サンチョパンサの憂鬱

いざ!鳥獣戯画の世界へ

峠道のピークに差し掛かった所の崖側に巨岩がそびえ立ち……雲間から洩れ落ちる月の光を受けて深い谷を見据えていた。

道の少し広い場所にクルマを停めて外に出た。
時折何か分からない夜鳥の羽音やキツネの鋭角的な鳴き声がした。
一人旅ならば……この光景は鳥獣戯画のえも知れない世界に溶け込めたかもね?なんて考えた……。深夜の山の峻厳な雰囲気はどんな皮肉れ者でも素直にさせる力があった。

『相談がある……』とその女は言った。
人にペラペラ喋れる様な話は大した事じゃない。だから取り合う様な話じゃない事は分かっていた。

確かその日は運びがちぐはぐで、どちらにしても僕は、意味もなく何処かに出掛けてただ何本かのタバコを吹かして意味の無い時間を山に捨てて帰ろうと決めていた。

いわばその日の『ありきたりのまとめ』の様に……その女は助手席に座った。

話というのは男二人がいてどちらが好きか?とか何とかで一方とは寝ていて、でも片方も……。案に違わずそんなありきたりなモノだった。

その二人の前に結構シリアスな男関係があって破綻したんじゃないか?……と聞けば……そうです……と。
その二人の男は……実はどうでも良いんでしょ?……はい……。

何故分かるか?……と聞かれた。
とてもありきたりなそんな話は誰にだって分かると応えた。
んで?僕が次の君のターゲットの光栄にあずかったという展開?……彼女は少し笑ってコクンと……。

面白くない日常から抜け出したかったら……一旦、こんなありきたりの運びを一切止める事だと言ってクルマの外に出てタバコを吸った。

暫くして女も降りてきた。
彼女は全裸で大きな岩の前に立ってこっちを見た。美人だったから月明かりに映される彼女は『絵になった』……。
暫く眺めてから……クルマに入るように促した。

下りに入って暫く走ると猿に追い出された人間達の廃墟になった集落にでた。
一番山側の集落から猿にやられているというのを聞いた事があった。
下から大きな清流の流れる音が聞こえた。

鳥獣戯画の世界はもう消えて、ありふれた田舎の町の道路をR191目指して走った。
女は全裸のまま……膝を両手で抱えて、ずっと仕事や何かの日常の様々の事を喋り続けた……。

この男は手を出さない?……そう解ったのか、まるでリビングで寛いで居る様に緊張が一切失せていた……。

流れでセックスなんかするより、とてもスリリングでセクシャルな時間でした……と女は言った。
弛緩した全身からありきたりだった彼女の日常が消え去っていた……。

もう……すぐそこには、中国道のインターの入り口が迫っていた。
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