バイオレンス物と聞き腰が引けてしまっていたのですが、観終った後どろどろとした澱がたまるような感想にならなかったなかったのは予想外でした。一見特殊な街に育つ少年たちの青春ドラマ風ー。将来はギャングという定番ではなくカメラマンを志したブスカペ、残虐なリトル・ゼから去ろうとした親友ベネの存在はあっけらかんとした明るさをもたらしていました。『生と死』が常に隣り合わせの世界は重苦しいはず。しかし、軽快なBGMと軽い口調の語り、スピードのあるカメラ回しでぎらぎらとした若さと迫力を感じました。
教訓的なものを省き、それぞれのチャプターごとに構成された作りが功を奏したと思われます。実際この映画は実在するブスカペが経験した実話に基ずいて作られていました。
映画の舞台は、皮肉にも“神の街”と呼ばれる、強盗や殺人などが日常茶飯事なリオデジャネイロの貧民街でした。
ここに生まれ育つ子供たちは幼い頃からドラッグを売り買いするのを手始めに、犯罪に手を染めやがてはストリートギャングとして組織化されていくのです。銃を手に取り簡単に人の命を奪う。子供の心が汚れなく純粋で美しいというのは真実ですが、裏返せば、それ故に容赦しないでどこまでもむごたらしくなっていくのです。そんな子供の脆さを軍事的に利用した例はたくさん転がっています。ポルポト政権や紅衛兵のやったことを見れば歴然としているではありませんか。
初めてのモーテル襲撃に見張り番役となったリトル・ダイスが「殺しはやるな」と云われたのに、銃で人を殺す快感を知ってしまった!怖ろしいことです。小学生ほどの子供が銃を片手にギャングの一員となり生きていかなければいけない事実。
ギャングに成り上がれば貧困から脱出できて地位も金も思いのまま。そんなモラルが蔓延している世界では、日本の様な平和な日常で語られるきれいごとは“糞食らえ”なのです。大人に「勉強してちゃんとした仕事に就きなさい」と言われても聞く耳を持てないのは仕方がないことなのかでしょうか。子供たちが自由に麻薬を手に入れて吸っている場面では目を疑いたくなりました。これほど命が薄っぺらに扱われている世界があるとは・・・。リトル・ゼの死によって終止符が打たれるような結末ではありませんでした。もうリトル・ゼらの次を狙う世代が育っていると暗示するラストに、彼らは小さなゴッド・ファーザーのように映りました。貧困のために学校に通う子供も少ない現実でしょうが、暴力で制された束の間の平和はいつかまた暴力で引き継がれていくと教える大人が居ないのが残念です。
ストリートチルドレンを扱った映画は数多くありますが、これほど凄惨な映画は始めてでした。数年前仕事でブラジル日系2世の方と話した折「治安の良い日本で2人の子供を育てていけるのが何より嬉しい」と言われたのを思い出します。
きれいごとの映画よりずっと現実味を帯びて感じられたことも怖ろしい!
ダーティな街でも、ブスカペのように彼らと距離を置ける子供も育ったのです。彼が記者根性で抗争とリトル・ゼの死を撮りまくるシーンに救われます。カメラのレンズを通した彼の眼が“神の街”を変えていく原動力になることを願います。
※フェルナンド・メイレレス・同監督の映画の『ナイロビの蜂』とは随分違ったテイストとなっています。
教訓的なものを省き、それぞれのチャプターごとに構成された作りが功を奏したと思われます。実際この映画は実在するブスカペが経験した実話に基ずいて作られていました。
映画の舞台は、皮肉にも“神の街”と呼ばれる、強盗や殺人などが日常茶飯事なリオデジャネイロの貧民街でした。
ここに生まれ育つ子供たちは幼い頃からドラッグを売り買いするのを手始めに、犯罪に手を染めやがてはストリートギャングとして組織化されていくのです。銃を手に取り簡単に人の命を奪う。子供の心が汚れなく純粋で美しいというのは真実ですが、裏返せば、それ故に容赦しないでどこまでもむごたらしくなっていくのです。そんな子供の脆さを軍事的に利用した例はたくさん転がっています。ポルポト政権や紅衛兵のやったことを見れば歴然としているではありませんか。
初めてのモーテル襲撃に見張り番役となったリトル・ダイスが「殺しはやるな」と云われたのに、銃で人を殺す快感を知ってしまった!怖ろしいことです。小学生ほどの子供が銃を片手にギャングの一員となり生きていかなければいけない事実。
ギャングに成り上がれば貧困から脱出できて地位も金も思いのまま。そんなモラルが蔓延している世界では、日本の様な平和な日常で語られるきれいごとは“糞食らえ”なのです。大人に「勉強してちゃんとした仕事に就きなさい」と言われても聞く耳を持てないのは仕方がないことなのかでしょうか。子供たちが自由に麻薬を手に入れて吸っている場面では目を疑いたくなりました。これほど命が薄っぺらに扱われている世界があるとは・・・。リトル・ゼの死によって終止符が打たれるような結末ではありませんでした。もうリトル・ゼらの次を狙う世代が育っていると暗示するラストに、彼らは小さなゴッド・ファーザーのように映りました。貧困のために学校に通う子供も少ない現実でしょうが、暴力で制された束の間の平和はいつかまた暴力で引き継がれていくと教える大人が居ないのが残念です。
ストリートチルドレンを扱った映画は数多くありますが、これほど凄惨な映画は始めてでした。数年前仕事でブラジル日系2世の方と話した折「治安の良い日本で2人の子供を育てていけるのが何より嬉しい」と言われたのを思い出します。
きれいごとの映画よりずっと現実味を帯びて感じられたことも怖ろしい!
ダーティな街でも、ブスカペのように彼らと距離を置ける子供も育ったのです。彼が記者根性で抗争とリトル・ゼの死を撮りまくるシーンに救われます。カメラのレンズを通した彼の眼が“神の街”を変えていく原動力になることを願います。
※フェルナンド・メイレレス・同監督の映画の『ナイロビの蜂』とは随分違ったテイストとなっています。
今回もまた、ブログDEロードショーで取り上げられなかったらおそらく観る事がなかった映画でした。
観るチャンスを与えて下さったhiroさんに感謝致します!
観るチャンスを与えて下さったhiroさんに感謝致します!
>親友ベネの存在はあっけらかんとした明るさをもたらしていました。
ベネやブスカペのような存在もいるということが救いです。それは、あそこで暮す人々にも同じだったんだと、送別会のシーンでわかってなんとなくほっとしました。
ベネを失ってからのリトル・ゼの焦燥も印象的です。
あの街があの後、どのように変わっていったのか気になりますね。
「治安の良い日本で2人の子供を育てていけるのが何より嬉しい」と言われたのを思い出します
この映画は昔の話ですが、現在もそんなに
変わっていないのかもしれませんね・・・怖い事です。
日本は、そうやって世界から思われているのですから、
もっと誇りを持って生きていきたいと思いました。
今回もご鑑賞とレビューを有難うございました。
記録にリンクさせて頂きますね~!
そこにも触れたかったのですが時間がなくて~。私はもしかしたらリトル・ゼがベネを殺っちゃったんじゃないかと焦りました。あのシーンもすんなり撮らずに、眩しい照明と暗闇をフラッシュしてありましたよね。
私は群像劇が苦手で顔をなかなか覚えられないのです。(本だったら戻れるけれど)
再見したらもっと理解が深まるのでしょうが、
バイオレンスにはやはり嫌悪感が走るのでそんな気にはなれませんでした。
>昔の話ですが、現在もそんなに
変わっていないのかもしれませんね・・・
1960年から70年頃の話でしたね。
ブラジルだけでなく、何故か暗黒の時代にはセットのようにエネルギッシュさが存在すると思いませんか?
その躍動感と生命力は老成化した日本には
もはや失われています。
>もっと誇りを持って生きていきたいと思いました
そうなのですが、最近のわが国は!
もちろん私も日本を選びますよ!
初めてコメントさせていただきます。
>暴力で制された束の間の平和はいつかまた暴力で引き継がれていくと教える大人が居ないのが残念です。
本当にそうですね~。
武器を裏ルートで流したり
薬の上前のはねる警察にも
唖然としてしまいました。
これでは、子供たちは
真っ当に働くより
ギャングやドラッグを売ったりして生きていく方法が楽だ。
と思うかもしれませんね。
それにしても
>躍動感と生命力は老成化した日本には
もはや失われています。
この一文にも深く頷いてしまいました。
今の、この閉塞感をどうやったら
拭い去れるのか。
もしくはそれとは全く違う
新しい価値観が必要になっているのかもしれませんね~。
そうですね。カメラのお陰で自分の世界を客観的にとらえられたのでしょう!
>うがった見方をすると ここに、生き残ったブスカペ=原作者 もしくは脚本家の意図のようなものも感じてしまいます。
>ベネを(ある種)神聖化し、相対的にリトル・ゼの狂気や あくまで、語り手であるブスカペを平凡に見せているようにも 感じてしまいます。
平凡に見せるー
なるほど、ここがポイントかもしれません。
簡単そうだけど、この立ち位置を見つけられたからこそ、神の街で生きていけているのですよね。
ベネも同様に白黒を付けないでうまくやっていく方を彼らは10代ですでに獲得している!
牧歌的でない、これからの難しい時代を生き抜くヒントになりそうな気もします。
だいぶ整理されてきたように思えます。
ありがとうございました。
バイオレンスということで、嫌悪感を抱かれる方も
多いだろうと予想していたのですが、総じて好評頂いて嬉しいです。
語り部で神の街をぬけだしたブスカペ自体も
真っ白ではなく、ドラッグなどには手を染めていたのですが、外界の女性記者(ブスカペを泊めた女性)もドラッグは普通にやっていたようですし、犯罪の定義付けも日本とは、かなり違うようにも思えました。
ナイロビの蜂は、もっとマクロの視点で描かれている作品でしょうか。
参加していただきありがとうございました!
こちらこそ初めまして!
>総じて好評頂いて嬉しいです。
やはり、この作品が持つクォリティの高さなのでしょうね。
>外界の女性記者(ブスカペを泊めた女性)もドラッグは普通にやっていたようですし、犯罪の定義付けも日本とは、かなり違うようにも思えました。
そうですね、ドラッグに関して日本は厳しく取り締まっている方ですから、そのあたりも考慮して観ないといけないのかもしれませんね。
>ナイロビの蜂は、もっとマクロの視点で描かれている作品でしょうか
ナイロビの蜂がマクロの視点から描かれているのかどうかと云うより、
「City of God」の方に、荒削りだけど勢いを感じました。「ナイロビの蜂」は何故か好きになれなかったですね。
「忘却エンドロール」と「映画鑑賞の記録」で、是非ご投票下さい!
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