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「文化財よ、永遠に」_六本木 泉屋博古館 分館も”すごい”展示

2019年09月19日 | 美術館・展覧会

「文化財よ、永遠に」、文化財修復をテーマにした興味深い美術展です。
東京・六本木一丁目の泉屋博古館分館では、主に東日本にある修復文化財が展示されています。




 目次

  • 泉屋博古館の分館とは?
  • 名品を伝える古刹は、京都・奈良ばかりではない
  • 元の状態を改変せず、輝きを蘇らせるスゴ腕の修復技術


 文化財修復の意義とその成果の素晴らしさを一挙両得で吸収できる展覧会に仕上がっています。素晴らしい企画です。


 泉屋博古館の分館とは?


 泉屋博古館分館(せんおくはくこかんぶんかん)は、住友コレクションを所蔵する美術館である京都・鹿ケ谷の泉屋博古館による、東京における展示・収蔵拠点です。
両館で個性の違いが出るよう工夫されており、同じテーマの企画展でも京都と東京で趣向を変えることが多くなっています。
単独での企画展も多数開催されています。

 泉ガーデンの敷地は、1917(大正6)年に当時の住友家当主・住友友純(ともいと)が麻布別邸を建てた地です。
友純は当代随一の数寄者でもあり、春翠(しゅんすい)という号の方がよく知られているほどです。
泉屋博古館が誇る古代中国の青銅器コレクションは、主に春翠が蒐集したものです。

 住友不動産が肝いりで再開発した泉ガーデンの名前は、住友家の屋号「泉屋」にちなんで付けられています。
六本木一丁目の地は住友グループにとっては東京における商いの原点のようなところです。
日本と東洋の古美術では日本有数の住友コレクションを展示するには、まさにふさわしいところでしょう。



 六本木一丁目駅から分館へ、エスカレーターで上がっていく


 「文化財よ、永遠に」は、住友グループが設立した住友財団が、過去30年に渡って助成してきた文化財修復によって蘇った作品を展示しています。
加えて文化財修復の技術や修復のポイントを丁寧に解説し、全国4会場でほぼ同時並行に行われるという、とても興味深くユニークな企画展です。

 文化財修復の意義や4会場の展示のすみ分けは、前回お伝えした京都の本館の展覧会のレポートで詳しく解説しています。こちらも見ていただければ大変うれしいです。


 名品を伝える古刹は、京都・奈良ばかりではない


 東京の分館では、会場が東京国立博物館になっている仏像を除いた、主に東日本にある修復文化財が展示されています。
美術館はともかく、関東の古刹にも驚きの名品がとてもたくさん、大切に伝えられていることに驚かされます。
絵画を中心に、京都の本館の展覧会に引けを取らない名品が揃っている印象を受けます。


 【住友財団公式サイトの画像】 「十二神将像」称名寺

 4幅並んで展示された仏画がまず目に飛び込んできます。
金沢文庫を永らく管理してきた横浜の称名寺(しょうみょうじ)に伝わる、鎌倉時代の「十二神将像」です。
それぞれセンターの中尊のまわりに眷属や動物が描かれています。
通常は単独で描かれる十二神将としては、涅槃図のような賑やかな描写が印象的です。
 修復により色彩は鮮やかさを取り戻しており、十二神将らしい躍動感がリアルに伝わってきます。
重要文化財です。十二神将の内4神ずつ、前後期で入れ替えて展示されます。


 この9月に5年ぶりにリニューアルオープンした大倉集古館の「十六羅漢像」も鎌倉仏画の名品です。
修復で羅漢の表情の描写や色彩が鮮やかに蘇っています。
こちらも4者ずつ、前後期で入れ替えて展示されます。


 【住友財団公式サイトの画像】 「長谷雄草紙」永青文庫

 中世の巻物も見応えがあります。
永青文庫の「長谷雄草紙(はせおぞうし)」は、鎌倉末期から南北朝時代の絵巻物です。
題材の怪奇檀は、御伽草子のような説話のかなり古いものの一つと考えられています。
描写や着色はとても緻密で、物語のテンポがしっかりと伝わってきます。
重要文化財です。前後期展示で巻替えされます。



 尾根道から見た分館、春には一帯が桜で埋め尽くされる


 「法華経一品経(ほけきょういっぽんきょう)」は埼玉県にある唯一の絵画・書跡・典籍の国宝です。
慈光寺(じこうじ)は埼玉県西部の山中にある古刹で、平安時代は天台宗の一大拠点寺院でした。
重要文化財の開山堂や大般若経も伝わっており、北関東の文化財の宝庫でもあります。

 経典を絵画も交えて絵巻のように制作した「装飾経」としては、同じく国宝の厳島神社「平家納経」、鉄舟寺「久能寺経」と並ぶ最高傑作に位置づけられています。
 「一品経」とは、法華経を章毎に多人数で分担して書写し、巻物にしたものです。
装飾経にされることが多く、王朝文化の優美な趣を今に伝えることから、やまと絵としての美しさも兼ね備えています。
慈光寺の「法華経一品経」は金泥の剥落が修復され、往時の輝きが蘇っています。
前後期で入れ替え展示されます。


 元の状態を改変せず、輝きを蘇らせるスゴ腕の修復技術


 展示作品はいずれも、100年単位の時を重ねて来たとは思えないほど、保存状態が良いように見えます。
ここがまさに修復技術のスゴ腕の成果です。
しかも元の状態を改変せずに行っています。

 会場では至る所で作品の修理の状況や技術の工夫が解説されています。
絵の具の剥落/紙の反り/表面の汚れなどの経年劣化を、年単位の時間をかけて丁寧に緻密に修復しています。
世界最高峰と呼ばれる日本の文化財の修復技術もしっかりと学ぶことができます。


 【住友財団公式サイトの画像】 徐九方筆「水月観音像(楊柳観音像)」泉屋博古館

 「水月観音像(楊柳観音像)」は泉屋博古館が誇る高麗仏画の傑作です。
右手に柳を持つ優美な姿から、楊柳(ようりゅう)観音と呼ばれています。
日本国内に複数の楊柳観音像がありますが、泉屋博古館本だけが作者と制作時期が判明していることから、古くから仏画の記念碑的名品として珍重されてきました。

 高麗仏画は、高麗青磁と同じく洗練された優美な表現に加え、緻密な装飾文様を流れるように表現しているところに魅力を感じます。
泉屋博古館の楊柳観音像はその代表例であり、2016年に修復を終えて京都の泉屋博古館で公開された時に見た印象が強く残っています。

 4会場に分かれたこの展覧会のすみ分けでは、京都会場に展示されるはずの作品です。
東京の分館ではまだ展示されていないこともあり、配慮されたものだと思われます。
後期のみの展示ですが、分館会場での目玉作品であることは間違いありません。


 【住友財団公式サイトの画像】 「葡萄蒔絵螺鈿聖餅箱」東慶寺

 鎌倉・東慶寺「葡萄蒔絵螺鈿聖餅箱(ぶどうまきえらでんせいへいばこ)」は、イエズス会のシンボル「IHS」のロゴが、箱のふたに螺鈿で施されて燦然と輝く見事な漆器です。
桃山時代に欧州向け輸出品として制作されたと考えられています。
主に表面の劣化が修復されており、ピカピカです。


 【住友財団公式サイトの画像】 「秋草図」佐野美術館

 静岡・三島の佐野美術館「秋草図」は、緻密ながらも豊かな葉ぶり・枝ぶりの表現が魅力的な、俵屋宗達が始めた工房「伊年」の典型的な作品です。
屏風は永らく実際に使用されていたものが少なくなく、傷みやすい美術品でもあります。
そうした痛みを全く感じさせない見事な修復ぶりです。


 【住友財団公式サイトの画像】 狩野一信「五百羅漢図 六道鬼趣」増上寺

 増上寺「五百羅漢図」は、幕末に狩野一信(かずのぶ)が、1幅に羅漢5人×100幅で”500羅漢”全員を10年かけて描いたという超大作です。
明治の廃仏毀釈や第二次大戦の空襲の際も、増上寺によって大切に守られてきました。

 住友財団の助成で傷みの目立った10幅が修復され、完成後の2011年に100幅を一挙公開する江戸東京博物館での展覧会が話題を呼びました。
2015年に森美術館で行われた「村上隆の五百羅漢図展」では、村上は増上寺の「五百羅漢図」から着想を得て制作しており、再び注目を集めました。
現在も増上寺の宝物展示室では、10幅ずつ入れ替えながら常時展示されています。


 幕末の作品であり、仏画ながらも奥行き感のある表現が目立ちます。
洋画の技法も取り入れたのでしょう。とても奥の深い作品です。
前後期で入れ替えながら5幅ずつ展示されます。



 ホテルオークラ


 分館のすぐ近くにある大倉集古館も、ホテルオークラの建て替えに伴う5年に及ぶリニューアル休館を終え、観覧を再開しています。
六本木周辺も上野と並ぶ美術館集積エリアとしてますます楽しくなりそうです。

 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



 西洋絵画の修復では日本の第一人者の仕事ぶりやいかに

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 <東京都港区>
 泉屋博古館分館(東京)
 住友財団修復助成30年記念
 「文化財よ、永遠に」
 【美術館による展覧会公式サイト】

 主催:泉屋博古館分館、住友財団、住友グループ各社、読売新聞社
 会期:2019年9月10日(火)~10月27日(日)
 原則休館日:月曜日
 入館(拝観)受付時間:10:00~16:30(金土曜~19:30)

 ※9/29までの前期展示、10/1以降の後期展示で大幅に展示作品/場面が入れ替えされます。
 ※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品/場面があります。
 ※この展覧会は全国4会場でほぼ同時期に行われています。4会場で展示作品はすべて異なります。
   泉屋博古館   9/6~10/14
   東京国立博物館 10/1~12/1
   九州国立博物館 9/10~11/4
 ※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

 ※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



 ◆おすすめ交通機関◆

 メトロ南北線「六本木一丁目」駅下車、「泉ガーデン」を通り抜けて徒歩5分
 メトロ日比谷線「紙屋町」駅下車、4a出口から徒歩10分

 JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
 東京駅→メトロ丸の内線→赤坂見附駅→メトロ銀座線→溜池山王駅→メトロ南北線→六本木一丁目駅

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※この施設には駐車場はありません。
 ※休日やイベント開催時は、道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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