晴山雨読ときどき映画

“人生は森の中の一日”
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映画「ブラインド・サイト」~小さな登山者たち~

2012年04月20日 | 友人

今ではガン患者の方々が富士山やモンブラン登山に挑戦する話は珍しくありませんが、この映画は視覚障害者である6人の少年少女がエベレストの北側の峰、標高7000メートルのラクパリ登頂に挑戦する姿を追ったドキュメンタリーです。視覚障害者の方々との経験を通し、彼らが思いのまま自由に動き回っていらしゃるのは分かっていました。けれども、エベレスト峰の1つに挑戦するとなるとかなり難しいのではないか・・・。(※以下盲人という言葉は適切ではありませんが、映画の中ではそう訳されていたのでそのまま使いました)

盲目のドイツ人教育家サブリエ・テンバーケンさんは、チベットでは盲目の人は前世の悪行が原因で悪魔に取り憑かれているという偏見から、盲目の子供たちが差別を受け、親や社会からも拒絶されている現実を知り盲人学校を設立します。冒頭、このあたりの捉え方はひっかかりを覚えました。チベット仏教の根底に流れる輪廻思想が誤解されているようにも感じられます。チベットは中国政府から厳しい弾圧を受けてる現在の状況から、貧しさゆえに家庭環境を改善できず、安全確保のために家に閉じ込められたりしているのではないだろうか・・・(私の願望もあります)



どちらにしてもサブリエさんの行動力に感心しました。
彼女は初めて盲目でエベレスト登頂に成功した登山家エリック・ヴァイエンマイヤーに手紙を出します。そうした子どもたちに、登山に挑戦し苦難を乗り越え登頂することで、自らの可能性を信じさせたいとプロジェクトを立ち上げます。まず、6人の子供たちが3ヶ国語に堪能していて流暢な英語を話せるのに驚かされました。
標高が高くなるに連れ、子どもたちを囲む大人たちの価値観の対立がしだいに浮かび上がってきます。山に向かう西洋と東洋の違いはいうまでもありません。それぞれのサイドで激しく議論が交わされのをカメラが撮影しているのです。隠さずに撮ってあることで、このドキュメンタリーが薄っぺらな感動物語に終らない重要性を感じました。
あと一歩の手前まで来て決断を迫られます。登りきるべきか、下山すべきか。「頭痛は治ったから下りたくはない」と泣く女の子の気持ちが痛いほど伝わってきました。欧米から来た登山サポーターたちは当然登頂を主張しますがが、保護者として引率するサブリエさんは「チームワークを大切にして皆で登頂することが大事だ」と譲りません。
野口健さんが、講演会で長期登山にハプニングはつき物で、最後の最後まで自問自答を繰り返すと語っていたのを思い出しました。まるで多重人格者者のように「進め」という自分と「止せ」という自分が入れ替わり立ち代わり現れるのだそうです。ザイルを結んだ仲間であってさえも結論が割れ別々に行動することもあるらしい。彼らのような健常者でベテランの登山家だってそうなのですから、結論を導くのはかなり難しいことだったでしょう。
登頂することが勝利なのか、挑戦することに意義があるのか。登山には「勇気ある撤退」という言葉もあります。もっと結論を早く出せば良かったのにというのは結果論ですから、私は全員が無事に下山できたことで、この挑戦は成功だったと評価しました。彼らが頂上近く「氷の花園」で氷の芸術品に触れて確かめた表情のきらきら輝いていたこと。晴れやかな笑顔を見れば分かります。
男の子の歌う「HappyTogether」のエンドロールも素敵でした。そう彼らにとって「HappyTogether」なのです。

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1 コメント

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輪廻思想を都合のいいように (宵乃)
2012-04-22 10:44:09
解釈して、迫害を正当化する人もいるんでしょうね。すべての人がそうではないんでしょうけど、すれ違いざまに酷い言葉を投げかける老婆の姿には本当にショックを受けました。

>最後の最後まで自問自答を繰り返すと語っていたのを思い出しました。

プロでもそうなんですね~。上に行くほど判断力も鈍ると言っていたし、最初から目標が高すぎた気もしますが、最後には純粋に子供たちの事を考えることができたと思えました。
ただ、子供たちがそれを納得する様子もできれば観たかったです。監督やカメラさんの判断力も鈍ってたのかな?(笑)
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