国立近代美術館 8件
  • 2位:山種美術館、東京国立博物館、東京藝術大学大学美術館 各4件
  • 3位:永青文庫(熊本県立美術館寄託) 3件
  • 4位:静嘉堂文庫、大倉集古館、京都市京セラ美術館、大阪中之島美術館、辰馬考古資料館 各1件


1,2位の”お上”の3館は別格として、山種美術館と永青文庫は際立っています。山種美術館の創立者・山崎種二は、永青文庫創立者の細川護立(もりたつ)と並んで、昭和期に画家のパトロンとして名を馳せていました。細川護熙(もりひろ)・元首相は、護立の孫です。




展示は展覧会名の順とはなぜか?異なり、春草→大観→龍子→玉堂の順で構成されています。

【展覧会公式サイトの画像】 菱田春草「月四題」山種美術館蔵

菱田春草「月四題」は、春夏秋冬の月の魅力を4つの掛軸を入れ替えながら楽しめるようになっています。月夜をベージュ色の背景で演出し、薄墨で季節を表す木々を描いています。春草の最晩年の作品で、重要文化財「黒き猫」永青文庫蔵とほぼ同時期に描かれています。

春草は大観と共に、明確な輪郭線を用いずに表現する「朦朧体(もうろうたい)」に日本画の革新をかけました。出展されている「釣帰」は春草の初期の作品で、”おぼろげ”な表現が”暗い”と指摘されました。

「釣帰」の約10年後に描かれた「月四題」は、夜の情景にもかかわらずむしろ月の明るさを感じさせます。早逝した天才・春草が紆余曲折しながら到達した、日本画を”面”で描く”パイオニア精神”を感じさせる名品です。

【展覧会公式サイトの画像】 横山大観「作右衛門の家」山種美術館蔵

大観では「作右衛門の家」が、従来のイメージとは異なる表現で注目されます。緑色を豊富に使い、伝統的なやまと絵の雰囲気を醸し出しながら、細部の木々の描写は緻密です。大自然への敬意が感じられます。やまと絵と中国風の南画の表現を融合させたような”パイオニア精神”が伝わってきます。

「喜撰山」も同様に、遠方の山の稜線のダイナミックな表現に加え、手前の木々の緻密な表現が強く印象付けられます。

大観=富士山のイメージをきちんと確認させてくれる名品、「心神」山種美術館蔵がこの展覧会で唯一の写真撮影OKになっています。多くの人が作品を前に立ち止まっていました。富士山はモチーフとしてやはり別格です。



横山大観「心神」山種美術館蔵

4人の名品が並ぶこの展覧会でも、川端龍子の作品群は一押しだと感じられます。現代の日本画の潮流への転換を感じさせる”生き証人”が揃えられているからです。

【展覧会公式サイトの画像】 川端龍子「花の袖」山種美術館蔵

「花の袖」は、花びらの白と茎の緑の鮮やかな色使いが目を引きます。余白をあえて設けず、琳派的にダイナミックに描いていますが、花の可憐さの表現へのこだわりも伝わってきます。

川端龍子は、従来の日本画鑑賞の常識を覆す「会場芸術」を提唱した画家として知られています。広くない室内で少人数が間近で鑑賞することに適した作品を「床の間芸術」ととらえ、展覧会場のような大きな部屋で多人数が離れて鑑賞することに適した表現を目指したのです。

おのずと大画面ながらも余白は少なく、色彩のコントラストを活かしてモチーフをダイナミックな筆致で表現するようになります。日本画に優雅さだけでなく、インパクトも加味しようとしたのです。江戸時代の琳派の絵師たちによる大胆な表現への挑戦と同じく、”パイオニア精神”を感じさせます。

展覧会チラシ表紙にも採用されている「鳴門」山種美術館蔵は、群青の海と白い波のコントラストが画面いっぱいに広がり、「会場芸術」を世に知らしめた記念碑的名品です。1929(昭和4)年の作品ですが、21cになって描かれた作品と言われても違和感がありません。

大正時代は、幕末から一等国になるべく必死で走り続けてきた日本社会が、第一次大戦の好景気に支えられ、関東大震災はあったものの、束の間の平和と繁栄を謳歌した時代でした。長い戦乱の世が終わった桃山・江戸初期に、琳派が生まれた京都と時代環境はよく似ています。

古今東西、新しい芸術は平和と繁栄の時代に誕生します。「大観・春草・玉堂・龍子」の四人は、そんな大正画壇を盛り上げた寵児だったことは間違いありません。

【展覧会公式サイトの画像】 川合玉堂「渓雨紅樹」山種美術館蔵

最後に登場する玉堂は、最初に京都で四条・円山派に学んだこともあり、京都画壇を思わせる柔らかなタッチにいつ見ても魅了されます。「渓雨紅樹」は、紅葉の借景に雨にしたたる山村風景を配しており、紅葉の色の美しさを情緒的に際立たせています。玉堂がこよなく愛した大自然への敬意までもが感じられます。

「春風春水」山種美術館蔵は、当時全国で見られたワイヤーロープを伝いながら川を横断する渡し船の様子を描いています。南画風の緻密な描写で木々を表現しながら、しっかりと日本的な趣でまとめ上げています。カーナビの”バーズアイ”のように上空から見下ろしたような俯瞰的な構図も、玉堂らしい表現です。



Cafe 椿

大観・玉堂・龍子の3人が、パトロンでもあった館創立者・山﨑種二を喜ばせようと戦後に「松竹梅展」を企画しました。その出展作品には、3人の晩年の円熟味が感じられ、とても心を和ませます。玉堂の「松竹梅のうち松(老松)」山種美術館蔵は、室町水墨画のような力強い松の描写が印象的です。木々の生き生きとした表現では、3人の中でも玉堂に軍配が上がります。

【Cafe 椿】 「大観・春草・玉堂・龍子 ―日本画のパイオニア―」展オリジナル和菓子のご案内

1Fエントランスの「Cafe 椿」では、展覧会の出展作品をモチーフにした和菓子も楽しめます。龍子「鳴門」、大観「富士山」など、和菓子ならではの芸術は本物の作品以上にビックリです。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



”日本画”と言う概念が生まれた幕末以降、洋画と共に時代のニーズに応えてきた歴史は素晴らしい

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<東京都渋谷区>
山種美術館
広尾開館10周年記念特別展
大観・春草・玉堂・龍子
―日本画のパイオニア―
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:山種美術館、朝日新聞社
会期:2019年8月31日(土)~10月27日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※出展作の中で一点のみ、私的使用に限って、写真撮影とWeb上への公開が可能な作品があります。
 フラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音と動画撮影は禁止です。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

JR山手線・埼京線・湘南新宿ライン「恵比寿」駅下車、西口から徒歩12分
東京メトロ日比谷線「恵比寿」駅下車、2番出口から徒歩12分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
東京駅→東京メトロ丸の内線→霞ヶ関駅→東京メトロ日比谷線→恵比寿駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。


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岸田劉生展 情熱と才能を堪能_東京ステギャラ 10/20まで

2019年09月12日 | 美術館・展覧会

東京駅にある東京ステーションギャラリーで、至高の洋画家・岸田劉生(きしだりゅうせい)の名品が集結した美術展が始まっています。画風を頻繁に変えたことで知られる岸田劉生の作品が時代を追って網羅されており、彼の画業への情熱が俯瞰できる圧巻の構成になっています。

  • 没後90年の大規模回顧展、重文2点を筆頭に東近美をはじめ、全国の美術館が出展に協力
  • かの「麗子像」も出展は10点を超え、様々な愛くるしい表情に触れられる
  • 岸田のイメージが強い肖像画以外にも多様なモチーフの作品が出展
  • 日本画や水彩画まであり、岸田の凄腕に圧倒される


近代日本の画家の中でも、岸田は有数の個性や自我の強い人物でした。そんな岸田の人柄は作品からも感じることができます。静かなようで情熱たっぷりの画家、岸田の魅力を改めて印象付けられる展覧会です。



東京駅丸の内北口ドーム

岸田劉生の大規模展は、他の画家と同様に生誕/没後の節目の年に行われることが多くなっています。今回の「没後90年」は、2009年「没後80年」損保ジャパン東郷青児美術館、2011年「生誕120年」大阪市立美術館、以来の大規模回顧展です。”久々”感もあって、美術ファンの期待は大いに高まっていることでしょう。

岸田劉生は1891(明治24)年に東京・銀座で生まれ、大正時代から昭和初期にかけて活躍した洋画家です。東京美術学校といった王道の教育機関で学んだり、文展といった著名な展覧会に出展することがほとんどなく、独自の信念で画業を歩んでいった画家です。

明確な師匠に付かなかったことが影響していると思われますが、画風やモチーフへのこだわりとその変化が顕著なことが、岸田劉生という個性の存在を強く印象付けています。

そうした変化を丁寧にたどろうとしたのでしょう。展覧会は、ほとんどの作品で日付レベルまでわかっている制作時期の順に忠実に構成されています。いつ画風が変化し、いつ特定のモチーフにこだわったのか、そうした岸田の思い入れの変化がとてもよくわかります。




【国立美術館所蔵作品検索システムの画像】 1907「薄暮之海」東京国立近代美術館蔵
【宮城県美術館 公式サイトの画像】 1913「真田久吉氏像」宮城県美術館蔵

岸田の画業人生は黒田清輝に洋画を学ぶことで始まりました。「薄暮之海」は外光派と呼ばれた黒田の明るい光の表現の影響を強く受けています。水彩画ながらも、岸田らしいタッチの激しさはすでに見受けられます。前期のみの展示です。

続いてポスト印象派に陶酔するようになります。「真田久吉氏像」はその最盛期の名品で、セザンヌの表現を忠実に学んでいることが感じられます。

【国立美術館所蔵作品検索システムの画像】 1913「自画像」東京国立近代美術館蔵

1913(大正2)年頃からは、写実性の強いルネサンス期の表現に目を向けるようになります。中でもデューラーに陶酔し、訪れた友人や自身をモデルに肖像画を多数制作しました。「首狩り」というあだ名がついたほどです。

1913「自画像」東京国立近代美術館蔵は、多数出展されている岸田の自画像の中でも、最も岸田の内面が現れているように感じられます。絵に対する強い情熱が、鋭い眼光に見事に表現されています。

【SHINWA AUCTION ブログの画像】 1914「黒き土の上に立てる女」似鳥美術館蔵

2012年に51年ぶりに発見されて話題になった「黒き土の上に立てる女」も出展されています。現在はSHINWA AUCTIONで落札した似鳥美術館の所蔵になっています。北方ルネサンスの宗教画のような精神性が伝わってくる名品です。



東京国立近代美術館で「道路と土手と塀」が展示されている様子

【国立美術館所蔵作品検索システムの画像】 重要文化財1915「道路と土手と塀(切通之写生)」東京国立近代美術館蔵

現在の小田急線・南新宿駅付近に転居したのを機に、当時はまだ田園地帯だった代々木の風景画に加え、静物画も制作するようになります。ナチュラルに関心を向けるようになったのでしょう。「道路と土手と塀」は重文に指定されている岸田の代表作です。坂が動き出すのではないかと思えるほど自然の生命力を見事に表現しています。

1915「代々木附近(代々木附近の赤土風景)」豊田市美術館蔵は、この坂を別角度から描いた作品です。岸田の写実へのこだわりが強く伝わってくる、こちらも名品です。

【国立美術館所蔵作品検索システムの画像】 1916「古屋君の肖像(草持てる男の肖像)」東京国立近代美術館蔵

「古屋君の肖像(草持てる男の肖像)」は岸田の肖像画の最高傑作でしょう。デューラーの肖像画表現を完璧にマスターしたように、瞬間の表情が深い精神性を携えて表現されています。写真では絶対に表現できないと思えます。岸田の凄腕が凝縮されています。

【国立美術館所蔵作品検索システムの画像】 1916「壺の上に林檎が載って在る」東京国立近代美術館蔵

「壺の上に林檎が載って在る」も岸田の凄腕を感じさせる静物画の名品です。リンゴが壺にのせられていることで、宗教画のような神秘性が表現されています。




岸田は間もなく結核と診断され、屋外での制作をあきらめます。静物画に加え、娘の成長を記録するかの如く、「麗子像」にのめりこんでいきます。

【国立美術館所蔵作品検索システムの画像】 1918「麗子肖像(麗子五歳之像)」東京国立近代美術館蔵
【ColBaseの画像】 重要文化財1921「麗子微笑」東京国立博物館蔵

ずらりと並ぶ「麗子像」の中で、展覧会のチラシの表紙にも採用されている、1918「麗子肖像(麗子五歳之像)」東京国立近代美術館蔵が、私は最も感銘を受けました。東京展では出展されない重文「麗子微笑」の、どこかデフォルメしたような神秘的な表現とは真逆に、とても写実的です。

5歳の女の子のピュアな精神をデューラー的に表現しています。宗教画のように上部を半円形に囲っていることが、この作品の魅力をさらに高めています。

【ポーラ美術館 公式サイトの画像】 1924「椿之図」ポーラ美術館蔵

岸田は洋画家として知られていますが、関東大震災後に京都に転居すると、中国の院体画風の日本画表現に目を向けるようになります。「椿之図」は岸田のイメージとは程遠い表現ですが、とても上手です。後期のみの展示です。多数展示されている日本画作品はぜひおすすめします。岸田の凄腕を改めて感じさせる名品揃いです。

【ポーラ美術館 公式サイトの画像】 1929「満鉄総裁邸の庭」ポーラ美術館蔵

「満鉄総裁邸の庭」は、岸田の画業人生の最後の作品の一つです。1929(昭和4)年9月に満鉄の招きで大連に赴き、制作した作品です。初期のポスト印象派に陶酔していた時代を思わせる明るい表現が印象的です。

岸田は、大連での暮らしになじめず体調を崩したこともあって12月に帰国しますが、一時的に静養していた山口県徳山市で息を引き取ります。38歳の若さでした。




1891(明治24)年生まれの岸田は、梅原龍三郎/中川一政/奥村土牛/福田平八郎らとほぼ同世代です。この4人はいずれも、早逝することなく戦後になってからも活躍し、文化勲章を受けています。一方、青木繁/佐伯祐三/菱田春草/速水御舟ら、長寿を全うできなかった画家は少なくありません。

「岸田が長生きしていれば、どんな名作を残したのだろう」と、凄腕の”すごさ”を強く感じさせる展覧会です。素晴らしいBest of Bestです。

鑑賞にあたっては一点、ご注意ください。

岸田=洋画家というイメージから作品の展示替えがないと思われがちですが、この展覧会はかなりの数が展示替えされ、巡回地によって出展されない作品も少なくありません。水彩画/日本画/版画といった長期展示に適さない作品が多いためですが、油彩画でも展示期間/会場が限られている作品があります。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



”あのモデル”から見た父の壮絶な画業人生

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<東京都千代田区>
東京ステーションギャラリー
没後90年記念
岸田劉生展
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:東京ステーションギャラリー(公益財団法人東日本鉄道文化財団)、東京新聞
会期:2019年8月31日(土)~10月20日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金曜~19:30)

※9/23までの前期展示、9/25以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、2019年11月から山口県立美術館、2020年1月から名古屋市美術館、に巡回します。
※会場毎に展示作品が一部異なります。
※この美術館は、常時公開している常設展示はありません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

JR「東京」駅下車、丸の内北口改札から徒歩0分
東京メトロ 丸の内線「東京」駅から徒歩3分、東西線「大手町」駅から徒歩5分、千代田線「二重橋前」駅から徒歩7分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:0分

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。


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世紀末に至るウィーン・モダニズムは素晴らしい_中之島 国際美術館 12/8まで

2019年09月02日 | 美術館・展覧会

六本木・新美術館で話題を集めた「ウィーン・モダン」展が、大阪・国際美術館に巡回してきました。クリムトに代表される世紀末芸術を創出したウィーンのモダニズム文化を、建築・ファッション・音楽など様々な角度から味わうことができます。

  • ウィーンのモダニズム文化の芽は、18c半ばの女帝マリア・テレジアの時代にまでさかのぼる
  • 19c半ばリンク通りの建設でウィーンは芸術の都へ躍進、名だたる音楽家も展覧会に多数登場
  • 日本では無名のウィーンの画家の作品は必見、ウィーン社会や文化を見事に伝える秀作揃い
  • ウィーン・ミュージアム所蔵の世紀末芸術のオンパレードは圧巻、クリムト以外もたっぷり楽しめる


19c後半に欧州で流行した「モダニズム」、この言葉が最も似合う街はウィーンだと印象付けられる展覧会です。「古きよき時代」とはまさに、19cのウィーンです。




この展覧会の出展作品は、ほとんどがウィーン・ミュージアムの所蔵品で構成されています。ウィーン・ミュージアムは2019年4月から改修のため長期休館となることもあり、今回のような目玉作品の大挙した来日が実現しました。

美術史博物館/ベルヴェデーレ/レオポルト博物館など、日本では他のウィーンの美術館に比べて正直知名度は低いですが、開設は1887年と美術史博物館より4年早い伝統あるミュージアムです。2003年まで名称はウィーン市博物館でした。所蔵100万点とウィーンの街の歴史を俯瞰するコレクションでは他を圧倒しています。クリムトやシーレら世紀末芸術の作品も、時代を映す鏡として多数所蔵されています。




展覧会は「モダニズムへの過程」をたどることができるよう構成されています。それぞれの章にはその時代をリードした政治家が紹介されています。

  • 第1章:啓蒙主義時代のウィーン 女帝マリア・テレジア~皇帝ヨーゼフ2世(1740-1790)
  • 第2章:ビーダーマイアー時代のウィーン 外相・宰相メッテルニヒ(1804-1848)
  • 第3章:リンク通りとウィーン 皇帝フランツ・ヨーゼフ1世(1848-1916)
  • 第4章:1900年-世紀末のウィーン ウィーン市長カール・ルエーガー(1897-1910)





ウィーンのモダニズムの起源を啓蒙主義の時代に求めたのが第1章です。合理的な考えに基づいた仕組みを積極的に導入し、社会の変革を進めた二人の皇帝を軸に展開していきます。

【展覧会 公式Instagramの画像】 マリア・テレジアとヨーゼフ2世の肖像画

二人の皇帝の肖像画からは威厳が強く感じられるように、対外的には欧州各国との戦争にあけくれていました。一方ウィーンの街は啓蒙主義の自由な精神にひかれた知識人が集まるようになります。古典派と呼ばれる音楽家のハイドンやモーツァルトが活躍したのもこの時代です。

ナポレオン戦争後の欧州の秩序を取り決めた「会議は踊る」で有名なウィーン会議から1848年の「諸国民の春」革命までの時代をウィーンでは「ビーダーマイアー時代」と呼んでいます。この時代のリーダー・メッテルニヒは、市民には抑圧的でした。会場にはメッテルニヒが愛用していた「カバン」という珍品も出展されています。

市民はファッションやインテリアなどを通じて日常生活に美しさを求めました。第2章ではそうした”ウィーンの民芸”を楽しめる展示が充実しています。

【展覧会 公式Instagramの画像】 ボール・ドレス

ファッションでは、シンプルなデザインと着心地の良さの両立が好まれるようになります。「ポール・ドレス」は当時の流行の典型で、確かにシンプルさの中に新しさを見出すことができます。

【展覧会 公式Instagramの画像】 シューベルトの眼鏡

ビーダーマイアー時代を代表する音楽家・シューベルトの「眼鏡」という珍品も展示されています。銀の細い額縁のカーブのラインの美しさが実に印象的です。




第3章はウィーンの街が世紀末芸術の創造に向かって急激に変わっていく時代です。第一次大戦のさなかまで68年の長きにわたって在位し、国民に絶大な人気のあった皇帝フランツ・ヨーゼフ1世がこの章の主役です。

政治的には、ハンガリーなど東欧の領土での影響力を次々失うようになり、欧州の強国ではなくなっていきます。一方東欧と西欧の接点として欧州屈指の多民族都市となっていたウィーンでは、多文化共生のために文化が奨励されるようになり、自由な創造の芽が一斉に吹き出すようになります。

オスマン帝国の包囲から街を守るための城壁が市域拡張のために取り壊され、現在のウィーンのメインストリートとも呼べるリンク通りが建設されたのもこの時代でした。ブルク劇場や美術史博物館など著名な文化施設が次々とオープンしていきます。

【展覧会 公式Instagramの画像】 フランツ・ルス(父)「司令官の制服で祝祭に臨むフランツ・ヨーゼフ1世」(部分)
【展覧会 公式Instagramの画像】 フランツ・ルス(父)「皇后エリーザベト」(部分)

若き日のフランツ・ヨーゼフ1世と皇后エリーザベトの肖像画を見ると、超美青年と美女のカップルだったことがわかります。気品・美しさ・包容力・威厳といった皇帝夫妻の理想的なイメージがすべて凝縮されています。古きよき時代のウィーンを象徴する名品です。

【展覧会 公式Instagramの画像】 ヴィクトル・ティルクナー「作曲家ヨハン・シュトラウス(子)」

ウィーンは各時代で次から次へと著名な音楽家を輩出するすごい街でもあります。この時代はヨハン・シュトラウス(子)です。トレードマークの長い口髭が、表情を実に優雅に見せている彫刻です。




第4章はクライマックスの「世紀末」です。クリムトらこの時代の芸術家たちのパトロンはユダヤ人の富裕層でした。欧州でも最もユダヤ人に寛容な都市だったウィーンで、斬新なデザインと絵画表現が次々と登場します。第一次大戦前夜の最後の輝きでした。

【展覧会 公式Instagramの画像】 グスタフ・クリムト「エミーリエ・フレーゲの肖像」(部分)
【展覧会 公式Instagramの画像】 エゴン・シーレ「美術批評家アルトゥール・レスラーの肖像」(部分)

クリムトとシーレの代表作とも呼べる名作はこの展覧会の目玉作品になっています。

クリムト「エミーリエ・フレーゲの肖像」のは、クリムトの数ある愛人の中で最も著名な女性を描いた作品です。官能的で挑発的な表現は抑え気味で、衣装のデザインや背景にトレードマークの金色を用いていません。青と緑を基調とした衣装のデザインからは、モダニズムを代表する斬新さが感じられます。現代のスーパーモデルのような威厳が感じられます。

シーレ「美術批評家アルトゥール・レスラーの肖像」は、パトロンを描いた作品です。シーレ特有の”ジグザグ感”のバランスがうまくとられており、まるで映画俳優のようにモデルをかっこよく見せています。

【展覧会 公式Instagramの画像】 マクシミリアン・クルツヴァイル「黄色いドレスの女性(画家の妻)」(部分)

「ウィーン分離派」設立メンバーのクルツヴァイル「黄色いドレスの女性(画家の妻)」も名品です。緑色の椅子に蝶の羽のように広げられた黄色のドレスの色使いは、世紀末ウィーンを強く感じさせます。表情には温かみがあり、世紀末ウィーンの生活を満喫する市民の空気も伝わってきます。

【展覧会 公式Instagramの画像】 ベルトルト・レフラー「キャバレー・フレーダーマウスのポスター」

このポスターも、とても「世紀末ウィーン」しています。デザインには怪しげながら人懐っこさもあり、現代で言う”キモカワ”です。当時のキャバレーは遊興の場と言うより知識人のサロンでした。そんなターゲットにピッタリささったであろう、素晴らしいデザインです。



唯一の写真撮影OK作品、クリムト「エミーリエ・フレーゲの肖像」

2019年の美術展は他にも「世紀末ウィーンのグラフィック」「クリムト展」といった「ウィーンものが目立つな」と感じていらっしゃる方も少なくないでしょう。2019年は日本とオーストリアの外交樹立150年で、両国の文化交流に特に力が入った年です。ANAが羽田からウィーン直行便を就航させています。久々にウィーンに行ってみたくなった展覧会でした。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



世紀末芸術の第一人者の広島県立美術館館長がやさしく解説

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<大阪市北区>
国立国際美術館

日本・オーストリア外交樹立150周年記念
ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:国立国際美術館、ウィーン・ミュージアム、読売新聞社、読売テレビ
会場:B3F
会期:2019年8月27日(火)〜12月8日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30(金土曜 8-9月~20:30、10-12月~19:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この会場で展示されない作品があります。
※この展覧会は、2019年8月まで国立新美術館、から巡回してきたものです。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。


同時開催
コレクション特集展示
ジャコメッティと II
【美術館による展覧会公式サイト】 ジャコメッティと II
会場:B2F

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていますが、企画展開催時のみ鑑賞できます。



◆おすすめ交通機関◆

京阪中之島線「渡辺橋駅」下車徒歩5分、大阪メトロ四つ橋線「肥後橋」駅下車徒歩10分、
JR環状線・阪神本線「福島駅」・JR東西線「新福島駅」下車徒歩10分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
JR大阪駅→大阪メトロ四つ橋線→肥後橋駅

【公式サイト】アクセス案内

※この施設に駐車場はありません。


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京都文化博物館 写真OKの展覧会がダブル開催_9/29まで

2019年08月30日 | 美術館・展覧会

全国の博物館・美術館でICOM(国際博物館会議)京都大会を記念する展覧会が行われています。京都文化博物館のICOM開催記念の展覧会はダブル開催、「百花繚乱ニッポン×ビジュツ展」と「京の歴史をつなぐ」です。

  • 「百花繚乱」では東京富士美術館所蔵の江戸絵画を中心とした日本美術の名品40点を紹介
  • 鈴木其一「風神雷神図襖」は、襖の表裏に別々に風神雷神が描かれた珍しい構図
  • 「京の歴史をつなぐ」では、普段はない角度から京都の文化遺産の珍品を展示
  • 平安時代の羅城門や江戸時代の四条河原と南座界隈のミニチュア模型がとてもわかりやすい


両展覧会とも写真撮影OKという、ユーザーフレンドリーな仕組みにも好感が持てます。写真NGが当たり前だった壁を、SNSによるPR効果が着実に崩しつつあります。




東京富士美術館は、1983(昭和58)年に創価学会インタナショナル(SGI)会長・池田大作により創設された美術館です。八王子にあります。西洋絵画や日本美術では各時代を俯瞰できるほどのコレクションを集めており、設立から間もない美術館としては驚きの約3万点を所蔵しています。

また国内外の美術館との作品の貸出/借入に非常に積極的な美術館としても知られています。今回のようなまとまった数を貸し出す展覧会も、海外を含め年に幾度も行われています。

展覧会は、「キモカワ」「サムライ」「デザイン」「黄金の国」「四季」「富士山」の6つのテーマで構成されています。最初のテーマ「キモカワ×日本美術」では、早速見応えのある「キモカワ」が目に飛び込んできます。

【東京富士美術館 公式サイトの画像】 狩野尚信「猛虎図」
【東京富士美術館 公式サイトの画像】 伊藤若冲「象図」
【東京富士美術館 公式サイトの画像】 長澤蘆雪「南天に雪兎図」

探幽の弟・狩野尚信の「猛虎図」は、墨画のタッチと大きな余白が絶妙な色合いに変化して虎の姿を幻想的に見せています。時を経ているためでしょう。大きくデフォルメされていながらもつぶらな瞳が、印象的です。若冲おなじみの“切れ目”の象も、ちゃっかり存在感を示しています。蘆雪の「南天に雪兎図」は、師匠・円山応挙の画風を忠実に再現したように、雪の静寂まで見事に表現しています。

【東京富士美術館 公式サイトの画像】 歌川広重「名所江戸百景 浅草田圃酉の町詣」
【東京富士美術館 公式サイトの画像】 歌川国芳「里すずめねぐらの仮宿」

窓際に腰掛けて外を見つめる猫の後ろ姿を描いた広重「浅草田圃酉の町詣」は、おそらくこの展覧会の「カワイイ」作品ランキング1位になるでしょう。国芳「里すずめねぐらの仮宿」は、遊女絵が禁止された際に、スズメを遊女になぞらえて賑わう遊郭の様子を描いています。絵師と版元の商魂には舌を巻きます。スズメを擬人化した表現の腕前はさすが国芳です。




「デザイン×日本美術」では、江戸琳派の師弟作品に注目です。

【東京富士美術館 公式サイトの画像】 鈴木其一「風神雷神図襖」
【東京富士美術館 公式サイトの画像】 酒井抱一「白梅図」

其一「風神雷神図襖」は4面の襖の表裏に風神雷神をそれぞれ単独で描いています。宗達→光琳→抱一と琳派の絵師にとって最重要モチーフである風神雷神を、其一は通常の二曲一双の2倍の画面サイズで、しかも表裏に描くパフォーマンスを思い付いたのです。師匠の抱一が、光琳模写の風神雷神図の裏に自信の最高傑作「夏秋草図屏風」を描いたパフォーマンスから、発想だけをパクったような気がしてなりません。

その抱一は、しとやかな「白梅図」で弟子の「風神雷神図」を見守っているようです。“たらしこみ”が美しく、茶室の掛け軸に使うと絶品です。

【東京富士美術館 公式サイトの画像】 伊年 印「春秋草花図屏風」
【東京富士美術館 公式サイトの画像】 呉春「蘭亭脩契図」

「四季×日本美術」でも琳派作品が輝いています。俵屋宗達の工房「伊年」印がおされた「春秋草花図屏風」は、寛永文化の繁栄を象徴する名品です。華やかさと上品さのバランスが見事です。一方、「蘭亭脩契図」は呉春の器用さがよくわかる作品です。彼はこの美しい南画と、師の応挙から学んだ写実画を描き分けることができたのです。

【東京富士美術館 公式サイトの画像】 「武蔵野図屏風」

「富士山×日本美術」は展覧会のフィナーレにふさわしい雄大な富士山を描いた作品がならんでいます。「武蔵野図屏風」は作者不詳ですが、江戸時代初期の作品で、やまと絵表現を意識してとても優雅に富士山と武蔵野の遠景を描いています。緑と金色をバランスよく配置しています。




3F に下りると「京の歴史をつなぐ」に展覧会がスイッチします。美術作品の展示よりも、過去の研究資料や手紙、書籍、写真といった往事の文化財との接点を伝える資料や、建造物や町並みのミニチュア模型の展示が充実しています。普段見る機会がなかなかない展示です。京都の文化財の継承の歴史をしっかりと学ぶことができます。

入口では京都の街の過去と現代の地図を重ね合わせ、飛ぶ鳥のように見たい方向に進めるVRが人気を集めていました。他にも各所で動画による解説をモニターで見ることができるようになっています。一見難しく感じられるテーマに親しみを持ってもらおうとする工夫が感じられます。




平安京の正門だった羅城門のミニチュア模型が人気を集めています。南側正面が完成後、北側裏面を建設中の状態で復原しています。建設作業に携わる人々の食事や作業道具の解説も興味深く、平安時代の研究が着実に進んでいることを興味深く学べます。

平安時代随一の貴族の藤原家の邸宅・東三条殿のミニチュア模型も、現存しない寝殿造りの邸宅と庭を忍ぶことができるみごとな作品です。江戸時代に平安京の大内裏を考証した地図も展示されており、過去の研究の蓄積が現代の歴史や文化の解釈につながっていることがわかります。

元禄時代の四条大橋の袂で7軒の芝居小屋が賑わっていたミニチュア模型にもとても関心が持てます。300年の時を経て、芝居というエンタメ需要は現存する南座に集約されていったのです。明治に岡崎で行われた勧業博覧会のミニチュア模型もあります。現在美術館が建ち並ぶエリアに、洋風のしゃれた展示会場が立ち並んでいた様子は実に壮麗です。

昭和の頃の市電が走る町並みや祇園祭の写真も展示されています。高齢の方が昔を懐かしむように熱心に見ている様子が印象的でした。




2F の常設展示コーナーの一角では「辰野金吾没後100年 文博界隈の近代建築と地域事業」も開催されています。京都文化博物館の別館・赤煉瓦の建物は旧日本銀行京都支店で、辰野金吾が設計しました。界隈の三条通を中心に続々と洋風建築が建てられた時代を検証しています。

【京都文化博物館 公式サイト】 辰野金吾没後100年 文博界隈の近代建築と地域事業

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



博物館の舞台裏ってどうなってる?

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<京都市中京区>
京都文化博物館

特別展
ICOM京都大会開催記念 東京富士美術館所蔵
百花繚乱 ニッポン×ビジュツ展
【京都文化博物館による展覧会公式サイト】
【東京富士美術館による展覧会公式サイト】

主催:京都府、京都文化博物館、京都新聞、テレビ大阪
会場:4F特別展示室
会期:2019年8月25日(日)〜9月29日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金曜~19:00)


企画展
ICOM京都大会開催記念
京の歴史をつなぐ
【京都文化博物館による展覧会公式サイト】

主催:京都府、京都文化博物館
会場:3F総合展示室
会期:2019年8月29日(木)〜9月29日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~19:00

◆両展覧会共通
※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この展覧会は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。
 フラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音と動画撮影は禁止です。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

地下鉄烏丸線「烏丸御池」駅下車、5番出口から徒歩3分
阪急京都線「烏丸」駅下車、16番出口から徒歩7分
京阪電車「三条」駅下車、6番出口から徒歩15分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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お見事 桃山時代の風俗画&合戦図展(2)_名古屋 徳川美術館

2019年08月28日 | 美術館・展覧会

名古屋の徳川美術館のダブル展覧会、レポートの後半戦は「合戦図」展です。あたかも歴史の教科書を開くがごとく、長篠や関ヶ原など数多くの著名な合戦を描いた屏風や絵巻が全国から名古屋に集結しています。

  • 戦国の最終勝者となった徳川の“栄光の歴史”を見せつける合戦図屏風は圧倒的な迫力
  • 「大坂冬の陣」唯一の屏風のデジタル復元も展示、夏の陣図よりも戦いの様子がリアル
  • 中世の軍記物語の展示も充実、「合戦」をモチーフにした作品の変遷はとても興味深い


「合戦図」というと、どこかマニアックなテーマのようにも思われがちですが、その描かれ方からは、製作当時の政治状況や流行の様子までもがつたわってきます。ファッションショーのようにカラフルな武具をまとった武将たちの描写も見事です。「合戦図」とは、実はとても奥深いモチーフであると気付かされます。




合戦をモチーフにした絵画の登場は、「平治物語絵巻」「前九年合戦絵巻」など、鎌倉時代初期に製作された軍記物語にさかのぼります。先の時代の著名な戦いを、時間を追ってストーリーのように表現していく巻物に描かれた物語絵です。そのため屛風に比べると画面は随分小さくなります。

平安時代末期に応天門の放火事件を描いた「伴大納言絵巻」も、拡大解釈すれば軍記物語と見なせますが、「平治物語絵巻」とは制作時期に大きな隔たりはないとみられています。歴史的な争乱を記録した絵巻が貴族階級の間で珍重されるようになったのは、平安時代末期と考えられるでしょう。

鎌倉時代から室町時代へ時が流れると、武士が先祖の武功を顕彰したり、武士精神の理想像を投影するモチーフとして定着していきます。室町時代には屏風絵が一般的になり、画面サイズもとても大きくなります。

合戦図の絵師は判明していないものが大半ですが、やまと絵風の描写から桃山時代は土佐派が多いと考えられています。土佐派は武将の肖像画も得意としており、朝廷だけではなく武家にも人気の流派でした。

江戸時代には狩野派も合戦図を手がけるようになります。「平家物語の敦盛最期」のような古典のエピソードを大きくとりあげた作品は、太平の世のエンタテイメントとして人気は衰えませんでした。



大坂冬の陣図屏風デジタル想定復元

蓬左文庫に進むと、まばゆい輝きを放つ屛風が目に飛び込んできます。凸版印刷によって想定復元された「大坂冬の陣図屏風」です。この復元作品は写真撮影可能です。

東京国立博物館蔵「大坂冬の陣図屏風」は完成品の模写で、着色されていない部分もありますが、彩色の指示が残されています。完成品は所在不明なため、この彩色指示を元に「想定」して復元しています。

「大坂夏の陣図屏風」は大阪城天守閣所蔵の重要文化財を始め複数の作品が確認されていますが、「冬の陣」を描いた作品は東博所蔵の一点しか確認されていません。埋め立てられる前の大阪城の巨大な堀や出城の真田丸が描かれており、難攻不落と呼ばれた大阪城の迫力と戦いの激しさがリアルに伝わってきます。


【展覧会 公式サイトの画像】 名古屋市博物館蔵「長篠合戦図屏風」六曲一隻

蓬左文庫では「合戦図」展の内、戦国〜江戸時代の合戦を描いた作品が展示されています。著名な戦いがずらりと並びます。

数ある「長篠合戦図屏風」中で江戸時代初期に製作された最古の作品とされる名古屋市博物館所蔵品が注目されます。六曲一隻とペアではなく武田軍が描かれていないことから右隻が失われてしまったと考えられています。

桃山時代に流行した金地金雲が画面を覆いますが、武将は特定できず、部隊が大まかに配置されているだけのシンプルな構図です。江戸時代初期の合戦図は、特定の武功を称えるのではなく、戦の記念碑的な性格が強かったと考えられています。8/20以降のB期間展示です。

【展覧会 公式サイトの画像】 徳川美術館蔵「長篠長久手合戦図屏風」六曲一双

8/18までのA期間展示では、教科書に載っていることもあって最も有名な徳川美術館蔵の「長篠長久手合戦図屏風」が展示されていました。この作品の製作は江戸時代後半と時代が下り、数多い長篠合戦図と同じく犬山城主の成瀬家に伝わる図の写本と考えられています。

武将の解説や鉄砲発射の際の黒煙など、とてもリアルに描かれています。武田軍の騎馬隊を防ぐ柵など、現代人が抱く長篠の戦いのイメージはこの作品によって擦り込まれていると行っても過言ではありません。

長篠合戦図の多くはこの作品のように、家康が秀吉に勝利した長久手合戦図とペアで屛風にされています。長篠&長久手は徳川の栄光を伝えるモチーフとして、江戸時代は高い権威を誇っていたのです。

八曲一双の巨大な「関ヶ原合戦図」も名品です。津軽家に伝来し、現在は大阪歴史博物館が所蔵する重用文化財です。この作品も製作時期は早く、画面一杯におびただしい数の武将や兵士が描かれていますが、家康以外の武将は特定できずません。西軍は逃走する姿だけが描かれています。東軍勝利に大きく貢献した豊臣恩顧の大名ではなく、家康一人の権威付けを重視したような作品です。




「合戦図」展の会場は旧本館の企画展示室に続きます。こちちらでは主に室町時代以前の合戦や争乱を描いた作品が展示されています。

【展覧会 公式サイトの画像】 東京国立博物館蔵「平治物語絵巻 六波羅行幸巻」

日本の軍記物語絵巻の至宝、東京国立博物館蔵の国宝「平治物語絵巻 六波羅行幸巻」は8/18までのA期間展示でした。図録の画像と8/20以降のB期間展示の江戸時代の模写でしか鑑賞できていませんが、描写の繊細さはやはり別格です。

この作品は合戦図特有の凄惨な描写はありません。余白を大きく取った構図に後白河上皇や二条天皇を脱出させる兵士たちの様子が整然と描かれています。甲冑の色使いが効いているように、発色の美しさがめだちます。最高級の絵具と紙を使い、大切に守られてきたものでしょう。芸術的です。合戦図なのにとても「綺麗な」作品です。

【展覧会 公式サイトの画像】 逸翁美術館蔵「芦引絵 五巻のうち巻四」

合戦は、寺社の縁起絵巻など軍記物以外にも物語の1シーンとして描かれるようになります。展覧会ではそうした作例をいくつか確認することができます。

逸翁美術館蔵の重用文化財「芦引絵 五巻のうち巻四」は稚児の恋物語の1シーンにある夜襲の様子を比叡山と興福寺の争乱になぞらえて描いたものです。生首や流血がリアルに描かれ、仏教美術の地獄絵のようなおどろおどろしさを醸し出しています。争い合う人間の愚かさを戒めるような描写に観じられます。

江戸時代に製作された源平合戦のモチーフでは、戦全体ではなく特定の人物とエピソードを大きく描いた作品が目立ちます。武功の顕彰ではなくエンタテイメントとして愉しんでいたことがよくわかります。大名家のプライベート空間で使う「奥道具」としても人気があったようで、女性にももてはやされた絵画モチーフだったのでしょう。

「桃山の名画」に引き続き、居並ぶ名品から各時代の文化や流行がとてもよくわかる展覧会でした。刀剣と同じく合戦図も「美しい」と感じられるようになりました。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



「合戦」から日本史の分岐点が見える

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<名古屋市東区>
徳川美術館

夏季特別展
合戦図 ―もののふたちの勇姿を描く―
【美術館による展覧会公式サイト】

特別公開
大坂冬の陣図屏風 デジタル想定復元
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:徳川美術館、名古屋市蓬左文庫、読売新聞社
特別協力:凸版印刷(株)
会期:2019年7月27日(土)~9月8日(日)
会場:蓬左文庫 ガイダンスホール/展示室1,2、企画展示室
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※8/18までのA期間、8/20以降のB期間で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※B期間展示期間内で、展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。

特別公開
ICOM KYOTO 2019記念
桃山の名画
【美術館による展覧会公式サイト】

会期:2019年8月20日(火)~9月16日(月)
会場:第5展示室
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。



◆おすすめ交通機関◆

JR中央線「大曽根」駅下車、南口から徒歩10分
地下鉄名城線「大曽根」駅下車、E5出口から徒歩15分
名鉄瀬戸線「森下」駅下車、徒歩10分
市営バス基幹2系統「徳川園新出来」停留所下車、徒歩3分

名古屋駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
名古屋駅→JR中央線→大曽根駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には無料・有料の駐車場があります。
※休日を中心に、駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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お見事 桃山時代の風俗画&合戦図展(1)_名古屋 徳川美術館

2019年08月27日 | 美術館・展覧会

名古屋の徳川美術館で、“さすが”と納得できる展覧会が行われています。「桃山の名画」「合戦図」のダブル開催で、大名家コレクションの最高峰である徳川美術館“ならでは”の名品が集まっています。ICOM京都開催を応援する“出血大サービス”展覧会でもあります。

  • 豊国祭礼図屏風など、徳川美術館が誇る桃山時代風俗画の名品4点の勢揃いは滅多にない機会
  • 4点はいずれも保存状態がよく、400年前の最先端トレンドを描いた輝きは全く色あせていない
  • 平治物語絵巻から大坂の陣まで全国から合戦図の名品が集結、徳川美術館のブランド力がうかがえる


桃山風俗画がこれほどまとまって所蔵されているのは、コレクションが散逸せずに今に伝えられた賜です。「合戦図」というテーマで企画された展覧会もほとんど耳にしません。名古屋に行けたのは会期末になってしまいましたが、とても興味深いダブル企画でした。今回は「桃山の名画」展についてレポートします。




徳川美術館の展示は原則、常設展を先に見てから企画展を見るよう順路が設定されています。「武具・刀剣」「茶の湯」「書院飾り」「能」「奥道具」と続く常設展は、いつ見ても大名家コレクションの最高峰であること感じさせます。江戸城の徳川宗家はまとまった美術品コレクションを形成しなかったこともあり、御三家筆頭の尾張が“徳川”の看板を今に伝えています。

徳川美術館の常設展では近年、刀剣の展示に人だかりができることが多くなっています。日本最大級の刀剣コレクションと言われ、国宝8振、重要文化財19振も所蔵していることが知られるようになったためでしょう。展示替えされますが、常設展でも常に刀剣のトップクラスの名品を見ることができます。

【徳川美術館 公式サイトの画像】 「短刀 無銘 正宗 名物 庖丁正宗」

今回目にしたのは「庖丁正宗」。短刀の刀身に剣が透かし彫りされており、どこか異国情緒を漂わせる不思議なデザインです。徳川美術館の所蔵品の中でも最高格にあたる、駿府御分物(すんぷおわけもの)と呼ばれる家康遺品の一つです。徳川美術館は刀剣の研ぎを行わないため刃文は見えづらいですが、かえって重厚感が表れています。



玄関ホールの記念写真撮影コーナー

特別展示「桃山の名画」4点は、常設展の最後「奥道具」の第5展示室の一角で目にすることができます。徳川美術館が誇る風俗画の重要文化財4点が出揃う圧巻の機会です。国宝指定が近い作品もあるのでは、個人的には感じています。

【徳川美術館 公式サイトの画像】 岩佐又兵衛筆「豊国祭礼図屏風」

岩佐又兵衛筆「豊国祭礼図屏風」は、慶長9(1604)年に行われた秀吉7回忌の祭典を描いた京都・豊国神社所蔵の狩野内膳による同名作品を参考に描かれたと考えられています。大坂の陣の直前に豊臣恩顧の大名・蜂須賀家政によって発注された作品で、江戸時代を通じて高野山の蜂須賀家の菩提寺にひっそりと眠っていました。

江戸幕府を開いたものの、太閤人気の京都の人々を掌握しきれない徳川家康をあざ笑うかのように、民衆の熱狂的な振る舞いが如実に描写されています。大坂の陣の最中にこの作品を描いた岩佐又兵衛にはきわめて危険が伴うと思われますが、その危険にあえて抗うようなものすごいエネルギーをこの作品からは感じます。この作品で豊臣の世の終焉をきちんと記録しようとしたのかもしれません。

【徳川美術館 公式サイトの画像】 「本多平八郎姿絵屏風」

「本多平八郎姿絵屏風」は、桃山・江戸初期の風俗画の傑作です。モデルは豊臣秀頼の未亡人・千姫と、千姫が再嫁した徳川四天王・本多忠勝の孫・忠刻です。当時の支配階級の日常をリアルに感じさせます。大河ドラマの衣装の時代考証のお手本となったとも思えるような名品です。

【徳川美術館 公式サイトの画像】 「遊楽図屏風(相応寺屏風)」

「遊楽図屏風(相応寺屏風)」も江戸初期の風俗画の傑作です。尾張家の菩提寺の相応寺(そうおうじ)に伝わったことからこの名があります。八代将軍・吉宗の質素倹約令に反発するように消費を奨励し、名古屋にバブルをもたらした七代尾張藩主・宗春(むねはる)の兄・通温(みちまさ)の遺愛品として伝来しています。

名古屋の街を描いたものかはわかっていませんが、屋外の花見から室内のカルタ遊びまで、ありとあらゆるド派手な豪遊ぶりが伝わってきます。人々の享楽の描写はとても濃厚です。

【徳川美術館 公式サイトの画像】 「歌舞伎図巻」二巻の内下巻

「歌舞伎図巻」は、江戸時代初期に爆発的な人気を博した歌舞伎踊りに熱狂する人々の様子を描いています。衣装の描写は緻密で、発色もよいことからかなり質のよい絵具を使っていると思われます。金泥も用いており、風俗画における安土桃山時代の豪華絢爛な表現の代表作の一つでしょう。

見物人には南蛮人も描かれており、当時の繁華街に様々な人々が行き交っていた様子がいきいきと伝わってきます。洗練されたタッチでテンポよく描かれています。当時一流の歌人で能書家だった公家の烏丸光広(からすまるみつひろ)の詞書が残されていることから、寛永文化サロンの中でもてはやされていた作品と考えられます。



大曽根駅からの美術館への入口

次の順路の蓬左文庫からは「合戦図」展が始まります。「桃山の名画」に負けず劣らず揃う名品の様子は次回レポートします。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



三点ある豊国祭礼図屏風に歴史のメッセージが込められている

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<名古屋市東区>
徳川美術館

特別公開
ICOM KYOTO 2019記念
桃山の名画
【美術館による展覧会公式サイト】

会期:2019年8月20日(火)~9月16日(月)
会場:第5展示室
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。

夏季特別展
合戦図 ―もののふたちの勇姿を描く―
【美術館による展覧会公式サイト】

特別公開
大坂冬の陣図屏風 デジタル想定復元
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:徳川美術館、名古屋市蓬左文庫、読売新聞社
特別協力:凸版印刷(株)
会期:2019年7月27日(土)~9月8日(日)
会場:蓬左文庫 ガイダンスホール/展示室1,2、企画展示室
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※8/18までのA期間、8/20以降のB期間で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※B期間展示期間内で、展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

JR中央線「大曽根」駅下車、南口から徒歩10分
地下鉄名城線「大曽根」駅下車、E5出口から徒歩15分
名鉄瀬戸線「森下」駅下車、徒歩10分
市営バス基幹2系統「徳川園新出来」停留所下車、徒歩3分

名古屋駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
名古屋駅→JR中央線→大曽根駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には無料・有料の駐車場があります。
※休日を中心に、駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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大阪に大胆なフィンランド・デザイン_東洋陶磁美術館 10/14まで

2019年08月22日 | 美術館・展覧会

大阪・中之島・東洋陶磁美術館で、北欧フィンランドの陶芸とテキスタイルのデザインをダブルで披露する「フィンランド陶芸」&「マリメッコ・スピリッツ」展が行われています。

  • 妖精ムーミンの国・フィンランドのデザインは、中性的でテンポのよいことが魅力
  • 陶芸も妖精を思わせる幻想的な表現が多く、フィンランド文化の個性にすっかりはまってしまう
  • 日本でも著名なマリメッコのファブリックで造った茶室は、不思議なほど日本の伝統文化と調和


フィンランド人は民族的には欧州よりもアジアに近い系統に属します。透き通るような青い眼に金髪という見た目はスウェーデンなど他の北欧の人たちと変わりませんが、文化面ではかなり個性的です。この展覧会はそんなフィンランドの魅力をしっかりと伝えてくれます。



玄関ロビーをマリメッコが“ジャック”

このフィンランド・デザインの魅力を伝えるダブル展覧会は、昨年2018年に茨城県陶芸美術館をスタートして1年以上かけて4カ所を巡回し、フィナーレを飾る大阪にやってきました。日本とフィンランドの外交関係樹立100周年を記念した展覧会でもあり、妖精の国の大胆かつ幻想的な表現を堪能できる又とない機会となります。

ダブル展覧会の展示構成の区別は、正直明確ではありませんが、違和感なく構成されているところが見事です。

【マリメッコ(日本語)公式サイト】

マリメッコは今や日本全国にショップを構え、すっかり定着したアパレルやインテリアのブランドです。花柄など、大胆な色とインパクトのある柄のデザインが強烈な主張をしています。北欧のブランドと言えばスウェーデンのH&Mが世界を席巻していますが、H&Mの世界観とは異なり、大胆ながらもナチュラルな趣きが印象的です。




「マリメッコ・スピリッツ」展では「日本」をテーマに製作された作品が注目されます。この展覧会は写真撮影OKなこともあり、人気の記念撮影コーナーにもなっていました。玄関や館内ロビーも巨大なマリメッコ・ファブリックでジャックされており、普段はシックな館内がとても明るくなっています。

展覧会のためにしつらえたマリメッコ・ファブリックの茶室も、実によくできています。水玉模様をあしらっており、琳派の尾形乾山のような趣きも感じられます。緑と水に囲まれた日本庭園の中にあっても、見事に溶け込むでしょう。どこかに建てられることを期待してしまいます。



マリメッコ・ファブリックで造った茶室

「フィンランド陶芸」展の作品を見ていると、森と湖に囲まれた大自然をこよなく愛するフィンランドの人々のオーラが伝わってきます。展覧会は、世界的に著名なキュオスティ・カッコネン氏のフィンランド工芸のコレクションで構成されています。

フィンランドでは19c後半から陶芸産業が盛んになり始め、イギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動に刺激されながら、優秀な陶工が現れ始めます。

【公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

アルフレッド・ウィリアム・フィンチは19c末から活躍し始め、フィンランド陶芸の礎を築いた陶工です。「花瓶」は、当時流行していたアール・ヌーヴォーの趣を、フィンランド特有の大胆な色遣いと見事に調和させています。

第一次大戦の際にロシアからの独立を果たし、フィンランド人のアイデンティティを強調する作品の製作がさらに盛んになります。現在も世界的な名窯であるアラビア製陶所が欧州でも有数の名窯に成長し、1930年代から黄金時代を迎えます。

ミハエル・シルキン「彫像(若い女性と悪魔)」は、ロングスカートに包まれた女性の足がかなり長くデフォルメされており、足下に寄り添う悪魔に対して聖母のような包容力を示しています。

アラビア製陶所は第二次大戦後に再び黄金期を迎え、フィンランド陶芸と「アラビア」ブランドが世界に知れ渡るようになります。ルート・ブリュック「陶板《聖体祭》」は、教会の儀式に向かう人々を、青色を背景に幻想的に表現した陶板です。中性的で妖精に見える人物表現がとてもフィンランド的です。




フランスやイタリア、中国といった“歴史と文化の大国“ではない国の文化を紹介する展覧会は、普段見慣れていないだけに、いつ見ても斬新です。世界には国と地域が200近くあります。「次はどの国?」とてもたのしみです。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



展覧会公式図録、北欧の造形の写真集としても目をなごませる

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<大阪市北区>
大阪市立東洋陶磁美術館
日本フィンランド外交関係樹立100周年記念 特別展
フィンランド陶芸 芸術家たちのユートピア ―コレクション・カッコネン
特別展
マリメッコ・スピリッツ フィンランド・ミーツ・ジャパン
【美術館による展覧会公式サイト】
【企画会社による展覧会公式サイト】 フィンランド陶芸
【企画会社による展覧会公式サイト】 マリメッコ・スピリッツ

主催:大阪市立東洋陶磁美術館、朝日新聞社
会期:2019年7月13日(土)~10月14日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※両展覧会は、2018年7月まで茨城県陶芸美術館、2018年9月まで目黒区美術館、2019年2月まで岐阜県現代陶芸美術館、
 2019年6月まで山口県立萩美術館・浦上記念館から巡回してきたものです。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この展覧会は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。
 フラッシュ/三脚/自撮り棒と動画撮影は禁止です。



おすすめ交通機関:
大阪メトロ御堂筋線・京阪本線「淀屋橋」駅下車、1番出口から徒歩6分
大阪メトロ堺筋線・京阪本線「北浜」駅下車、26番出口から徒歩6分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
JR大阪駅(梅田駅)→大阪メトロ御堂筋線→淀屋橋駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。


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