陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「誓いの休暇」

2009-12-09 | 映画──社会派・青春・恋愛
1959年のソビエト映画「誓いの休暇」は、束の間の休暇を与えられた兵士の行動を追ったドラマ。あからさまな反戦の意志とまではいかないまでも、戦争にいずれ散っていく若者の運命を悲しく描いている。
アンドレイ・タルコフスキー監督の「僕の村は戦場だった」ほど直接的に死を匂わす場面こそなくとも、ひとときの平穏を得たと思ったら別れなければならない、その辛さに胸が詰まってしまう。

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十九歳の少年兵アリョーシャは偶然の戦功が認められ、六日間の休暇を与えられる。別れのあいさつもせずに召集されたため、故郷の母に会うために、少年は帰郷を急がねばならない。
しかし、少年は途中で出会った人びとのために帰りをしばしば遅らせてしまう。列車に乗りあわせた負傷兵を、その妻に引き合わせるために。戦線で名も知らぬ兵士から託された贈り物を故郷の妻に届けるために。その兵士の家族に、兵士の近況を伝えるために。
さらには、許嫁を見舞うために貨車に潜った少女シューラとの出逢い。喉の乾いた彼女を潤すために、貨車に乗り遅れてしまう。そして、その後、鉄橋の下で再会するシーンは劇中いちばんの感動シーン。
しかし、淡い恋ごころを抱いたその彼女とも、互いの住所を告げる暇もないままに別れてしまう。

ヒッチハイクした車になんと乗せてもらいながら、やっと辿り着いた我が家。しかし、母と涙の再会もつかのま、帰路の日数を考えればすぐにも別れなければならなかった。

「行かないで」と必死にせがむ、この母親が哀れでならない。
冒頭と最後の、麦畑の中を走る美しい一本の道はここにつながっている。その道をたどって帰ってくると約束した息子は、二度と帰ってこなかった。そのために、心優しい息子が貴重な時間を割いて、おなじく戦争に運命を翻弄された人びとのために尽くしたわずかな日々が、美しい映像の演出に支えられて、とてもとても輝いてみえる。

旅路のなかでいちばん秀逸なエピソードは、兵士から預かった石鹸を届けるくだり。夫を待っているはずの妻は他の男に身を任せ、アリョーシャはいったん届けた石鹸を奪い返して、兵士の父親へと送り届ける。その妻のいるアパートの子供たちが吹かすしゃぼん玉と、融かしてもけっして泡立ちそうもない固い石鹸とが、みごとに対比されているといってよい。石鹸は軍における貴重な配給品で、わずか一個で兵士八人分が使用するものだった。それを有り難くも思わない妻は、夫を忘れて豊かな暮らしを送ってきたのである。
ふわふわと泡沫のように浮かんではてのひらに弾けてしまうしゃぼん玉は、アリョーシャの期待した夢の破れであり、さらには妻の暮らす家のドア横の落書きが、なんとも皮肉めいている。

監督はグレゴーリ・チュフライ。
主演はウラジミール・イワショフ。

「西部戦線異状なし」とともに見終わった後にやるせない気持ちが募ってくる映画だった。これを観た後に、猟奇的に人殺しをしているの楽しんで描写しているような作品をしばらく観るのが嫌になったくらい。

誓いの休暇(1959) - goo 映画


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