しかし、煮詰まった土壇場で『逃げを打つ為の切り札』ならば大抵の人は一つや二つは持っているものである……。
少年期から青年期への端境期……。
大人になりつつある身体に対して追いつかないメンタルの進化……。
鋭利に尖ったナイフの様に苛立つメンタル。
少しでも気を許せば……瞬時に凶暴性が自分の皮を突き破って吹き出しかねない?
何時も…自分がその自分の激情に怯えている?
腹立ちを無理やり抑え込む引き攣った笑顔。
食って掛かりたい衝動を包み隠す悪フザケ……。何が自分なのか?臆病も凶暴も何方も自分であることの背徳感に戸惑い……またぞろ弱気が付きまとうのである。
♫〜♫ スピッツ『空も飛べるはず』の一節
♫……幼い微熱を下げられないまま
神様の影を恐れて
隠したナイフが似合わない僕を
隠したナイフが似合わない僕を
おどけた歌でなぐさめた……♫
僕は男だからその年代の女の人の心情は未だに皆目見当も付かないままである。
大学も終わりに近付く頃となれば……『なぁ~に俺もその気になれば?』などと嘯(うそぶ)きながら『マアマアそこそこの世界』を生きるのか……『乗るか?反るか?の本気の世界』に乗り出すか?
絶対に馴染むことはない二つの選択肢を弄ぶ執行猶予期間は終わる。
大抵の男は……自分を必死に説得に入る。
シリアスから逃れる為に……『出来ないんじゃない!』のだ。『俺は演リたくないんだ!』なぁ~んて自分さえ騙せないイソップのキツネ振り……。
散々切り札にして来た『見え透いた嘘』によって完全に自分を言い包(くる)めてしまうのである。
一方で……幼い微熱と世の中への苛立ちをそのままに……自分の意志に従う事をチョイスする超少数の男達がいる。
♫……切り札にしてた 見え透いた嘘は
満月の夜に破いた……♫
『夢見たいな事を言ってるぜぇ……』などと散々の揶揄する視線を背に……未来を見る男の顔は青ざめている。
『見え透いた嘘』はリスクを逃れる最強の呪文だったのに……。
ソレを破り去ったのだから無理もない。
その時男は全くの徒手空拳となったのだから。
切り札の『見え透いた嘘』で自分を説得し納得させた多くの男達。
何かと言えば口をついて出る『見え透いた嘘』は最早切り札などではなくなり彼等の単なる『日常となる』……。
歳を重ねる内にそんな男達は……『後悔と愚痴』という新たな切り札を手に入れる。
結婚して子供が出来たからなぁ?とか家族を養う責任があったから?などとエクスキューズを用いて……『若い時間』という逃した魚の大きさを今更ながらに嘆いて見せるのである……。
お勤めの仕事とか?会社?なんて人生途上で終わってしまうのである。
そんな人達は知らない?のか知ろうとしないのか?
その時……『見え透いた嘘』なんて女房・子供でさえ聞いてはくれないという事を……。
昼下がりのサンチョパンサ(2) 了