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岸田劉生展 情熱と才能を堪能_東京ステギャラ 10/20まで

2019年09月12日 | 美術館・展覧会

東京駅にある東京ステーションギャラリーで、至高の洋画家・岸田劉生(きしだりゅうせい)の名品が集結した美術展が始まっています。画風を頻繁に変えたことで知られる岸田劉生の作品が時代を追って網羅されており、彼の画業への情熱が俯瞰できる圧巻の構成になっています。

  • 没後90年の大規模回顧展、重文2点を筆頭に東近美をはじめ、全国の美術館が出展に協力
  • かの「麗子像」も出展は10点を超え、様々な愛くるしい表情に触れられる
  • 岸田のイメージが強い肖像画以外にも多様なモチーフの作品が出展
  • 日本画や水彩画まであり、岸田の凄腕に圧倒される


近代日本の画家の中でも、岸田は有数の個性や自我の強い人物でした。そんな岸田の人柄は作品からも感じることができます。静かなようで情熱たっぷりの画家、岸田の魅力を改めて印象付けられる展覧会です。



東京駅丸の内北口ドーム

岸田劉生の大規模展は、他の画家と同様に生誕/没後の節目の年に行われることが多くなっています。今回の「没後90年」は、2009年「没後80年」損保ジャパン東郷青児美術館、2011年「生誕120年」大阪市立美術館、以来の大規模回顧展です。”久々”感もあって、美術ファンの期待は大いに高まっていることでしょう。

岸田劉生は1891(明治24)年に東京・銀座で生まれ、大正時代から昭和初期にかけて活躍した洋画家です。東京美術学校といった王道の教育機関で学んだり、文展といった著名な展覧会に出展することがほとんどなく、独自の信念で画業を歩んでいった画家です。

明確な師匠に付かなかったことが影響していると思われますが、画風やモチーフへのこだわりとその変化が顕著なことが、岸田劉生という個性の存在を強く印象付けています。

そうした変化を丁寧にたどろうとしたのでしょう。展覧会は、ほとんどの作品で日付レベルまでわかっている制作時期の順に忠実に構成されています。いつ画風が変化し、いつ特定のモチーフにこだわったのか、そうした岸田の思い入れの変化がとてもよくわかります。




【国立美術館所蔵作品検索システムの画像】 1907「薄暮之海」東京国立近代美術館蔵
【宮城県美術館 公式サイトの画像】 1913「真田久吉氏像」宮城県美術館蔵

岸田の画業人生は黒田清輝に洋画を学ぶことで始まりました。「薄暮之海」は外光派と呼ばれた黒田の明るい光の表現の影響を強く受けています。水彩画ながらも、岸田らしいタッチの激しさはすでに見受けられます。前期のみの展示です。

続いてポスト印象派に陶酔するようになります。「真田久吉氏像」はその最盛期の名品で、セザンヌの表現を忠実に学んでいることが感じられます。

【国立美術館所蔵作品検索システムの画像】 1913「自画像」東京国立近代美術館蔵

1913(大正2)年頃からは、写実性の強いルネサンス期の表現に目を向けるようになります。中でもデューラーに陶酔し、訪れた友人や自身をモデルに肖像画を多数制作しました。「首狩り」というあだ名がついたほどです。

1913「自画像」東京国立近代美術館蔵は、多数出展されている岸田の自画像の中でも、最も岸田の内面が現れているように感じられます。絵に対する強い情熱が、鋭い眼光に見事に表現されています。

【SHINWA AUCTION ブログの画像】 1914「黒き土の上に立てる女」似鳥美術館蔵

2012年に51年ぶりに発見されて話題になった「黒き土の上に立てる女」も出展されています。現在はSHINWA AUCTIONで落札した似鳥美術館の所蔵になっています。北方ルネサンスの宗教画のような精神性が伝わってくる名品です。



東京国立近代美術館で「道路と土手と塀」が展示されている様子

【国立美術館所蔵作品検索システムの画像】 重要文化財1915「道路と土手と塀(切通之写生)」東京国立近代美術館蔵

現在の小田急線・南新宿駅付近に転居したのを機に、当時はまだ田園地帯だった代々木の風景画に加え、静物画も制作するようになります。ナチュラルに関心を向けるようになったのでしょう。「道路と土手と塀」は重文に指定されている岸田の代表作です。坂が動き出すのではないかと思えるほど自然の生命力を見事に表現しています。

1915「代々木附近(代々木附近の赤土風景)」豊田市美術館蔵は、この坂を別角度から描いた作品です。岸田の写実へのこだわりが強く伝わってくる、こちらも名品です。

【国立美術館所蔵作品検索システムの画像】 1916「古屋君の肖像(草持てる男の肖像)」東京国立近代美術館蔵

「古屋君の肖像(草持てる男の肖像)」は岸田の肖像画の最高傑作でしょう。デューラーの肖像画表現を完璧にマスターしたように、瞬間の表情が深い精神性を携えて表現されています。写真では絶対に表現できないと思えます。岸田の凄腕が凝縮されています。

【国立美術館所蔵作品検索システムの画像】 1916「壺の上に林檎が載って在る」東京国立近代美術館蔵

「壺の上に林檎が載って在る」も岸田の凄腕を感じさせる静物画の名品です。リンゴが壺にのせられていることで、宗教画のような神秘性が表現されています。




岸田は間もなく結核と診断され、屋外での制作をあきらめます。静物画に加え、娘の成長を記録するかの如く、「麗子像」にのめりこんでいきます。

【国立美術館所蔵作品検索システムの画像】 1918「麗子肖像(麗子五歳之像)」東京国立近代美術館蔵
【ColBaseの画像】 重要文化財1921「麗子微笑」東京国立博物館蔵

ずらりと並ぶ「麗子像」の中で、展覧会のチラシの表紙にも採用されている、1918「麗子肖像(麗子五歳之像)」東京国立近代美術館蔵が、私は最も感銘を受けました。東京展では出展されない重文「麗子微笑」の、どこかデフォルメしたような神秘的な表現とは真逆に、とても写実的です。

5歳の女の子のピュアな精神をデューラー的に表現しています。宗教画のように上部を半円形に囲っていることが、この作品の魅力をさらに高めています。

【ポーラ美術館 公式サイトの画像】 1924「椿之図」ポーラ美術館蔵

岸田は洋画家として知られていますが、関東大震災後に京都に転居すると、中国の院体画風の日本画表現に目を向けるようになります。「椿之図」は岸田のイメージとは程遠い表現ですが、とても上手です。後期のみの展示です。多数展示されている日本画作品はぜひおすすめします。岸田の凄腕を改めて感じさせる名品揃いです。

【ポーラ美術館 公式サイトの画像】 1929「満鉄総裁邸の庭」ポーラ美術館蔵

「満鉄総裁邸の庭」は、岸田の画業人生の最後の作品の一つです。1929(昭和4)年9月に満鉄の招きで大連に赴き、制作した作品です。初期のポスト印象派に陶酔していた時代を思わせる明るい表現が印象的です。

岸田は、大連での暮らしになじめず体調を崩したこともあって12月に帰国しますが、一時的に静養していた山口県徳山市で息を引き取ります。38歳の若さでした。




1891(明治24)年生まれの岸田は、梅原龍三郎/中川一政/奥村土牛/福田平八郎らとほぼ同世代です。この4人はいずれも、早逝することなく戦後になってからも活躍し、文化勲章を受けています。一方、青木繁/佐伯祐三/菱田春草/速水御舟ら、長寿を全うできなかった画家は少なくありません。

「岸田が長生きしていれば、どんな名作を残したのだろう」と、凄腕の”すごさ”を強く感じさせる展覧会です。素晴らしいBest of Bestです。

鑑賞にあたっては一点、ご注意ください。

岸田=洋画家というイメージから作品の展示替えがないと思われがちですが、この展覧会はかなりの数が展示替えされ、巡回地によって出展されない作品も少なくありません。水彩画/日本画/版画といった長期展示に適さない作品が多いためですが、油彩画でも展示期間/会場が限られている作品があります。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



”あのモデル”から見た父の壮絶な画業人生

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<東京都千代田区>
東京ステーションギャラリー
没後90年記念
岸田劉生展
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:東京ステーションギャラリー(公益財団法人東日本鉄道文化財団)、東京新聞
会期:2019年8月31日(土)~10月20日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金曜~19:30)

※9/23までの前期展示、9/25以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、2019年11月から山口県立美術館、2020年1月から名古屋市美術館、に巡回します。
※会場毎に展示作品が一部異なります。
※この美術館は、常時公開している常設展示はありません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

JR「東京」駅下車、丸の内北口改札から徒歩0分
東京メトロ 丸の内線「東京」駅から徒歩3分、東西線「大手町」駅から徒歩5分、千代田線「二重橋前」駅から徒歩7分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:0分

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。


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