陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「オリエント急行殺人事件」

2011-04-22 | 映画───サスペンス・ホラー
1974年のイギリス映画「オリエント急行殺人事件」(原題:Murder on the Orient Express)は、アガサ・クリスティ原作の有名なミステリー小説を映像化したものです。

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名探偵エルキュール・ポワロは、親友の鉄道会社の重役ビアンキとともに、イスタンブール発カレー行きのオリエント急行に乗り込む。二日目の一等者寝台で隣室になったラチェットという老富豪が、室内で刺殺体となって発見された。ラチェットは脅迫状を受けとったために、護衛を依頼されたものの断った人物だった…。

現場を検証したポワロは、証拠があまりにも多く残された犯行に興味を示します。
おなじ一等車両に乗りあわせた乗客や乗員が怪しいと睨み、ビアンキや二等車に居合わせた医師のコンスタンチンと協力し、しめて十二人に順繰りに事情聴取を行います。

死体の側にあった灰になった手紙から、ラチェットの正体が明らかに。
それによって、五年前に起きた幼女が誘拐され殺害された、あの忌まわしいアームストロング事件が絡んでいることがわかります。

列車内での殺人事件というのはミステリーではいまや定番となっていますが、さすがに容疑者が十二人というのは異例のこと。しかも、犯人と思しき遺留品が以外なところからつぎつぎに見つかってきます。しかも、十二人全員にラチェットを殺す動機があり、しかも全員に確たるアリバイが成立してしまいます。国籍も職業もまったく異なる十二人。果たして真犯人は誰なのか、絞りきることができるのか。
車内での大胆な捕物劇や、連続殺人が起きて謎が数珠つなぎに連なっていくようなものではなく、経ったひとつの事件に限られた単純なものなのですが、列車が立ち往生したという偶然を生かしたラストになぜか救われた気持ちになります。

ポワロの名推理(帽子の型をつかった場面は原作者の女性ならではのマジックでしょう)はおみごとなのですが、犯行時間のトリックはあの時代だからこそ許されるものであったはずです。事件の真相は予想もつかないものでした。誰かをターゲットにしたとたん、他の人物が視野から外れるという犯人探しの思考を覆されてしまうような手法です。しかし、それよりもポワロが情を汲んだ解決法を示したことのほうが想定外でしたね。ただ後味の悪いサスペンスが多いなかで、こうした道義的解決が図られるのも悪くないのではないでしょうか。

オリエント急行が発車するイスタンブールの駅構内は、日本人の芸者(?)やトルコ人の物売りや物乞いが行き交い、なんとも国際色豊か。ターナーの絵を思わせるような蒸気機関車の朦々たる煙が大気と混じりあっているところなど、当時の雰囲気をよく出していますね。

おっとりした風貌ながらも、いざ推理の段となると、人を喰ったような雄弁さと鋭い観察力を発揮するポワロのギャップが魅力のひとつ。人気のあるシリーズであるのも頷けます。

出演は「ビッグ・フィッシュ」のアルバート・フィニー、「百万長者と結婚する方法」のローレン・バコール、「サイコ」のマーティン・バルサム、アンソニー・パーキンス、そして「007」シリーズのショーン・コネリーほか。乗客を演じた俳優は個性際だつ豪華な顔ぶれですが、なかでも抜きんだっていたのは、剣呑なオーラをまとったあのイングリッド・バーグマンでしょうか。年を重ねたせいか、声に凄みがありますね。本作で第47回アカデミー賞助演女優賞を受賞。

監督は「十二人の怒れる男」のシドニー・ルメット(追記:先日お亡くなりになりました)。


(2011年3月5日)

オリエント急行殺人事件 - goo 映画



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