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大阪南部の茶の湯美術の至宝_正木美術館「利休と茶の湯」12/1まで

2019年09月25日 | 美術館・展覧会

大阪府南部にある正木美術館で「利休と茶の湯」展が行われています。
唯一の生前の「利休像」など、驚きの名品が揃う正木美術館の禅宗美術コレクションをしっかりと味わうことができます。




目次

  • 関西に多い伝説のコレクターの一人、正木孝之
  • 中世絵画や墨蹟を見ると、いつも心が引き締まる
  • 大阪南部の2つの美術館「正木」「久保惣」はマスト・スポット


正木美術館は大阪府南部の泉大津市と岸和田市に挟まれた日本一面積が小さい忠岡町にあります。
町の面積は3.97平方km、関西空港島の半分以下しかありません。
忠岡町の周辺は古くから繊維産業が盛んなところで、多くの素封家を輩出しています。

日本有数の個人コレクションを築き上げた伝説の美術コレクターが、驚くことに4人もこの地域から出ています。


関西に多い伝説のコレクターの一人、正木孝之


日本の禅宗美術を中心としたあまたの名品を所蔵する正木美術館を1968(昭和43)年に開館したのは、正木孝之(まさきたかゆき)です。
代々庄屋を務めた旧家で戦前に建設業や映画館経営で財を成しており、戦後すぐの預金封鎖や財産税によって大量の美術品が売りに出された際に数多くの名品を入手しました。

現在の日本の美術館のコレクションの少なからずは、こうした終戦直後の混乱期に蒐集された作品が主流をなしています。
あと3人の伝説のコレクターも同じ頃に蒐集しており、現在はそれぞれの美術館の輝かしいコレクションとして大切に守られています。

美術館 コレクター 本拠 事業 国宝/重文所蔵件数
正木美術館 正木孝之 忠岡町 建設業、映画館 国宝3件/重文13件
細見美術館 細見亮市、實 泉大津市 毛織物業 重文17件
和泉市久保惣記念美術館 久保惣太郎(3代) 和泉市 綿織物業 国宝2件/重文29件
旧:萬野美術館 萬野裕昭 忠岡(出身) 建設・海運業 国宝1件/重文30件


4人の内3人のコレクションは、コレクター当人や子孫が解説した美術館に収められていますが、萬野美術館だけは2004年に閉館しています。
萬野美術館の所蔵品の多くは京都・相国寺に寄贈されました。
相国寺にもとから伝来していた名品と合わせ、承天閣美術館を日本有数の古美術の殿堂としての地位を不動にしています。



美術館入口


正木美術館のコレクションの軸になるキーワードは「茶の湯」です。
茶道具はもちろん、絵画/墨蹟から仏画に至るまで、茶室で披露されることで究極の美しさを醸し出す作品たちです。

正木美術館は毎年春秋の2回の展覧会を行っていますが、ほとんどすべて館蔵品だけで構成しています。
館の建物は小振りに見えますが、中の収蔵庫の中ではまさに名品が”うなっている”のです。


中世絵画や墨蹟を見ると、いつも心が引き締まる


この展覧会のタイトルは「利休と茶の湯」。正木コレクションの王道とも言える名品が披露されています。

【所蔵者公式サイトの画像】 伝長谷川等伯「千利休像」正木美術館

展覧会の目玉作品が真っ先に登場します。
肖像が多数残る中で唯一存命中に描かれた「千利休像」です。
永らく等伯筆と考えられてきましたが、表情の違いから現在は土佐派の筆とする説が有力です。

本能寺の変の翌年、1583(天正11)年に秀吉からの重用が目立つようになった頃に描かれました。
62歳ながらも、若々しく気力が充実したような表情は老年期の肖像にはなく、とても希少価値があります
茶人と言うよりも大店の主人のように見える鋭い目線も印象的です。重要文化財です。

【所蔵者公式サイトの画像】 「建盞天目茶碗」「朱漆輪花天目台」正木美術館

「千利休像」の隣に「建盞(けんさん)天目茶碗」が、置台である「朱漆輪花天目台」と共に展示されています。
建盞天目とは、中国の建窯(けんよう)で宋~元代に作られた天目茶碗の総称で、曜変や油滴は建盞の中でも格別なものを指します。
曜変や油滴の主に円形のまだら紋様とはことなり、無数の縦方向の直線が黒地に妖艶な輝きを放っています。

墨蹟も見応えのある名品が並んでいます。

一休宗純による墨蹟「滴凍軒号」は、孝之が特にお気に入りだった逸品です。
孝之が戦後に自宅を建てた際に、この作品に因んで茶室を「滴凍軒」と名付けたほどです。
この自宅は「正木記念邸」として、週末を中心に内部が公開されています。

高僧の墨蹟はとても奥が深く、その人物の個性がよく表れているような気がしてなりません。
一休の墨蹟は、”ヘタうま”に見えるほどユーモアにあふれた大らかな筆の走りが印象的です。
きっと人を引き付ける魅力にあふれた人物だった、そう観る者に思わせる風格も兼ね備えた名品です。



正木記念邸


茶杓(ちゃしゃく)とは、抹茶の粉末を茶碗に入れる耳かきのような形状のいわばスプーンです。
一見、美術品というよりは何の変哲もない民芸品にしか見えません。
400年の時を経て数多の茶人の手垢がしみ込んだような独特の竹の風合いを見ると、不思議なことにその風合いがオーラを放っているように感じてきます。

「茶杓 銘ゆみ竹」は千利休作であることが、その美術的価値やオーラを感じる度合いを格段に高めています。

孝之は、正木美術館所蔵の3点の国宝「三体白氏詩巻」「白氏詩巻」「大燈国師墨蹟」と同じく、「ゆみ竹」も鴻池家から入手しました。
正木美術館は、鴻池伝来品の少なからずを受け継いでいます。

「竹図屏風」は、二曲一双の金屏風の全面を竹の枝と葉で埋め尽くしています。
大画面の屏風を単一の草花だけで描くという、それまではあまり見られなかった構図で、幾何学紋様のように見える竹の枝と葉の配置も斬新です。
夏にこの屏風が飾られている座敷を想像すると、エアコンが動いているような清涼さを感じます。


大阪南部の2つの美術館「正木」「久保惣」はマスト・スポット


関西の個人美術館は、阪神間と京都の東山や上京といった、いわばお屋敷街に集中しています。大阪府南部は必ずしもお屋敷街とは言えず、これだけの質と量の名品が大切に守られていることには驚きを隠せません。

4人の伝説のコレクターの内、2人のコレクションは今も大阪南部にあります。”こんなところがあったのか”、訪れる者はきっとそのように感じます。

【公式サイト】 和泉市久保惣記念美術館

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



正木美術館の名品揃いに驚かされる

________________

<大阪府忠岡町>
正木美術館
秋季展
利休と茶の湯 -茶の世界と道具の美
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:正木美術館
会期:2019年9月1日(日)~12月1日(日)
原則休館日:月曜日、10/15-17
入館(拝観)受付時間:10:00~16:000

※10/14までの前期展示、10/18以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。
※毎年4-6月の春季展、9-11月の秋季展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

南海本線「忠岡」駅下車、徒歩15分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間10分
大阪駅(梅田駅)→大阪メトロ御堂筋線→なんば(難波)駅→南海本線急行→泉大津駅→南海本線普通→忠岡駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には無料の駐車場があります。
※休日やイベント開催時は、道路の狭さ/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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