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お見事 桃山時代の風俗画&合戦図展(1)_名古屋 徳川美術館

2019年08月27日 | 美術館・展覧会

名古屋の徳川美術館で、“さすが”と納得できる展覧会が行われています。「桃山の名画」「合戦図」のダブル開催で、大名家コレクションの最高峰である徳川美術館“ならでは”の名品が集まっています。ICOM京都開催を応援する“出血大サービス”展覧会でもあります。

  • 豊国祭礼図屏風など、徳川美術館が誇る桃山時代風俗画の名品4点の勢揃いは滅多にない機会
  • 4点はいずれも保存状態がよく、400年前の最先端トレンドを描いた輝きは全く色あせていない
  • 平治物語絵巻から大坂の陣まで全国から合戦図の名品が集結、徳川美術館のブランド力がうかがえる


桃山風俗画がこれほどまとまって所蔵されているのは、コレクションが散逸せずに今に伝えられた賜です。「合戦図」というテーマで企画された展覧会もほとんど耳にしません。名古屋に行けたのは会期末になってしまいましたが、とても興味深いダブル企画でした。今回は「桃山の名画」展についてレポートします。




徳川美術館の展示は原則、常設展を先に見てから企画展を見るよう順路が設定されています。「武具・刀剣」「茶の湯」「書院飾り」「能」「奥道具」と続く常設展は、いつ見ても大名家コレクションの最高峰であること感じさせます。江戸城の徳川宗家はまとまった美術品コレクションを形成しなかったこともあり、御三家筆頭の尾張が“徳川”の看板を今に伝えています。

徳川美術館の常設展では近年、刀剣の展示に人だかりができることが多くなっています。日本最大級の刀剣コレクションと言われ、国宝8振、重要文化財19振も所蔵していることが知られるようになったためでしょう。展示替えされますが、常設展でも常に刀剣のトップクラスの名品を見ることができます。

【徳川美術館 公式サイトの画像】 「短刀 無銘 正宗 名物 庖丁正宗」

今回目にしたのは「庖丁正宗」。短刀の刀身に剣が透かし彫りされており、どこか異国情緒を漂わせる不思議なデザインです。徳川美術館の所蔵品の中でも最高格にあたる、駿府御分物(すんぷおわけもの)と呼ばれる家康遺品の一つです。徳川美術館は刀剣の研ぎを行わないため刃文は見えづらいですが、かえって重厚感が表れています。



玄関ホールの記念写真撮影コーナー

特別展示「桃山の名画」4点は、常設展の最後「奥道具」の第5展示室の一角で目にすることができます。徳川美術館が誇る風俗画の重要文化財4点が出揃う圧巻の機会です。国宝指定が近い作品もあるのでは、個人的には感じています。

【徳川美術館 公式サイトの画像】 岩佐又兵衛筆「豊国祭礼図屏風」

岩佐又兵衛筆「豊国祭礼図屏風」は、慶長9(1604)年に行われた秀吉7回忌の祭典を描いた京都・豊国神社所蔵の狩野内膳による同名作品を参考に描かれたと考えられています。大坂の陣の直前に豊臣恩顧の大名・蜂須賀家政によって発注された作品で、江戸時代を通じて高野山の蜂須賀家の菩提寺にひっそりと眠っていました。

江戸幕府を開いたものの、太閤人気の京都の人々を掌握しきれない徳川家康をあざ笑うかのように、民衆の熱狂的な振る舞いが如実に描写されています。大坂の陣の最中にこの作品を描いた岩佐又兵衛にはきわめて危険が伴うと思われますが、その危険にあえて抗うようなものすごいエネルギーをこの作品からは感じます。この作品で豊臣の世の終焉をきちんと記録しようとしたのかもしれません。

【徳川美術館 公式サイトの画像】 「本多平八郎姿絵屏風」

「本多平八郎姿絵屏風」は、桃山・江戸初期の風俗画の傑作です。モデルは豊臣秀頼の未亡人・千姫と、千姫が再嫁した徳川四天王・本多忠勝の孫・忠刻です。当時の支配階級の日常をリアルに感じさせます。大河ドラマの衣装の時代考証のお手本となったとも思えるような名品です。

【徳川美術館 公式サイトの画像】 「遊楽図屏風(相応寺屏風)」

「遊楽図屏風(相応寺屏風)」も江戸初期の風俗画の傑作です。尾張家の菩提寺の相応寺(そうおうじ)に伝わったことからこの名があります。八代将軍・吉宗の質素倹約令に反発するように消費を奨励し、名古屋にバブルをもたらした七代尾張藩主・宗春(むねはる)の兄・通温(みちまさ)の遺愛品として伝来しています。

名古屋の街を描いたものかはわかっていませんが、屋外の花見から室内のカルタ遊びまで、ありとあらゆるド派手な豪遊ぶりが伝わってきます。人々の享楽の描写はとても濃厚です。

【徳川美術館 公式サイトの画像】 「歌舞伎図巻」二巻の内下巻

「歌舞伎図巻」は、江戸時代初期に爆発的な人気を博した歌舞伎踊りに熱狂する人々の様子を描いています。衣装の描写は緻密で、発色もよいことからかなり質のよい絵具を使っていると思われます。金泥も用いており、風俗画における安土桃山時代の豪華絢爛な表現の代表作の一つでしょう。

見物人には南蛮人も描かれており、当時の繁華街に様々な人々が行き交っていた様子がいきいきと伝わってきます。洗練されたタッチでテンポよく描かれています。当時一流の歌人で能書家だった公家の烏丸光広(からすまるみつひろ)の詞書が残されていることから、寛永文化サロンの中でもてはやされていた作品と考えられます。



大曽根駅からの美術館への入口

次の順路の蓬左文庫からは「合戦図」展が始まります。「桃山の名画」に負けず劣らず揃う名品の様子は次回レポートします。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



三点ある豊国祭礼図屏風に歴史のメッセージが込められている

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<名古屋市東区>
徳川美術館

特別公開
ICOM KYOTO 2019記念
桃山の名画
【美術館による展覧会公式サイト】

会期:2019年8月20日(火)~9月16日(月)
会場:第5展示室
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。

夏季特別展
合戦図 ―もののふたちの勇姿を描く―
【美術館による展覧会公式サイト】

特別公開
大坂冬の陣図屏風 デジタル想定復元
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:徳川美術館、名古屋市蓬左文庫、読売新聞社
特別協力:凸版印刷(株)
会期:2019年7月27日(土)~9月8日(日)
会場:蓬左文庫 ガイダンスホール/展示室1,2、企画展示室
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※8/18までのA期間、8/20以降のB期間で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※B期間展示期間内で、展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

JR中央線「大曽根」駅下車、南口から徒歩10分
地下鉄名城線「大曽根」駅下車、E5出口から徒歩15分
名鉄瀬戸線「森下」駅下車、徒歩10分
市営バス基幹2系統「徳川園新出来」停留所下車、徒歩3分

名古屋駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
名古屋駅→JR中央線→大曽根駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には無料・有料の駐車場があります。
※休日を中心に、駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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