この声明に賛同いたします。
日本弁護士連合会 2021年1月22日付
「感染症法・特措法の改正法案に反対する会長声明」
https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2021/210122_2.html
本日、政府は、
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症法」という。)及び
「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下「特措法」という。)の改正案を閣議決定した。
新型コロナウイルスの感染が急拡大し、
医療環境が逼迫する等の厳しい社会状況の中、
収束のための有効な施策が必要であることは論を俟たない。
しかし、今回の改正案は、感染拡大の予防のために都道府県知事に広範な権限を与えた上、
本来保護の対象となるべき感染者や事業者に対し、罰則の威嚇をもってその権利を制約し、
義務を課すにもかかわらず、その前提となる基本的人権の擁護や適正手続の保障に欠け、
良質で適切な医療の提供及び十分な補償がなされるとは言えない。
さらに、感染の拡大防止や収束という目的に対して十分な有効性が認められるかさえ疑問である。
当連合会としては、以下の点について抜本的な見直しがなされない限り、強く反対する。
まず、感染症法の目的は
第一に感染症の患者等の人権を尊重するものでなければならないところ、
今回の改正案は、入院措置に応じない者等に懲役刑・罰金刑、
積極的疫学調査に対して拒否・虚偽報告等をした者に対して罰金刑を導入するとしている。
しかし、刑罰は、その適用される行為類型(構成要件)が明確でなければならない。
この点、新型コロナウイルス感染症は、その実態が十分解明されているとは言い難く、
医学的知見・流行状況の変化によって入院措置や調査の範囲・内容は変化するし、
各保健所や医療提供の体制には地域差も存在する。
そのため、改正案の罰則の対象者の範囲は不明確かつ流動的であり、
不公正・不公平な刑罰の適用のおそれも大きい。
他方で、新型コロナウイルスには発症前にも強い感染力があるという特徴が認められ、
入院措置・調査の拒否者等に対して刑罰を科したからといって感染拡大が防止できる訳ではない。
むしろ、最近では多くの軽症者に対して自宅待機・自宅療養が指示され、
症状が悪化して入院が必要となった場合にも入院できず、
中には死亡に至った例も報告され、
患者に対する「良質かつ適切な医療を受けられるように」すべき
国及び地方公共団体の責務(感染症法前文・3条1項)が全うされていない現実がある。
しかも、単に入院や調査を拒否したり、隠したりするだけで「犯罪者」扱いされるおそれがあるとなれば、
感染者は感染した事実や感染した疑いのあることを隠し、
かえって感染拡大を招くおそれさえ懸念される。
新型コロナウイルス感染症は従来からのインフルエンザ感染症と比べて、
無症状感染者からの感染力が強いと分析され、深刻な後遺症が残る例も報告されている。
そのため国民全体に感染に対する不安が醸成され、
感染したこと自体を非難するがごとき不当な差別や偏見が既に生じている。
その解消を行わないまま、安易に感染者等に対して刑罰を導入するとなれば、
感染者等に対する差別偏見が一層助長され、極めて深刻な人権侵害を招来するおそれがある。
そもそも、感染症法は、
「過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対する
いわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である」、
「感染症の患者等の人権を尊重しつつ、
これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、
感染症に迅速かつ適確に対応する」
などとした「前文」を設けて法の趣旨を宣言し、
過去の反省等に基づき、伝染病予防法を廃止して制定された法律である。
新型コロナウイルス感染症は、その感染力の強さゆえ、誰もが罹患する可能性がある疾病である。
感染者は決して責められるべきではなく、
その実情を無視して、安易に刑罰をもって義務を課そうとする今回の改正案は、
かかる感染症法の目的・制定経緯を無視し、
感染者の基本的人権を軽視するものに他ならない。
次に、特措法の改正案は、「まん延防止等重点措置」として
都道府県知事が事業者に対して営業時間の変更等の措置を要請・命令することができ、
命令に応じない場合は過料を科し、要請・命令したことを公表できるとしている。
しかし、改正案上、その発動要件や命令内容が不明確であり、
都道府県知事に付与される権限は極めて広範である。
そのため、恣意的な運用のおそれがあり、
罰則等の適用に際し、営業時間の変更等の措置の命令に応じられない事業者の
具体的事情が適切に考慮される保証はない。
さらに、感染拡大により経営環境が極めて悪化し、
休業することさえできない状況に苦しむ事業者に対して要請・命令がなされた場合には、
当該事業者を含む働く者の暮らしや命さえ奪いかねない深刻な結果に直結する。
もとより、主な対象とされている飲食に関わる事業者は、
それ自体危険な事業を営んでいるわけではない。
いかに努力しようとも、飲食の場に感染リスクがあるというだけで、
死活問題となる営業時間の変更等を求められるのは、あまりにも酷である。
かかる要請・命令を出す場合には、
憲法の求める「正当な補償」となる対象事業者への必要かつ十分な補償がなされなければならず、
その内容も改正案成立と同時に明らかにされなければならない。
また、不用意な要請・命令及び公表は、感染症法改正案と同様、
いたずらに風評被害や偏見差別を生み、事業者の名誉やプライバシー権や営業の自由などを侵害するおそれがある。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するためには、
政府・自治体と市民との間の理解と信頼に基づいて、
感染者が安心して必要な入院治療や疫学調査を受けることができるような
検査体制・医療提供体制を構築すること
及び事業者への正当な補償こそが必要不可欠であって、
安易な罰則の導入は必要ないと言うべきである。
以上の観点から、
当連合会は、今回閣議決定された感染症法及び特措法の改正法案に対して、
抜本的な見直しがなされない限り、強く反対する。
2021年(令和3年)1月22日
日本弁護士連合会
会長 荒 中
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東京新聞 2021年1月20日付社説
「入院拒否に罰則 対策の優先順位が違う」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/80909?rct=editorial
罰則を設ければ感染拡大を抑えられるのか、疑問は膨らむ。
政府は感染症法を改正し、入院勧告に従わない感染者らに罰則を導入する方針だという。
強権的な手法は人権侵害の懸念が拭えない。
後手に回る菅政権の対応のまずさをごまかし、
新型コロナウイルス感染症拡大による混乱の責任を国民に押し付けるつもりなのか。
感染症法は、感染症が発生した際、国や自治体、医療機関、国民が取るべき対応を定めている。
行政に許される規制を定め、人権に配慮しながら感染症を抑え込むための法律である。
新型コロナの感染拡大を受け、政府が今国会への提出を予定する改正案の柱が、罰則の新設だ。
入院勧告を拒否した感染者や、保健所の疫学調査を拒んだ人に対して罰則を設ける。
罰金や懲役などの刑事罰を想定している。
しかし、懸念と疑問が湧く。
かつて感染症に直面した社会はハンセン病やエイズの患者、
元患者へのいわれなき差別・偏見など著しい人権侵害を生んだ。
感染症法が患者らの人権尊重を明記しているのも、その反省からだ。
行政の指示に従わないからといって、刑事罰を科す発想は、人権を軽視し、法の理念に反する。
厚生労働省の審議会では、改正案の罰則創設に異論が相次いだ。
厚労省は「おおむね了承された」としているが、議論が不十分だと言わざるを得ない。
無症状で検査を受けない人からの感染は問題となっているが、
入院を拒否した人がどれだけ感染を広げているのか、
罰則に感染拡大を防ぐ効果がどれほどあるのか、
厚労省は詳細なデータを示していない。
行政罰の過料にしなかった理由も明らかではない。
仕事や子育て、介護などの事情で、入院や宿泊療養ができない人もいるだろう。
誰がどんな場合に罰則の対象となるのか、判断の基準づくりも容易ではない。
罰則を恐れて検査や受診を控えることになれば、逆に感染を広げかねない。
入院や保健所への協力がなぜ必要かを十分に理解してもらう努力こそ欠かせない。
新型コロナ特措法も自粛要請に従わない事業者に過料などの罰則を設ける。
自粛で雇用が失われ、生活苦に陥る状況の改善こそ先決ではないか。
確実な経営支援策がなければ納得は得られまい。
「未知の感染症」への対応は、国民の協力が最大の武器となるはずだ。
一足飛びの罰則導入は、対策の優先順位を間違えている。
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もしも、入院すべき陽性患者が入院できずに「自宅や宿泊施設での待機」を命じられて、
それに従わず病院に駆け込んできたなら、それも逮捕などの刑罰に値するのか?
また、待機を命じられた陽性患者がそれに従っている最中に容態が急変して、
死亡または以後の生涯に影響するような心身に重い障害を負った場合、
政府はその補償や見舞い・給付金などを払って償えるのか?
現状での法案には絶対反対だ。
だから、自民公明政権は信用できないのだ。
日本弁護士連合会 2021年1月22日付
「感染症法・特措法の改正法案に反対する会長声明」
https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2021/210122_2.html
本日、政府は、
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症法」という。)及び
「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下「特措法」という。)の改正案を閣議決定した。
新型コロナウイルスの感染が急拡大し、
医療環境が逼迫する等の厳しい社会状況の中、
収束のための有効な施策が必要であることは論を俟たない。
しかし、今回の改正案は、感染拡大の予防のために都道府県知事に広範な権限を与えた上、
本来保護の対象となるべき感染者や事業者に対し、罰則の威嚇をもってその権利を制約し、
義務を課すにもかかわらず、その前提となる基本的人権の擁護や適正手続の保障に欠け、
良質で適切な医療の提供及び十分な補償がなされるとは言えない。
さらに、感染の拡大防止や収束という目的に対して十分な有効性が認められるかさえ疑問である。
当連合会としては、以下の点について抜本的な見直しがなされない限り、強く反対する。
まず、感染症法の目的は
第一に感染症の患者等の人権を尊重するものでなければならないところ、
今回の改正案は、入院措置に応じない者等に懲役刑・罰金刑、
積極的疫学調査に対して拒否・虚偽報告等をした者に対して罰金刑を導入するとしている。
しかし、刑罰は、その適用される行為類型(構成要件)が明確でなければならない。
この点、新型コロナウイルス感染症は、その実態が十分解明されているとは言い難く、
医学的知見・流行状況の変化によって入院措置や調査の範囲・内容は変化するし、
各保健所や医療提供の体制には地域差も存在する。
そのため、改正案の罰則の対象者の範囲は不明確かつ流動的であり、
不公正・不公平な刑罰の適用のおそれも大きい。
他方で、新型コロナウイルスには発症前にも強い感染力があるという特徴が認められ、
入院措置・調査の拒否者等に対して刑罰を科したからといって感染拡大が防止できる訳ではない。
むしろ、最近では多くの軽症者に対して自宅待機・自宅療養が指示され、
症状が悪化して入院が必要となった場合にも入院できず、
中には死亡に至った例も報告され、
患者に対する「良質かつ適切な医療を受けられるように」すべき
国及び地方公共団体の責務(感染症法前文・3条1項)が全うされていない現実がある。
しかも、単に入院や調査を拒否したり、隠したりするだけで「犯罪者」扱いされるおそれがあるとなれば、
感染者は感染した事実や感染した疑いのあることを隠し、
かえって感染拡大を招くおそれさえ懸念される。
新型コロナウイルス感染症は従来からのインフルエンザ感染症と比べて、
無症状感染者からの感染力が強いと分析され、深刻な後遺症が残る例も報告されている。
そのため国民全体に感染に対する不安が醸成され、
感染したこと自体を非難するがごとき不当な差別や偏見が既に生じている。
その解消を行わないまま、安易に感染者等に対して刑罰を導入するとなれば、
感染者等に対する差別偏見が一層助長され、極めて深刻な人権侵害を招来するおそれがある。
そもそも、感染症法は、
「過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対する
いわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である」、
「感染症の患者等の人権を尊重しつつ、
これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、
感染症に迅速かつ適確に対応する」
などとした「前文」を設けて法の趣旨を宣言し、
過去の反省等に基づき、伝染病予防法を廃止して制定された法律である。
新型コロナウイルス感染症は、その感染力の強さゆえ、誰もが罹患する可能性がある疾病である。
感染者は決して責められるべきではなく、
その実情を無視して、安易に刑罰をもって義務を課そうとする今回の改正案は、
かかる感染症法の目的・制定経緯を無視し、
感染者の基本的人権を軽視するものに他ならない。
次に、特措法の改正案は、「まん延防止等重点措置」として
都道府県知事が事業者に対して営業時間の変更等の措置を要請・命令することができ、
命令に応じない場合は過料を科し、要請・命令したことを公表できるとしている。
しかし、改正案上、その発動要件や命令内容が不明確であり、
都道府県知事に付与される権限は極めて広範である。
そのため、恣意的な運用のおそれがあり、
罰則等の適用に際し、営業時間の変更等の措置の命令に応じられない事業者の
具体的事情が適切に考慮される保証はない。
さらに、感染拡大により経営環境が極めて悪化し、
休業することさえできない状況に苦しむ事業者に対して要請・命令がなされた場合には、
当該事業者を含む働く者の暮らしや命さえ奪いかねない深刻な結果に直結する。
もとより、主な対象とされている飲食に関わる事業者は、
それ自体危険な事業を営んでいるわけではない。
いかに努力しようとも、飲食の場に感染リスクがあるというだけで、
死活問題となる営業時間の変更等を求められるのは、あまりにも酷である。
かかる要請・命令を出す場合には、
憲法の求める「正当な補償」となる対象事業者への必要かつ十分な補償がなされなければならず、
その内容も改正案成立と同時に明らかにされなければならない。
また、不用意な要請・命令及び公表は、感染症法改正案と同様、
いたずらに風評被害や偏見差別を生み、事業者の名誉やプライバシー権や営業の自由などを侵害するおそれがある。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するためには、
政府・自治体と市民との間の理解と信頼に基づいて、
感染者が安心して必要な入院治療や疫学調査を受けることができるような
検査体制・医療提供体制を構築すること
及び事業者への正当な補償こそが必要不可欠であって、
安易な罰則の導入は必要ないと言うべきである。
以上の観点から、
当連合会は、今回閣議決定された感染症法及び特措法の改正法案に対して、
抜本的な見直しがなされない限り、強く反対する。
2021年(令和3年)1月22日
日本弁護士連合会
会長 荒 中
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東京新聞 2021年1月20日付社説
「入院拒否に罰則 対策の優先順位が違う」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/80909?rct=editorial
罰則を設ければ感染拡大を抑えられるのか、疑問は膨らむ。
政府は感染症法を改正し、入院勧告に従わない感染者らに罰則を導入する方針だという。
強権的な手法は人権侵害の懸念が拭えない。
後手に回る菅政権の対応のまずさをごまかし、
新型コロナウイルス感染症拡大による混乱の責任を国民に押し付けるつもりなのか。
感染症法は、感染症が発生した際、国や自治体、医療機関、国民が取るべき対応を定めている。
行政に許される規制を定め、人権に配慮しながら感染症を抑え込むための法律である。
新型コロナの感染拡大を受け、政府が今国会への提出を予定する改正案の柱が、罰則の新設だ。
入院勧告を拒否した感染者や、保健所の疫学調査を拒んだ人に対して罰則を設ける。
罰金や懲役などの刑事罰を想定している。
しかし、懸念と疑問が湧く。
かつて感染症に直面した社会はハンセン病やエイズの患者、
元患者へのいわれなき差別・偏見など著しい人権侵害を生んだ。
感染症法が患者らの人権尊重を明記しているのも、その反省からだ。
行政の指示に従わないからといって、刑事罰を科す発想は、人権を軽視し、法の理念に反する。
厚生労働省の審議会では、改正案の罰則創設に異論が相次いだ。
厚労省は「おおむね了承された」としているが、議論が不十分だと言わざるを得ない。
無症状で検査を受けない人からの感染は問題となっているが、
入院を拒否した人がどれだけ感染を広げているのか、
罰則に感染拡大を防ぐ効果がどれほどあるのか、
厚労省は詳細なデータを示していない。
行政罰の過料にしなかった理由も明らかではない。
仕事や子育て、介護などの事情で、入院や宿泊療養ができない人もいるだろう。
誰がどんな場合に罰則の対象となるのか、判断の基準づくりも容易ではない。
罰則を恐れて検査や受診を控えることになれば、逆に感染を広げかねない。
入院や保健所への協力がなぜ必要かを十分に理解してもらう努力こそ欠かせない。
新型コロナ特措法も自粛要請に従わない事業者に過料などの罰則を設ける。
自粛で雇用が失われ、生活苦に陥る状況の改善こそ先決ではないか。
確実な経営支援策がなければ納得は得られまい。
「未知の感染症」への対応は、国民の協力が最大の武器となるはずだ。
一足飛びの罰則導入は、対策の優先順位を間違えている。
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もしも、入院すべき陽性患者が入院できずに「自宅や宿泊施設での待機」を命じられて、
それに従わず病院に駆け込んできたなら、それも逮捕などの刑罰に値するのか?
また、待機を命じられた陽性患者がそれに従っている最中に容態が急変して、
死亡または以後の生涯に影響するような心身に重い障害を負った場合、
政府はその補償や見舞い・給付金などを払って償えるのか?
現状での法案には絶対反対だ。
だから、自民公明政権は信用できないのだ。