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舞い上がる。

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ちひろBLUESこと熊谷千尋のブログです。

ペヤンヌマキ「女の数だけ武器がある。」読みました。

2019-05-29 17:36:55 | Weblog
最近買った本を色々読んでいるので、順番に感想を書いています。





ペヤンヌマキ「女の数だけ武器がある。」



ペヤンヌマキさんは、普段はペヤングマキ名義で女性AV監督として活動しているのですが、5/5(日)、シネ・ウインドで開催された「バクシーシ山下の社会科見学」にマキ監督がゲストだった時に購入しました。
「バクシーシ山下の社会科見学in新潟9」を観てきました!(ゲスト:ペヤングマキ監督)



ペヤンヌマキさんは、ペヤングマキ名義で女性AV監督として活動し、演劇ユニット「ブス会*」の主宰でもあるのですが、AV監督で劇団主宰という肩書きだけ聞くと、その時点でちょっと常人離れした経歴を想像してしまうし、どんなエキセントリックな方なんだろう、と最初は思ってしまいます。
しかし、「バクシーシ山下の社会科見学」で実際にお会いした時のペヤンヌマキさん(その時はペヤングマキ名義)は、ごくごく普通の品のいい女性、という印象でした。(ちなみに、このイベントに登場するAV監督は、バクシーシ山下監督もカンパニー松尾監督も、実際にお会いすると大体似たような印象を受けます)

そんなペヤンヌマキさんの自伝である本書「女の数だけ武器がある。」、実際に読んでみたのですが、そこに書かれていたのは、ごくごく普通の女性の人生でした。
エキセントリックどころか、とてもAV監督や劇団主宰をするとは思えない、どちらかと言えば(というか全力で)地味でネガティブで、おそらく目立たないタイプの、どこにでもいそうな女性の人生がそこにつづられていました。

敢えて言うならば、思春期に「自分はブスだ」「女性としての魅力は何もない」という尋常ならざるコンプレックスの塊だったということが書いてあります、まあでも思春期って誰でもそういう時期だったりしますからね。
また、長崎の田舎の出身ということでしたが、地方で生まれたこと自体にコンプレックスを抱えて何が何でも東京に行こうとするところとかも、きっと多くの人が経験していることなんだろうなと思って読みました。

そんなマキ監督、上京して学生時代にひょんなことからAVの世界に飛び込むのですが、これが彼女の人生を大きく変えることになるのだった…と言っても、いきなりドラマティックに人生がガラっと変わるわけではありません。
最初は撮影スタッフの一人として参加するも撮影に使うバイブを忘れて怒られて泣いてしまうという感じで、こういう仕事が上手くいかない描写は、仕事内容は違っても非常に共感できるものでした。

しかし、そんなマキ監督、AVの世界で様々な刺激的な出来事と出会う中で、次第に今までコンプレックスだった女性のエロについて見つめることになり、やがてはそこに生きる楽しさを見出していきます。
そもそもマキ監督、人一倍貞操観念が強くて当時付き合っていた彼氏が風俗に行っていたことがショックすぎて、その反動でAVの仕事を始めてしまったという、エロに対して積極的なんだか消極的なんだか分からないような人で、このエロに対する独特の距離感こそマキ監督の魅力だと思うんですよ。

生まれ持った天才みたいな人でもなく、かと言って地味過ぎて愚痴ばかり言っているだけでもなく、かつてはコンプレックスでひねくれていたけれど、そこから自分なりに生きる楽しさを見付けていった、しかもAVがきっかけで、という部分がすごく感動的だと思ったし、そういう経歴の持ち主だからこそ、そこで繰り出される「エロ観」はすごく面白いんですよね。
これはまさにコンプレックスの塊で自分には価値がないと思っていたようなマキ監督が、AVという世界に飛び込んだことで、やがてそこに生きる楽しさを見出し、自分らしい生き方を見つけていくという、涙と笑いとエロと感動の人間賛歌ドキュメンタリーだと思うんですよ。

また、AVの世界で出会ったAV女優という人達の人生に惹かれたり、そこにかつて自分には女性としての価値がないという思春期のコンプレックスを重ねたりする中で、学生時代にやっていた演劇をまたやりたいという気持ちになり、ついには女性の生態を描く劇団「ブス会*」という劇団を大人になって立ち上げ、それも成功を収めてしまうのです。
とにかく、自分らしい人生を貫いているマキ監督は、非常に輝いていて本当にカッコいい…と思って読んでいると、中盤くらいで一つの出来事が起こります。

それは、東京で好きな仕事を見付けて、大好きだった演劇もできて、久し振りに故郷に帰って同窓会に出てみると、みんな結婚して子供もいた、という下りです。
学生時代は自分と違ってモテていたあの子が普通の田舎の主婦になっていたり、あんなに演劇が好きだった友人たちが自分以外誰も演劇をしていなかったりする、という何とも言えないあの感覚、にもかかわらず、結婚できていない自分は負けている気がして、30代にして新たなコンプレックスに出会ってしまうのです。

ここで、マキ監督は最初はまたしても学生時代のように毒づいていくかと思いきや、マキ監督の素敵なところは、人生に自分なりの楽しさを見出していくことなのです。
AVと演劇の他に、趣味でアイススケートを始めたり、とにかく人生を楽しむことが明らかに年々得意になっていっていて、それは本当に素敵なことだと思うんですよね。

ブスだと悩んだりコンプレックスを抱えたり悪口を言いまくったりしてきたけど、大人になって品のいい人生を歩んでいきたいとマキ監督は言うわけです。
実際、僕が「バクシーシ山下の社会科見学」でお会いした時のマキ監督はすごく品がいい人だなと思ったので、やっぱりそういう生き方が人柄にも表れているんだろうなと思いました。

そして、ずっと逃げてきた家族という自分のコンプレックスの原点に、大人になって立ち返る下りが登場するんですけど、ここは本当に感動的でした。
と言うのも、あんなに嫌いだった父があるAV女優のファンだということをひょんなことから知ってしまい、AV監督という立場を使ってその女優さんと父をサプライズで出会わせるという、AV監督だからこそできる親孝行をするわけです。

嫌いだった家族ともう一度向き合うこと、そしてそのきっかけがまさかの最初は家族に内緒にしていたAV監督という仕事だったという、あらゆる伏線が回収されたような感動がありました。
色々書いてきましたけれど、女性AV監督による女性ならではのコンプレックスに向き合う内容の自伝ではありますが、男女問わず感動できる内容の本だと思います。

ところで、ちょっと話は変わりますが、マキ監督、大学の演劇サークルでは劇団「ポツドール」の主宰者の三浦大輔さんと同期で旗揚げにも参加しているというらしく、面白い縁だなと思いました。
三浦大輔さんと言えばまさにエロをテーマにした物語であり映画化もした「恋の渦」「愛の渦」の作者なわけで、やはりエロの絆は強いのか…

それともう一つ、マキ監督ともほぼ同世代で東京で出会ったという、雨宮まみさんが書いているあとがきが、自伝の内容と同じくらいすごく感動的なんですよね。
しかし、そんな雨宮まみさんは2016年に亡くなってしまったわけで、生前の貴重な言葉が収められた本だとも言えます。

そしてこの本は2013年に最初に出版され、2017年に文庫化したものなので、まさにその間に亡くなってしまったわけです。
僕は文庫本で読んだのですが、雨宮まみさんに対するマキ監督の言葉がさらに書き加えられていたりして、ちょっとうまく言葉にできませんが、マキ監督含めて色んな人の人生ともにある本なんだなと実感させられました。
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